強襲
「いったい何の騒ぎだと言うんだ!?」
窓から顔を覗かせる男に見覚えがあった。
男の名を叫びながら条件反射で俺は三階の窓に銃を向けた。
「クラァァイス!!」
角度、風向き、クライスの動きを瞬時に計算し引き金を引き絞る。
クライス目掛けて一直線に発射された弾丸はクライスの鼻先から後頭部を貫く筈だった。
クライスに弾が届く瞬間、何者かが弾を彼方へと弾き飛ばした。
「はぁ、やるね」
慌てて引っ込んだクライスの怒声が聞こえる。
「誰だ奴隷に銃を持たせたのは!?さっさと殺して来い!!」
やはりまだ奴隷の少ししたいざこざとしか見られていないようだ。そのほうが好都合ではある。
それでも敵さんは殺す気まんまんで武装してやってくる。
この世界では初めてお目に掛かる代物、短機関銃だ。
正面の扉から飛び出した三人の武装した元冒険者達が瞬く間に陣形を作り上げ、俺に三つの銃口を向ける。
「あぁ、ヤバいねこれ」
心にもない言葉を口にしながら俺は背を向け一目散に駆け出し、畑の窪みに飛びこんだ。
タッチの差で銃撃が始まる。俺達が丹精込めて耕してきた畑がたちまち穴だらけになっていく。
どうしたもんかな。突っ込んでいくのもいいが長期戦になりそうだもんな。必要以上に体力は使いたくない。クレバーに立ち回ろう。
頭を通り過ぎていく弾丸の切れ目で俺は動き出した。
一人がリロードしている中残り二人が俺に銃口を向ける。
遅い、というより俺が速すぎる話だ。敵の銃口が俺に狙いを定めるよりも遥かに早く俺の拳銃が標的に照準し、二発立て続けに速射。銃を構える二人の肩を撃ち抜いた。狙いは眉間だったが仕方ない。リアルの世界での射撃にはまだ慣れてない。
残り一人がリロードを終え、こっちに視線を戻す。ただ、既にそこに俺はいなかったが。
目一杯足に力を込め跳躍し、屋敷の二階まで跳び上がる。目の前には壁。だからどうした。
拳を振り被る。力加減をしなくては、中の奴隷まで傷つけるわけにはいかない。八分……五分といったところか。
近づく壁に振り被った拳を打ちつけると衝撃を受けた壁は一瞬陥没し、けたたましい破砕音を立てて屋敷にぽっかりと大穴を空けてしまった。
「あの奴隷、紋章の力が作用してないぞ!?」
外の男が驚愕し、大声を張り上げていた。
俺はつんのめりながらも着地し周囲を見渡すと、そこは薄暗い物置だった。俺が今日まで使っていた鍬や鉱山で使われるであろう鶴嘴が立てかけてあった。
今の俺からしたら武器としてちょうどよかった。拳銃をホルスターに納めると棚に寝かせてある小振りのハンマーを二本両手に取る。室内の発砲は敵に位置を教えることになる。それに今の俺なら銃よりこっちの方が確実だろう。
でも俺に隠密行動なんて出来るのだろうか?悩んだって意味ないか。それよりも暴れたほうが早そうだ。
上機嫌に、迅速に、ポップに行こう。
屋敷内に警報が鳴りだすのを合図に俺は駆け出した。物置の戸を蹴破って廊下に出ると騒音に駆け付けたのだろう武装した職員と遭遇した。
「おい……!」
泡食って短機関銃を構える男の銃口をハンマーで叩き潰すと同時に二撃目を放ち、頭蓋を叩き割り、無力化。
冴え渡っている聴覚が廊下から走ってくる人間の足音を瞬時に察知する。
「三人!」
物言わぬ死体となった男を盾代わりに構え正面切って突っ込んでいく。
予想は的中し、廊下の先で短機関銃を向けて待ち構えていた三人が一斉に引き金を引き絞った。
弾丸の雨の中を死体を盾にしながら突き進む。
「こんなもんかよてめぇら!!」
一気に肉薄し、盾を投げ捨て短く跳躍する。狙いは中央に陣取る大男だ。何故かって?顔の蹴り心地がよさそうだったからだ。
それはドロップキックのつもりだったが、かなり稚拙というか、格闘技の経験のあるものから見たらそれはさぞ粗雑なものだったろう。
でも威力に申し分はない。男の首をゴルフボールのように飛ばすには何の問題もなかった。
受け身を取ると同時に身体を起こしながらコマのように身体を旋転させ、ハンマーを振るう。肉を打ち抜き、骨を砕く。
脚を、腕を、頭を、容赦無く殴りまくる。
目の前でスプラッター映画が繰り広げられてる。殺人鬼は俺なのだが。
原型を留めていない四人の死体の中心で立ち、俺はふと思った。
あと何人殺せばいいんだ?
ミスったな。人数の確認ぐらいはしとくべきだった。そもそもこの戦いの最終的収束点はなんだ?皆殺しか、それともクライスを殺せば終わることなのか?
まぁいい。深く考えるのは性に合わない。全員殺せば終わることだ。
一人自己解決していると、右耳の通信機に音声が飛び込んできた。
ドクターの声だ。
『おいバッキー、不味いことが起こる。その場を離れろ』
急に通信してきて何を言っているのだろうか。
血だまりの真ん中で文句の一つでも言ってやろうとした時、廊下の奥から何か妙な音が聞こえ、口を噤んだ。
何かが噴き出すような音が徐々に近づいてきている。
それは、こんな室内で聴こえるはずもないのだが、音が廊下の曲がり角を直角に曲がり、俺と直面したとき、身体がぎょっとした。
鋼鉄の塊が俺目掛けて胴タックルをかまし、凄まじい推進力に連れ去られ、俺は壁を突き破って屋敷の外へと弾き出された。




