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ダブルソウル『にこたま』  作者: 三島 宏幸
11/13

第六天魔王

その報告は江戸城より直々に入った。よほどの緊急事態ということだ。頭は真面目な顔で江戸城から来たという御庭番衆の人の話を聞いていた。その時、右京は先生のブラッシングに一生懸命だったので、頭から改めて話を聞くまではそんなに事が深刻だとは思いもよらなかった。頭の話はこうである。

まず、火災で焼失していた『安土城』が三日前に復活したとか?織田軍二万の『死人』の軍勢が江戸城を目指して進行中だとか?すでに幕府としても手を打っていて『御三家』を中心にした布陣で対抗しているだとか?

結局、右京が聞いても話の半分も判らなかった。

ひめも『死人』という単語にだけは反応を見せたが事の重大さにはピンときていない。


「で?」「で?」


「軍勢二万と言えど、数にものを言わせた徳川軍の手にかかれば簡単に鎮圧できると踏んでいたらしいのだが…甘い…いざ蓋を開けてみると、不死身の死人相手に普通の刀や鉄砲では歯が立たない。どの陣営も苦戦を強いられるは必死…それに今の世の中、戦などしたことのない連中ばかりだ。日頃の鍛練とは違う。命を懸けた闘いに恐れをなして逃げ出す輩も少なくない。皆の士気は下がり圧されている。じりじりとではあるが死人の軍勢はこの江戸に近づいて来ているそうだ」


「なぜ今頃になって私達に?」


「そうだ!妖魔退治ならまず麻敷組だろう!」


永吉郎と省吾之助も納得いかない様子だ。


「どこの藩も手柄が欲しいのよ…将軍様も頭の痛いことだろう…」


「それで失敗して困ったから麻敷組に?」


(勝手だねー勝手だねーオレはイヤだなーヤル気しない!)


黙って話を聞いていたひめが静かに話始めた。


「確かにうちらーの扱いには腹が立つ。麻敷組は便利屋じゃないけーね。じゃけど江戸の人が困るのはいけん。うちは江戸の人に善くしてもらったよ。嬉しかったよ。じゃけーその人らを守ってあげたいよ!うちらがやらんで誰がやるん?手柄?そんなもんいらんわ!麻敷組は強いよ!やれるじゃろ?うちらなら!」


ひめの叱咤にみんなシビレタ。なんか力が沸いてくる。使命感が呼び起こされる。


「うん!行こう」(やってやるー兄貴チェンジな)


「私達で江戸を守りましょう」「やっぱり俺達じゃないとな」


「僕も頑張ります」「ニャーン」


「頭の出る幕はありませんなぁ。姫の言う通り!」


いざ、参らん!と…飛び出す皆をひめが止める?


「ちょい待って!着付けの人を呼んでーや。うち、作ってもらった着物着て戦うように社長さんと約束したんよ」


頭は焦るがひめには逆らえない…


「おい武蔵!ひとっ走りして越後屋の女中を連れてまいれ!」


「ふぁーい」


ひめの着付けはそろそろ終わりそうだ。気がつけば麻敷組が常駐している道場の外は黒山の人だかりが出来ていた。どうやら麻敷組出陣の噂を聞きつけた人々が見送りに集まったらしい。


門を潜り最初に出てきたのは麻敷組頭の佐々木孝次郎。


「佐々木の旦那!また良い娘を揃えておきますから無事に帰って下さいよ」


群衆が笑う中、頭は顔を赤らめる。


次に出てきたのは郷田武蔵。


「こいつ凄いのよ!この前の暴れっぷりなんて弁慶も真っ青よ」


武蔵は変わった。優しい性格はそのままだが、いざとなったら鬼神の如き戦いぶり。もう武蔵を臆病者呼ばわりする者はいない。


次は浜田省吾之助


「おい、覚えてるか?ちょいと昔の辻斬り騒ぎ。どんな剣豪も敵わなかった下手人、吉川晃司郎を見事討ち取ったのがこの男らしいのよ。恐ろしいお人だ…」


省吾之助はニヤリと笑った。数珠玉の中にはかまいたちの親子。

今や省吾之助の大切な相棒だ。


ちょっと遅れて小走りで矢沢永吉郎が出てきた。


「キャー!永吉郎様!私をお嫁に貰ってー」


永吉郎は江戸でモテてる。特に若い娘は熱を上げている様子だ。


「私にはすでに心に決めた人がいる。名をおりんと申す。私は浪里魂侍だ」


一途な男である。右京は左京と入れ代わって出てきた。


「おおー!」「わぁー」「頑張ってー!」「よっ!千両役者」


民衆は歓声を上げる。右京は江戸でも人気者だ。


「オレは勇者右京だー!」


うきょう!うきょう!うきょう!皆が右京の名を叫ぶ。


やっとひめの着付けが終わった。民衆の声はひめの所にも届いている。


「なんか外は盛り上がっとるみたいじゃね?ほいじゃーうちの着物姿を御披露目しに行きましょうか!」


わぁっ!誰かが叫んだ。視線は上空を見つめて動かない。周りの人もその視線の先を目で追うと…そこには白虎に乗ったひめがいた。


「出た…鬼姫だ…」


「ムッ!オニヒメー!」


ひめは悪口かと思いキレそうになった。麻敷組一同凍り付く…


「綺麗だねー今日の鬼姫」「鬼のように勇猛果敢で姫のように愛らしい」「おにしめかわいいーがんばれーおにしめー!」


言葉もまだたどたどしい子供まで鬼姫と呼んでいる。もう笑うしかなかった。


「まあいっか!鬼姫頑張るよ」


もう先生の白虎の姿を見て腰を抜かすような者はいない。反対に年寄りなどは先生に手を合わせて拝んでいる。永吉郎は先生に優しく囁く。


「今日も頼みますよー江戸の守り神様」


先生は麻敷組全員を背中に乗せてもなお、軽々と飛び立った。

皆の声援は鳴りやまず、聞こえなくなるまでには暫くかかった。

中にはこんな声も。たぶん越後屋の声だろう…


「今、鬼姫が着ていた着物は『越後屋』の提供です。越後屋は江戸の平和に寄与しております。皆々様方も『越後屋』をどうぞご贔屓に」


さすがは四代目三井八郎右衛門。江戸で一番の呉服屋の店主だ。

商魂逞しく抜かりがない。地獄の閻魔も一目置いてる我らがひめを、店の宣伝の出しに使うとは…


そんな事とは露知らずひめはご機嫌、絶好調♪着物にマシンガンとは、なんとも似合わないが…

江戸を出て間もなくすると、徳川軍が死人と交戦をしていた。死人の織田軍は思ったより近くまで来ていたのだ。お互い鉄砲で撃ち合いをしているのだが…当たれば倒れる徳川に対して、相手は玉を受けても何も感じない死人。まるでからくり人形のように決められた動作でまた鉄砲に玉を込め、射撃を繰り返す死人織田の鉄砲衆。恐れをなした徳川勢の陣形は崩れ、もはや烏合の衆と成りつつあった…


「おーい!来たよー!」「麻敷組、助太刀に参った!」


あれ?下の反応は微妙…あまり期待されていない様子だ。

ひめは閻魔大王特製のBB弾を込めたマシンガンをぶっ放す。

パシュシュシュシュ

今まで徳川軍が束になっても倒せなかった死人達だが、ひめに撃たれるとたちまち土塊に変わる。


「おおー?!」


今度は下から確かな反応が返ってきた。現金な奴らめ。


「良いじゃんコレ!バッチリじゃ!よーし、行っくよー」


「美由紀様、お待ちを」


「なしたん永吉郎?一気に行こうや」


「私は前々から不思議に思っておりました。死人とは、いったいどこから湧いてくるものかと…奴らには意思や感情はみられません。きっと死人に命令を下し、裏で操る者が存在します」


「そうかねー?そうかもしれんね?」


「ですから、この場は私達に任せて、美由紀様は右京殿と一緒に敵の親玉を退治て欲しいのです」


「うーん…わかった!そうするわ!さ右京も良いじゃろ?」


「アイアイサー!」


「ヨシ!しろたん、皆を降ろすよ。その後は…どこ行きゃ良かったんかね…?」


「安土城でございますよ。おそらく敵の大将は『織田信長』」


「やったー!やっと有名人に会えるぜ♪」


「お二人ともお気をつけて。また必ず再会しましょう」


「うん!皆も気をつけてーね!バイバイ」


永吉郎、省吾之助、頭、武蔵は二人が乗った白虎が飛び去って行くのを見送った。


「行ったな…よーし、始めるか!徳川御三家並びに各藩、ここでは上下もへったくれもない。死にたくなけりゃ我ら麻敷組に続け!」


「へへへ。まずは俺の出番だな。鉄砲なんぞに負けやしないぜ。かまいたちの飛ぶ斬撃を、特とお見せいたしましょう」


浜省吾之助が気合いとともに剣を振るう。横一線に振り抜かれた斬撃は、空気を切り裂き風の刃となって死人を斬る。


「おおー!見事…見事だ!」


「徳川の御偉方はいちいち煩いわ。まだまだこっからだ」


省吾之助は一心不乱に斬撃を繰り返し飛ばす。織田の三段撃ちとは昔話に聞いていたが、死人と言えどよく仕込まれていた。しかし幾十にも繰り返される省吾之助の斬撃を前に、一段目、二段目が崩れ、後は三段目を残すのみとなった。


「はぁ…はぁ…かまいたちの親子よ…よく働いてくれた…これで終いだ…お前達の力を俺にくれ…俺の全部で答えてやる!」


省吾之助渾身の一振り。風が風を呼び、疾風迅雷のごとき斬撃が死人鉄砲衆を土塊に変える。力尽き倒れ込む省吾之助の持つ数珠玉恒次が蒼白く輝いた。


ボッ…


「あれ?おいら出られたぞ!母ちゃん!母ちゃんは?」


(伸矢、私はここです。まだこの刀には役目が残っておるのでしょう。私にも…そして浜田様、あなたにもですよ。立ちなさい!)


「ああ…よっこらしょ!出られて良かったなボウズ。もうちっと母ちゃん借りるが心配するな。必ず母ちゃんも出してやるからな」


「うん!約束だぞ」


省吾之助にそう言うとかまいたちの子供は風のように消えた…


「ご苦労であったな。鉄砲さえ無くなれば我らだけでどうにでもできるわい。徳川の力を憎き死人めに、特と思い知らせてやるわい。皆の者、我に続けー!」


徳川軍騎馬隊が死人の織田軍に突進していく。永吉郎達はそれをただ眺めるしかできなかった。しかし、それを待ち受けるは長槍隊。織田の長槍と言えば三間半(6.3m)もあると聞く。なるほど、長い…

死人の兵は槍衾を形成する。これも生きていた頃に体が覚えた事なのだろう。そうした死人が哀れにも感じるが…長槍の槍衾は馬の胸元を突き刺した。騎馬武者達は落馬をし、槍の餌食となった…


「ぐぅ…馬鹿野郎…死人を舐めてるからだ。だがあの槍は厄介だ…どうする?」


「ここは僕の出番です!槍は僕がどうにかします。頭と矢沢殿は僕の後に続いて下さい。浜田殿はまだ動けますか?」


「当たり前だ!俺も後に続いてやるよ!ったく!お前に心配されるようになるとはな。ハハハ」


武蔵は持っていた袋からごそごそと何かを取り出した。


「これは右京殿から頂いた火炎瓶という武器です。なんでも、『がそりん』という特種な液体が入れてあり、口のとこから出ている布に火を着けて投げれば激しく燃えるという、そうゆう物だそうです。右京殿のお祖父様は『学生運動』なる戦にてこの物を作ったことがあるらしく。その時は作っただけで使用には至らなかったらしいのですが、とにかく作り方はお祖父様直伝だそうです」


右京が持参した火炎瓶は三本。武蔵は練習した通りにライターを使って布に火を着ける。投げ方も右京から教わった。武蔵は筋が良いらしい。なんども練習を繰り返すうちに、右京よりも遠くに投げれるようになっていた。武蔵は肩をぐるぐる回した。


「さあ、投げますよ!皆さんよろしいですね!」


「変われば変わるものよ。よし、やれーい!」


「フン!フン!フン!」


・・・・・ガシャン・ボオッ!ガシャボオッ!ガシャボオオー!!!!


武蔵の投げた火炎瓶は見事長槍隊に命中した。右京曰く『すとらいく』と言うらしい。死人達は苦しむでもなく、ただ体を焼かれて崩れていくばかりだ。

麻敷組が動いた。頭を先頭にして永吉郎と省吾之助が斬り込んでゆく。火炎瓶を投げ終えた武蔵も、かつては武蔵坊弁慶が使ったと伝えられる薙刀『岩通し』を手に、正面の死人の大軍を睨む。


「右京殿に教わりました。『弱気は最大の敵』だと。僕は己の弱気に勝つ。僕は強ーい!郷田武蔵いざ参らん!」


麻敷組頭、佐々木孝次郎は上背はないが、小兵ゆえの身軽さがあった。素早い動きで死人を斬る。手にしているのは童子切安綱という妖刀。かつては酒天童子を退治たという逸話を持つ、鬼を斬った刀だ。斬って斬って斬り伏せる。しかし、押し寄せて来る死人の大軍に囲まれた、佐々木孝次郎は埋もれて見えなくなる。


「なんのこれしきっ!」


佐々木孝次郎はまるで猫のように飛び上がり死人の頭上に出ると、なんと頭を蹴りつけながら闊歩してみせた。かつて平安の時代の話。源氏と平家の戦いで、源義経が壇之浦で八艘の船を跳び渡ったとされる『義経八艘飛び』の逸話を思い起こさせる。

頭は蜻蛉をきって着地した。


「はっはっは!小さかったら高く跳べ!」


頭が攻め上がる!武蔵が薙ぎ倒す!その後を徳川軍が後に続く。

今や死人の織田軍を押し返している。戦況は一変した。


麻敷組客分、麻敷寺朝霧の巫女の従者、矢沢永吉郎は強敵と相対していた。十文字の槍を携えたその死人は他の死人とは桁違いの強さで、すでに徳川の兵達を死体の山に変えていた。


「私は矢沢永吉郎と申します。お見受けしたところ、貴殿も相当の腕前であられる。是非ともお名前をお聞かせ頂きたい」


この死人は様子まで他の死人とは違うみたいだ。永吉郎の言った言葉が解ったのだろうか?口をもごもごして何かを話そうとしている。


「ガガガ…ワ…ワレノナ…モリ……ナリ」


「森?織田の十文字槍の使い手と言えば、かの有名な森可成殿…貴殿は森可成なのですね?」


そうだと言う変わりにその死人は十文字槍をくるりと回して永吉郎に答えた。


「相手にとって不足なし!いざ参る!」


永吉郎は苦戦した。十文字槍を自在に繰り出す森可成。その突きは永吉郎の肩口を掠めた。「人間無骨」そう銘が入れられたその槍は、まるで骨などないが如く人間の体を突き通す。


「はあはあ…何という突きだ…まるで丸太か何かで突いているような圧力。それに切っ先の十字の刃…避けたと思えば届いている…」


間合いが遠い…一か八か懐に飛び込んでみるか…?いや、そんな隙はない…」


以前の永吉郎なら迷わず飛び込んで行っただろう。それがどうゆう結果になろうとも、それが命をやり取りする斬り合いだ。しかし今の永吉郎には簡単に命を捨てることはできない。帰りたい。おりんの待つあの場所へ。考えろ!考えろ!考えろ!


『ガガ…ギギギ…」


「判りましたよ。そんなに焦らないで下さいよ」


永吉郎は刀を鞘に戻した。諦めた…?そうではない!これは勝って生き残る為の懸けである!永吉郎の腰には今、三本の刀がある。


「すまないが投げるよ」


永吉郎は森可成に脇差しを投げつけた。可成は槍で脇差しを難なく払い落とすが、その僅かな隙をついて永吉郎は懐に飛び込んでいく。それに気づいた可成はすぐさま体を捻り、体勢を低くした永吉郎の頭を槍の柄で割ろうと狙う。永吉郎は太刀を抜いていた。その太刀で槍の柄を受け止めると、刃は柄に食い込んだ。

ついに懐まで入り込んだ。最後に腰に残るは朝霧の巫女が閻魔大王から授かり、矢沢永吉郎に託した妖魔退治の宝剣。居合いの構えからくり出した…


「イヤァー!!!」


永吉郎の居合い斬りが胴体を捉えると、森可成は死人の理どうりに土塊に変わってゆく…


「オ…オヤガタザマ…」


「憐れなり森可成…だが私は何としても生きて帰りたい。おりんの元へ帰りたい。この気持ちが強さとなるか、弱さとなって表れるかは定かでないが…届けたい…この想いを…」



「ねーしろたん。安土城ってどこかわかる?」


「はい。お嬢!昔、出来たばかりの頃にひとっ飛び、見に行ったことがありますよ。その時にゃ親方って奴が弓矢を射て来ましてね!オレは腹が立ったんで小便ひりかけてやりましたわ」


「あははー♪しろたんかわいい」


ひめの『かわいい』の基準はわからない。

二人を乗せて先生は結構な距離を飛んだ。退屈になったひめは途中からフルフェイスのヘルメットの中で居眠りをしている。左京もオレの出番になったら教えてと言って右京と交代した。右京は吹き荒ぶ強風の中、ヘルメットの中から少し覗くひめの顔をそっと眺めた。黙っているとかわいい女の子なのにな…でも気が強いのもひめらしくてかわいいな。

右京の『かわいい』の基準は左京にはわからないらしい。


目指す安土城は琵琶湖の辺りに見えてきた。右京は急いで居眠りしていたひめと左京を起こす。


(ヨーシ!充電オッケー!兄貴はのんびりしてて)


と、またも体の交代をする。良いように使われてる気もするが、オレじゃ役に立たないからなぁ…と思い右京は左京に体を譲った。


「山の上にお城があるね!アレが安土城?スゴいねー」


「それより城の周りのアレ!死人じゃね?ウジャウジャいるよ」


「ほんまよー!蟻の巣から出てくるみたいに…んっ?アレじゃないん?蟻の巣じゃなくてー死人の巣?」


「ん?アレか!五重の塔…?違うか!三重の塔のとこだな」


臨済宗妙心寺派の寺院、摠見寺。信長の菩提寺であるが、ひめと左京が知ってる訳がない。


「しろたーん。ちょっとあそこに近づいてみて」


塔に近づくと境内に何かが置いてあった。どうやら死人達はそこから湧いて出てきてるように見える」


「ツボ?ツボよーねアレ!なんであんなもんからウジャウジャ出てくるんじゃろ?」


「美由紀がこっからアレ撃ったら当てる自信あるぅ?」


左京はからかい半分でひめに言った。それを真に受けたひめ。


「当たるわいねーバカにしんさんな!見ときんさいよー」


パシュシュシュシュ


壺を狙ったひめの狙撃は見事標的を捉えた。連射で撃ち出された地獄の閻魔大王特製のBB弾は、壺の外側に当たると跳ね返り、周りにいた死人達を土塊に変えた。そして二、三発は壺の中に入ったが何も起こらない……………


ボンッ!!!!!


「ツボ?バクハツしたぞ!」


「ありゃりゃ!うちいけんことしたかいねぇ…」


「いや…?そうでもないみたいだぜ!」


さっきまでゾロゾロと出て来ていた死人の出現が止まっている!


「なんかしらんけど大成功じゃねっ♪」


「おう!やったなっ!でもエーチャンが言ってたようにホントに死人を操ってるボスキャラっているのかな?」


「オダノブナガって人?おるんならお城の上の方じゃね」


「よーし!しろ助!城だ!上に行こう」


ひめと左京は先生に乗って安土城の天主閣を目指す。上空から下を見ると城の周りはぐるりと死人が取り囲んでいた。中には弓矢をつがえている者もいて、空飛ぶ白虎に狙いを定めて射てきた。


「ここに来るといつもこれだ!当たりゃしねーよそんなもん」


「しろたんまたおしっこひっかけちゃう?」


「バカ言ってないでちゃんと捜せよ、織田裕二!」


(信長ねー。事件はお城で起きてまーす)


「えーと…?」「うーん…?」


!!!いた!天主閣から外を眺める人影が見える。1、2、3人。


「若い侍とオッサンと坊主の三人かぁ」


「たぶんあのオジサンがオダノブナガよ」


「アイツやっつけたらオレ達の勝ちじゃん♪美由紀のマシンガンで撃っちゃえよ!」


「イヒヒッ。オッケー♪」


ひめが敵将、織田信長に狙いを定めている時に異変は起きた…

信長の傍らに立つ僧侶が呪文のような言葉を唱えている。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前・ボロン!」


「うわっ!お、お嬢…体が動かない…落ちる…落ちるー!」


「えっ!なんでなんで?しろたんどーしたん!」


「落ちるって…?おい!しろ助しっかりしろー!」


「むむむぅー!や、やっぱり駄目だ…できるだけ死人のいない所に降りるから二人ともしっかりオレに掴まっててくれ…」


「イヤー!」「わわわ…」


ズン!ズザザザー……………


「焦ったぜ…」


「しろたん…しろたーん!」


先生はオレ達に被害が及ばぬように、着地の衝撃を一身で受け止めてくれていた…おかげでひめも左京も無傷で済んだが、先生は…


「しろたん…血が出とる…痛い…?痛いよね…ごめんね…ごめんね…」


「お嬢が謝ることはないですよ…オレも不注意だった…それよりお嬢は大丈夫?」


「うちは大丈夫よ!左京も大丈夫みたい!しろたんのおかげよ…しろたん死なないで…うぇーん!うぇーん!」


「オレはこの程度ではくたばりませんよ。よっと!」


先生は体を起こして立とうとしたが、やはり受けたダメージは相当のものだったらしくてまた倒れてしまった…


「しろ助…動くな!じっとしてろ」


「エヘヘ…情けねぇがちょっと無理みたいだ…オレはここで休んでても良いか?」


「エッグッ…休んどったら元気になっ…るん…大丈夫なん…?」


「はい。ツバつけて寝たら治ってますよ。だからお嬢、そんな顔しないで」


「ほんまじゃね…?ほんまに元気になるんじゃね?」


「はい!『ほんま』です」


先生はひめの言葉を真似ると微笑んだ。ひめはゴシゴシと涙を拭いて先生に微笑み返す。


「うちは怒ったよぉぉー!絶対許せんわ!しろたんの仇をとっちゃる」


「オレも許さねぇ!三つ醜い浮き世の鬼を退治てくれよう桃太郎」





続く

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