1・昼(上)
男は惑う。
「せんせーってぇ、好きな女とかいんの?」
困ったな、いるにはいるのだが。
何があってもコイツだけには、言わない。
「いないよ?」
「嘘つき」
何という速さ。これだからコイツが苦手なのだ。
・・・それに比べると、彼女は落ち着き払っていて、綺麗で・・・。
南向きの窓から差し込んだ光が、窓際の少女を照らしている。
白沢 咲雪。16歳の女神である。
同じ教室内にいながら絶対に手の届かない場所に佇む、まさに高嶺の花である。
俺は仮にも教師だ、この気持ちを生徒へ抱いていけないのは解っているが、正直この咲雪が好きである。『ライク』でなく『ラヴ』だから尚更だ。
「・・・せんせー」
「っ!何だ夏織か・・・」
「何だ、って何ですー?酷くないですかー?」
悪い悪い、と一応謝っておいて、用を聞く事にした。
樋河 夏織は俺を好いているらしい16歳だが、俺はこういう押しの強いのが苦手である。用事を聞くくらい親しいものの、それ以上は考えた事などない。
「・・・せんせーにぃ、告りたいって娘が・・・ね?」
まただ。そう思ってしまった自分を殴りたい。
この学校で何故か俺はモテる。それはもう俺ラブな女の子達だけで『医療ドラマの総回診シーン』を作れるくらい。
が、俺はハーレムなんぞ作らない。咲雪以外はアウト・オブ・眼中だからね。
「そうか。・・・行ってくる」
昼ご飯を置いて、俺は待ち合わせ場所だという美術室へ。
ガラリ、と戸を引くと、そこにはちゃんと女の子がいた。
「あの・・・先生?」
「・・・っ」
思わず息が止まる。
拍動が止まらないどころか、加速してオーバーヒートしそうだ。
さらりと長い黒髪、どことなく幼げな顔、パッツンパッツンに張った制服の胸元・・・。
それは図書委員会委員長、3―Bの諫原 秋緒だった。
「ところでせんせー、諫原センパイはどう?」
何でまたコイツなんだ。
「うーんとまぁ、可愛いけど・・・」
「えっじゃあじゃあ、私の事棄てるの・・・?」
「なっ、捨てるわけないだろ・・・?」
拾ってもないがな。
コイツは機嫌を損ねると恐ろしいからおだてる他ないのが苦労するのだ。