元ヤクザの親玉と見た目不良娘
題名を読んだりして興味を持ってくださりありがとうございます。
こちらは短編なので、ほんとにすぐ読み終わります。(二千何字なんです)
最後まで楽しんでくださると幸いです。
「おい……あいつだよ…」
「うわーこえー…」
なんだよ、ただお前等の目の前を通り過ぎただけじゃねえか。皆「あの事件」の事を噂してやがる。
溜め息を吐きながら、路地裏へと回る。
「あの事件」とは、私がライバル校「岬ノ麻高校」のヤクザ連中をたった一人で全滅させたとか、話しかけた警察を一発でK.Oさせたとかいう「噂」だ。
…まあ、合ってるが私がやった訳じゃない。
岬ノ麻の奴らはあっちから「挑戦状」が来て、一応行ったらみなして私への告白合戦だった。ヤクザの親玉らしき奴が私を自分のものにしたかったらしく、取り巻きの奴らを一人で倒して私に「あーいらーぶゆーーーー!!」と言いながら駆けてきたから気持ち悪くてふっと避けると、一人でこけてあごから落ち、後から聞くと顎を五針縫う怪我だったらしい。
警察のやつは、その現場を見ていた警察が話を聞こうと私に近づいたのだが、意識がもうろうとしている親玉が私が捕まると勘違いしたのか、警察の後ろへ回り込み目隠しした後精一杯に後ろ回し蹴りを食らわせた。正直、恐かった。結構大きな図体してた警察官が、綺麗に地面にぶつかる様を見たから。
私は何もなかったかのようにその場から立ち去った。
…というのが一部始終だ。一応先生には話したものの、そんな上手い話があるかっ!と追い出された。
「はぁ~…」
そんな私が心のよりどころにしているところがあった。
不貞腐れた顔を両手でパンッ!と叩き、大きく深呼吸をした。
「…よし」
信号のない交差点を右に曲がり、そのすぐ下のマンホールの中に入る。
「よっ…」
長い長い穴。落ちて五秒ほど経っただろうか、出来るだけ足に負担を掛けないように着地をし、周りを見回す。そこには蒼い蒼い草が茂った大きな野原で、空には雲一つなく太陽が優しく照っていた。
「ん゛っんー!!…」
大きく大きく息を吸って。
「元ヤクザ!!師ッ匠ぉお…!!」
「やめろ」
自慢の大声で私の大好きな憧れの師匠を呼ぶ。いきなり私の真後ろにやってきた人のほうへニヤニヤを抑えきれずに振り向いた。
「相変わらずですね!師匠!!」
「おまえなあ…」
目の前で頭をガシガシと掻く師匠。師匠は、原田龍文字と言って、かつて日本中を震え上がらせたヤクザグループ『須十路夢仇』の一代目組長。…『元』だけど。須十路夢仇は5年前に起きた東京二三区一帯征服事件の主犯グループ(?と言ったらいいのだろうか)だ。その時の私はまだ9歳だったが、テレビ画面の中の下っ端ヤクザ達が怒鳴っている隙間から見えていた原田さんがとてもカッコよく、ヤクザとしての威厳とした表情と体つきにとてつもない魅力を感じた。
「上で何があったか知らねえが、何しに来た?」
「え!?やっだなあ師匠!腐った上なんかより、師匠の隣に居てた方がいいに決まってますよ」
「……」
「私の心がズタボロでも、師匠のおかげで満たされるんです」
「…」
「幸福ですよね…これって。でも上に来ると一変、皆にコソコソ話されるんですよ?ほんっといやだなー…」
「…」
「なー」
「…なんだ、そのいかにも『理由を聞いてください』とも言わんばかりの態度は」
「えへへ…ばれました?」
「おう」
数秒の沈黙。私があれ?という表情を師匠に向けると、ぎょろりとした眼差しを向けた。師匠は目つきが悪い、この表情は絶対怒ってない。
「…どした?」
「聞かないんですか?」
「何が?」
「理由です」
「はぁ~…」
師匠はまた頭を掻いた。
「…上で何があったんだ?」
「もうっ!それがですね~?」
私は上で出会った事を包み隠さず全て話した。すると師匠は、いきなり大きな声で笑い出した。
「そりゃあお前、そんな外見と外の奴等への態度で決めつけられるに決まってるだろ?」
「そんなあっ!これでも健全に過ごしてきたつもりですけど」
「おかしいだろ?他校の不良たちに一人で立ち向かっていくことと、」
半笑に顔をひきつらせながらも私の頭の上に手を置いた。
「俺みたいな落ちこぼれに好意を抱くやつなんてよお」
「ぇえっ!?それとこれとは関係ないですし、それにそんなことないです!!」
頭上に置かれていた、しわが目立つ手を自分の手の中に包み込み顔の真ん前まで持ってくる。そのまま師匠を上目使いで声を荒げた。
「師匠は落ちこぼれなんかじゃありません!根はやさしい所もヤクザには必要不可欠だと、私は思います!!行き過ぎた犯罪にまで須十路夢仇が染まってしまった中、一人だけ常識を持って仲間たちに正気になることを強要していたしっ…原田龍文字さんは、とてつもなくかっこよく思えますっ!!!」
「……」
師匠はまじまじとした表情で自分を見つめている。私は師匠の手を胸に包み込んで、やさしく溢した。
「四面楚歌の中、意見を変えなかった龍文字さんはかっこいいです」
「………ぷっ」
師匠は空いていた左手でおでこを押しつけながらぶわっはっはっはっ!!と大きな声で笑った。私は訳も分からずぽかんと口を開けてしまう。
「師匠?」
「ありがとな、人生初かもしれないなぁ…くくっ」
「なにがです?」
「そんな言葉を掛けられるのがだよ」
ぱっと顔を輝かせ、自分は満面の笑顔で綴る。
「いつでも言って差し上げますよっ?ししょっ!」
「あぁそうかい……おっと、そろそろ手を放せ。夜が更けてきた、とっとと帰れ」
「もうそんな時間ですか……どうしてもですか?」
「…どうしてもだ」
「そうですか…」
深く溜め息を吐いて、師匠を見上げた。
「明日も必ず来ます」
そのまま体を前に傾けて、師匠の腕の中に納まった。
「行くんじゃねえのかよ。…お前も好きな」
「気付いたんですよぉ、こうすると今までで一番の幸せが充電できるって事にぃ」
「ふーん」
太陽の匂いがする。ぽかぽかで優しい匂い。
しばらく眼を閉じたままでいると、師匠は「寝るなよ」と呟いた。その一言で惜しみながらもゆっくりと体を離した。
「偉い」
「ありがとうございます…。では正真正銘」
「おう」
「いってきます」
少し間を置いて、師匠は口角を上げた。
「いってらっしゃい」
楽しいですね。
中年×女子高生もね、いいもんですよ。
私は支部のとある絵師さんの作品を見て目覚めました。
え?興味ない?
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
特にこれと言ってあとがきに書きたいものが無かったので、くだらない一人言書いておきました。すいません。
本当にまだまだなので、修正する点がたくさんあると思いますが何卒よろしくおねがいします。ブクマなど、評価していただくと私の執筆スピードが格段とあがるのでそちらも良ければおねがいします。
長々と失礼しました。本当に最後の最後まで読んでくださってありがとうございます。