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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
Underground Labyrinth and Sniper

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奴隷商人たちの帰り道

 場所は変わり、夜のスワルダの街中を駆ける馬車の中。

 前の依頼で殺した男、クライス・ドン・マックロイの所有する奴隷達を一人残らず買い攫ってきたDr.マルクとアシュリーはうんざりとした様子で揃って項垂れていた。


 奴隷商人と身分を偽って意気揚々とマックロイ家に踏み込むまでは良かった。

 奴隷の買取ということで、事前に調べは付けておいた相場で価格を提示し、奴隷に興味のないクライスの親族を納得させ奴隷を引き取って終わりにしたかった。

 後からクライスの得意先だった奴隷商人がやってきて『俺に買い取らせろ』とごねだしてからは二人にとっても想定外で且つかなり面倒な事態となってしまった。


『何様のつもりだ』 『奴隷商の免許を見せてみろ!』 『てめぇら本当に奴隷商人か!?』


 縄張り意識が強く、血の気の多い中年男でマルクもアシュリーも場所によっては早々に強行策に出てただろうがマックロイ家の目の前だからそうはいかない。


 結局、男がトイレに行った隙にアシュリーにより男を眠らせ、彼女に男に変装してもらった上で事なきを得たわけだ。


 奴隷一人一人の偽の身分証と仕事の宛と一ヶ月は最低限の暮らしが出来る程度の賃金を握らせて全員解放。万事解決もう奴隷と関わる事はあるまい。関わりたくもないと二人は帰りの馬車に乗って今に至る。


「やー、終わり良ければ全て良しとは言ったものですねぇ。流石に今回は肝を冷やしましたがねぇ」


 くたびれた表情ながらもアシュリーはへらへらと笑い、額に溜まった汗を拭う。


「奴隷商人にも免許が必要な時代なんて世も末ですねぇ。そう思いませんドクター?」


 そう問われながらもマルクは無言のまま奴隷商人の衣服を丸めて馬車から放り投げる。

 そしてどこからかいつもの白衣を取り出し袖を通すと深い息と共に言葉を吐き出した。


「二度と奴隷商なんてやらねぇ」


「やー、同感です。頼まれてもやりませんね」


 時間にして五時間はくだらないひたすら怒鳴り散らされるだけの時間を過ごし、奴隷を買い取った後は一人一人親切にアフターケアして最後の一人が終わる頃には日を跨ぐ直前であった。

 夜間に運営している馬車を利用して二人は帰路に着いていた。


「やー、これも全てバッキーさんの所為、いやお陰ですかねぇ」


「アシュ、お前はいいだろうよ。自分が楽しければそれでいいんだからなぁ。遠くから見てみろ。今回の依頼で得たうちの稼ぎはどれぐらいだと思う?」


「ほぼゼロです」


 にっこりと笑い、アシュは答えるがマルクは険しい表情のまま言葉を返す。


「ほぼじゃねぇよゼロだっつの。一億ギリーきっかり使い果たしたさ。富豪の奴隷って意外と高いんだからな」


 溜め息をつくマルクとは対照的にアシュリーは愉快そうな笑い声を漏らす。


「やー、その分収穫もありましたとも。バッキーさんの素質を知ることが出来ました」


「あー、また始まった」


 これで何度目だとマルクは目頭を押さえた。そんなことお構いなしにアシュリーはぺらぺらと言葉を続ける。


「本当に良かったと思ってるんですよ。彼がうちに入りたいって言ってきたとき、無理にでも追い返さなくて。あの人は最高ですよ。どこまでも私を楽しませてくれます。最高の玩具ですよあの人は。動いてる限り私をきっと飽きさせない。ねぇドクター、私と正面切って戦える人がどれだけいますか?」


「俺の薬使ってんだから戦えて当然なんだよ。痛くあいつのこと気に入ってるけどよ。結局は俺のお陰だろ?」


「おや、それは心外ですねぇ。お忘れですか? SUM(ステータスアップメディスン)の試験体の相手をしたのは全て自分だったはずですよ。その上で貴方はあの薬を使い物にならないものと銘打った。バッキーさんが来るまではね」


 はて、そうだったかな? と言わんばかりにマルクは首を傾げ惚けた顔をする。

 アシュリーは訝しむような視線をマルクに向ける。


「ドクターの薬って意外と使えないもの多いですもんねぇ。アレならアンリさんやザグールさんの方がまだ何倍もマシってものですよ」


「仕方ねぇだろ。あの薬の効果を十分に発揮させるにはほぼ致死量打たねぇといけねぇんだからよ。お前に戦わせた被験体のモンスターなんてお前にトドメ刺され前に死んじまったんだからな」


 思い返すだけでも退屈極まりないとアシュリーは思わず溜め息を吐いた。

 もしかしたらモンスターとの相性の問題ではと切り出したマルクがアンリに同じ薬を飲ませてみたところいつもの三倍ぐらいテンションを上げてホームを飛び出したきり帰ってこなかったことを最後にSUMはお蔵入りとなっていたのだ。


「バッキーさんにも同じものを?」


「あいつにはあいつ専用に調整したものをやってるさ。何倍にも薄めたものだし日々改良も加えてる。効果はこの前の依頼で実証済みだぜ」


「やー、なら今回も大丈夫でしょうね」


 小憎らしい笑みを顔に貼り付けアシュリーは『ねぇ?』とマルクに語りかける。

 マルクもアシュの言葉の意図を理解して『あぁ』と短く呟いた。


「アシュ、さてはお前俺の部屋から薬を持ち出したな? 構いはしないが、いったい何を持たせてやったんだ?」


「さぁ? SUMと並べて置いてあった粉の袋を適当にもらいました。私のお気に入りも混ぜた最高のブレンドを持たせてあげましたよ」


 自分の鼻先に指を当て、すぅっと息を吸い込む。

 今頃バッキーがそれを使っているだろうかと考えるだけでアシュリーは愉快な気持ちになってくる。


「小さい頃は教育の一環でよく親に吸わされてたんですよねぇ。それらの薬に耐性を付けるためとか言ってましたが、おかげでそれなりに詳しくはなれたし、薬を使われてもビクともしない体になりました。ですがアレだけは未だにダメなんですよ」


「言ってみろよアシュ。今度からお前虐める時はそれ使ってやるからよ」


 冗談半分に言い、マルクもアシュリーの話に興味を示していた。

 二人共一日の疲れを忘れ飛ばしたように語り合っていた。


 アシュリーが懐から一本の弾倉を取り出し、その中から一発の銃弾を抜き取る。

 マルクが何か悟ると呆れ顔でアシュリーを見やった。


「おいおい、まさかガンパウダーなんか混ぜたのか?」


「やー、ご名答。凄いんですよこれ。一気に天国の門が見えるぐらい吹っ飛べますから。ドクターも体験したことないでしょう? 一回試してみます」


 そう言ってアシュリーは薬莢から弾丸を抜き取り、中の弾薬を手の平に乗せる。

 だが、これにはマルクも遠慮せざるを得なかった。


「嫌なこった。誰が好き好んで火薬なんて吸うかよ。そもそも、俺の薬に余計なもん混ぜる必要なんざねぇんだよ。そのままで十分効果出るようにしてあんだからよ」


「やー、その通りですが今回に限ってはバッキーさんも相当手こずるでしょうからねぇ。頭の芯から燃えてくれた方が余計なこと考えなくて良いでしょう?」


 弾薬を馬車の窓から放り投げながら、アシュリーは一つ今起きている問題についてマルクに投げかけた。


「ドクターも気づいてたでしょう? アンリさん、バッキーさんのこと殺すつもりですよ」


「あぁ知ってたさ。それが?」


 とてもさらりと流すものだからアシュリーも思わず面食らってしまった。


「意外ですね。ドクターなら率先して『困ったときに使いな。殺される前に殺すんだぜメーン?』みたいなこと言っていつものお薬を渡すものだと思ってましたがねぇ」


「お前俺をなんだと思ってんだよ?」


 マルクは肩を落としてうんざりとした声をあげる。

 溜め息を一つしてマルクは言葉を続ける。


「あの二人の間に何があろうが最後は何も変わらず帰ってくる。そう確信したから俺はあいつに何もしなかったんだ。まっ、結局お前がこっそりと渡してたみたいだがな」


「どうでしょうかね? 私の見立てだと間違いなくやりにかかってますよ」


「なぁアシュ、アンリが初めて依頼で人殺したときのこと覚えてるか?」


「やー、アレは酷かったですね。一晩ホームのトイレでゲーゲー吐いてて、どこからそんな量の吐瀉物が出てくるのか疑問でしたがとにかく酷かったですね」


「そんなメンタルのあいつが依頼でもない状況で人殺せると思うか?」


「うーん、私はやると思いますがねぇ?」


 納得できないアシュリーは懐から今度は何かを書き殴った紙を取り出しマルクに手渡す。

 紙に目を通すなりマルクの顔は萎れたような顔をして眉間に皺を寄せ低く呟いた。


「あいつ、魔王でも殺しに行くのか?」


 それは武器の注文票だった。

 それも銃一挺どころではなく、それこそ一人で戦争にでも出向くのではないかと疑う量の武器がずらりと記されていた。

 名義はパーティの名前であったが筆跡でわかる。それはアンリのものだ。


「やー、色々なもの買い漁って一体何するつもりですかねぇ。何はどうあれ私は彼女に忠告しましたから。もし彼女がバッキーさんを殺したなら、それ相応の対処しますよ」


「あー、別に俺の許可はいらないぞ。お前が決めたことだ。お前の物差しでやりな。それよりだ」


 珍しく本気で焦ってるマルクを見てアシュリーは知れずと笑みを作っていた。


「今月赤字じゃねぇかよ! どうしてくれんだよこの額!」


 紙の一番下に残された数字はゼロの数が間違いであって欲しいと思わず願う程の請求額だった。

 ちょうど馬車が街を抜け、整地されてない荒くれの道に乗り出した。

 ホームが近い。


 荒れるなぁ、とアシュリーは胸の中で一人呟いた。


「帰ってくるのは一人ですかねぇ」


 それはそれで楽しいかもしれないとアシュリーは思う。どっちに転んでも自分にとって損はない。

 唯一つ、今月の食事はどうにかしないと不味いことになるなとアシュリーは確信していた。

 リーダーも帰ってくる。


 この世は楽しいことで溢れている。アシュリーはそう確信し、静かに微笑んだ。

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