ワンマンアーミー
「ギガガッ!」
「ギィーッ!」
「ギガァァァァァァ……!!」
硝煙と熱で気化した血の臭いが心地良い。
爆風で吹き飛ばされたゴブリン共の悲鳴が実に心地良かった。
頭の中でウキウキウェイクミーアップが鳴り響いている。
今なら人だって笑顔で殺せるのだろう。
軽い足取りで阿鼻叫喚のゴブリンの群れの中央に躍り出る。
小型のモンスターを狩るには過ぎた機関銃を腰に構え、俺は心の底から声を張り上げた。
「お前ら全員ファックしてやるよォッ!!」
全身が熱く滾る。
視界の端でふらふらと立ち上がろうとするゴブリンに容赦なく引き鉄を引く。
何発もの弾丸を浴びてゴブリンは聞くに堪えない悲鳴を上げて再び倒れ、二度と起き上がることはなかった。
「降参か!?あぁ?!」
視界に入るもの全てに弾丸を撃ち込む。血飛沫とゴブリンの肉片が舞い、更に悲鳴が巻き起こる。
同時に発砲の衝撃で撃たれた傷が拡がり、真っ赤な血が噴き出す。だが痛みなんてものは感じない。
敵を殺すために不必要なものは全て棄て去り、目の前の状況をいかにして切り抜けるか。
それだけを考えて身体が自然と動く。
罵声と共に弾丸を撒き散らし、それがゴブリンに当たって聞くに堪えない叫び声が上がる。
リトルフレンドのマズルフラッシュとゴブリン共の血飛沫で視界が悪い。
皆が皆叫んでるせいで何も聞こえはしない。
態勢を立て直したゴブリンが闇雲に銃を撃ち出してもうどうにもならない。
フロア一帯に弾丸が飛び交い、小さな戦地の完成だ。
「良いぞォッ!!全員ぶっ殺してやらぁ!!」
ゴブリンの群れのど真ん中で叫びながらひたすら銃をぶっ放す。
一匹、二匹と頭が吹き飛び、胴体に穴が空き臓器が零れ落ちる。
地面が抉れ、砂塵が巻き起こる。視界が更に悪くなる。
その中から一匹が俺にタックルをかまし、そのまま地面に叩き付けられる。
小柄ながら大した力だ。
「ギャッギャッギャッギャッ!」
子憎たらしく笑い、手に持った拳銃を俺の顔面に照準。
目前で火薬が炸裂し、キーンと耳鳴りが鳴る。
間一髪、弾丸は顔の横を通過し、反撃にゴブリンの相貌に二本指を突き立てる。
指に生暖かい感触。泣き叫ぶゴブリンの銃を持つ手を取り、起き上がりざまに拳銃を発砲。
同時に渾身の力でゴブリンの首を捩じ切り、完全に生命活動を停止させたそれから指を引き抜く。
一度息を着いたその時、ズンッとした衝撃が俺の身体を揺さぶった。
どうやら脇腹に弾を撃ちこまれたようだ。痛みさえ感じないがダメージは確かにある。服に染みだしてくる体液の量に精神汚染を発動している身でありながら危機感を感じる。
周りを見ればゴブリン達が此方を見てニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべていた。
「こんなもんで勝ち誇っちゃって、可愛い奴等だなぁおい!」
気付けばリトルフレンドを手放していた。ないものは仕方ない。代わりの腰のホルスターから回転拳銃、ピースメーカーを抜き撃鉄を起こす。
ゴブリンが銃を照準すると同時に俺は力の限り横に跳び、地面にスライディングしながら弾を放つ。
全弾、ゴブリンの脇をすり抜け、ゴブリンは嘲笑しながら地面に寝そべる俺へと銃を向けた。
勝利を確信するその笑みに俺は絶望的な感情を覚えた。
絶望的なまでの憐れみが脳に溢れてきたのだ。
勝利を確信するあまり、俺の手に持つ銃が切り替わっている事にも気付けないとは余りにどうしようもない連中だ。
「とっておきだぜベイビー」
フォース・オブ・アウトロー、俺の最初にして最高の愛銃だ。
ゴブリン達が発砲する中、そんなちんけな銃声を嘲笑うかのように俺は愛銃の引き鉄を引き絞った。
爆発でも起きたかのような轟音が響き、その一発が放たれた。
ノックバックスキルを得た散弾が地面を抉り、礫と共にゴブリンへと飛来する。
その一発一発が敵を押し退ける推力を持っている。一発でも被弾したゴブリンは大きく後退し、掠った者も大きく体を逸らせた。
続けざまに二発目を発砲。途方もない衝撃で腕が千切れそうだ。
全てのゴブリンに弾が命中するや、俺はフォース・オブ・アウトローを投げ捨て、最後の勝負に出た。
拳銃片手に力の限り、残りのゴブリン達へと突進。数は六匹、負ける気がしねえ、勝てねえわけねえ!
ここ一番で脳内麻薬が溢れだす。薄れかけていた精神汚染が蘇り、闘争心を再起させる。
地面を全力で蹴り、体勢を立て直しつつあったゴブリンへと肉薄。
一匹の頬を拳が打ち抜き、続け様に二匹目のゴブリンの首を腕で掻っ攫い、三匹目に投げ付ける。
なし崩しに二匹のゴブリンが縺れ合い地面を転がる。
すると乾いた発砲音と共に鼻先を弾丸が通過。残りのゴブリンも続けて何発も発砲してきたようだ。
「んな泡食った弾が当たるかよォ!」
標的を撃ってきたゴブリンに変更し、獣の如く勢いで飛び掛かり、銃を持つゴブリンの顔面を殴り、地面に押し倒す。
焦点の合わない瞳で俺を見上げるゴブリンに両腕を打ち下ろす。
陥没し、事切れたゴブリンの顔に慈悲を乞うような色を感じて腹の奥底で何かが煮えくり返ってきた気がした。
「ざっけんなよてめぇら……後に引くなんてもう選択肢ねぇんだからよ!!」
死んだゴブリンから銃を取り上げると、すぐ近くのゴブリンに照準する。
反撃するような素振りもなく、ただ今すぐにでも逃げ出してしまいそうな顔して体を仰け反らせるだけだ。
そんな有様を見た途端に冷水をぶっ掛けられたような、失望の感情を覚えていた。
「あっそ……」
俺のやることは変わらない。
ありったけの弾丸を撃ち込み、ゴブリンを一匹銃殺。唖然としている残りのゴブリンに弾の入ってない銃を向け落ち着き払った声で告げる。
「だったらそのまま、おとなしく俺に殺されてくれや」
最初は何十匹といた仲間が今では物言わぬ遺骸となれば無理もない話か。でも同情はしないし残りの奴らを見逃すこともない。ただ殺す。それだけだ。
空の銃を捨て、残りのゴブリンへと突進する。
脳内には勝利の二文字しかなかった。後味は悪くともゴブリンの群れを一人で退けたということは誇っていい。
ただ勝利を確信するには少々逸りすぎたらしい。
ゴブリンも意を決したのか、しっかり銃を握りしめ抗戦の意志を見せてくる。
上等、と俺は喉の奥で笑った。
そうこなくては楽しくない。
これは闘争。互いに命を削り合い、どちらの命が先に尽きるかを競う闘争なのだ。
やる気のない相手に勝利して何が楽しいものか。
四匹のゴブリンが一斉に銃を撃ち出した。喧しい音と火薬の刺激臭がフロアに広がる。
弾丸が脇腹をすり抜け、頭部を擦り、耳を抉り抜く。それでも俺の命には届かない。
即座に肉薄し、此方に銃を向ける手を弾き目突きを一発。
暴れ狂うゴブリンの銃をもぎ取り発砲。あと三匹。
死んだ仲間諸共撃ち抜かんとするゴブリン達の一匹に狙いを定め、死体を盾に突撃する。
短機関銃の発砲音が連続して轟く。
盾にしている死体にポツポツと穴が空き、貫通してきた弾の一発が腹部に撃ち込まれた。
痛みはねぇ。足は止まらない。今だけ、自分が無敵にすら感じた。
距離を詰め、死体を放り投げると同時に跳躍。
ここまで距離を詰められてなお短機関銃を撃ち続けるゴブリンの頭を鷲掴みにし、膂力に任せ地面に打ちつける。
頭蓋の砕ける感触。喀血し、白目剥いてるゴブリンの細い首をへし折り完全に生きの根を止める。
流石にしんどいか。立つのも億劫に感じてきた。
口の中の込み上げてくる血液を吐き捨てながら、俺は残りの二匹に相対する。
あと二匹、さっさと片付けて終わりだ。
そう思った矢先、二匹のゴブリンは互いに顔を見合わせ何か打ち合わせるように言葉を交わすと手に持った銃を捨て、腰に差してた短剣を抜く。
何らかの生物の骨を研いで作り上げたそれはゴブリン本来の武器と見て間違いない。
「いいね、そうこなくっちゃよ」
銃を持ったゴブリンに飽き飽きしてたところだった。
此処が正念場だ。お互いそれは自覚してるだろう。
銃なんていらねぇ拳があれば充分さ。こいつら殺してレベルアップだ。
拳を固め、全身に殺意を漲らせる。
必ず殺す。そういった類の意志を固め、俺とゴブリン、両者同時に駆け出した。




