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マンドレイク狩り

 依頼主によると、行商人が山中を横断中に荷車がマンドレイクの葉に引っ掛かり、うっかりマンドレイクを引っこ抜いてしまいマンドレイクの悲鳴で昏倒してしまったわけだ。どうやら繁殖期だったようで、二度とそんなことが起こらないように冒険者ギルドに依頼を出したらしい。

  こっちとしてはラッキーな話だよ。いや行商人さんにとっては酷な話だけどね。おかげでこっちはいいタイミングでマンドレイク狩りに来れたわけだし感謝している。

 場所はどっかの村の外れの山ってところか。この世界の地理はまだわからないわけだし仕方ない。

 どこかもわからない山の中を俺達は二人で歩いていた。


「マンドレイクー、とってもキュートなお顔ー、引っこ抜いて、切り落として、すり潰したらあら不思議、おかしなお薬出来ていたー。大好きなあの人の飲み物にー、こっそり入れて、飲ませちゃおー」


 クッソ音痴な歌を聞き流しながら、俺はマンドレイクの葉を探すことにした。特徴的な葉っぱの形してるからすぐに見つかると思ってたんだがまだ一匹目も見つからない。

 ほんとに繁殖期なのか?ほんとにいるのかこれ?

 まだ開始二十分程度だから何とも言えないが、さて、どれぐらい採れるだろうか。


 すると、今の今まで呑気に歌っていたアシュが脚を止め、その眼差しに剣呑さが帯びた気がした。


「バッキーさん、少し静かにお願いします」


 俺はずっと静かだったよ。寧ろお前の歌の方が煩かったよ。

 ともかく俺は黙って頷きアシュの言うとおりにした。果たして彼女が何をするか見ものだ。


「ところでバッキーさん、マンドレイクの捕獲法はご存知でしょうか?」

「ん?本で読んだよ。紐で括り付けて安全なところから引っこ抜くんだろ?」

「はは、やっぱり。随分と時代遅れなモノを読まれましたね。見ててください。あそこに一本マンドレイクがあります。今見つけました。手本を見せましょう」


 ナイフを一本抜き、アシュは悠然とマンドレイクの元に歩いていく。赤い紋の入った葉、間違いなくマンドレイクだ。

 アシュはマンドレイクの葉の前で足を止め、その茎をがしっと掴んだ。

 おいおいそれは少し不味いんじゃ……

 そして、あろうことかそれを思いっきり引っこ抜いた。やっべぇ!

 地表に姿を出した土色の赤ちゃんを皺くちゃにしたような不細工なお顔。間違いなくマンドレイクだ。泣き出す。反射で俺は耳を塞いだ。

 目を覚ましたマンドレイクは引っこ抜かれたことに気付き、表情を歪ませた。

 その刹那、白刃が閃いた。間抜けな表情のマンドレイクの口が一文字に両断され、半身が地に落ちる。目にも止まらぬ早業で、マンドレイクの命を刈り取ったのだ。


「えー、以上がお手本でした。とっても単純で簡単なものでしょう?」


 確かに単純だけどこれって簡単か?なかなかハードじゃないかな?


「コツを教えておきますと、一つは勢いよく引き抜くことです。マンドレイクは大抵は寝ているので寝起きは判断力が鈍ってます。そこをナイフで口か、その少し下らへんを切り裂くんです。そうしたらマンドレイクは絶命、もしくは声を出せなくなります。これを失敗しないでください。もし生かしてしまったら即マンドレイクの悲鳴の餌食ですから」

「つまりそれは……?」

「至近距離から悲鳴を聴いたら大抵は死にますね。でも大丈夫です。二秒以内ならマンドレイクの悲鳴を聴いた人間でも生存が確認されていますからバッキーさんもきっと助かりますよ!」

「なんで失敗する前提の話してんだよ!?俺ミスらないよ?ざっくり首狩りまくるよ?」

「なら安心ですね。レッツハンティングです!」


 愛嬌を含んだ笑顔でアシュは腕をブンブンと振った。効率を上げるため、ここからは別行動だ。

 正直不安だ。ナイフで生き物を切ったことすらない俺に果たして上手く出来るのだろうか。いやいや弱気はいけない。同じ初心者、それもスパイ職のアシュでも上手に出来るんだ。俺だって出来る筈だ。

 とりあえずはマンドレイク探しから始めなければいけない。

 アシュはさっきどうやって見つけたのか。近くにあったとはいえ、俺からは見えてなかった。きっと何かコツがあるのだろうが聞きそびれた。

 見ればアシュは既に二匹目のマンドレイクを狩り終えたところだった。負けてはいられない。

 俺は俺なりに視覚を最大限働かせ、山中を闊歩しながらマンドレイク探しに集中する。すると、誰もいない山の中で、はっきりとした寝息の音が耳に届き、俺は思わず足を止めた。確かアシュは急に歌うのをやめ、俺にも黙るよう指示してきた。つまり音を探っていたのかもしれない。

 俺はその音の出所を辿っていった。するとそこには赤い紋の入った青々とした葉があった。ビンゴだ。この方法ならぐっすり眠っているマンドレイクを探し当てることが出来る。とても良い探索法である。

 しかし、ここからが本番だ。息を二つ程吐いて俺はナイフを右手に取り、静かにマンドレイクへ歩み寄った。

 引っこ抜いて斬る。引っこ抜いて斬る。何度も心の中で復唱し、同時に覚悟を決める。

 そして、迷いが生まれる前に俺は決行した。

 細い茎を掴み、力の限り引っこ抜いた。

 土を押し分けて引き抜かれるマンドレイクの本体は意外にも重い。姿を現した本体の気持ち悪さに嫌悪感が生まれた。それが殺意に変換され、右手に力を込めた。

 目を覚まし始めたマンドレイクに向けてナイフを振るった。

 殺す。殺す。殺す。頭の中はそれ一色だった。

 ナイフは狙い通りマンドレイクの口を横から切り込んだ。しかし、そこでトラブルが発生した。

 ナイフの刃が止まってしまったのだ。振りぬけない。筋力が足りないのだ。アシュとは僅かな差だが、その差がマンドレイクに致命傷を与えるかの明暗を分けたのだ。

 痛みによって完全に目を覚ましたマンドレイクは悲痛な表情をして口を開けていく。


 ヤバいヤバいヤバい。やめろこの野郎。今すぐ死ね。死ねよ。死んでくれよ。


 切るというよりは押し込むという方が正しいか、必死に声を出させまいとマンドレイクの口をナイフで塞ぎ込む。

 マンドレイクの体液が飛散する。むせ返るような臭さだ。涙ぐんだ瞳がマンドレイクのつぶらな瞳と重なった。


「キ、キィィァ……」


 絶望的な音色の声が喉奥から漏れ出した。ズンと鼓膜に響き渡る衝撃が脳を揺さぶる。視界が歪む。意識が持っていかれそうだ。

 ただ一心に右手に力を込める。死んでくれという願いを込めたナイフは、俺の想いを聞き入れたのか、マンドレイクの体に数センチ下方に捻じ込まれ、マンドレイクの喉を潰した。

 声の出ないままマンドレイクはめちゃくちゃに暴れ回るも、そう長くは続かなかった。

 やがてマンドレイクは力無く倒れ、それっきり動かなくなった。

 俺の勝ちだ。頭がガンガンとする。まるで脳に障害が出たみたいだ。何にせよ一匹目のマンドレイクを狩ることができた。記念すべき初クエスト初狩猟だ。


「まだ、イケるな~」


 マンドレイクをポーチに入れながら俺は呟いた。こんなものでは足りない。もっと狩ってたくさん稼がなければ。

 丁度いい。さっきの悲鳴で喝が入ったみたいだ。脳がスカッとしてる。脳が拡張して何か別のナニかがぎっしり詰め込まれたみたいに容量が大幅アップした感じだ。

 イケる。コツは掴んだ。次はミスらない。やれる。やれる。ヤれる。

 ゴーだ。


「へへ、へへへへへ、根こそぎ掘ってやるぜええぇ!!」

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