月狐(げっこ)は結び、剣が舞う【第四話 オアズケ】
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月狐は結び、剣が舞う
作:狩屋ユツキ
第四話 オアズケ
【人物】
雨ヶ崎 夜子(あまがさき やこ)
女
表記は雨ヶ崎 ヤコ
水を操る妖狐
見た目は20歳前後
一人称は私
湖月所属
焔ノ塚 天音(ほむらのづか あまね)
男
表記は焔ノ塚 アマネ
炎を操る妖狐
見た目は20歳前後
一人称は俺
湖月所属
蛇目 彬羅(じゃのめ あきら)
男
表記は蛇目 アキラ
腕の力がとてつもなく強い大蛇
口調はオネェだが見た目は20代前半の美形優男
一人称はアタシ
湖月所属
黒鋼 霧都(くろはがね きりと)
男
表記は黒鋼 キリト
背中に翼を生やして飛べ、真言を使える鴉天狗
見た目は10代後半にも20代前半にも見える
一人称は俺
此日所属
人食桜
春舞郭 希咲(はるまいくるわ きさき)
女
表記は春舞郭 キサキ
様々な術が使える人食桜
見た目は30代前半
一人称はわたくし
海古所属
【使用時間】
50分程
【配役表】
ヤコ:
アマネ:
アキラ:
キリト:
キサキ:
男:女
3:2
――――――――――――――――
アキラ「たっだいまーァん!!!」
ヤコ「アキラさん!!」
アマネ「アキラ!!お前、いつこっちに?」
アキラ「さっき。とは言っても、空港について、タクシーに飛び乗って、ちょーっと寄り道して、それから此処へ、だからちょっと時間はかかっちゃったけど。……うーん、やっぱり此処の空気は良いわねェ。アマネちゃんとヤコちゃんの妖気が満ちて、夜だっていうのにアタシのお肌がツルツル潤う感じ!下手なエステより断然こっちよねェ」
アマネ「……あー……数ヶ月空いても全くもって相変わらずで凄ぇ安心したぜ……。東北の寒さにやられて凍ってるんじゃないかって思ってたからな」
アキラ「んもう、雪女のサラサちゃんじゃなく、アタシをあんな辺鄙で寒いところに派遣するなんて湖月の上は何考えてるのかしらねー」
ヤコ「それは今回の任務が川神鎮めだったからでは……。蛇の道は蛇と言いますし」
アキラ「ヤコちゃん、言われなくてもわかってるわよお。基本、蛇は水神にまつろう者。実際会ってみたらデカイ蛟だったし、サラサちゃんより大蛇のアタシが赴くのが道理なのは重々承知よ?……って言ってもねえ、あんな寒いところだとアタシ動けなくなるかと思ったわァ。本当にカイロ様々ってカンジ。人間が開発した道具に助けられた感半端ないっていうか」
ヤコ「発明や開発という能力に関して、人間達は本当に優れていますからね」
アマネ「でもそれに抗うのが海古なんだろう?最近研究費に予算を大幅に割いてるって噂がこっちにまで流れてくるくらいだからな」
アキラ「アラそうなの?海古の連中も懲りないわねえ。相変わらずジメジメ暗ーく裏で活動してるんでしょ?」
ヤコ「それが……そうでもなくて」
アキラ「んん?どうかしたの?」
ヤコ「邪メメの活動が活発化していて、ヒトケガレに変生する人間が増えています」
アキラ「邪メメ?あの子狐ちゃん?」
アマネ「そ、あのコムスメ。もう今、絶賛大活躍中。ぶっちゃけそのメメの周りにいる奴らも活動を活発化させてる。この間は此日の王様の屋敷にカチコミしたレベルで調子乗ってる」
アキラ「此日の王様のところにカチコミ?!何なの、それ正気の話?!あの狂乱魅に喧嘩売ったってことでしょ?!ひゃーあ、アタシならあの屋敷に近付くだけで鱗が逆立っちゃうわァ。で?どんなカチコミだったのよ。まさか邪メメ一人で突っ込んでった訳じゃないんでしょう?」」
ヤコ「カチコミ……、いえ、大筋で間違ってはいないのですけれど……。はぁ(溜息)。……半分は私も後から聞かされた話になりますが、河時鳴ユメジと名乗る海古の化け鯰が、大量のヒトケガレを引き連れてヨウコウさんの屋敷を襲撃したそうです」
アキラ「ふゥん?聞かない名前ねェ。新参者?」
アマネ「みたいだぜー。諜報部によると河時鳴ユメジはヒトケガレの量産についての研究を行っているらしい。普通ヒトケガレを生み出すのも祓うのも妖狐じゃなきゃ出来ない技の筈だが、……ヤコが持ち帰った情報と状況から察するに、そのユメジって奴はもう妖狐じゃなくてもヒトケガレを生み出す術を得ているみたいだな」
アキラ「あらやだ、海古にめちゃくちゃ迷惑でめちゃくちゃ有能な人材……人間じゃないから妖材?かしら」
アマネ「そんな言葉遊びはどうでもいいんだよ!」
アキラ「んもう、アマネちゃんは相変わらず気が短いわねえ。だっからモテないのよ」
アマネ「うっるせー!!!」
アキラ「ま、海古に厄介なのが増えて暴れているのはわかったわ。で、そういえば湖月探偵事務所、他のメンツは今日いないの?」
ヤコ「サラサさんもカザグルマさんも今日はオフです。先日からヒトケガレ候補の調査依頼が舞い込んでずっと詰めっぱなしだったのですが、漸く目処が立ったので」
アキラ「まあ全員揃うことが珍しいものねェ、この事務所。アマネちゃんはいつもここで暇そうにしてるけど」
アマネ「さっきから一言多いぞ、アキラ!!」
アキラ「うふ、アタシから言葉を取り上げたら何にも残らないわよ?」
アマネ「お前から言葉を取り上げてもその馬鹿力が残るだろうがよ。“豪腕の蛇”が」
アキラ「うーん、その名前あんまり好きじゃないのよねェ。なんかゴツくなぁい?可愛くないっていうかァ……、……っと、忘れるところだったわ。これ、今回のアタシの仕事レポート。それから、コレ」
アマネ「……ん?なんだこれ、封筒?」
ヤコ「……あっ、この封筒にこの封蝋……まさか」
アキラ「ヤコちゃん、相変わらずいい勘してるわァ。アタシの今日の寄り道先……湖月本部からの指令書よん」
間
キサキ「……さっきからずーっとわたくしを付けておられること、わたくしが気付かないとでもお思いですか?わたくし、文字通り後ろにも横にも目が付いておりますのよ……黒鴉様」
キリト「……気付いていて人気のない裏路地まで泳がせて呼び出す……。貴様の性格が良くないことだけはわかった」
キサキ「空から降りてきてくださいましたね。……人気のない所を選ばせていただいたのはそちらに配慮してですわ。わたくしには隠し事をする理由がありませんもの。わたくしに聞きたいことがお有りなのではなくて?」
キリト「……」
キサキ「ご遠慮でしたら必要ありませんわ。わたくし、問われたことには誠心誠意お答え致します」
キリト「……ならば問うが。貴様は何故“人”を食わない?」
キサキ「あら。……そこを問いますか、ふ、ふふ」
キリト「この数週間、貴様を監視させてもらった。その間、貴様が行った“食事”は二回。だがそのどちらも人間ではなくヒトケガレ……それも人に害をなそうとしている者だけを食っている。海古としてはある意味、叛意を表す所業ともとれる行為だ。海古ならば人間を食ってもその隠蔽工作をしてくれるだろう。……理由不明の行方不明者として、な」
キサキ「海古は本当に妖怪の仕業だということを隠す気が無いのですよねえ……この辺はわたくし、湖月や此日の、人目を気にするところを見習うべきだと思うのですけれど」
キリト「質問には答えるんじゃなかったのか。返答を聞かせろ」
キサキ「せっかちな殿方は嫌われましてよ?理由ならば簡単です。ヒトケガレならば失踪しても“世界の辻褄合わせ”のお蔭で足がつかない。襲われている人間を助ける形になっているのは、襲われている人間がいるほうがヒトケガレを見つけやすいからですわ」
キリト「見つけやすい……?」
キサキ「わたくし、別にヒトケガレ発見器ではありませんもの。妖狐のように鼻を利かせてヒトケガレになりそうな人間を探すことも、貴方の術のように色んな所を望んで視る力もありません。ただ……妖力の発生源と死臭のする場所は本能的に分かるように出来ているようなのです」
キリト「……つまり、ヒトケガレに襲われて殺されそうになっている人間がいる場所ならばわかる、と言いたいのか?」
キサキ「わたくしの正体は既にご存知なのでしょう?」
キリト「人食い桜と聞いている」
キサキ「その通りです。では……人食い桜はどうやって生まれるかご存知ですか?」
キリト「それは……知らない」
キサキ「ふふ、……“桜の下には死体が埋まっている”。どんどんとその一言は広まって人々の間に浸透していき、今や原文を知らぬ者さえもその一言は知っているという有様まで知れ渡れば……そこに“真実”が生まれるのです。わたくしはそうやって生まれました」
キリト「噂が本当になるということか?そうやって生まれる妖怪がいることは知っている。うちにも何匹かいるしな」
キサキ「わたくしは人食い桜。人を喰らわねば生きてはいけない。ですがわたくし、目立つのは余り好きではありません。ですからヒトケガレを食らって細々と命を繋いでおります。それは海古も知るところ。ですから咎めも受けないのです」
キリト「……問うたことに対して筋は通っている。だが……」
キサキ「だが?」
キリト「……お前からはまだ隠し事の気配がする」
キサキ「……、……、……ふ、ふふ、ふふふふふふふふっ……!!!」
キリト「……春舞郭?」
キサキ「うふふふふふふふっ、あはははははははっ!!!あはははは、あー、……失礼致しました、はしたないところをお見せ致しまし……ふふっ、あははははっ」
キリト「……っ、春舞郭、キサキ。……お前……っ」
キサキ「申し訳ありません。わたくし先程ひとつ申し上げていないことがございます。……人食い桜の生まれ方とヒトケガレの生まれ方……共通点がございます」
キリト「これは……世界の反転……っ!!ヒトケガレの気配はしないのに……!!!」
キサキ「それは“人間の悪意によって染められた存在であること”……。あとは少しのきっかけがあればいい……うふ、うふふふふふふふふっ!!!」
キリト「まさか春舞郭、お前!!」
キサキ「さっき言いましたでしょう?人気のない所を選んだのは貴方のためだと。……貴方を殺しても、わたくし、貴方を……妖怪を食べることは出来ませんもの。此処でなら貴方が死んでも、人に妖怪の存在を知られたくない此日に大きな迷惑はかからない。……そもそも、妖怪の死体は放っておけば塵になる。痕跡も何もあったものではありませんし」
キリト「……!!!春舞郭、キサキぃ!!」
キサキ「さあ、存分に殺し合いましょう!ねえ、あの時のお言葉を覚えておいでですか?貴方の嘴がわたくしの花を全て散らすのが先か、それともわたくしの根本で貴方が死ぬのが先か……試してみましょうじゃあありませんか!!」
間
アマネ「此日からの依頼書なんて珍しすぎんだろ。しかも探すのはあの黒鴉……黒鋼キリトときたもんだ。深夜の街をこうやって歩いてるだけで見つかるもんかねえ。ヤコ、鼻と耳は利かせておけよ」
ヤコ「無論です。……キリトさん、ここ数週間連絡が途切れているそうで……定時連絡は時々入っていたようですが、それ以上のことは全く連絡がつかないという状況……。異常事態と判断して湖月探偵事務所に此日から探偵の仕事として舞い込むなんて、……まあ、不思議な感じはしますね」
アキラ「ま、あの狂乱魅ヨウコウが子飼いを疑うとは思えないから、この依頼は多分、此日のヒヒジジイ共の差金ね」
ヤコ「疑う……?」
アキラ「黒鴉……名前、キリトちゃんだっけ?あの子の狂乱魅に対する心酔っぷりは誰の目にも明らかだわ。数ヶ月此処を離れていたアタシだってそう思う」
ヤコ「だったら、キリトさんを此日に仇なす存在として見るのは間違っているのでは……?」
アキラ「此日だって一枚岩じゃない。狂乱魅ヨウコウは一枚岩だと思っているけれど……此日のヒヒジジイ達はただ彼が怖いのよ」
ヤコ「怖い……ですか?」
アキラ「そ。狂乱魅ヨウコウは今、力で此日の覇権を握っている。けれど、元々いた場所を追われる形になったヒヒジジイ共はその時いい顔しなかったでしょうね」
ヤコ「それは……そうですよね。自分の立場を追われて気分のいい思いはしません」
アキラ「そしてそれはあの狂乱魅ヨウコウも知っている。ヒヒジジイ共は、あの王様が、未だいい顔をしないまま黙って従うだけの自分達を始末する機会を狙っているんじゃないかと、いつも怯えていた……そんなところじゃないかしら。だから狂乱魅ヨウコウ子飼いの鴉が自分達の知らないところで動いているのが怖いのよ」
アマネ「そんな奴らの手綱をも上手く握っていたのがあの王様の凄いところじゃねえのか」
アキラ「そりゃあ凄いわよ。力だけじゃなくて技で部下を締め上げるその手腕は。それでも心までは縛れないし、……狂乱魅ヨウコウはね、考え方が高潔すぎる。身内を疑いながらも、自らに反逆するのでなければ信じて扱う。そういう姿勢は美しいけれど、ついていけない奴には恐怖にしかならないわ」
ヤコ「そういう……ものですか」
アキラ「そういうものよ。ヤコちゃんもアマネちゃんももう少し心の汚いところも学びなさい?ま、それが二人の良いところでもあるんだけれど。……ん?」
アマネ「……どうしたんだよ、アキラ。いきなり手なんか地面について」
アキラ「しっ、黙って。……この先で、世界が反転してる」
アマネ「って、それはヒトケガレがいるってことか?けど俺達の鼻にも耳にもそんな気配はしないぞ」
ヤコ「そう、ですね……ヒトケガレの匂いはしませんが……」
アキラ「アタシの敏感肌は知ってるでしょ?地面の振動が教えてくれてるわ。妖気がびりびり地に満ちてる。……これは……妖怪同士、誰かが戦っている?一人は地に、一人は……付かず離れず……飛べる種族……まさか」
アマネ「それってもしかしなくても、もしかするんじゃねえの……?!」
ヤコ「で、でも、戦ってるって、一体どうして。湖月にも此日にも海古にも所属しない野良妖怪とってことですか……?!」
アキラ「話は後!妖怪同士が戦ってるならただじゃ済まないわ。ましてや“世界”が隠そうとするレベルの戦い……急がないと取り返しの付かないことになるわよ!!」
間
キサキ「うふふ、『春舞郭の言よ、力持つ花びらとなりて鋭利な刃を模せ。花吹雪、全てを切り裂け』!!」
キリト「『ノウマク・サンマンダ・バザラ・ダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタカンマン、不動明王に願い奉る!魔を打ち払う、憤怒の炎をどうか貸し与え給え』!!」
キサキ「あら、炎の術なんてお使いになるのですね……花びらが見事に灰になりましたわ。……でもその範囲は狭く、威力はそんなに無い御様子。……うふふ、全てを焼き払うには力が足りませんでしたね」
キリト「うっ……」
キサキ「鋭い花にずたずたになったお顔も素敵ですわ?男っぷりがあがったというもの。もっともっと沢山の血を流してくださいな。『春舞郭の言よ、力持つ花びらとなりて鋭利な刃を模せ。花吹雪、全てを切り裂け』!!」
キリト「くっ……」
キサキ「お空に逃げても無駄ですわ!!」
キリト「『オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ、薬師如来に願い奉る。我が傷を癒やすその御手を貸し与え給え』」
キサキ「うふふふふっ、傷を癒やしてもまた新たな傷が増えるだけですわよ!!ほうら、刃の花びらが貴方を包み込む……」
キリト「空と風ならば俺の専売特許だ、喰らえ!!」
キサキ「……っ、背中の翼が起こした風で花びらを全て吹き飛ばすとは……少々侮っておりました」
キリト「お前……判っているのか?湖月、海古、此日は基本不可侵。殺し合いはご法度、ましてや私闘が許されるはずもない」
キサキ「勿論存じておりましてよ」
キリト「ならば何故俺の命を狙う!!此日に掛け合って勝手に監視した罰として咎めを受けさせるならばまだしも、こんな……!!」
キサキ「……ふふ。湖月、海古、此日……本当に、貴方がたは何も知らないのですね」
キリト「どういう意味だ……」
キサキ「死人に口なしとはいえ、これはお教えする義理がございませんわね。『春舞郭の言が我が封印を解く。我が身、我が片腕、その本性を現せ』。……うふふ、この腕、何かに似ていると思いませんか?」
キリト「木の枝の片腕……!!」
キサキ「ご明答ですわ。木の枝は鋭く、形を変えられるのです。こんな風に!!」
キリト「……っ、くっ!!」
キサキ「あら、この指の刺突を避けるとはやはり素早いのですね。でもいつまで、五本もの伸びる木の槍から避けられるのでしょう!」
キリト「うっぐ、ぐぁっ……!!」
キサキ「ああ、翼に穴が。男前が地を這う姿も、妖怪の血も悪くないですわねえ……うふ、うふふ」
キリト「くっ……此処までか……ッ!!」
キサキ「諦めの良い御仁は好きですよ。では、大人しく串刺しになってくださいまし」
アキラ「あァら、アタシと趣味合わないわね、アンタ」
キサキ「っ?!」
アキラ「アタシは多少諦めの悪い男のほうがカッコいいと思うわ、よ!!」
キサキ「ああっ!!」(後ろから腕を捻り上げられる)
アキラ「ふっ!!」(キサキの腕を力任せに折り千切る)
キサキ「あ゛あ゛ああああ!!!!……っ、わたくしの腕を折り取るなんて……花の枝を折るなんて、なんてなんて無粋な方……っ!!」
アキラ「これでも風流人を気取ることもあるのよ?……貴方がキリトちゃんね。此日の依頼で湖月が貴方を保護しに来たわ」
キリト「保護……?!」
アマネ「アキラ!!」
ヤコ「アキラさん!!」
キサキ「……っ、『春舞郭の言よ、力持つ花びらとなりて鋭利な刃を模せ。花吹雪、全てを切り裂け』!!」
アマネ「ぶわっ!!!……って、いってぇ!!!この花びらめっちゃ切れるぞ!!」
ヤコ「きゃああああ!?」
アキラ「チッ、厄介ねえ……!!」
キサキ「ここでわたくし、捕まるわけにはいかないのです。『春舞郭の言が我が封印を再度解く。我が身、我が片腕、木々の生命力を糧に再生せよ』!!」
アキラ「せっかく折り取った腕がまた生えた……っ!!」
キリト「気をつけろ!!こいつ結構手強い……っ!!」
アキラ「そんなことは言われずとも分かるわよッ!!どうりゃああああ!!」
キサキ「くっ!!うああああっ!?」
アマネ「うーわー……アキラってば千切った木の腕、あの豪腕で仮にも女の顔に遠慮なくぶん投げた……」
キリト「春舞郭が吹っ飛んだ……」
アマネ「……酷ぇ……えげつねえ……」
ヤコ「呆けてないで、アマネさん!!私達も加勢を……!!(手を打ち鳴らし)『水よ、我が姿を模してあの禍々しき者に喰らいつけ!!』水狐!!」
キサキ「くっ……『春舞郭の言よ、力持つ花びらとなりてこの者達に永劫の夢を、幻を。ゆぅら、ゆぅら、我が舞い散る花弁の中で眠りなさい』!!」
アマネ「させるか!!(手を打ち鳴らし)『炎よ、全てを灰燼と化す暴力となりて全ての花びらを焼き払え!!』炎神の業火!!」
キサキ「きゃああっ!!くっ……黒鴉さんの炎とは威力も範囲も桁違い……ましてやこの水の狐……手で切っても再生する……!!」
アキラ「相性最悪ってやつね。大人しく退きなさい、今回の件は海古に報告するけれど、不可侵の条約に従ってアンタのことは見逃してあげる」
キサキ「……不可侵条約……。……ふふ、便利なものですね。ではお言葉に甘えて有り難く退かせていただきますわ」
アキラ「あら、思ったよりあっさりしてるのね」
キサキ「わたくし、何事もあっさりしているのが好きなのです。しつこい男も女も嫌いですわ」
アキラ「あらそう。アタシはちょっとしつこいくらいがちょうどいいと思うから、アンタとはとことん合わなそうね」
キサキ「そうですわね。そこだけは同意いたしますわ。……では、失礼いたします。『春舞郭の言よ、力持つ花びらとなりて我が姿隠したまえ』」
アマネ「相変わらずよくわかんない女だぜ……っと、世界の反転が終わる前にここから逃げ出したほうが良いな」
ヤコ「そうですね……あの花びらが切りつけた傷跡がそこかしこに付いていますし……焦げ跡も」
アマネ「焦げ跡はしょうがないだろ!!あの大量の花びらを焼き尽くすにはある程度の範囲が……!!!」
ヤコ「わかっていますよ。ですから早く離れたほうが良さそうだと言ってるんです」
キリト「……正直、助かった。礼を言う」
アキラ「仕事ですもの。気にしないで頂戴。でもまあ、私闘と勝手な行動の咎めは避けられないでしょうけどね」
キリト「元より咎めは承知の上で動いていた」
アマネ「その前に傷の手当だな。派手にやられてんじゃん」
ヤコ「腕に穴が……それに脇腹と太腿にも……。まさかあのキサキという女、キリトさんを殺しにかかっていたのですか」
キリト「そう言っていた。……『オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ。薬師如来に願い奉る。我が傷を癒やすその御手を貸し与え給え』」
アマネ「自分で傷を癒せるのか。便利だなー」
キリト「穴を塞いで血を止める程度だ。正直、完全治癒には程遠い……咎めを受けつつ、暫くは休養だな」
ヤコ「でも無事で何よりです。……春舞郭キサキ……組織が違うとはいえ同胞殺しを目論むとはなにか考えがあってのことなのでしょうか……」
アキラ「女には影があって当然なのよ。さあさ、キリトちゃんも無事に……とは言えないけど保護したことだし、帰りましょう。アタシ達の、事務所へ」
間
キサキ「電話……はい、春舞郭です。……ええ、はい、やられてしまいました。やはりわたくし、力仕事には向いていないようですわ。アキラと呼ばれていた男が焔ノ塚アマネと雨ヶ崎ヤコと一緒でした。恐らく、豪腕の蛇と呼ばれる、蛇目アキラかと。……はい、……はい。そうですわ。……え、黒鋼キリトはもういいのですか?では……、……ああ、なるほど。あの方が動くのですね。はい、わたくしに異論はございませんわ。貴女様によってこの身を授けられた恩義に報いるのがわたくしの望み。その為ならばこの命など惜しくはございません。……はい、永遠の忠誠を貴女様に。我が真の主は、貴女様のみでございますわ……」
間
キリト「春舞郭キサキ……。あれは、違う。海古に属していながら、属していない……。単独行動で探るには危険すぎるが、調査を止める訳にはいかないとなると……仕方ない、奴を使うか……。それはそれで危険な気がするが背に腹は代えられない。……、……俺だ。……カガヤを、出してくれ」
間
キサキ「……そろそろ、あの方も動くのですね……。ということは、多分あの方ご自身も……ふふ、全ては貴女様の掌の上。メメさん、ユメジさん、海古、此日、そして湖月……全てはあの方の為にあるもの達。……ああ、愛おしい。ああ、可愛らしい。……全てが明らかになるまで、わたくしはもう少し、口を閉ざして貝になりましょう。お預けもまた、絢爛たる晩餐の美味なるスパイス。ふ、ふふ」
間
アマネ「結局の所、キサキの考えてることはわからずじまい、意図も経緯もなーんもわかんねーまんま、キリトを返すわけになっちまったわけだけど…………あいつ大丈夫かね。此日の仕置なんて、なんか聞くだけで俺身震いしそうになるんだけど」
アキラ「まあ考えられるのはキツーイ尋問と暫くの監禁生活でしょうねェ」
ヤコ「尋問と監禁……どちらも傷に響かなければ良いんですが。ご自身である程度は治されていましたが、重傷なのは誰の目にも明らかでした」
アマネ「死なれても困るだろうからそこら辺はしっかりしてると思うぜ。何せあの王様直々の子飼いだ。何かあったらそれこそ王様がブチ切れて此日の人事改革とかやりかねねえ」
ヤコ「それなら良いんですが……」
アキラ「過ぎたことはしょうがないし、アタシ達の手を離れたことをどうこう言うことも無駄よ。アタシ達はちゃんと此日の依頼をこなしたし、春舞郭とかいうあのいけ好かない女も撃退した。それでいいじゃないの。……ってことで、こんな事務所でジメジメしてるくらいならパーッと打ち上げに行きましょ!!」
ヤコ「打ち上げ……ですか?」
アマネ「そりゃいい考えだな。久々に実入りのいい仕事だったし、パーッとどっか肉でも食いに行くか!!」
アキラ「あァんアマネちゃんわかってるゥ!やっぱり打ち上げといえば肉よね!!アタシ焼き肉!!」
アマネ「おお珍しく意見が一致したなー!!ヤコ、出かける準備しろ!!焼き肉食いに行くぞ!!」
ヤコ「……あのぅ、水を差すようで申し訳ないんですが……」
アマネ「ん?なんだよ」
ヤコ「……今、まだ朝の五時です。焼肉屋さんは開いてないかと……」
アキラ「…………」
アマネ「…………」
ヤコ「…………開くのは多分……お昼すぎなので……」
アキラ「……、……、とりあえず、お腹空いたから、牛丼屋でも行きましょうか」
アマネ「……、賛成」
ヤコ「まあ……牛丼でも、お肉には変わりないですものね」
アマネ「大違いだ!!」
アキラ「楽しみは後に取って置くものよ。……ってことにしておきましょ。そうでも思わなきゃ、やってられないわ」
アマネ「愛しい愛しいお肉ちゃん……あーあ、お預けってのはほんっと、辛ェもんだぜ」
了
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