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私と『碧』たんのクリスマス。

作者: 良雪

うちには珍しくハートフルな御話です♪


この作品はエブリスタ版の話ですが、ちょっぴり改変しています。


それではお楽しみくださいませ♪

「ぱーぱ、しゃんぽ♪」

「はいはい、(あお)たん。ちょっと待ってね」


 まだ三歳になったばかりの娘『(あおい)』が、早くお外に散歩に行こうよと体をゆすって私を急かす。


 今日はクリスマスの前日、所謂クリスマスイブってやつだ。


 一カ月以上も前からクリスマス一色だった商店街は、残り一日となったかき入れ時を逃すまいと、通り抜けざまに横眼で眺めてもわかるくらいに多くの人々が行き交い、色とりどりのイルミネーションと飾りに包まれて華やかな活気にあふれていた。


「寒くはないかい碧たん?」


 私は碧たんの解けかかったマフラーを結び直しながら聞く。空は晴れているとはいえ、私にはなんだが寒く感じたからだ。


「へいき♪あっちゃかいかや♪」


 碧たんは暖かいよといいながら、ニコッとした愛くるしい笑みを私に向ける。


「あっ、けーき!ぱーぱ、けーきあった?」


 碧たんは私の袖を引き、商店街の一角にある洋菓子店を指差して言った。


「そうか、ックリスマスだからケーキがいるな。ごめんまだ買ってないや」

「もう、めでしょ!さたんさん、おこうよ!」


 プクッと頬を一気に膨らませて、碧たんはプリプリ怒る。うん、サンタじゃなくてサタンに怒られたら敵わないね。


「じゃ、今から買いに行こうか」

「うん♪いく!」




***********************************************************************************




「ありがとうございました!」


 クリスマスソングが人々の購買心を掻き立ててやまない商店街の、カップルや親子連れが楽しそうにケーキを選んでいた温かい雰囲気の洋菓子店を出る。


「おいちそう♪」

「はは、碧たんこれを食べるのは明日だよ。我慢してね」

「はい♪」


 碧たんはピッと真っすぐ右手を上げて承諾の返事をする。


「だーじょぶやよ。あお、しっかししてるかや!」

「そう?ホントに?」

「うん♪そだよ♪」


 碧たんは手を上げたままニッコリ微笑む。


「ねえねえぱーぱ。あお、こうえんいく」

「碧たんは、どこの公園に行きたいのかな?」

「うみのこうえん!」

「うみ?どこだろう?」


 私が判らず商店街の出口で逡巡(しゅんじゅん)していると、碧たんは私の手をぎゅっと握って。


「こっち!」


 と、力強く引っ張った。


「こっち?」

「そ!」


 力強い手は小さな体ごと私を牽引してズンズンズンズン。海際の国道方面に向け私を(いざな)っていく。


「う!」


 突然、碧たんが道端で(うずくま)る。


「どうしたの碧たん、おしっこ?」

「ん~ん」


 よかった違うらしい。こんな住宅地の一角でおしっこって言われても、私は困るしかなかっただろうからね。


 うん、助かった。


「で、本当にどうしたの?」


 私は碧たんの頭を撫でながら聞く。う~ん、だいぶ髪が長くなったな。そのうち床屋に連れて行かないといけないな。


「う~…」


 碧たんは蹲ったままスッと両手を私に伸ばす。


「ん?なぁ~に」


 よく分からないから聞いてみる。


「だっこ!」


 ああ、そういうこと。


「よいしょ」

「いやー♪きゃはははは♪」


 碧たんを持ち上げると、フワフワしたミルクの甘い匂いがした。そして思わず強く抱きしめてしまった。


「ぱーぱ、ぱーぱ」

「ん?」

「いちゃいよ」

「あ、ごめんね」

「いーよ♪こうえんいこ?あおがつれてくかや」

「そうだね、行こうか」

 

 私は歩き疲れた碧たんをおんぶして、えっちらおっちら公園を目指す。


 そうして十分くらい彼女が指し示す道に従ってテクテク歩き、国道を横切って目的地の海辺の公園に辿り着いた。


「へえ、こんなとこあったんだ。通勤の方角とは逆だから全然知らなかったな」


 公園は小高い山際の林に囲まれた中に作られていて、遊具は定番の滑り台とシーソーとブランコくらいしかないが、敷地はそれなりに広くトイレと屋根付きのベンチもあって、それでいて人も少なくて海も見えて、なんかこう割と居心地がいいところだった。


「よくこんな場所しってたね。碧たん」

「まーまときたの♪」

「そっか、道も覚えててえらいね」

「うん♪」


 私はクリスマスケーキの箱をベンチに置きながら、碧たんの頭をなでなでする。


「おはな!」


 碧たんはたったかたーっと、公園の端っこの林で咲いている樹木を目指して走っていく。


「走ったらあぶないよ」

「だーじょーぶ♪」


 トテトテ駆けて、花びらの多いピンク色の花を一杯咲かせた木のとこまで行った彼女は、ちっちゃな手を一杯振って私を招く。


「とって♪」

「いいのかな」


 敷地内じゃないけど、こういうのとっていいモノだろうか。


「あおがほしょうするかや、とって」

「保証って、どこでそんな言葉覚えたの?」

「がっこでせんせいがいっちぇたの♪」


 碧たんは保育園のことを学校という。なんでそう云うのかは未だに分からないが、それにしてもどういう状況で先生、いや保育士さんからそんな言葉が出たのかが気になる。


「まあいいか」


 悪いとは思いながら綺麗に開いた花を三つ、樹木からもぎって碧たんに手渡した。


「うあー♪きれーね♪」


 碧たんは眼をキラキラさせ花を見詰める。


「よかったね」

「うん♪まーまがはやくかえたら、みせうの♪」

「そうか、でも今日も帰りは遅いと思うよ」

「だーじょーぶ♪あお、おきてるかや♪」


 夜更かしする気満々の彼女は、ちいさな握りこぶしを二つ作って鼻息も可愛く荒くフンスカしている。


「そう、碧たんはそれでピンク色の花が欲しかったの?」

「うん♪あおとまーまとぱーぱのぶんの、みっちゅのかーいいおはななの♪」





***********************************************************************************




 

「ただま~♪」

「はい、ただいま」


 去年ローンを組んで買った一戸建ての我が家のドアを開けて、私たち親子は帰宅を告げる。


 わあーっと碧たんは、特急で靴を脱ぎ和室に向かい廊下を駆けて行く。


「だから碧たん走らない。それとうがいをして手を洗うのが先だよ」

「はい♪」


 彼女が入った和室の中で、元気にビシッと右手をなっ直ぐ上げているだろう様子が見なくてもわかった。


「さてと、先ずはケーキを冷蔵庫に入れておくかな」


 キッチンに行き冷蔵庫の扉を開くがケーキの箱をどこにしまっていいのか、全く見当がつかない。


「取り敢えず野菜庫でいいか。ちょうどいいスキマがあるし」


 碧たんが選んだ真っ白な、二人で食べるには少し大きいクリスマスケーキをそこに納めた。


「ぱーぱ!てってあわらないとメッでしょ!」

「はいはい、ごめんね今行くよ」

「もう!」


 いつの間に行ったのか、碧たんは洗面台でじゃぶじゃぶ手を洗っているらしい。


「手を洗ってうがいをしたら夕飯作ろう」


 私は背伸びをしてから軽くあくびをして、碧たんがガラガラうがいする音を聞きながら洗面台に向かった。そうだ食後には風邪が治まって間がない碧たんに、シロップ薬をのませないといけないな。


めんどくさいことに、病院から出された薬と云うのは飲み切らせないといけないらしい。





***********************************************************************************





 スースー。スースー。


 夜八時半すぎ、お風呂に入ったあとも目一杯遊び、そして疲れた碧たんが、こってと電池が切れて和室に転がり眼をこすり出したので、私は彼女を抱え敷いたお布団にそっと寝かしつけた。


「帰ってくるまで頑張るって言ってたのに、やっぱり寝ちゃったね」


 ふう、と一息。私は調べ物のためデスクトップのPCの電源を入れる。左手の指には碧たんにねだられ採った花が一凛、クルクル回されながらここにあった。


「へえ、この花は山茶花(さざんか)っていうのか」


 どうやら冬のこの時期に咲く種類のようで、赤い花と白い花があるらしい。


「なるほど、どこかで聞いたことあるけど、花には花言葉とかいうのもあるんだな」


 表示された言葉をスクロールする。読んでみる。



 ピンク色の山茶花の花言葉は…。〝永遠の愛〟



 そして私は涙が止まらなくなってしまった。





************************************************************************************





 今朝、いつもより早起きした碧たんは枕元に置かれていた二つのクリスマスプレゼントに大いにはしゃいでいた。


 お陰で寝不足でまだ寝ていた私は、彼女の喜ぶ声に唐突に起こされ、少し遅めの朝ごはんを食べる時も、歯磨きして顔を洗う時もそばから二つのプレゼントを放さず苦労させられた。


「ぱーぱ、みてみて♪さたんさん、ねこちゃんくえて、まーまはくまちゃんくえたよ♪♪」


 満面の笑顔を浮かべて、自分の背丈とあんまり変わらないフカフカのネコとクマぬいぐるみを二つ、ちいさな両手でしっかり抱きしめていて頬すりしている。


碧たん、くれたのはサタンさんじゃなくてサンタさんだよ。


「じゃあ碧たん、ママにありがとうって言いに行こうね」

「うん♪」


 私は碧たんの手を握り、一緒に和室の仏壇の前に二人並んで座って手を合わせる。


「まーま。ぷれじぇんと、あーとうね♪」


 私が線香に火を点けている間に、碧たんはさっさとママにお礼の言葉を発してたと思ったら、すぐに鼻をつまんで私に言った。


「ぱーぱ、おちぇんこ。くちゃいよー」

「あっ、ごめんごめん」

「もう、やーよ」


 そういってポテポテ早足で歩いて、碧はリビングに逃げていく。


「碧たん、御線香が消えたら散歩に行くかい?」

「いくー♪」


 碧たんは自分のコップに注いだミカンジュースを飲みながら、元気に真っすぐ手を上げて返事した。


 ああ、君はちゃんと時と共に育っているんだね。そう私は実感した。




************************************************************************************




「まーま、いてきます♪」

「行ってきます」


 碧たんはお出かけの挨拶を済ませると一目散に玄関に走り、まだー♪と動作の遅い私を急かしてくる。


「ちょっと待ってね碧たん、パパ忘れ物だ!」

「えーっ♪ぱーぱ、ちっかりしてよー」


 ごめんごめんと云いながら私は、キッチンの碧たんの手の届かない高い棚にしまってあった、ネットを通じて手に入れた『薬』をとってビニール袋に入れ包んだ。


 私と碧たんが……。いや、私がいつか本当に疲れたら飲む予定だった薬。


 でも、もういらないから散歩がてらの買い物ついでにゴミ箱にポイだ。


「まーだ?ぱーぱ!」

「はいはい、今行くよ♪」


 私はビニール袋をズボンのポッケの奥深くに突っ込みながら、碧たんにそう明るく応えた。


 そしてキッチンから離れリビングを通り玄関で待つ娘のもとに向かう時、ふと覗いた仏壇の写真の中のママの微笑みが、いつもみたいに悲し気な様子ではなく、碧たんが置いていた『山茶花(さざんか)』のピンクの暖かな色の花と、柔らかな二つのぬいぐるみに囲まれて、なんだかとっても嬉しそうに見えたのだ。


 それは私たち三人家族の大切な思い出とたくさんのプレゼント。


「その花と花言葉みたいになれるように生きていくよ。じゃ、行ってきます」

「いちぇきまーす♪」


 私たち親子はお手々をつないで楽しいお散歩に出かけていく。





 もう大好きなママはいないけど、平気だった。















ここまでお読みいただきありがとうございました♪

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― 新着の感想 ―
[一言] いつのまにかこんなハートフルな話が! しかし、娘が居るのに自殺の準備してるなんてちょっと気弱な主人公です。 でも、男はメンタル弱いからありえそうな気も。 パパがママだと普通の母子家庭の話にな…
[一言] 子供は大人よりもずっと力強いのだな、と感じました。 守られる子供、支えられる父親 二人が力を合わせて生きていける優しい世界観か素敵でした。
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