地下迷宮への道
移動中の馬車の中で、何か話せることはないかと模索した結果、なんとなくアンリのクラスについて聞いてみることにした。
「アンリってさ、何でスナイパー選んだんだ?」
するとアンリは首を傾げて答えた。
「それは、この世界に来る前の話か?」
「あー、まぁそうなるな」
深く考えたわけでもなく、不用意にアンリに元居た世界の話をしてしまった。彼女がその話を避けていたのは知っていたのに。冒険前ということで浮き足立っていた所為だ。
だが、アンリは億劫げに首を傾げて俺の問いに答えてくれた。
「深い意味はないさ。単に少し違った役回りをしたかっただけだ。それにアサルターと違って遠距離も対応出来る。そういう君はどうだ?何か意味があってアサルターを選んだのか?」
少し元いた世界の話をしただけで前は泣きそうなぐらい悲しげな顔をしていたというのに、今のアンリは落ち着き払っており、平然としていた。
元いた世界の話とはいえ、殆どこっちの世界の話でもあるしそんなに影響はないかと一人納得する。
そもそも何故アンリが前居た世界の話をするのが嫌なのかすら俺は知っていない。深く考えるだけ無駄なのだ。
「俺はガンガン攻めたかったからさ。クラッシャーでも良かったけど鈍足アタッカーは嫌だったし」
「そんなものさ。何となくしてみたかった。何事にも理由はあれど大したことのないものもある」
ふと、馬車の窓から見える景色に目をやる。
街の大通りの景色だ。銃に剣、吊るされてるモンスター、見るもの全てが俺のいた世界とは懸け離れている。正にゲームの中のような世界だ。
何故俺がこの世界に呼び出されたのか。リオンは冒険者の人口を増やすためだとか言っていたが本当にそれだけなのか。
今まで真摯に考えたこともなかった。
「理由、かぁ」
アンリを横目で見るとアンリも俺に視線を合わせてくる。相談してみるのも一つの手だったが、今度こそ機嫌を悪くさせてしまう予感がした。踏み込み過ぎて地下迷宮に着く前から雰囲気を悪くするのも嫌だったし、俺は押し黙ってまた窓の外に目をやる。
流れていく街並みを眺めてるだけで楽しかった。
日本にいた時では絶対に見ることの出来なかった景色に俺は感動すら覚えていた。
今更ながら俺が今いるこの場所が異世界なのだと実感する。
「まぁ何だっていいか」
ぼそりと呟くと視界の端でアンリが詰まらなそうに息を吐いていたのが見えた。
気付けば街を抜け、郊外の景色へと移り変わっていた。
もう少しで地下迷宮に着くのだと思うと身の奥から高揚感が沸き上がって来ていた。
そんな俺の様子をその眼で見ていてかアンリは低い声で俺に尋ねてくる。
「君、モンスターの狩猟の経験はあるのか?」
「ん?ないよ。オークとマンドレイクを倒してるけどどっちも狩猟なんて呼べたもんじゃなかったしさ」
「君は何の抵抗もないのか?」
「何が?」
「命を奪うということにさ。いや、こんな質問をするのもおかしな話であるが、一応同じ出自の人間として意見を聞いてみたかったんだ」
真剣そのものな表情でアンリはこっちを見据えてくる。
ただそんなこと、俺の中ではとっくに答えの出てたことだった。
「アンリが気にすることでもねぇさ。殺した命は全部俺の糧になる。そう思うと迷いとか一切吹っ切れるんだ。だから俺は何の気兼ねもなくモンスターを狩れるんだ。もしかしたら精神汚染スキルの所為かもしれないけどそれも俺の一部ってことで」
けらけらと笑ってそう答えるとアンリは素っ気なく「そうか」と答え、それっきり口を閉ざしてしまった。
それにしても郊外に出たのは良いが変わりばえしない景色というのも退屈だ。アンリは黙って俯いてるし、馬車の運転手も陰気な感じだ。
気を紛らわせるわけでもないが、俺は特に意味もなく銃を手に取ってみる。
突撃銃を持っていると何となく落ち着く。収まりが良いとでも言うべきか。
元々、ゲームの頃の俺は突撃銃担いで突っ込むだけのアサルターだったからだ。あの頃はただひたむきにゲームを楽しんでいた。時に限界を感じながらも俺はこのゲームを遊び続けた。全ては俺が楽しいと心から思っていたからだ。
その思いがまた呼び起こされそうとしていた。
「やっぱアサルターに限るよなぁ……」
「アサルター至上主義者はどこかで躓く。聞いたことないか?」
俺が銃を眺めて独り言を呟くと、食い付くようにアンリは口を挟んできた。
「なんだよ急に?」
「アサルターこそ至上とする人間はメディックやスパイにはめ殺される。聞いたことないのか?その……あれだ」
言い辛そうにアンリは口をもごもごと動かすと、目線を逸らしてぼそりと呟いた。
「ネット掲示板でだ」
「ないっての。アンリってゲームは攻略本見ながらやるタイプ?」
「まぁ、そうだったな」
「それにしても驚いたな。アンリが自分から前の世界の話するなんてさ」
「私もいつまでも下を向いているわけにはいかないということだよ。君とは仲良くもなりたいしさ」
仲間とはこうでなくてはという言葉が頭の中を通り過ぎていった。同時に俺は自然と笑顔になっていた。
「そうこなくっちゃ楽しくねぇぜアンリ!」
「私も今日だけは楽しもうと思ってるさ」
それから地下迷宮に到着する数時間の間、俺とアンリはひたすら前居た世界の話をして、気付く頃には俺の方が先に眠りこけていた。
アンリがこの世界に呼ばれた理由と彼女の元の名前は結局聞くことが出来ぬまま、馬車は地下迷宮前まで到着していた。




