4.船旅
昼すぎ、何か依頼がないか探しにギルドにやって来た。
本当は朝から活動しようと思っていたのに寝過ごした次第です。
王都へ向かうまでにまだ二日あるので、すぐ取りかかれるような簡単なものがないか順に目を通していく。
受けれる依頼は買い出し、家畜の世話、子供の遊び相手に……うーん、これじゃまるで便利屋扱いだな、F~Gだとこの手の依頼しかないのが現状だ。
仕方なく今日は家畜の世話を請け負うことにした。
牧場の中、依頼主の犬と協力して羊を誘導し、餌の用意、寝床の掃除をしたり、途中なぜか犬と羊に追い掛け回されたりしながらも無事役目を果たした。ちなみにボロボロになった身体を引きずりながら宿に帰ったころには日付が変わっていた。
翌日グレンは武器屋へ装備の手入れをしにやって来ていた。相変わらず大きな剣の看板がここぞと主張している。
「お? いらっしゃい」
気づいた店主がすぐに声をかけてきた。
「久しぶりだな! 今日はどうしたんだ?」
「お久しぶりです! 装備の手入れを頼みたいなと思いまして」
「そういうことならお安い御用だ! ちょっと貸してみな」
装備を渡すと丁寧に一つずつ触って感触を確かめながら状態をみている。
「……これならちょいと研いで手入れしてやればまだまだ使えるぜ!」
「よかった! それじゃあ、お願いします」
使うといってもスライムしか倒していないし、そこまで消耗もしていなかったらしい、まずは一安心だ。作業が終わるまで棚の商品を眺めながら時間を潰す。
「終わったぜー!」
しばらくすると店主が豪快な声で戻ってきた。カウンターに並べられて綺麗になった武器を手に取り、
「さすが……いい仕事してますね!」
「おう、褒めてもお代はきっちりいただくぜ?」
「あっばれました?」
そんな他愛のないやり取りを交えながらも簡単な手入れ法を教えてくれるあたりゴツイ見た目に似合わず優しいね。気持ちよく代金を支払う。
「実は明日から王都に行くんですよ」
「おお! そうだったのか、それで武器の手入れってわけか」
「そんなところです。しばらく向こうを活動拠点にすると思うので……」
「まあ、それも仕方ないか、ここらは平和で大した依頼も回ってこないしな……しっかりやってこいよ坊主!」
「はい!絶対また来ますね」
「そんときは一番高いのでも買ってもらうとするか、今から楽しみだ!」
「うっ、善処します」
「ははは! またの来店を待ってるぜ」
これで武器は安心だ。さて次は……と。
その後は店を回って日用品などを買い揃え、あまり遅くならないように宿へ帰ることにした。
いよいよ王都かぁ、冒険者として順調に進めていってるような気がする。このままランクを上げて様々な依頼をこなしていけば……夢が膨らんでいくぞ!
必要なものを鞄に詰め込み念入りに確認、興奮を抑えつつ眠りについた……。
早朝、ベッドからすでに起き上がり身支度を整えていたグレンの姿があった。
「……気合入れすぎて早く起きすぎた」
この後ハーティさんと合流し近くの港まで行き船に乗ることになっている。
陸路でも行けるのだが山を越えないといけないため時間と労力がかかる、そういったことから今回は海路を使うことになっていた。
ゆっくりと朝食をとり、ハーティさんの店へ向かい荷物を運び荷車へ積み込んでいった。
「じゃ、しばらくよろしく」
「よろしくお願いします」
相変わらず頭からフードを被って表情が見えない依頼主と共に港に向かう。
「例の傷薬は全部この木箱に入れてるんですか?」
「そうよ、君のおかげで結構な量作れたでしょ?」
「そ、そうみたいですね……ぐぐぐ」
荷車をガタガタと引きながら改めて自分の集めた薬草の重量を噛みしめる……。あの時スライムともっと遭遇して戦っていたら少しは違ったんだろうか、いやいや!全力でやった結果だしそのことに後悔はしていない!
フォルセから結構な距離を歩いて港までなんとか到着した。
「や、やった……あ、後は船に乗るだ――」
「それじゃ、すぐに荷物を船の中へ、荷車は置いていくから」
「あ……あ、あの、す、少し休憩しても――」
「もうすぐ出航だそうよ、迅速にね」
そう言うとスタスタと船に乗り込んでいった。
意外と人使いが荒いんですね……、よろよろと木箱を積み込んでいると見かねた数名の船員が気前よく手伝ってくれて助かった。何度もお礼を言うと気にするなと格好よく言ってくれたことは忘れません!
それにしても船に乗るまでに、こんなに体力を消耗することになるなんて、パンをかじりつつ甲板で海を眺めながら休んでいると、いつの間にかハーティさんが隣に立っていた。……そういえば先に船に乗りこんでから今までどこにいたんだろう?
「順調にいって二日ってところね」
「ということは、それまで海の上なんですね。ずっと揺れていて何だか落ち着かないです」
「すぐ慣れるわ」
「ハーティさんは何度も船に?」
「ええ、よく使ってる」
「私は先に部屋に戻ってるから」
「わかりました、俺はもう少し風に当たってます」
そうか船で寝泊まりするんだった、船での食事ってやっぱり魚介系の料理がメインなのかなと考えていると、甲板に複数の船員がわいわいと集まってきた。
……ん、あれは網?すると次々に網を海に投げ込みはじめた。
「今日は天気もいい、きっと大漁だぞ~!」
「ああ! 活きのいいのがとれそうだ」
なんて会話が聞こえてくる。その様子を見ていると一人の船員がこちらに気づくき、
「おっ兄ちゃん暇か? よし暇だな!」
ちょいちょいと手招きされたて近づくと、ほいっと網を持たされ。
「もう少し待ったらみんなで引き上げるんだ! 大漁だと壮快だぞ!」
「あの、これって――」
周りを見ると甲板にいた他の乗客たちも何人か同じようなことになっていた。
すると誰かが手で合図を出した。
「「「せーのっ! せーのっ!」」」
同時にみんな一斉に網を引っ張りはじめるので同じように力を込めて引く。
掛け声のリズムに合わせて引っ張る、引っ張る……!
揺れる船の上でいつの間にか他の乗客たちと一緒に無我夢中になっていた。
海面に網の中の魚の姿が映るたびに一喜一憂し、見事甲板まであげた時の達成感は何とも言えなかった!
「「「大漁だー!」」」
「「「わー!!」」」
謎の一体感に包まれながら見知らぬ人たちと肩を組んで喜びを分かち合う。なんでこうなったのかは、もうどうでもよかった。
ちなみにとれた魚たちはその日の食卓に並べられ、参加者たちにとっては格別の味になっていただろう。ハーティさんがこれ美味しいと言うたび、そうでしょう!そうでしょう!俺たちが力を合わせてとった魚たちですからね!うんうん!と返す。
そんな楽しい食事を終えて部屋へと戻ってきた。
さっきの漁のこと、初めての船旅のことを話しているうちに夜も更けてきた。
「さ、今日はもう寝ましょうか」
「じゃあ俺もそろそろ部屋に戻り……」
と言いかけたところで、あれ?確かこの部屋の鍵しか貰ってなかったような?普通に俺の荷物もここにあるし……んん?
「何してるの? 灯かり消すわよ?」
「あっ、すみません……」
そう言いながら、いつの間にか寝間着に着替えていたハーティさんが灯りを消し、ベッドに横になる。
まさかの同じ部屋ですか!そうなんですか!少々パニックになりながら寝る準備をし、隣のベッドに潜りこむ。
「あ、あの~、ハーティさん、起きてます?」
「すー……すー」
普通に寝ちゃってるよ、この人……顔を遮るローブは今はなく、なんとも可愛い破壊力のある寝顔をさらしていた。
くっそー!反則ですよ……それは!いやいや落ち着くんだ、こんなことで俺の心は乱されないっ!!
「んん……」
ハーティさんが寝返りをうつたび、弱い心はかき乱され続ける。辛い
残りの船旅も、こうしてろくに眠れないまま過ぎ去っていった……。
次回いよいよ王都です。