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WTF

 ファック。実にファックな世界だ。

 生まれ変わって一発目にカツアゲ食らうとはどういう世界だ。

 何日か分の生活費が一瞬の内に溶けてしまった。

 運良く袋の中に残ってた硬貨が120ギリー、このままではまともに寝泊まりも出来やしないだろう。


 今は何としても金がいる。今すぐにでも冒険者ギルドに行ってクエストを受注すべきだ。腹が膨れた今だからこそやるべきことだ。

 事前にリオンに道を聞いていたおかげで迷うことはなかった。ただ敏捷Eはヤバい。体中に泥を張り付けたように思うように身体が動いてくれない。最初の内は簡単な採集クエストとか、スライムやゴブリンのような雑魚モンスターの駆除あたりからしてステータスを稼いでいくのが得策か。

 そんな俺の考えが如何に甘いものだったのだと教えられた。


「……あぁん?何これ?」


 冒険者ギルドの集会所の募集掲示板を一通り眺めた後に俺は呆然と肩を落とした。


『キラーマシン一斉討伐作戦 パーティのみ受注可能』

『輸送列車の護衛 パーティのみ受注可能』

『デビルモスキートの捕獲 レベル4より受注可能』

『オークの群れの駆除 受注制限なし』

『ダンジョン13階層のマッピング 受注制限なし』

『クラ―ケンの捕獲 冒険者レベル4より受注可能』


 いやいやいや、初心者に厳しすぎるだろこれ。てか初見さんお断りレベルだぞこれ。

 俺だけに当て嵌まることではない。今日日冒険者になった人間の事を考えているのだろうかこれは。

 単独のレベル1はどうすればいい。誰もが思う純粋な疑問だろう。俺が今まさにそれだ。


 おかしいだろ!?これでやっていける冒険者ギルドの内部事情はどうなっているんだ。

 職業人口が減っているから呼び出されたとリオンは言っていたが当たり前だろ。減るどころかいなくなるわ。誰も冒険者なんかになりたがらないよ。安定した生活送れる公務員目指すよ。他人呼び出すより先に改善するところが沢山あるだろ。


 散々言ったがパーティに入れてもらえればおこぼれ程度は分けて貰えるかもしれない。この際プライドなんかは抜きにしよう。生きるか死ぬかだ。

 だけどこの世界には友人なんていなければ知人もついさっき知り合ったリオンぐらいしかいない。

 初期ステータスの俺を迎え入れてくれるパーティなんてあるのだろうか。冷静に考えるならないな。

 俺なら絶対入れないんだもん。メリットがない。

 それならここで俺でも出来そうなクエストが来るのを待つべきか。しかし、そう都合よく来るわけが――――


「あぁそこの君、すまんが退いてくれないか。新しいクエストの依頼が来てるんだ」


『マンドレイク採集 受注制限なし』


 あった。幸運Eでもいいことはあるもんだ。


俺は掲示板の紙をひったくるように剥ぎ取り、受付まで持っていった。


「クエストを受注したいんだけど?」

「はい、では左腕の端末をお出しください。詳細をお送りします」


 おっとりとした調子で受付の少女は応え、俺は言われるままに左腕の端末を差し出した。

 受付嬢はバーコーダーのような機械を端末に押し付けると彼女は小首を傾げた。


「おや?依頼を受けるのは初めてですか?」

「そうだけど、何か珍しいことなのか?」

「はい。最近の新人冒険者は冒険者育成学校卒業の人が多いですから、貴方のようにいきなりクエストを受ける人は稀ですね」

「まてまて。冒険者育成学校?」

「ご存知ないのですか?今時はみんなそうですよ。何せ初心者狩りなんてものが流行している現在ですから基礎は固めてから冒険者になる方が殆どですね」

「…………ちょっと失礼、トイレに」


















「シット!!ホーリーファッキンシット!!なんだよ冒険者育成学校って!?なんだよ初心者狩りって!?冒険しろよお前ら!なんでモンスターじゃなくて初心者のケツ狩ってるんだよ!?他にやることねえのかよ!!違うだろ、冒険者ってもっとファンタジーな職業だろ!!」


 トイレの個室で壁に手を当てて黙り込んだ鬱憤を全て吐き捨てる。

 ああ吐きそうだ。ヤバいこれ。思ってたような世界じゃないよこれ。転生して勇者になって魔王討ち取ってこいって無茶振りされたほうがまだやる気でる。

 WSとは何か違う。クソみたいな理不尽を押し付けられてる。

 たとえクエストをクリアしてきて帰ってこようと俺は先輩冒険者に狩られて有り金ともっと大切な何かを失うんだ。抵抗しようにも俺は初期ステに散弾銃担いだ素人も同然の新米だ。

 目を付けられたらおしまいだ。全て失う。

 でも何もしなければ何も起きない。金もない。行く宛もない。野垂れ死ぬのを待つだけだ。

 それだけは嫌だ。せっかくの新しい人生だ。そんな冴えない人生だけは送りたくない。


 俺は意を決した。初心者なんてこの世に千といるはずだ。その中から一人俺が狩られる確率は100パーセントなんてことはない。

 きっとどうにかなる。

 確証のない自信を持って俺はトイレを出て、再び受付嬢の前に立った。


「マンドレイク採集、任されるぜ」


「はい、それでは明日の午前に馬車が来られるので後に端末に連絡を入れますね。あぁそれと、もしかしたら追加で同行者が加わることがありますのでご了承ください」


「同行者ってのは見ず知らずの他人とクエストに挑むってこと?」


「そうですね。パーティに参加していない方がクエストを取るときは同じ単独冒険者同士でクエストを行うことが出来ます。採集クエストのような簡単なクエストではよくあることですね」

「あぁ、そうなのね……それって狩られる心配ないよな?」

「基本パーティを抜けている方なのでそのようなことはないですね。先程の初心者狩りも主に中堅勢のパーティに多く見られるものですから」


 それを聞いて少し安心した。少なくともクエスト中に狩られることはないようだ。


「あぁ、良ければ資料室に立ち寄ってみてはいかがでしょうか?マンドレイクの採集にもコツがあるので、一度確かめておくのをおすすめしますよ」

「ん、ありがとう。寄っておくよ」


 冒険者ギルドの二階がどうやらその資料室らしい。時間を潰すのにもこの世界を知っておくのにも丁度いい。俺の知るWSとはどこか世界観に差異がある。

 恐らくゲームの開発者らしいリオンの爺ちゃんが開発の最中に近未来的要素を取り入れたのだろう。先程からすれ違う冒険者の持つ武器はどこか古臭く、WSにおける近未来的要素を排除したようなものだ。

 そう思いながら階段を上がり二階の廊下に出ると、すぐ右手に資料室はあった。木のドアを押し開け、中に入ると、中はこじんまりとした図書館のようだった。


 何から調べていくか。マンドレイクにこの世界の常識に、あと良ければ初心者の処世術もあればいいんだが。

 とりあえず適当に探してみるか。

 狭いからそう時間は掛からないだろう。本棚の間を闊歩しながら本を指でなぞって、本の題名を目で追っていく。


『魚系モンスターの調理法』

『ウェポンズマン指南書 一から始める武器精製』

『スパイ外伝 明日から君も一流スパイ!?』

『突撃兵としての生き様』

『壊し屋ジョニーの一生』


 各モンスターの対処法やクラス毎のマニュアルもあれば自伝のようなものまで揃えてある。退屈な時には丁度良さそうだ。

 とりあえず俺は『植物系モンスター大百科』『アサルター指南書』『駆け出し冒険者マニュアル』の三冊を取って、机に着いた。


 こうなったら徹底的にやってやる。

 冒険者としての人生は始まったばっかだ。何としてでも這い上がる。狩られてなんてやるものか。

 俺は向上心の塊。下から昇りつめていくのも悪くはない。

 やる気のスイッチを入れ、俺は『駆け出し冒険者マニュアル』を手に取った。

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