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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
The Unchain

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閉幕

 四階の部屋からアポロは窓から落ちたバッキーとスキュラを見やる。暗闇で二人の姿は確認出来ないが声が聞こえるということは二人共生きているということだ。

 アポロはクライスに向き直った。


「大丈夫かクライス?立てるか?」


 親友を気遣っての言葉だったが満身創痍のクライスからしたらまるで逆効果だった。

 見るも無残な顔でクライスはアポロを睨めつける。


「貴様……アポロ、この役立たずがァ!!」

「随分と元気だな。傷はいいのか?」

「僕は冒険者だぞ!? それもメディックのな! 少し時間があればこのぐらいの傷、すぐに完治する! そんなことより貴様!! どうしてあの男を仕留め損ねた!?」

「あの男の強さに負けた。それだけの話だ。そんなことより、先の話をしないか?」

「そんなことだと?」


 額に青筋を浮かべてクライスはアポロの胸倉に掴み掛かった。


「冒険者の道を断たれて宛のない貴様を拾ってやったのは僕だぞ!? 失態を晒しておいて貴様、よくそんなことが言えるな?」


 今にも手が出そうな勢いだったがアポロは動じず、静かに言葉を発す。


「大丈夫だクライス」

「大丈夫なものか!! そう思うならさっさとあの奴隷達を殺してきたらどうだ!?」

「あぁ、出来ればそうしたい。だが残念なことにな、もうシナリオは決まったんだ」


 ズブリと何かが刺し込まれる音がした。

 クライスの中で暫し時が止まった。背中に鋭い痛みが走る。反射的にアポロを突き飛ばしクライスは身に起きたことを受け止め難く呼吸を荒げた。


「アポロ……貴様一体何の真似だ!?」


 クライスの背中に一本のナイフが深々と突き立っていた。

 顔に奇妙な亀裂の入ったアポロは今まで誰にも見せたことのない愉快そうな笑みを浮かべ、クライスに絶望的な言葉を送る。


「言葉通りの意味ですよ。クライスさん」


 声のトーンが変わったことでクライスはようやく、目の前の親友が全くの別人だということに気づかされる。


「貴様……誰だ? アポロじゃないな!?」


 アポロはにこりと別人のような笑みを浮かべた。同時にその顔に大きな亀裂が走った。


「やーっと気付いてもらえました。いつ気付かれるかひやひやしましたがまさか最後まで気付かれないとは。流石、自分以外に興味のない人というだけありますねぇ」


 アポロのマスクが崩れ落ちる。端麗な美青年の顔の下から、人を食ったような笑みを貼りつけた少女の顔が表に出てくる。


「自己紹介しておきます?やー、やっばやめときましょう。不安な要素を残すのは嫌ですから」

「いつからだ……一体いつから貴様はアポロに化けていたというんだ!?」

「最初からですよ。今日一日ね。楽しかったですよほんとに。クライスさんが私を信用してくれたおかげで今の状況が出来上がったわけですからねぇ」

「僕が嵌められたという話を出したのはアポロだった筈だ。それは何故だ!?」

「やー、簡単なことですよ。私が主導権を握る為です。そうすればクライスさんは私の言う通りに行動してくれると思いましたから。実際その通りになりましたがね」


 少女、アシュリーは今にも死にそうなクライスの周りを歩きながら一つずつ楽しげに語り始める。


「やー、苦労させられましたよバッキーさんには。本来のシナリオから大きく脱線しましたからねぇ。大幅な修正を余儀なくされました。その結果、奴隷の暴動に乗じてクライスさんは殺されて、その主犯をアポロさんに仕立て上げることで全て収束させることにしました」


 アシュが語りを進める一方でクライスは喀血し、膝を折る。ただその眼には怒りだけが映っていた。


「その為にはバッキーさんに貴方を殺させないというのが第一の条件でした。だからある程度屋敷の人間を片付けてもらった後で私がバッキーさんを倒しておきたかったんですがこれがまたあの人強くて強くて、アポロさんのメインクラスがアサルターだっただけにアサルターの真似事では歯が立ちませんでしたよ。まぁ、私としても薬を使った彼の実力を確かめておきたかったわけですがね」


 死を目の前にしたクライスの前にやってきてアシュはその顔を覗き込むように屈む。


「最初のシナリオではですね、死人は一人も出なかったんですよ。勿論貴方もですクライスさん。ですが貴方は恨みを買い過ぎた。悔しいでしょうねぇ。貴方の遺体から検出された毒の瓶が偶然アポロさんの部屋にあるわけですから。その罪の全容を貴方の親友に被せて私達は悠々とこの屋敷を去らせて貰います。貴方は死に、嘗て貴方が見下してた奴隷達は生き、自由を手に入れる。それではごきげんよう。来世は良い人に生まれるといいですねぇ」


 一際大きくクライスの身体がうねり、穴という穴から血が噴き上がる。

 血の涙を流すその眼は最期にアシュリーを見つめ、滝のように血を流す口からはありったけの怨嗟の声を絞り出す。


「許さん……許さんぞ貴様等ァ…………死ぬか……誰が死ぬものか……僕を……誰だと思って…………………」


 言葉が切れるのと同時にクライスは自分がつくり上げた血の水溜りに身体を落とした。

 物言わぬ身体になったクライスを確認してアシュは撤収に移る。そろそろ保安部が駆け付けてくる頃合いだ。眠らせてある本物のアポロも目が覚める頃だ。

 後はバッキーとスキュラを拾って保安部の目につかないようにして引き上げるだけの話だ。アシュにとって実に容易なことだ。

 窓から飛び降りる間際、アシュはクライスの遺体に目を向けた。


「やー、死なない人なんていませんよ。それが早いか遅いか。それだけの違いですよ」


 アシュなりに彼の遺言に答えてあげると、彼女は音も無く窓から飛び出し、屋敷を去っていった。

 静寂が訪れる。

 屋敷は嘗ての面影を亡くし、血だまりと死体の山と奴隷だけが後に残った。

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