悪役令嬢はトラブルがお好き
「まぁ、座ってくださいな」
客室――
聖女が、対貴族向けに使っているからには、そこそこであるだろう客室に魔王ベルを案内する。魔王ベルは勧められるがままに素直に椅子へと座った。
対面には吾輩、その横にはリナちゃんが座る。
魔王ベル――
彼女はこの世界におそらく5人いるという魔王が一柱である。
大陸南方で人の街を次々に落とし、南方の雄であったローズ魔法王国で英雄ソフィア・コンプレックスに止められるまでの間、人類の生存圏の実に1/3を奪って魔の森化したという魔人だ。魔王の中でも最強の一角である。この世界で魔王ベルの名を知らぬものなどいない。
「それで――、吾輩に何か用ですかね? それとも聖女に?」
「貴方に用ね。大聖女祭りの翌日、魔王集会が開催されるのは知っているわよね?」
「え?」
「え??」
「え!?」
三者三様で疑問を呈する形になってしまった。
「あなた……、呆れた。異世界転生者なのになんでシステムを定期的に見ないのよ? 私告知したよね。魔王たちが集まって話あうって」
「いや、あれ見るの最近怖くて……」
「どんな称号が付いているか分かったものじゃないって? そりゃー。100人も聖女のおっぱい揉んだりなんかしたら何を思われるかとかー」
「あー」
魔王ベルに痛いところを突かれ、吾輩は精神的ダメージを負った。
「――で? なぜ吾輩のことを異世界転生者とー」
「初対面の相手には≪鑑定≫スキルは戦闘の基本よね。高レベルになったら《隠蔽》スキルもとった方がいいわよ。あれ一般だから誰でもとれるし」
「さいですか」
吾輩もピーチも鑑定スキルは持っている。隠蔽は後でとろう。
「話を戻すね。ことの始まりはそこのリナちゃんよ」
「え? リナがどうしたの?」
「勝手に魔王とか名乗ったりしたから、私はともかく、他の魔王さんとかが怒ること怒ること」
「うわぁ……」
吾輩はまるでひとごとのように呟いた。
リナちゅんやっちまったな。
「それで、さらに今度はリナちゃん。魔王じゃ不足だとばかりに大魔王を宣言したでしょ。それで魔王のみんなが、それじゃ、そこんとこ白黒付けようじゃないか、ってことで、魔王たち合同で、集会を開くことにしましたー。わー(棒)」
「わーぃ! これでリナも立派な魔王になれるねー」
「リナちゃん。それあかんやつですぞ! ぜったい高く吊るされてやばい事態になるやつやん!」
「ちなみに今回、特別に魔王の幹部のみなさんもご招待しているので、サピエくんも集会にはもれなくご招待☆」
「え、ええぇーー。ちょっとまったー。それリナちゃんとまとめて殺られるやつじゃん」
吾輩はもはや頭の中でやばいという言葉しか出てこない。
突然我輩までも当事者になっているじゃないか。
いくら聖女たちのおっぱいをもみもみしまくってカンストしたからといって、たくさんの魔王に攻められて無事に済むとはとうてい思えない。このままでは死にまくりですぞ。
ともかく、リナちゃんを問い詰めなければ。
「りーなーちゃん! だいたいなんで大魔王なんて名乗ろうと思ったんだ!」
「えー。だってぇー。あのあばずれ令嬢にサピエ取られてさびしかったんだもんー」
リナちゃんは吾輩のほうにしな垂れかかってきた。
「それで、あの令嬢とリナとの差を考えて、やっぱりその差は権力かと思ってぇー。だから大魔王という権力があればすべてが解決するとー」
「リナちゃんに無駄に悪知恵がついている……」
誰だ、リナちゃんに四則演算とか常識教えたやつは、と吾輩は腹がたってしまった。ふふり。教えこましたの我輩やないかーぃ。
……、やばい事態は深刻だ。
このまま魔王ベルにリナちゃんともどもドナドナされていったら、おそらくは糾弾されまくって死ぬに違いない。
そんなところで口八丁手八丁で魔王たちをだまくらかして何とかする、といったことはいままで三流貴族であった吾輩では到底無理だ。
どこかに一流の悪辣な貴族はいないだろうものか。
とそこまで考えて気づく。
ここに同居しているじゃないか。悪辣非道な悪役令嬢が。
「ところで、魔王ベルさんや……。リナちゃんの幹部は一人ではなく、実は2人だったのだ!」
「え?」リナちゃんが驚いたような声をあげる。
「実は吾輩の婚約者も幹部の一人だったのですぞ!」
「えーー」リナちゃんが思わず悲鳴をあげた。
とりあえず、吾輩はピーチさんを巻き込むことに決めた。
彼女なら――。きっとなんとかしてくれる。
「ふーん。最近君たち面白いことをしていると思ったら、工作だったわけね」
「そうそう。そうなんです。魔王ベルさん」
売れるものはなんでも売ろうととりあえず媚びてみた。
「いま絶賛拉致られているみたいだけど」
「え?」




