良き相談相手
「少し話を整理しよう。数年前に呼び出した奴が自殺してからは呼び出す人間は慎重に選んでる。でもそのスカーレット家ってのはそんなのお構いなしに呼び出した結果、呼び出した奴によって滅ぼされたってことでいいか?」
「うむ、そんなところだ」
アンリがこの世界に生まれたのが二年前とすると可能性としてはなくもない。最近撃たれた身としては彼女がやった可能性を完全に否定できないのが正直なところだ。
「それにしても、そこまでするもんかな?だってさ、それまで冒険とか戦いとか全く縁のない一般人だったんだぜ?」
同じ立場だったとしてもそこまでの事俺には出来ないだろう。
「バッキー、誰もがお主のように受け入れられるわけではないんだ。ワケも分からずに呼び出されれば誰だって怒るだろう。その矛先が事の発端である王家に向けられたとしても何ら不思議な事ではない。この転生法はな、相応のリスクがある。それを顧みずに私欲を満たすためだけに転生させればその先にあるのは破滅だけだ」
「うーん、よくわからんな」
「いいんだ。お主が気にするようなことではない。さて、話が長くなったな。夕食を食べよう。イモが冷めてしまう」
先程から気になっていたがリオンの夕食はやたらと質素なものだった。そもそも蒸した芋とパンでは栄養バランスが偏っている。
そんなこと言う俺も毎日の食事はドクターの何を組み合わせて作ったのかも分からない合成食材なんだがな。
取り敢えず一口、芋を口に運んだところこれがまた無味だ。正に味気ない食事を体現している。
「リオン、お前いつもこんな飯食ってんのか?」
「むむっ、言動から溢れ出る憐れみの感情。我の夕食に文句があるというのか?」
フォークに突き刺した芋を頬張りながら、リオンは不服そうに俺を見てくる。
「だってお前仮にも一国の姫様だろ?もう少し上等な飯食ってても良いだろうに」
前から疑問はあった。王の娘であるリオンが何故こんな小さな家に一人で住んでいるのか。
身なりだけはそれ相応のものだがそれ以外は平均的かそれ以下の生活だろう。
「バッキー、何か勘違いしているようだな。我は好きでこの食事を食べておるのだぞ?見ろこのイモを。絶妙な塩加減だからこそわかる食材の味というものがこれでもかと溢れてくるぞ」
「いや、全然」
リオンには悪いが本当に味がしない。
「むむむっ……この味が分からぬとはお主もまだまだ未熟よ」
凄く納得のいかなそうな顔でリオンはふんと鼻を鳴らしパンを齧る。
こうして見るとごく普通の少女だ。とても人一人を作り出しあまつさえ他所の世界から他人の意識を抜き出すような芸当が出来るようには見えない。
俺も真似るようにパンに齧りついた。無味乾燥そのものだ。
舌には苦痛な、ただ腹を膨らますだけの食事を食べていると、ふとリオンが顔を上げた。
「ところでバッキー、好きな娘は出来たか?」
突拍子もない問いに俺はパンを吹き出してリオンと目を合わせる。
「いきなりどうしたんだよ!?」
「ふっふっふ、知っておるぞ。お主らの世界の若者は己の恋路を語り合うことが何よりも好きなのだとな!それでどうなのだバッキー、我の問いに答えるが良い」
だいぶ偏った知識を披露されたが否定してやるのは可哀想なものだ。
ここは一つ真剣に考えてみる。
真っ先にアシュリーとアンリの二人の影が浮かんだ。どちらも容姿は良いし正直可愛いと思う。ただ、どちらも問題ありだ。
アシュは常に人を食ったような笑顔をしてて人懐っこいような雰囲気をしているが実際は人を弄び喜びを感じるタイプ。要はドSだ。しかも好戦的でその上尋常じゃないぐらい強い。謎が多い女だ。
アンリはアシュとは逆だ。生真面目で融通が利かない。ただ、怒らせると不味いタイプの人間だ。何するかわかったもんじゃない。ただ同じ出自の者として親近感がある。
ひっそりとスキュラを思い浮かべたがあの子とは歳の差が離れすぎだ。論外である。
結論からして恋愛の対象は今のところいないと言っていい。
「うん、いないな」
そう言うとリオンはつまらなそうに目を細め、残りのパンを口に詰め込みもしゃもしゃと咀嚼する。
「つまらんのう。せっかく新しく生まれ変わったのだからハーレムとやらの一つや二つ作ってみれば良いのに」
「んなこと言ったって元は日本人なんだぜ?好きな女は一人いればいいんだよ」
まだ人付き合いが狭すぎるだけのことだ。それにまだこっちの世界に来て一ヶ月程度しか経っていない。
「まぁ気長にいくさ」
「そうだな。お主の道はまだまだこれからなのだ。女なんぞこの世界にも山程いるからな」
「その通りだリオン」
そんな他愛のない会話をしている内に皿の上は空となり時間もあっという間に過ぎていった。
腹も膨れ、どうでもいい話も一頻りしたところでリオンは話を本題に戻し真面目な声色で話し始める。
「それでだバッキー。転生した者の悩みなど解決出来るのは同じ世界から転生したお主ぐらいしかおらぬ。そのアンリとやらがどんな者でどんな悩みを抱えているかなど我には知らぬがお主ならきっと出来る。我はそう信じておるよ」
それは具体的な答えではなかった。ただ激励の言葉としては十分なものであった。
「そうだよな。サンキューリオン。なんか吹っ切れた気がするよ」
もっと単純に考えて良かったんだ。異世界にやってきた者同士で悩みなんて分け合ってしまえばいい。アンリとの関係をもっと踏み込んでいくんだ。こっちから理解していこうとしなければ何も進展しない。
そう考えると今すぐにアンリに会いたくなってきた。
「リオン、本当にありがとう。なんか上手く言えないけど、上手くいく気がしてきた。俺も何とかやっていくからさ、事情は知らないけどリオンも頑張れよ」
「うむ、こんな我でも良ければいつでも相談に乗ってやるぞ。気楽にいつでも来るがよい。歓迎するぞ」
別れのムードになってきたところでお互い立ち上がり、手を合わせた。俺達なりの別れの挨拶だ。
「じゃあなリオン。また会う日まで」
「うむ、また会う日まで」
今度会うのはいつになるかもわからない。出来るだけ近い内に来たい。リオンといるととても落ち着くし、何より普段打ち明けれないことも吐き出せて気持ちが楽になる。
俺を呼び出してくれたのが彼女で本当に良かったと心から思えるのだ。
玄関を出ると外はすっかり暗くなっていた。家の中から手を振るリオンに笑顔で手を振るとリオンの家を背にして、小走りでホームに帰り始めた。
今は少しでも早くアンリに会って色々話したい。そういう気持ちでいっぱいだった。




