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2.ハーティ・ラニアー

 記念すべき初の依頼をこなすべく、グレンは街の外に出ていた。

 街の周辺はモンスターが警戒してあまり近づいてこないが例外はある。


 なるべく暗くなる前に薬草を採取して届けよう。

 フォルセに来る前も、それらしき草が生えていたのを見かけたのでまずは街道沿いを探していく。


 しばらく歩いていると、


「おっ! これかな」


 白い花にギザギザの葉で……特徴と照らし合わせると、どうやら当たりの様だ。

 これならすぐに終わりそうだ。せっかくだし持てるだけ持って帰ろう!


 夢中になって次々に引っこ抜いていった。



「ふぅ、これだけ集めれば充分かな」


 途中はぐれモンスターを見かけたりもしたが、近づいてくることもなく採取に集中できた。

 薬草で一杯になった袋を覗き込みながら満足していたが、日が傾きかけていたので帰路につく事にした。


 これといった問題も無かったし、後々は王都みたいに大きな街で活動していきたいしお金を貯めないとな。

 この依頼もそれなりの報酬になりそうだし移動費ぐらいはすぐ貯まるかな?などと考えているうちに街に到着した。


 早速ギルドに報告し依頼主の元へ行くことになった。

 まだ夜になっていなかったので直接報酬を受け取ることにしたからだ。


 ギルドで教えてもらった通りだとするとこの先か。

 夕方の路地裏は人気もなく、薄暗くて何か出てきてもおかしくないような空気を漂わせていた……。


 「……ふ、雰囲気あるなぁ」


 いつの間にか早歩きになって奥へ進んでいくと、いかにもな店がそこにあった。

 汚い看板に雑な字で薬と書かれているので多分間違いない。


 古くて、いまにも壊れてしまいそうな扉を押して恐る恐る中へ入ると、薬特有の苦い香りが広がり店の奥からは怪しげな煙が漂ってきていた。

 ここには絵本で見た醜い老婆の魔女がいる!間違いなくいる!

 そんな馬鹿みたいなことしか浮かばなかった。

 

 正直こんな恐い店だと知っていたらギルドを仲介して報酬を貰ってたよ!内心後悔しながら声をかける。


「あ、あの~、すみません~」


「…………」


「…………」


「す、すみません!」


「……手が離せないから……奥まで、どうぞ」


 ついに魔女とご対面か、ゆっくりと煙に招かれるように店の奥へ行くと。

 定番すぎる大きな壺を火にかけ、ぐるぐると杖でかき混ぜている後姿がそこにあった。


「は、初めまして、ギルドに依頼されたハーティ・ラニアーさんですよね? 薬草を届けに来ました」


「ん……適当にその辺の床にでも、置いておいて」


 こちらを見ようともせず、どうでもいいように適当に床を指す。


「少し表で待ってて、すぐ行くから」


 という言葉のまま、店の椅子に座って待つこと二時間……。

 ようやくのそのそと、黒いフードを頭からかぶった怪しい店主がやってきた。


「……お待たせ」


 まったくだ!!依頼主じゃなかったらとっくに帰ってたところだ!と怒りを抑える。

 名誉のために言っておくと決して怖いからじゃない、本当に!


「えっと、報酬についてなんですが」

「あ~、はいはい」


 ドンッと小袋がカウンターにおかれて中を確認してみると結構なお金が入っていた。


「あの、少しというかかなり多くないでしょうか?」

「ん? 大量の薬草の対価となるとこれが普通でしょ」

「は、はぁ」


 さらっと当然のように答えられると、それ以上何も言えなかった。


「それと少し頼みたいことが増えたしね」


 黒いローブから少し覗く店主の口元が不敵な笑みを浮かべていて恐い。

 かなり嫌な予感がするんですが……。


「それで、頼みたいことというのは?」

「一週間程、この依頼を続けて? ギルドには依頼書を出しておくから」

「……そういうことなら、いいですよ」


 正直この楽な仕事で、この報酬はかなりおいしい。お金は要るし断る理由も特にない。

 唯一気になることといえば、


「その、どうして俺なんですか? 他にも受けてくれる人いそうですけど」

「君なら扱いや……とっ、このお使いを完璧に、こなせそうだからね」


 何か言いかけたのをさらりと流しませんでした?この人。


「報酬は弾むし、どう?」

「わかりました」


 見るからに変わり者みたいだし仕事をくれるんなら気にせずやろう。

 割がいいのは確かなんだし。


「あ~ところで君、名前?」

「グレンです」

「じゃ早速明日からよろしく、グレン君」


 そういうわけで明日から一週間の薬草採取をすることになった。

 初依頼からの一応指名ということでギルドへの印象はいいだろうし幸先いいぞ!


「そうそう、いい時間だし夕飯、食べてく?」

「いえ、宿の手配もあるので……」

「そう?」

「では失礼します」


 さすがに魔女さんと二人、あのボロ店での食事はちょっと難易度が高い。

 ギルド直営の宿の温かいご飯とふかふかのベッドが待ってるんだ!


 早々に路地裏を抜け宿に向かう途中、明るい笑い声と美味しそうな匂いの誘惑に負け酒場で食事をとったのは言うまでもない。

 途中、冒険者のおっちゃん達に誘われ、何回も同じ武勇を聞かされつつも楽しい時間を過ごせた。


 帰り際、綺麗な白銀の髪で、少し妖艶な空気を纏った美女に見惚れているとおっちゃん達に盛大にからかわれたのも定番の流れといえるだろう。


 宿に着いて報酬金でしばらく泊まる分をまとめて支払い、部屋の鍵と簡単な説明を聞き部屋へと通される。

 明日から一週間、長いようで短くも感じる日数の依頼のことを考えながら、ベッドに横になる。

 

 意識が薄れ、いつの間にか深い眠りについていた……。

謎の依頼主さんの登場でした。

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