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ダブルソウル『にこたま』  作者: 三島 宏幸
12/13

風雲安土城

ひめと左京は先生の仇を打つべく、安土城天主閣を目指す!それを阻むは城内で、押し合い圧し合いをしている死人の大軍…

よくまあこんなにも増やしたものだ…


「えっとおるねー。こりゃー大変じゃわ…」


「スゲーな…満員のライブ会場みたいだ…」



先生は小さな猫の姿になって休む所を探していた。辺りを見ると大樹の根元に転がってるひめのヘルメットを見つける。緊急着陸をした後、先生を心配して駆け寄った時にひめが投げ捨てたのだ。先生は動かない体を引きずってヘルメットににじり寄ると、スッポリとヘルメットの中に収まった。


「ああ…お嬢の匂いだ…」


先生は傷ついた体をヘルメットの中で丸めて眠りについた…



気を取り直して、まずひめがマシンガンをぶっ放す。すると思いもよらないことが起こった。


「ほぇ…?」「あぅ…?」


どうゆうことか?弾に当たった死人が土塊に変わるのは予定通りのこと。逆に今さらそうならないと困ってしまうし、ひめの機嫌も悪くなる。だが弾を受けてない死人までも次々と消えているのだ。頭を捻りながらひめは次の射撃を行った。まただ!また同じことが起こっている!


「どうゆうことかね?うちらーは助かるけど」


右京は気がついた。これは大軍を減らすチャンスだ。急いでその理由を左京に伝える。


(左京!連鎖だ!連鎖が起きてる!アイツら数が多くてくっつき合ってるから、弾の効き目が隣のヤツまで影響してるんだ!間違いない!)


「ふんふん…あのなー美由紀。兄貴が言うには『ぷよぷよ』なんだって。連鎖で消えてるんだって」


「ぷよぷよ?ゲームの?そりゃ良いねー連鎖かぁ」


「ジャンジャン撃ちまくってガンガン数減らしてやろうぜ」


ひめと左京の快進撃が始まった。ひめがマシンガンでゴッソリと死人を消せば、左京はばらけた死人を次々と『勇者の剣』で土塊に変えてゆく。


「結構登ったけどまだまだじゃねーお城…」


「でもこの石段ってちょうど良いよな。さっきのなんか十メートルくらい連鎖して消えたじゃん」


「もはや射撃じゃないわ…あっ弾切れ。ちょっとマガジン替えるけー死人見といて」


「はぁい!」


「あのね…左京くん…ちょっと言いにくいんじゃけど…このマガジンで最後になっちゃった…」


「えー!たくさん持って来てたじゃんよ?アレ全部撃っちゃった?」


パシュシュシュシュ


「うん…そうみたい…この後どうするか考えといて。うちは今忙しいけー」


「無茶ぶり…」


左京は考えた。ここはいっちょオレが頑張って大軍全部斬っちゃうか?いやいや、コレ全部を一人で斬るのってムリだろ…


「兄貴ーなんかない?」


(オレ?オレもわかんないよ…そうだなー?刀!刀に聞いてみたら?)


左京は江戸日本橋の死人騒ぎの時のように刀に話しかけてみた。


「なぁー刀さん。勇者の剣さん。オレ達今、ヒジョーにヤバいんだわ…どうすりゃ良いかわかるかな?」


左京の問いかけに勇者の剣が反応した。


「はっはっは!参ったか!まあ無理もないわな、これだけの数だ。

なあ兄者!どうする?」


兄者?刀は誰のことを言っているのだろう?すると今度は先ほどとは違う声が聞こえてきた。


「おい左京!お前は変わった人間だな!体は一つなのにもう一人、右京と言う者の霊まで入っておる」


「バレたぁ?でも本当はこの体、兄貴の右京のものなんだ。 オレの方が入り込んでるんだよ。ちょっとややこしいけどな」


「ならば俺達と同じだな。お前の刀の切羽を見てみろ。そこじゃない!もっと下だ!…そうだ、それが切羽だ。そこに三匹の鬼がいるのがわかるか?」


左京は刀の言う通り切羽を見た。今まで気づかなかったけど、そこには確かに三匹の鬼の姿があった。


「俺達三匹は兄弟だ。この前お前と話したのが末の弟『赤輝丸』

俺が二番目の『青輝丸』だ。俺の上にはまだ兄者がおるのだが。なあ兄者…?兄者は天の邪鬼だからなぁ」


「ホントだな!オレ達と似てるな。そんで青輝丸さん、オレ達ちょっと急いでるんだけど何か良い方法ってある?」


「俺様にかかれば容易いこと!似た者同士だ。ひとつ力を貸してやろう」


青輝丸がそう言うと勇者の剣は青く輝き始めた。確かこの前の時は赤だった気がする。もしかしてバージョンアップ?


「左京!おーごと…弾がないなった…」


「ご苦労さん!美由紀はちょっと下がってろ。そんで青輝丸さん、オレはどうすりゃ良い?」


「どうもこうも。相手に向けて刀を振ってみろ」


ビシュッ………スパーン


左京が刀を振るうと前方にいた死人の首が落ち、土塊になった。


「???斬れた?!なんだよコレ?」


「俺は赤輝丸なんかよりずっと強いぞ!心して使え!飛ぶ刃を!」


「あれ?コレってハマショーがやってたのと似てるじゃん…まあいっか!ヨロシクお願いしまーす」


今度は左京が前線に立つ。刀の使い方は解っている。浜田省吾之助がやってたようにすれば良い。左京は気合いと共に刀を振る。

すると斬撃は飛んでいっぺんに十ほどの死人を倒した。うん、イケそうだ。左京は何度も何度も繰り返し刀を振るい、死人の大軍を斬る、斬る、斬る。左京とひめは少しずつではあるが、着実に大手道の石段を登り、安土城に近づいて行った。


「ハァハァ…腕がパンパンだ…兄貴のこの体は体力がなくって困るぜ…」


「がんばれー左京!ファイトー!」


ひめはもっぱら応援だ。城の入り口はもうそこまで来ている。


「うぉー!唸れ斬鉄剣!」


「ちょっと…刀の名前が変わっとるよ…がんばれー男の子!」


ついに着いた…安土城だ…外の死人達はあらかた片付けた。もし中にもウジャウジャいたらと思うと、正直二人は少し腰が引けた。恐る恐る城の中を見てみると死人の姿はそこには無かった。ホッとした気持ちになると今度は城の中の様子が気になってくる。


「うひゃー!豪華なねー!鳥やらなんやらの絵もキレイなわ」


「何階まであるんだよースゲーな!コレ吹き抜けになってるぞ」


「とにかく死人がいなくてラッキーじゃ!うち、もーうんざり…」


「それはオレも一緒…さっきの三人はこの城のてっぺんにいるはずだ。上に行こう」


一階、二階、三階と順調に進み四階まで来た。この階の部屋はこれまでの階と様子が違う?


「四階は地味なねー。キレイな絵もないなったよぉ」


「三階までで金が無くなったんじゃねーか?」


まさかそんな筈はない。戦国の乱世を勝ち抜き、ついには天下統一を果たした織田信長の建てた城。贅沢の粋を集めても有り余る財力は無限。四階は何かの意趣があってのことだろう。馬鹿な二人も次の階に上がればわかるはず。


「うわー!また派手派手になった!今度は赤と金じゃ!それにこの部屋、形が変なよ!」


「おい美由紀!あんまりでっかい声出すなって!たぶんこの上にアイツらがいるはずなんだ」


噂をすれば影…五階の物音に気がついて一人の男が降りてきた。コイツは先生と上空から見た三人の内の一人。若い侍だ。歳はオレ達とあまり変わらない感じ。おいおい…イカツイ槍を持ってるぞ…気をつけろー!


「まぁ!あんたーイケメンじゃね!死人にしとくのもったいないわ」


「はっはっは!オレはここまでスゲー数の死人を退治してきた左京様だ!お前一人くらいビョーサツだぜ!」


「モ…モリ…ランマル…」


「もりらんまる君?それがあんたの名前?あらーお行儀が良い子じゃねー。うちは美由紀よ。麻敷美由紀」


「お前ら自己紹介してる場合じゃねーよ!森だっけ?やる気ねーならオレ達上に行くからな!」


森蘭丸は森家の者に伝わる十文字の槍をくるりと回し身構えた。


「コ…ロス」


蘭丸の素早い撃ち込みが左京を襲う。目にも止まらぬその突きを、紙一重でかわしている左京の運動神経には改めて驚いた。しかし、このいびつな五角形の部屋の中では、柱が邪魔になって外で使った飛ぶ刃も使えない。長い槍、狭い部屋では逃げ場も限られてくる。このままではヤバい!左京もそう感じたのか、一転して攻撃に出た。


「こんにゃろっ!」


ザクッ………!


左京の渾身の力を込めた一太刀は朱色の柱に深く食い込んだ…


「ヤバいヤバいヤバい…どーしよ…抜けねー!」


「あんたバカ!?はよーしんさい!」


ひめは弾の残ってるピストルで左京の援護射撃をするのだが、蘭丸は柱の陰に隠れて上手く弾をかわす。


「ふぇぇ…また弾がないなっちゃった…」


「ほいっ!オレに貸してくれてたサムライなんちゃらって銃。もうちょっと援護ヨロシク!」


「わかったー!らんまるー当たれ当たれ当たれー!」


「クッソー!ぬーけーろーーーポキッ…☆◆○お…オレチャッタ…」


「はっ?あんたーなにしょーるん!」


「うわぁーもうダメだ…コロサレルー!」


左京は刀と一緒に心までポッキリと折れてしまった…ひめのピストルの弾ももうすぐきれる…このままでは二人とも…


(左京どけ!オレと代われ!)


ここにきて右京が左京に代わって出てきた。運動神経ぶち切れでとても戦力にならない右京がどうしてこの大事な時に?右京は折れた刀を握りしめる。心なしか震えて見えるのは気のせいか…


「ひめー!早く逃げろー!」


「あんたは右京?なによーるん!あんた置いてうちだけ逃げれる訳ないじゃんか!」


「ひめが逃げたらオレもすぐ追いつくよ」


右京は考えた。なんとかひめが逃げ切るまでは粘ってやる。何も出来ないオレだけど、アイツの足にしがみつくくらいは出来る。

なんとしてもひめだけは!


パシュパシュカシュ…


「また…ないなった…」


「逃げろーひめー!」


ひめは動かない。右京の顔を見て、なぜか微笑んでいる。


「右京は優しいねー!」


「そんなん良いから早く逃げてよ…」


右京の頬を伝った涙は、折れた刀に落ちた…

その時、刀から声がした。


「話は後だ!おい右京!折れた刀を鞘に差し込め!俺の力を貸してやる」


右京は言われたままに折れた刀を鞘に差し込む…


「引き抜けー!」


スッ…!!!


「やっ!刀が生えたよ!」


ひめの言う通り、折れていた刀の刃が修復?ではなく新しくなっていた。その新刃は白々と輝きを放つ!

状況は好転した。が、しかし依然として二人がピンチなのに変わりはなかった。頼りの左京はまだ立ち直れていない…一度でも、いや一瞬だって諦めちゃいけなかったんだ。それなのに左京は諦めてしまった。だから右京が出てきたんだ。右京はまだ諦めてない。今の自分が出来ること…

一瞬ひめと目線を交わす!二人にはそれだけで通じた。頷くひめを確認すると右京は蘭丸の前に飛び出した!刀は…?鞘に収めたまま?

右京はなりふり構わず蘭丸にしがみつく。ひめはもう駆け出していた。右京の腰から刀を抜くと…右京もろとも蘭丸を斬りつけた…


ズバッ!


「ガハッ…ウゥ…」


ひめの攻撃を受けた蘭丸は倒れ、土塊に変わる…

右京は…?

目を閉じていたひめは、恐る恐る目を開ける…


「フゥー!オレ生きてる。良かったー」


「右京…良かった…うち…怖かったよぉ…」


「オレも…でも思った通りだったでしょ!この刀は妖魔は斬れても生きてるオレは斬れない」


「最初にこっちに来た時に永吉郎がやって見せてくれたもんね」


「猫より物忘れがひどいひめがよく覚えてたねっ」


「あんたーそんなこと言ったら猫に失礼よぉ」


ひめと右京は笑いあった。生きてるのが嬉しくて、互いが互いを誇らしくて、右京はひめにキスしたくなった。


「おい右京!話の続きだ!俺の名は白輝丸、三兄弟の長兄だ」


うー!思わぬ邪魔が入った…だけどさっきは助けてもらった恩人だ。お礼も言っとかないといけないし。右京はひめへの淡い想いを打ち消した。


「さっきはありがとうございました。すごく助かりました」


「ああ。俺が出張るのは特別だからな!」


「そうそう!大兄はひねくれてるもんな」


「黙っておらぬか赤輝丸!」


白輝丸、青輝丸、赤輝丸は自分の身の上話から話し始めた。三匹がいっぺんに話すものだからややこしかったが、右京は大方のことは理解できた。鬼の三兄弟に聞いた話によると…

昔々、地獄に鬼の三兄弟がいました。一番上が白輝丸、真ん中が青輝丸、末っ子が赤輝丸と言いました。三兄弟は揃って素行が悪く、地獄で暴れまわっていました。その悪行の数々は、やがて閻魔大王の耳にまで届いてしまいます…三兄弟は逆ギレして、「俺達を呼びつけるなんて上等だ」「返り討ちにしてやる」「なんなら閻魔大王をやっつけて、地獄を乗っ取ってやろうぜ」などと息巻く始末で…三兄弟は意気揚々と閻魔大王の元を訪れて喧嘩を売ってしまう。


「俺なんて一発だったな…」


「俺は二発はもったぞ…」


「いーや!大兄も一発だったって…」


閻魔大王の強さは三兄弟の予想を大きく越えていた。その強さは三兄弟の力程度では到底計りきれない。まさに底無しの強さに思えた…赤鬼は、青鬼は、白鬼は泣いた。生まれて初めて恐怖というものを感じた。三兄弟は閻魔大王にひざまずき、赦しを請うた…

そして閻魔大王が出した裁定というのが…


「切羽って言うん?それの中に閉じ込められたんかぁ」


「俺達の性根が直るまでは出さないって…」


「でもちょっとやり過ぎじゃろ!可哀想じゃん!うち今度アイツに文句言っちゃるね!」


「は?」


「へ?」


「ん?おい娘!その言い様はまるで閻魔大王を知ってるような口振りだが?」


「あーうん。ちょっと前にも話したよ。恐いことなんてありゃーせんよ。ちょっと目なんか潤ませてね、あれでかわいいとこあるんじゃけ!うちなんて『獄卒』?とかって言うのの偉い人になってくれーゆーて頼まれちゃって…困るよねー!」


「!!!お嬢様と閻魔大王はそのような仲であられるとは…大変失礼致しました…」


「失礼なことはないよねー。それよりうちらを助けてくれてありがとね。悪いやつ全部やっつけたら、うちがみんなをそこから出してあげるようにって言うてあげるけーね。もう少し頑張ろう」


「オォー!」


「オォー!」


「オォー!」


三匹の鬼は歓喜の雄叫びを上げた!やはり閻魔大王のにらんだ通り、ひめには地獄で獄卒達を統率するのが合っているのかも?

最終決戦はもうすぐだ…



一方、織田死人軍と戦う永吉郎達にもやっと終わりが見えてきた。頭を筆頭に、省吾之助、武蔵の活躍は徳川軍の武将達ももろ手をあげて認めざるを得ない。


「最後まで気を抜くな!」


頭が激を飛ばす。残りの死人、約五十。


「ハァハァ…さすがに疲れました…」


「誰か!武蔵殿に水を持って参れ」


天下の徳川も今や麻敷組の補助役だ。残りの死人、約三十。


「うわっ!」


省吾之助は死人に足首を掴まれて転倒した…襲い来る死人!


「クソッ…あと少しというところで…」


省吾之助が死を覚悟したその時、つむじ風と共にそいつは来た。


ピシュッ!


「遅くなってごめん!おいら体を取りに行って来たんだ!しわしわに干からびちゃってたから銭湯に寄ってたら遅れちゃったよ」


「生き返れたんだねぇ…新矢…」


体を取り戻し復活したかまいたちの子供によって省吾之助は窮地を脱することができた。


「かたじけない…助かったぞ。お前の母ちゃんも必ずここから出してやるからな。これで足りるか?数珠玉よ!」


省吾之助は最後の力を振り絞り、飛ぶ斬撃を放った。残りの死人、約十。

残る力を使い果たした省吾之助はその場に倒れ込んだ…


「ハァハァ…もう溜め息も出やしねぇや…まだ足りないかい数珠玉やい!」


省吾之助は無性に腹が立ち、刀を投げ捨てた…


カラン………ボゥッ


投げ捨てた数珠玉から霞が立ち上る。やがて霞はかまいたちの姿になって現れた。


「へへッ…すまねぇな…手荒なことしちまって…斬っても斬っても斬り足りねぇ数珠玉って刀に腹が立っちまってな…投げ捨てられて、ちったぁ反省したのかな…」


「浜田様!本当にありがとうございました。受けたご恩は岩に刻み、一生忘れることはないでしょう。必ずや貴方様の窮地には親子共々馳せ参じて、お役に立つと約束します」


「良いってことよ…親子仲良く達者でな…」


「母ちゃーん!母ちゃんだ!母ちゃんだ!ほら、おいら母ちゃんの体も持ってきたよ!」


「あらまぁ…ほんとにしわくちゃだね。一緒に銭湯に行こうね」


「うんっ!」


永吉郎も疲弊していた。掠めただけに思えた肩口の傷は、思いの外深かった…刀を振る度に血が吹き出し激痛が走る…しかし永吉郎

の太刀筋はますますの冴えを見せる。永吉郎の朝霧の巫女を想う気持ちが…肉体を凌駕している!

さあ帰ろう!愛しい人の待つ場所へ!


徳川御三家連合軍の皆々が声を揃えて数えだす。

八!七!六!


麻敷組の三人は持てる力を使い果たしていた…


「後は頼む…矢沢殿!」


「おいしいとこはお前にやるよ!」


「矢沢殿…あと五人!」


四!三!二!一!


「おりーん!!!」


ワァァァァァー!!!!!!!!!!やったぁぁぁぁぁー!!!!!!!!!!



「ねぇ?左京は大丈夫?」


「コイツは自信過剰なんだよ。ピノキオの鼻を折られてふて腐れてんのっ」


(ああ…鼻も心も折れたね…刀と一緒にな…ハハハ…)


「んっもう!なにいじけとるん!うちは武器がないなったし、右京なんてすぐに自分のことは諦めてうちだけ逃がそうとするし…」


「あぁ…う…うん…オレも間違ってた…」


「やっぱり左京がおらにゃーダメなんよ!左京ならうちも右京も守れるじゃろ?あんたはスーパーヒーローじゃもん!」


(やっぱりそう…?そうだよな!オレじゃなきゃダメだよな!)


「ジャーン!ヒーロー見参!」


「おうっ!出てきたねー左京!」


「ラスボス相手に兄貴じゃムリでしょ」


「んー?でも右京もあれで結構やる時はやるよ」


「そっかぁ?まあ、さっきのらんまるとの最後なんてオレにはできないなぁーカッコ悪くてさ」


「右京はあれで良いんよっ!それよりこの階は…?」


安土城の最上階。天主閣がある六階は金箔を張り巡らせた部屋だった。絢爛豪華、富と権力の象徴、戦国の覇者織田信長に相応しい居城。その天主閣で坊主が酒を呑んでいた。取り巻きの侍女は死人だろう。本能寺で命運尽きたはずの織田信長の姿も。これも死人ということか。


「うひゃー金ピカ!悪趣味ー!目がチカチカするー!」


「あっ!あの坊主だ!呪文唱えてしろ助落としたの!」


ようやく二人に気づいた坊主が問う?


「どうゆう事だ!何故お前らが此処にいる?城の外にはわしの下僕がおっただろう!それより前に確かお前ら…わしが化け物と共に地上に落としたはず」


「オマエしろたんにひどいことしたなー!」


「外の下僕って死人のことだろ?おあいにくさま!オレ達が綺麗に掃除させてもらったよ!」


「そんな筈はない!そんなものいくらでも…かつて安土城が炎上、消失した折に忍び込み、見つけたあの壺があるではないか!」


「残念でした!死人が出てきょーったツボならうちが壊したよ!爆発したけーたまげたよ」


「なんとゆうことを…あの壺には仏舎利が入っておったのだぞ!」


「何が入ってたかは知らねーけど、あんなもんくそ食らえだ」


「愚か者め!仏舎利とは釈迦の骨よ。糞は喰らわんが骨なら喰ったぞ!お陰でわしは法力が使えるようになったのよ!おい!信長!あいつらを殺せ!」


「ガガッギギッ…」


死人を操り江戸の町を襲っていた張本人はこの坊主だった。甦った第六天魔王織田信長までも顎で使うとは…傍若無人も甚だしい。

左京は刀を構えて信長の出方を注視する。しかし信長はなかなか仕掛けてこなかった。


「どうした信長!そこの小僧と小娘を早く斬り捨てろ!」


「ワ…ニサシズ…ルナ…」


「あ?何か言ったか土人形!」


「わしに指図するな!このうつけめがー!」


織田信長は愛刀実休光忠を振り上げると坊主を一刀両断した…

左京とひめは口をあんぐりと開けたまま、その一部始終を見た…


「ば…馬鹿な…主人に逆らうとは…グフッ…」


悪僧は織田信長の手にかかり死んだ。死人として甦ってもなお、信長の気性は変わらなかったと言うことか…恐い…この男は恐い…

左京は思わず後退りした。いつもは強気のひめさえも不安な顔を隠せない。刀を構えた信長が、一歩、二歩と近づいて来る…

坊主の取り巻きの侍女達が土塊に変わった!

信長はなおも迫って来る…三歩…!


ザザァ…


織田信長が土塊に変わった…


「終わったの…か…?」


「うちらの勝ち…?」


「よっしゃー!!!」「やったー!!!」


死人との死闘に疲れ果て、森蘭丸には追い詰められ、織田信長には恐怖を味わった…全てから解放された二人は今、喜びを爆発させた!


しかし、喜びもつかの間…


ゴォォォーー!?


安土城の崩壊が始まった!


「美由紀!早く!」


左京はひめの手を掴んで階段を駆け降りる。


「痛い痛い!そんなに引っ張らんで!」


「あー!もう!しょうがねーなぁ!」


左京はひめを背負って駆け降りる。速い!三階、速い!二階、速い、一階、出口だ!!!


ガラガラドカーン!!!


「ふぇー危な…」


「これでほんとに終わりだな」


「うん!しろたん迎えに帰ろ」



死人に邪魔されながら登った大手道の石段を、今度は二人で降ってる。後は兄貴に任せたよと言って、左京は右京に体を譲った。変に気を回されると困ってしまう…もうすっかり夜も更けた。だけど今夜は良い月が出ていて足元は明るい。天然なひめも転ぶ心配はないだろ…えっ!


「うわぁ!」


何で滑ったのか、ひめは突然バランスを崩してしまう。

とっさに右京は腕を伸ばし、ひめを抱き止めた…

ひめは今、右京の腕の中にいる…

ひめは小さい…思ってたよりずっと…

守ってあげたい…そう思った。

ぼんやりした意識の中で、口をついて出た言葉は…


「小さいね」


ひめの体が震えてる。小さな体が震えてる。いとおしい…


「あんた…いつまでうちの胸触っとるんね…」


プルプル…!


「小さくて悪かったなっ!」


バチーン!!!!!



「あれー?しろたんがおらん?しろたーん」


ひめが自分を呼ぶ声に、フルフェイスのヘルメットから先生が飛び出して来た。


「なしてーヘルメットの中におったん?しろたんかわいいねぇ」


先生はひめにじゃれついている。もうあんまり心配しないで良さそうだ。さすがは神獣白虎。回復力も神ってる!

安心したらお腹が減った。ひめの巨大バックから食べ物を取り出して食べた。お腹が落ち着くと今度は眠くなった。大きくなってもらった先生を毛布にして朝まで寝よう。今日は疲れた…もう今夜は頭が回らない…おやすみ……



「美由紀様…美由紀様…ご無事でしょうか…?美由紀様」


早朝からひめに呼び掛けるのは永吉郎だった。ヤバいよー永吉郎。ひめは寝起きが悪いよー。ほらね…


「んーん!うるさいねぇ…バカタレ…むにゃむにゃ…」


ひめの顔の前には鏡が浮いていた。その鏡から永吉郎はひめに話しかけている。あれはおりんちゃんの鏡だ。右京は鏡に飛びついて話しかけた。


「オレ右京です。ひめは起きなくてすみません。おはようございます」


「おお!右京殿!おはようございます…いや!挨拶などよろしくてですね!お二人ともご無事でしょうか?」


「うん!オレ達は大丈夫!ちょっと先生がケガしちゃったけどね…でもさっき聞いたら一晩寝たら治ったってさ!良かったよー」


「それはなによりで!それで、その…安土城の方はいかに…?」


「それがさー死人はウジャウジャ…刀は折れるし…坊主に織田信長まで出て来てさ!でも全部やっつけたよ!」


「話の内容がよくわかりませんが…?とにかく『やっつけた』のですね?勝ったのですね?」


「うん!オレ達が勝ったよ。そっちはどうなった?皆、大丈夫?」


やったぁぁぁー!!!!!!!!!!勝ったぞぉぉぉー!!!!!!!!!!


「もしもし!なんかスゴい声してるんだけど…」


「あっすみません!こっちも皆、元気ですよ!二人のお帰りを待ってますよ」


「じゃーひめが起きたら帰りまーす」


「もー!さっきからギャーギャーうるさい!」


「あっ!ひめが起きた…おはよーひめ」


「お!は!よ!う!!!」


さあ機嫌を直して皆が待ってる江戸に帰ろう。





続く

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