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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
The Unchain

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奴隷生活初日

 依頼のおさらいをしてみよう。

 どこぞの外交官の元奥さんがどこぞの大富豪の奴隷に堕ちました。未練たらたらの外交官様はブラックリストしかいないパーティにすがるような思いで依頼したというわけだが。

 普通そこまでやるもんなのだろうか?俺にはわからない。一度は別れた身だ。傭兵紛いのパーティに多額の金を積んでまで頼み込むようなことなのか。

 そういう経験俺にはないし仕方ないか。


「ねぇバッキー、さっきから何してるの?」


「監視カメラ探してるんだよ」


 絶対何か裏がある。たとえ世界四番目の富豪とはいえ奴隷にこのような待遇、何もないわけない。

 監視カメラ、カーペットの裏に魔法陣、壁に爆薬、天井裏に毒蛇。あのご主人に限って何もないという方が可笑しい。それとも俺の思い込みだろうか。実は良い主人という線も見えてきたが俺にはどうしてもそうは思えない。

 部屋を隅々まで探したが何も見つからない。特に仕掛けが施されている様子ではない。ただ、ドアの裏には警告の張り紙があった。


『夜帯の部屋の出入りを禁ず』


 奴隷をうろちょろさせたくないというのはもっともだが文句の一つも言いたくなる。奴隷なのだから何も言えないのだが。今の俺に自由はない。あくまでもクライスの所有物だ。

 なりきらなくてはと自分に言い聞かせながら一度心を落ち着け俺は椅子に腰掛けた。

 何にしても俺がやることは一つだ。一人の奴隷を誘拐。それが最優先だ。その際にスキュラと適当な奴隷を何人を連れ去る。最終目的は変わらない。だから今は奴隷になりきって疑いの目を向けられないようにするだけだ。


「スキュラ、頑張ろうな」


 何については監視の目がどこにあるかわからないから伏せた。

 スキュラは大きく頷く。彼女の素性は分からないが今は彼女だけが信頼できる仲間だ。彼女がいるかいないかで俺の心の余裕は大きく違ったろう。


「うん。頑張ろうバッキー」


 そうして何もせず悪戯に時間を過ごしていると、やがて一人の男がノックもなしに部屋に入ってきた。やはりその男も身なりからして冒険者だ。


「男の奴隷、外に出ろ。女は待機だ」


 何か面倒ごと押し付けられそうな予感がした。

 俺は無言で頷き男についていく。スキュラが心配そうな顔で見ていたから、俺は『心配ない』と言わんばかりに胸を叩いた。

 他の男の奴隷達も一緒だった。来た道を戻るように階段を下りて下りて、更に下りて外に出る。今日の天気は雲一つない快晴。力仕事するなら良い汗がかけそうだ。

 男は此方に向き直り一まとめに指示をする。


「貴様らのご主人の畑を耕してもらう。これからがシーズンだ。しっかり働け。さもねぇと、違反切符だ」


 違反切符、その言葉を男が口にしたとき、周りの奴隷数人がびくりと肩を震わせた。俺達が売った奴隷ではない。前から此処で飼われている奴隷だろう。詳しい話を聞いてみたかったが監視の目が光っている。無駄な私語で目を付けられるのも嫌だし、ここは黙って作業に移る。

 (くわ)のような農具を受け取ると屋敷から少しだけ離れた畑に歩かされた。それで畑の方だが、これが途方もなく広い。田んぼいくつ分?何坪?何ヘクタール?数えられるわけないし数える気もしない。

 嫌だとは言えない。奴隷だもの。いっちょやるしかないか。





 三時間ぐらい経ったか。一行に終わる気配がない。

 陽は照り付け、見張りは定期的に見回って来ては頭を小突いたり尻を蹴り上げてきたり。

 何だこれは?悟空の修行か何かか?一般人並みに抑えられた体力でこの重労働は無理がある。


「ファック!殺す気かよ!?」


 つい人目も憚らず叫ぶと一緒に作業に営む奴隷達の注目を集めてしまう。見張りは交代の時間だ。初日から不満が爆発した。

 すると、一人の中年男が俺の隣までやって来て並んで作業を始めた。


「よぉ、新入りかい?酷いもんさ。人を人と思っちゃいねえ。奴隷だもんな」


 猛暑の中、互いに汗にまみれて、それでも一切手を休めずに作業を進めながら口を動かす。


「あんたは?」


「ここでもう二年程奴隷やってる男さ。誰よりもここを知ってる」


「わお、それは……誇れることか?」


 横目で男を見ると格好だけはまともだがそれ以外はみすぼらしく、疲れ切った老人のような風体をしていた。白髪の多く混じった髪は針金のように艶がなく、伸ばしたままにした髭はだらしなく顎から垂れ下がっており、眼窩が落ち窪んでいて、頬も痩せこけている。


「誇れること、か。どうだろうな。こんなところで長生きしてるだけでも十分に誇らしいのかもな」


 骨に皮が張り付いたような手に力を入れ、男はまた鍬を振るう。こんな仕事毎日させられてたらこんな風にもなるだろう。


「今日のノルマはまだ遠い。このペースだと、あと五時間はいるかねえ」


「五時間!?本気で死ぬ奴がでるぞ?」


「もちろん出るさ。替えは補充すればいいからな」


 それが可能な財力が羨ましく、恐ろしい。

 まさに俺達は交換の利く部品。使い捨ての道具そのもののようだ。


「死にたくないなら違反切符は溜めるな。いいな?」


「溜めるとどうなる?」


「それは――――」


 男が言いかけた時、見張りの交代がやって来て男は慌てて言葉を区切りまた黙々と作業に没頭する。結局違反切符とは何か聞くことは出来なかった。

 結局作業は男の言った通り五時間休みなしで行われ、奴隷たちは除菌室とやらに連れて来られ、軽い洗浄とシャワーに掛けられ部屋に収容された。

 もう握力もない。足腰も立たない。初日でこれだ。だが、俺の本当の仕事はここからが始まりだ。

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