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一人称短編(古いのも込み)

噛みつき犬と变化老人

作者: 秋雨そのは

のんびり書いた物なので、ぬるっと読んで下さい

一部少年の言葉修正

「ほっほっほ、今日も噛んでるの~」


 そう言った老人が眺めているのは、女性が居てその近くで……女性のスカートを噛んでいる犬だ。

 女性は、手で抑えては悲鳴を上げている。老人は止めさせようとせず、のんびり眺めているだけだ。


「あの、助けて下さいません!?」


「しょうがないの、ほれ……」


 と言って犬に投げたのは、骨……の玩具。食いつくように犬は飛んでいき、尻尾フリフリしながら持ってきた。

 女性は怒りながらも去っていった。特に仕返ししようとも思っていないようだ。

 犬はそれがショックだったのか、尻尾を下げていた。



 犬……名前はジョーカー、ワンワンと吠えて儂を見てくる。何時ものあれを見せてくれとの事だろう。


「これこれ、もう少し待っておれ」


「くぅ~ん」


 家の外には道路もあり、先程の女性もそこで歩いている所を噛まれたんじゃろ。

 家の犬は女性が大好物じゃからな、それは儂が一番知っておる。目を離すと「助けてくれませんか?」と叫んでいる女性を見るからな。


 魔法かと言われればそうかもしれないの、儂は手品の様に赤いマントを持ち……。自分に被せる……しかし何も変化しない。


「すると思ったかの?」


「ワンワン!!」


 何か言いたげのジョーカーの口に玩具を投げる。黙らせると、何やらあっちで騒いでる子供がいる。

 道路に出て、すぐ横にある公園だ。

 のんびり歩いて行くと中学生だろうか、ランドセルを背負って5人で1人を囲んでいた。


「ワン!」


 犬が走っていき、中学生の子供に吠える。中学生はびっくりしたのか、そのまま立ち去った。

 なんじゃ、特に面白い物でも無かったの。


「うぅぅ……」


 泣いていた少年は、両腕が無かった。泣きながら「僕なんて生まれなければよかったんだ……」と言っている。これっぽっちしか生きてないのに、死にたがるなんて贅沢じゃの。

 儂は言った「自分を変えたくないかの?」と言うと少年は、こちらを唖然とした目で見ていた。

 両腕は肩から先は無く……涙を拭き取る事ですら大変に見えた。


「無理だよ……僕なんて両腕も無いし、お父さんとお母さんに迷惑かけるだけだもん」


「それはお主のわがままじゃな、もう一度言うぞ? 変わってみたくは無いかの?」


 少年は……「うん」と答えた。儂は手品なんて大層な物じゃないが……。使えるぞ?

 儂は「そこに寝っ転がっておれ」と言って、地面に寝かせた。先程の赤いマントを少年を覆い被せ。

 ジョーカーはお座りして、見守っている。


「それじゃ行くぞ……」


 儂は少年の腹に手を添えて「……」小さく呟いた。

 その瞬間、春でも無いのに桜が舞い……秋でも無いのに紅葉が舞った。それが何処からやってきた物か分からない。

 マントを剥がすと……無いはずの両腕はあり……そして。


 少年は少女になっていた。


 儂は「もういいぞ」と声をかけると目を開いた。そうすると、無いはずの両腕に驚いていた。声を上げて「お爺ちゃん! どんな魔法使ったの!?」と儂に投げかけてくるが、答えるより先に。


 自分の体の異変に気づいていた。男性では無く女性になっている事に。


「え? まさか……女になってる」


「そうじゃ、今までは両手が無く過ごしていた。その時のお前さんは居なくなったのじゃ」


 儂は混乱している。少年だった、少女に手を頭に置き撫でた。



 それから、数日……あの時の少年が訪ねてきた。

 脇に居るのは両親だろうか……凄く丁寧な礼をしてくれた。


「あの、この度はありがとうございました。暁人を……救ってくれて」


「私からもありがとう」


 おかしな話じゃがの、普通は家の子を返せ! とか乗り込んできてもおかしくはないのじゃがな。

 少女となっているが、名前は暁人みたいじゃの。すると、後ろからジョーカーが母親のスカートを噛み付いてきた。


「ちょっ、ちょっと~」


「ほっほっほ、これからも息子……ではないの娘を大事にの」


 そう言って儂は笑った。するとジョーカーは噛むのを止め、儂の隣にお座りした。

 皺が増え、息子や娘の居ない老人は。70年の中で一番笑った気がした。

 暁人という少女は、何か言いたそうにして。両親を見ていた。すると声を揃えて「言ってみなさい」といって、背中を押した。


「お爺ちゃん! 今までありがとう! 僕……じゃなかった私はこれから頑張って生きてみる!」


「儂より長生きするんじゃぞ? 70歳前に死んだら許さんからの」


 そう言って儂は再度笑った。孫の様な感覚になってつい笑ってしまったのだ。

 そして父親は「明日、都会に引っ越す事になりまして。その最後に寄りたいと言われた」と。母親は「息子……じゃないわね、娘は助けられたと教えて貰って会ってみたかった」と言った。


「そうか、儂はこの街に残るからの。暇だったら寄ってもらえると嬉しいの」


「ワン!」


 ジョーカーも嬉しそうに尻尾を振りながら吠えた。




 数十年後、車に乗っている女性は打ち合わせの事で編集者と話していた。


 女性は「懐かしいわ」と声に出していた。

 それを編集者の男は「ここに来たことあるんですか?」と答えた。


「あるわね、だって本の元になった場所だもの」


「本のですか?」


 女性は、運転手に慌てて指示する「ちょっとこの路地を曲がった先にある墓場に行って欲しいの」と言って。運転手は急遽、墓場に行くことになった。


 車は狭い路地を通り、墓場の近くで止まり……ある墓標の近くに立った。

 名前は『秋咲 本胴』という名前だった。

 編集者の男は首を傾げて「この人は?」と疑問を述べていた。


「私を変えてくれた人」


 そう言った女性は……大人びて、中学校の時の……男だった面影も無いくらい綺麗になっていた。


 暁人だった。


 編集者の男は時計を見て「そろそろ時間がヤバイので向かいましょう」と言ってきた。

 彼女は手に持っていた本は、全員に知ってほしかった。彼女自身の体験談であり……今はもう居ないお爺ちゃんの話。


『噛みつき犬と变化老人』


 という本だった。

読んでくださってありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 暁人くんが前向きに生きていけたようで安心しました。 後味の良い終わり方が好きでした!
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