2・仏舎利塔
俺は・・・、何をしたんだ・・・・・・?
目の前で美しい少女が斃れているのを目にし、未だ温い感触の残滓を手に感じながら、そんな風に思った。
「あ・・・うぁ・・・」
腕の震えが止まらず、俺の理性は間接的に、目の前の少女を他でもない俺が絶命させたのだという事を理解してしまった。
そこからはもう、それはそれは速かった。
教室中の暴行の痕跡を丁寧に消し、毛髪やら皮膚の切片やら、その微々たる物さえ残さない様に遺骸を綺麗な姿に戻した。
制服に皺一つない、元の九十九木 楓旗に。
外はもうすっかり無機質な灯りに包まれ、良い具合に紛れられそうな明度へと変貌していた。
一番最後の『残業者』は校門を施錠し、黒光りした五人乗りの乗用車を繰って宵闇の中へ消えた。
その数十分の後、《政所 九十九木》と彫られた表札の前、家の者が何か、重い物の入った袋が庭の木に吊るされているのに気が付き、それを降ろして中身を覗いた。
つんざく甲高い悲鳴、次いで連なる様に太い絶叫やら嗄れた号哭やらが混ざった。
そして家の者が袋を調べると、
『何故僕を虐めた、詞央?
君が僕を壊したんだ、今度は君の番だよ。
僕が君を虐めて、壊してあげるからね』
と活字で記された紙が一枚、入っていたのだった。
「・・・楓旗は、誰かに殺された。
なら、誰かを突き止めて殺してやる・・・!」
警察が九十九木家に来た事で、近隣住民は何事かと飛び起きた。
それは彼・・・依都歌も例外ではなかった。
嫌な胸騒ぎがした。
もしかしたら彼女に、楓旗に何かあったのだろうか。
そう思うと心臓が跳ねて、とても寝られそうになかった。