魔王リナによる人類社会への襲撃
――魔王リナがパラチオン王国を襲撃!?――
そんな噂が飛び交い、国内が騒然とするなか。
冒険者として《魔王》リナを知るものが多い、パラチオン王国にとって東の辺境であるその街に、聖女ピーチを含む紅巾党派はやってきていた。だが、実際にやっていることは戦闘の準備ではなく、なぜかお菓子作りであった。
「あぁ、《魔王》リナちゃんだろ? リナちゃんたちなら美味しいものでも食わせておけばすぐにおとなしくなるって」
魔王戦に向けてその他地方や王都から集まった冒険者たちは納得しがたいものがあったが、聖女が手づから作り出す毎日の炊き出しや食事などを手にするうちに、すっかり聖女たちにメロメロになっていた。
「あぁ、嫁にするなら誰にする?」
そんな話が各所で広がるくらいだ。
既に婚約しているピーチには関係ないが、聖母・ミイヤーを始めとした未婚の聖女はまだまだいた。聖女らはもちろん全員が美少女だ。盛り上がらないはずがない。
そうこうするうちに時は過ぎ、ついに魔王の襲撃する日がやってきてしまう。
強欲之魔王たる魔王リナは、愛らしい魔人の少女たちを引き連れて街へとやってくきた。
「襲撃だ―。魔王リナが襲撃に来たぞー」
カンカンカン!
警鐘がなんども勢いよく鳴らされる。
魔王リナたちは、色とりどりの衣装に着飾っていた。
魔女のような黒いローブを身にまとう少女。
ドラキュラや悪魔のような少女。
サッキュバスのようないやらしい恰好のナイトドレスの女の子。
ポリスやカボチャの化け物のような姿の少女、などなど。
実にさまざまだ。
その中心にいるのはふりふりの純情プリンセスのようなコスプレにAG〇強化ガラスでできた赤いガラスの靴を履いたリナちゃんである。
彼女たちは人々が見守るなか、街中央へと向かう。
その街の中央の広場では、ピーチを中心とした聖女たちが、たくさんのお菓子を用意して待ち構えてきた。
「よし、みんなー。襲撃するぞー」
「「おー!」」
彼女たちが叫ぶ。
「よーし、では言っちゃうからねー。せーの!」
「「我々はおいしいお菓子を要求する(トリック)、さもなくば(オア)、悪戯しちゃうぞ!(トリート!)」」
「はーい。たーんとおたべ」
それに対し、リナに手渡されたのは黄色のパンプキンパイである。
ほくほくとしていて、いかにもおいしそうだ。
「きゅぃぃぃ。美味しい。美味しいよー。」
「いもー。いもー。芋けいほー」
「堀りだそう、自然の力。」
「もっとおいしく。もっと楽しく。」
魔神の少女たち大喜び。人類襲撃は大成功だ。
「ハロウィンじゃねーかっ」
万が一に備えて王族派から寄こされた勇者キリッカート・パインツリーが叫ぶ。
魔人の少女たちはそんな勇者を無視しておいしそうにそれらお菓子を食べている。
もともとは彼女たちが冒険者として得たお金を事前に貰って作っているお菓子であるため、聖女たちにとっても金銭的な腹はまったく痛まない。
そう、ピーチが容易した策とは――、つまり完全な茶番であった。
そんな、和やかな雰囲気を邪魔するやつがいる。
「そんなことやっていると、む……。あ、あれは……」
急に何かに気づいたように勇者キリッカートは上を向く。
そこには、彼にとっては絶対的な恐怖の対象がいた。
「なんだあれば?」
「鳥か」
「なんだろうねぇ?」
そんなことを話しあう魔人の少女たち。
そんな中、勇者は真っ先に逃げ出してしまう。
「あぁぁ、もう駄目だぁぁ――」
彼は地下大神殿から脱出した時にも使用した《リターン・ゴー・ホーム》を詠唱する。
それは、勇者が高レベルになると覚えられる家へと戻るための魔術である。
周囲の人たちはそんな勇者を唖然とした表情で見ていた。
なぜ、勇者は逃げたのか――
その理由を、空中から放たれた敵意によって、周囲の人々は理解した。
それは絶望であった。
天空に浮かぶ駆逐飛空艦――、その名を奇城 茨魏魏ヶ島
その姿を圧倒的なHPの表示と共に確認することができる。
それはまさに、ラスボスという名にふさわしい。
さらにその甲板には、激情之魔王たる魔王ジャック・ザ・ハートがいる――
彼ももちろん、攻撃表示だ。
「サピエ! ウィンドウを見て!」
リナちゃんに言われ、サピエが状態を確認するためにシステムウィンドウを開くと、そこにメッセージが流れているのを確認できた。
システム『スキル《熱核爆裂弾》が詠唱されています。』
システム『このスキルは空対地地域破壊系強制イベント扱いです。』
システム『すみやかに対抗手段を講じてください』
それは、地域の終わりを告げるウルトラバイオレットのシステムメッセージだった――




