1・放課(後)
九十九木 楓旗は、この学校では珍しいタイプの人間性を持った女子だ。
動的な生徒が多いのがこの高校の特色の一つだが、無論咲雪のように静的な者もいる。
が、楓旗の場合、どちらでもない。というか不明なのである。
誰かに頼る事はなく、深い付合いもせず、生徒はおろか先生たちでさえもある種恐れている生徒の一人なのだった。
目立たない、しかし最も目立つ存在。
孤独で孤高、依都歌の言う通りミステリアスではある。
夏織を屋上で見送り、教室を覗くと、たった三人だけ女子がいた。
窓際に白沢咲雪、黒板の前に秋緒、そして廊下側の最後尾の席に楓旗が。
「・・・」
ごくり、と唾を飲み込む。緊張で一秒すら永い。
規則的に配列された机を、視界の端で捉えながらその間を進んでいく。
「・・・九十九木、話があるからちょっと」
・・・。
最早鍵かっこさえ出ない沈黙っぷり。
どこへ、と眼で訴えるその姿はかなり生意気な小学生ばりである。
「・・・後で、講義室に来いよ?」
講義室はいつもは使われていない教室だ。
隣のクラスの担任が、素行の悪い生徒にそこで怒号を撒き散らした事から通称が《説教部屋》だ。
何も言わなかったが頷いたのでよしとした。