バッキーとスキュラ
自室に戻るなり目の前で超常現象が発生していた。
部屋のベッドは宙に浮き、以前手に入れた拳銃が部品毎に分解され、部屋の空間に浮き上がっていた。
そして、部屋の中央では心底楽しそうな笑顔で貰ったばかりの杖を振るうスキュラの姿があった。
「あっ、おかえりバッキー!遅かったね」
「まぁな。そんなことより、何がどうなってる? ポルターガイストなんて勘弁しろよ」
「えへへ、凄いでしょ? アシュリーさんがこの杖の使い方を教えてくれたんだ。こうやって杖を振るとね」
くるっとスキュラが杖を回すと銃の部品が意思を持ったように動き出し彼女の目の前に並ぶ。
「頭の中で何をしたいか思い描きながら杖を振るの。私の魔力を使って色々なことが出来るみたい」
「凄いなスキュラ。今なら何だって出来るんじゃないか?」
スキュラは知らないだろうが、あくまで杖は所持者の魔力放出の補助具に過ぎない。
これがスキュラの本当の能力なのだ。流石人間とモンスターのハーフというだけあって高い才能を持っているようだ。
「うーん、私の魔力もそんなに多いわけじゃないし。今はこれが精一杯かな?」
「大したもんじゃないかよ。今俺と戦ったらスキュラの方が強いかもな」
ほんの冗談だったがスキュラは真に受けたようで、杖を振るうと部品が浮力を失ったように床に落ちていった。
ベッドが一際大きな音を立てて床に落ちると、スキュラはベッドを飛び降りて俺の前まで歩み寄って精一杯背伸びし、俺と顔を合わせた。
「私が此処にいてこうしていられるのはバッキーのおかげ。だから私は絶対にバッキーを傷付けたりしないよ。絶対だからね」
「わかってるって。俺もスキュラと喧嘩なんかしたくないしさ」
目一杯顔を近づけようとしてくるスキュラの鼻を指先で押すとスキュラはベッドに腰を降ろす。
「俺のことばっか考えてくれるのも嬉しいけど、せっかく冒険者になったんだしさ。もっと自分のしたいことしたっていいんだぜ?」
「じゃあ、一つお願いしていい?」
「もちろんさ。何でも言ってみろよ」
子供の願い事なんて容易いものだ。そう思ってたから、俺は軽い気持ちでスキュラの願い事を聞いてやった。
「じゃあね、今日はバッキーと一緒に寝たいな」
「なに?」
全く予想してなかった言葉に呆けた顔して聞き返すと、スキュラは上目遣いで俺を見てくる。
「だっていつもバッキーは床で寝て私がベッドで寝るでしょ?だからその、今日ぐらいはいっしょに寝たいなって」
「……そうか、分かった。スキュラが良いなら俺は全然構わないゾ」
「バッキー大丈夫?鼻から血が出てるよ?」
「いや、大丈夫。大丈夫だ。少しシャワー浴びてくる」
凍りついた表情のまま俺は踵を返し部屋を飛び出すと浴室へ向かう。振り向いてはいけない。今はスキュラと目を合わせることすら俺には出来なかった。
そして、逃げこむように浴室に入るとシャワーを目一杯浴び、鼻の奥からありったけの血と喉の奥からありったけの言葉を吐き捨てるのだ。
「無理だ!!俺はパパじゃねぇんだぞ!? あの娘と一つのベッドで寝るなんて、ははっ!俺が俺じゃなくなるだろうが!」
大丈夫。落ち着こう。冷静になるんだ。前も言ったが俺は決してロリータコンプレックスなどではない。一桁年齢の少女と一緒に風呂に入ることは出来なくとも同じベッドで寝るぐらい本当はわけないはずなんだ。
だからこんな無駄な血を流す必要もないし、顔を真っ赤にしてシャワーを浴びる必要もないんだ。
何よりスキュラがそうしたいなら叶えてやるのが俺の務めだろう。
「ははっ!なんで最初の御願い事が添い寝になるんだっての」
シャワーを浴びながら、じっと考え込む。もっと贅沢言っても良いだろうに、謙虚な子だ。
それなら俺の答えは最初から決まっている。
シャイボーイな俺に別れを告げるときが来たんだ。今の俺は一人の保護者だ。
一緒に寝てやるぐらいどうってことなくてはならないんだ。
「まぁ……しょうがないかぁ」
そうして欲しいのなら俺は喜んでそうするしかない。
すっぱりと覚悟を決めて、浴室を出ると手早く寝支度を済ませると張り切って自室に戻った。
「スキュラァ!戻ったぜぇ!ってあら?」
気前良さそうな顔をして戻ったのは良かった。だが肝心の少女は組み立てた銃を手に持ったままベッドに突っ伏して寝ていた。
これはどうしたものか。首根っこを掻きながらすっかり眠ってしまったスキュラの元に歩み寄ると手に持ったままの銃を取り上げる。
「物騒なもの持ったまま寝るなっての。まったく、困った子だな」
取り上げた回転拳銃を見てみると、初めて銃に触れたとは思えない程良く出来てる。
滑らかに回る弾倉を弄りながら、スキュラをひょいと持ち上げてベッドに寝かせる。
「もう一丁前の冒険者って感じだなぁ……」
思わず溜息が零れる。このままじゃすぐに追い越されるだろうなぁ。
やっぱ早急にレベリングする必要がある。アンリが返って来次第俺も行動に移さなくては。
「んで、これどうすっかな?」
当のスキュラは先に爆睡してしまったし、別に俺が一緒に寝てやる必要もなくなったわけだ。
でも、口約束だろうと承諾したのをなしにするのは大人げない話だ。明日の朝になってスキュラに愚痴られるのも面倒だし、結局俺のやることに変わりない。
「仕方ない。今回だけだからな」
スキュラを起こさないようにそっと掛け布団を持ち上げ、俺もベッドに上がると布団の中に身体を入れる。
隣を見ればすぐそこにスキュラの安らかな寝顔があり、やはり落ち着かない。
寝返りを打ってスキュラに背中を向けると今度はスキュラから身を寄せてくる。
「絶対起きてるだろお前……」
睡眠どころではないぐらい心拍数が上がってきた。
首だけでスキュラを見やると心なしか口元が緩んで見えてしまうから引き離そうにも出来ない。
「んにゃむ……ましゅまろオバケ……」
しまいには変な寝言を垂れながら、俺の脇の隙間を潜り抜けてスキュラの腕が身体に絡んでくる。
背筋に雷でも走ったかと思った。
「本気で勘弁してくれ……」
眠気なんて一切ない。この状況、どうすれば眠ることが出来るのか。考えれば考える程意識が覚醒してくる。
二時間ぐらい経った後の事だが、行き詰った俺に助け舟でも出すかのように精神汚染スキルが発動し、俺は思考をフリーズさせ、眠れない俺の首を絞め落とし、無事眠ることに成功したのであった。




