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初クエスト

 人間は魔法を使えない。これはモンスターには備わっている魔石と呼ばれる魔力の源を持っていないからだ。過去に魔石の移植を試みた人間がいたが拒絶反応を起こし、死亡した。人間が魔法を使うなら魔力を吸い出せる媒体に魔石を装填してから魔法を行使する必要がある。


『魔石は人間の潜在能力を覚醒させる薬剤の材料に欠かせなく、薄めた魔石のエキスとその他何種類かの薬を組み合わせたものを冒険者の核と呼び、人間の潜在能力を引き出す物質して発明されている。

 これを投与した人間は冒険者になることを義務付けられ、その能力をステータスとして反映することが出来、覚醒した潜在能力をスキルと呼ぶ。

 得られるスキルは本人の性格や経験によって左右される。

 冒険者の核を投与された人間は潜在能力が解放されると共にクラスに応じた武器や技能の知識が与えられる。同時に他のクラスの技能を著しく失う』


『駆け出しの冒険者なら最初は採集クエストでステータスを稼ぐことをオススメする。ある程度ステータスが上がったらゴブリンやスライムのような下級モンスターの討伐、捕獲クエストをこなして更にステータスを伸ばそう。

 レベル1の佳境になると一人でのクエスト攻略に行き詰まることがある。そのような時は一時的なパーティを組むといいだろう。報酬が分散されるが、負担も軽減され、クエストの成功率も上がる』



 まぁいろいろと為になることが載っている本だこと。流石初心者マニュアル。俺の教えて欲しいことは大抵載っている。やはりWSとは違うところは多くあるようだ。

 まず冒険者って薬漬けの改造人間みたいなものなのか。そう言っちゃうとなんかイメージが悪いな。一応これから俺が一生を捧げることになる職業だ。


 もっとポジティブなイメージを持つべきだ。

 初心者は毎日楽しく冒険者育成学校とやらに通い、クエストなんて二の次に将来有力な冒険者となるべく強い土台を作り上げている。

 中級者は行き詰まって下の初心者に目を付け、モンスターの代わりとばかりにパーティぐるみで狩りを行うのだ。


 はいやめやめ。イメージだけで語るのは良くない。

 薬もそんな麻薬みたいなもんじゃあるまいし、ネガティヴな考えを持つのはやめよう。

 俺は気持ちを切り替えて『植物系モンスター大百科』を手に取って、おもむろにページを捲った。

 気持ちの悪いものや可愛らしい妖精のようなモンスターの写真がスライドしていく中、マンドレイクの文字が目に入ったとき、俺は手を止めた。


「うげっ、気持ちわりぃ……」


 写真に載っているマンドレイクの参考資料の写真、青々とした葉と茎の下には根っこの代わりに何とも醜い姿をした小人というか赤ちゃんというか、とにかく触りたくもない気持ち悪さをした茶色の化け物だ。

 選ぶクエストを間違えたか……いや他のクエストは受けられてもまず達成不可能なものばかりだ。これは仕方のないことだ。

 とりあえずマンドレイクの特徴は把握しておくべきか。気持ちの悪い写真の下に記された概要に目を落とした。



『マンドレイク、別名マンドラゴラ。山地に生息するマンドラゴラ属の植物系モンスター。

 普段はおとなしく地中で眠っているが、一度引き抜かれると悲鳴を発し、マンドレイクの悲鳴を聴いた人間は幻覚、幻聴、目眩、吐き気などの症状が見られ、最悪死に至る。

 主に薬草として用いられ、マンドレイクの粉末を使った回復薬は高い効果が期待できる。他にも鎮痛剤、鎮静剤、覚醒剤、精力剤、媚薬と用途は様々。

 捕獲法としては、紐を茎に括り付け、遠く離れた所から引き抜き泣き止むのを待つのが一般的、また幼生のマンドレイク程度なら耳栓を付ければ、問題ないとされる。他にも防音スキルや精神汚染スキルがあれば悲鳴の効果を防ぐことが出来る』



 ざっくりと要点だけ抑えて、俺は本を閉じた。初っ端から命がけのクエストになる気がしてきた。でもこの捕獲法に従っていけば大丈夫だよねきっと。

 悲鳴さえまともに聞かなければ大丈夫なようだし、そこだけはしっかりと注意すればいいだろう。あとはキモい見た目に耐性を付けなければ。いざというときに上手く動けなくなりそうだ。

 そこらへんの予習はいったん終わりにして今度は『アサルター指南書』だ。一応俺だって元WSプレイヤーのアサルターだ。基本的なことは知っているしその役割も分かっている。でもここは異世界だしゲームとは違う点はある。念には念を入れてのことだ。


『アサルターとは攻撃の要、前線に立ちモンスターを切り崩し、時には仲間の防護に回るなど、その場その時で柔軟な動きを求められる。

 主な装備としては拳銃、機関銃、散弾銃、片手剣、盾などがある。取得可能なスキルはステータス補助が多く、より機動力や筋力を高め仲間に貢献することが出来る。サブクラスにはアサルターかクラッシャー、次にスナイパーがおすすめ。アサルターならよりバランスの取れた能力となり、クラッシャーなら敏捷が低下するが筋力、耐久が大きく向上する。スナイパーなら狙撃銃を扱うことが出来、遠距離からの攻撃もこなせる。他はメディック、スパイ、ウェポンズマンがあるが、これらをサブクラスにするとステータスの減衰が大きくなり、アサルター本来の役割を果たせなくなってしまうためおすすめしない』



 目立って変わったところはないが、主な装備の欄に剣と盾が追加されてる辺りこの世界では割と主流なのかもしれない。

 機関銃で良くね?ってツッコミは無粋だろうか。まぁWSでもアサルターでありながら敏捷極振りにしてナイフ一本で駆け回る変態はいたが、剣や盾でも同じような人間がいるのかもしれない。いや絶対いる。根拠はないが。


 復習も済んだ。予習も済んだ。あとはどうするか。陽も沈み、外はすっかり暗くなっていた。

 宿泊先は今日だけはこの資料室になりそうだ。

 クエストを受注した人間は出発までに日を跨ぐ場合、特別に冒険者ギルド内での宿泊を許されるらしい。ついさっき端末に送られてきた情報で知ったことだ。

 クエストに出るときに万全の状態でいて貰いたいというギルド側からの配慮らしい。そういったところは素直に嬉しいところだ。

 俺は資料室の片隅に設けられた毛布の敷かれた長ソファに身を預け、荷物を置いて、毛布を被りゆっくりと目を閉じ、眠りについた。

 意識を手放す間際、どこか胸躍るような高揚感を覚えていた。

 気分は、中学の時の修学旅行前夜のようだ。わくわくして眠れないで、そしたらバスの中で爆睡して、沖縄の海で馬鹿みたいに泳いで、夜は寝らずに部屋の面子で恋話して、楽しかったな。

 今までの人生で一番楽しかった思い出かもしれない。しかし、今は違う人生を歩む男だ。採集クエストなんて普通の冒険者からしたらさぞ退屈なものなんだろう。

 でも俺からしたら何もかも新しいんだ。まだこっちで生まれて八時間しか経ってない。生まれたてだぜ。わくわくするなという方が無理だ。

 きっとうまくいくさ。初心者狩りがなんぼのもんだ。ケツ蹴っ飛ばして追い返してやれ。

 俺の冒険者生活は明日から始まるんだ。

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