プランニング
ドクターの研究室まで連れて来られて俺は肩の治療を受けていた。
相変わらずグロい標本や薬の臭いが気になるが今はそれよりも肩の傷が異様に痛んでそれどころではなかった。
薬を使ってない時に撃たれたのは初めてではないが、その時は感覚が麻痺し痛みすらなかった。それなのに今回はどういったわけか体の内側が焼け付くように痛む。
「あー……マジ痛え。仕事明け早速穴空いちまったじゃねぇか」
処置は止血剤と痛み止めに包帯と意外にまともなのものだった。
黙々と処置を済ましていたドクターは包帯を堅く結ぶと、今回の件について話を始めた。
「まぁ俺としてはアンリの気持ちもわかってるつもりだがな。銃をぶっ放すのは置いといてだな」
「俺にはさっぱりだ。こんなパーティにいてどうしてあそこまでキレる?」
俺は彼女のことを何も知らない。アンリやドクターはおろか、最も親しいアシュリーのこともわかっていない。どういう経緯でブラックリストに入り、そんな集まりのこのパーティに入ったのかも知らない。
ドクターは肩を竦め立ち上がると二人分のカップを用意しコーヒーを淹れ、俺に差し出す。
「あいつはな、人殺すのが苦手なんだよ。おかしな話さ。何の冗談でこんなパーティにいるんだって話だ」
「理由は知らないのか?」
「知ってるに決まってるだろ。俺から話すことでもないってことだよ。気になるなら機会を見て本人に直接聞くことだな」
気怠そうにドクターはコーヒーを飲みながら目を細めジッと俺の方を見つめる。
ドクターもやや機嫌が悪いようだった。朝っぱらから銃弾ぶっ放しとけば無理もない話だが。
「それで、今回の依頼が本来はただの救出ミッションだったところを俺が大量に死人積み上げたから腹立ててるってことか?」
「そういうことだな。それに加えてアンリは昨日二人殺した。お前のピンチで止むを得ずにな」
トミー三兄弟との戦いのことだろう。確かにアンリの援護がなければ危うい戦いではあった。
「それで今朝から苛立ってるときにあの発言は不味かったな」
「そうかもな」
「あとであいつの部屋に行っとけ。仲直りするなら早めがいいぜ。遅ければ遅いほど難しくなってくる」
「ドクターにもそんな経験あんのか?」
「あぁあるさ。話したくもないがな」
苦虫を噛み潰したような顔して言うとドクターはまた別の話題に切り替えた。
「それで、お前が連れてきた奴隷のことだが、まぁ聞くまでもないって感じだな」
俺が話す前に先にスキュラのことを言われてしまった。しかも俺の考えまでお見通しときた。
「お前で面倒見るんだろ?別に構わないけどよ。途中で投げ出したりしないこったな」
「言われるまでもねぇ。俺が最後まで責任もって面倒見るさ。それとドクター、あの子はもう奴隷じゃねぇ。それを間違えるな」
「おっとそれは悪かったな。今後気をつける」
「それでドクター、一つ聞いておきたいんだが、冒険者になるにはどうすればいいかわかるか?」
それが妙な質問だというのはドクターもすぐに理解した。
冒険者である以上その方法を知らないわけがないのが常識だろう。だが俺は始めから冒険者の身体で生まれてきた身だ。普通の人間がどうやって冒険者として力を得るのか。俺は何も知らない。だからこそ知るには良い機会だったかもしれない。
「バッキー、俺をからかってるのか?」
ドクターは疑念を含んだ眼で俺を見てくる。だが俺に後ろめたさとかそんな気はない。だから俺はどっしりと構え、首を横に振った。
ドクターは参ったように首の根を搔き上げた。
「マジかよ……こんなところで冒険者育成学校並のお勉強をするつもりかよ?」
「まぁ、そんなとこかな?」
「……わかったよ。仕方ねえな。一度しか言わねえからちゃんと聞いとけよ」
心から嫌そうにドクターは眉間に皺を寄せると、渋々説明に入った。
「まず第一に冒険者の核となる物体があるってのは知ってるな?とあるモンスターから採った魔石を砕いて薄めたものだ。それを人間が取り込むことで人は特異な力に目覚める。ここまではいいな?」
俺が一つ頷くとドクターもよし、と頷き言葉を続ける。
「クラス毎に違ったやつがあるんだが、それの入手法が大きく分けて二つある。一つは冒険者ギルドで支給されてるもの。もう一つは個人的に作製したものだ」
「二つの違いは?」
「ギルドが支給しているのは安定性がある。妙な副作用もないし能力もそれなりに伸びるが取得出来るスキルは大したことないものが多い。個人的に作ったものは逆にギャンブル性がかなり高い。出来の悪いものを使うと地獄を見ることになる。最悪死ぬ。だが勿論腕の良い奴はいる。そういった奴が作ったものを使用すると能力の伸び自体は大して差は無いが有用で希少なスキルが付く可能性が飛躍的に高くなる。まぁそんなとこだな。二つの違いは」
ドクターの説明を一通り聞いてから俺は自分がどっちの方に入るのか少し考えた。
そもそも俺の身体がどのようにして作られたのかも俺は知らない。それを知るのは俺の知る中では一人しかいない。今度会ったら聞いてみよう。
「サンキュードクター。ちなみにドクターはどっちのタイプだ?」
「俺は後者だ。知人に腕の良いウェポンズマンがいる。何なら紹介してやってもいいが?どうせあのガキの宛なんて無いんだろ?」
「……ほんと助かるよドクター。本気で困ってたからさ。スキュラの冒険者の手続きとか色々とさ」
ドクターは大したことはないとばかりに手を振り、「そんなことより」と言い足すと俺を指差し、また別の問題を提示した。
「人の心配より自分の心配もしたらどうだバッキー。今回の一件で薬を三本も服用したな。今動けないのもその所為さ。その内二度と歩けなくなるかもな」
「アレは事故だ。本当はもっと上手く立ち回れた。まぁ、確かにドクターの言う通りではあると思うよ。つまること……どうすればいい?」
ドクターの言う通りだと思う。現に今気分がかなり悪い。撃たれた痛みも相まって最悪に限りなく近い。
ドクターに助け船を求めると彼はいつも俺を導いてくれる。そして今回もそうだった。
「簡単な話だ。薬の純度を少し下げるだけの話だ。それとバッキー、お前自身が強くなればいい。幸いお前はまだブラックリストには入ってないから正規のクエストも受けられる。なっ?簡単だろう?」
まさに単純な話だった。薬は控えて肉体を強くする。それを実現するのが難しいのだがな。
「レベル1ならゴブリンを狩るのがオススメだぜ?アサルターなら小銃担いで行けば絶好の穴場になる。それでも不安なら同行者を連れて行けばいい。ザグールは連れて行くな。お前が狩る分が全て吹き飛ぶ。連れてくならアンリかアシュ、それか俺だな」
メディックを連れて行ければ治療系のスキルによってパーティの生存率は格段に上がる。
スパイやスナイパーならモンスター相手だと一撃必殺のスキルが大いに活きてくるし味方の支援も行える。
誰と一緒でも間違いなく得しかない。だが、俺の中では誰を誘うか既に決まっていた。




