3.依頼と戦闘と黒フード
日の射した森の中を、二人の人影に手を引かれながら走っていた。
その光景にどこか懐かしさを感じていると、二人がこちらを見ながら名前を呼んでいる。
返事をしようにも、うまく口が動かせなくて声がでない。
二人はそれを見て悲しそうに笑うと、その場から幻のように消えてしまった――
ふと目が覚めると宿のベッドの上だった。
起き上がり窓を開け朝の空気を部屋に取り込む。
「んー! さてと今日も頑張るぞ」
一週間の労働を乗り切るために、気合を入れ直して身支度を整えていく。
ギルドに昨日の件を軽く説明し、すぐさま街道へと出かける。
初回と同じように夕方まで薬草を採取し、作業を終えると宿に戻り一日の疲れを癒す。
ただひたすらに……。
ただ無心に……。
そんな日々を繰り返していると、変化は向こうからやってきた。
いつもの様に帰っていると草むらから何か飛び出してきた。
ボヨンッと気の抜ける音とともに緑色の物体が行く手をふさいでいた。
「――スライム」
その姿を確認し、すぐさまナイフを抜く。
有利な間合いを取りながら勢いよく斬りかかってみたが、その弾力ある体に弾かれる。
バランスを崩されながらも迷わず再度踏み込み、弧を描きながら鋭い一撃を放つ!
今度は弾かれることなく刃が通り、スライムはその形を維持できずにドロドロと溶けていった。
「やった!」
この世に存在するモンスターの中でも最弱中の最弱、それがスライムだ。
しかし放っておくと大量に繁殖し作物を荒らす困った奴らなので慈悲はない。
「そうそう、忘れず回収っと」
倒した場所に落ちていた半透明の石を拾い上げる。
モンスターを倒すとこういった魔石になることがある、特別な武器の材料にされたり重宝しているらしい。
この辺では回収されて王都などに運ばれるので、実際に使われたところを殆ど見たことがない。
それでもギルドに持っていくとちょっとしたお金になるので、みんな当然のようにそうしている。
薬草採取、たまに出没するスライムを退治しながらの一週間はあっという間に過ぎていった……。
路地裏にあるボロボロの店の中で待たされるのもいつものことだった。
ちょくちょく報告ついでに薬草を渡しに来る度、待たされるのだから慣れもする。
椅子に腰かけ、うたた寝をしているとマイペースな店主が声をかけてくる。
「はい、お待たせ」
「こんにちは、ハーティさん」
このやり取りを交わすまでに数時間経過していることは二人しか知らない。
「依頼を達成したので報告しに来ました」
「そう、ご苦労さま」
薬草を渡し報酬金を受け取り、これで無事に完了だ!
正直、家の庭の雑草取りをやらされている気分だったが、スライム退治のおかげで最後までやり遂げられたよ、ありがとう……スライム。
「ところでこれだけ集めた薬草って」
「傷薬にして王都に運ぶけど」
「……あの量全部ですか?」
「当然でしょ? これでも結構人気なのよ」
なるほど、それであんなにお金を出せたわけ……って!売ってる傷薬って結構安価なんですけど?
「この辺で売ってる傷薬って王都だと高値になるんですか?」
「それは一般的なやつ、私のはオリジナルね」
「へ、へぇ~」
もしかして地味にすごい人だったりするんだろうかこの人。それにしても、
「いいなぁ王都か……」
「行きたいの?」
「そりゃ行ってみたいですよ、この辺り交易は盛んですけどギルドへの依頼自体少ないですし」
「じゃ、ついてくる?」
「そんな簡単には行けませんよね、わかってます……って、ええっ!?いいんですか!!」
「依頼しておくから、荷物運びよろしくね」
うおおおお!この人怪しい魔女じゃなくて女神でした!
普通に行くと移動費も馬鹿にならないけど、正式な依頼でとなると免除されたりするのだ!
ああ、自分の運のよさが怖いね!
「荷物運びぐらい楽勝ですよ! 任せてください」
「ふふふ、頼りにしてるよ」
「そうそう、いい時間だし夕飯、食べに行く?」
「いいですね!行きましょう」
最初会ったときは恐くて遠慮したけど、今回は嬉しさのあまり気づけば承諾していた。
まぁ食べに行くって言ってるし大丈夫だろう。
「いつも外で食べるときは、ここなの」
そこは一度おっちゃん達と食べたことのある酒場だった。
「ここ美味しいですよね!」
「来たことあったんだ?」
「はい、といっても一度だけなんですけどね」
席に着き、一通り注文を終えると次々食事が運ばれてくる。
そういえば、いつも黒フードを頭からすっぽり被ってるから顔は見たことないな、声は老婆を想像していたけどかなり若い感じだったし……とぼんやり眺めていると。
「食事も来たし、冷めないうちに食べましょ」
そう言うとあっさりフードを取った。
肩にかかるくらいの水色の髪で、綺麗というよりどこか可愛らしい顔立ちの女性が現れた。年齢は二十代前半くらいに見える。
「!?」
「ん? 食べないの?」
「……はっ! あぁ、ええと、これ美味しいですね!!」
「ふふ、まだ口に入ってないよ?」
最初のイメージとあまりにもかけ離れていて、思考が迷子になっていました、はい。
取っていれば女神とも言える可憐さがあった、証拠に店の男性客がちらちら視線を飛ばしている。
フードを被っていると途端に怪しい残念な人なのに、なのに……。
衝撃が強くて、この日食べた料理の味が頭に入らず、ただひたすらに口へ運ぶだけとなっていた。
食事を済ませ、簡単な日程の確認をしてその日は解散した。
ハーティさんの衝撃もさることながら、王都に行けるという事実が素直に嬉しくてその日はなかなか寝つけないでいた。
王都までの旅、そこでの新たな出会いを思い描きながら明日が来るのを待っていた。
はやくも王都に行けるみたいです。