バスタイム
一つ言っておく。俺は決してロリータコンプレックスなんてものではない。だから幼女の裸なんかに性的興奮は覚えないし一緒に風呂に入ることなんて屁でもない。
そもそも幼女なんて下にアレが生えてない男のガキと思えば興奮する要素なんて微塵もない。
ヤバい鼻血出そう。ファック。いや幼女の前でファックは不味い。俺がそういう性癖を患ってる人間みたいじゃないか。ふざけんな。
ガキの体洗うぐらいなんてことはない。俺なんて生後一ヶ月なんだぜ?年齢的にはこの子の方が歳上なんだぜ?
「あのご主人様?」
「どうした?」
「どうして一緒に入らないのです?」
「紳士だからだ」
俺はヘタレだ。結局、度胸のへったくれもないクソ野郎でしかない。精神汚染が発動すれば話は別なのだろうがそう都合よくは発動しない。ランダムスキルの痛いところだ。
扉一枚隔てたところで先にスキュラを風呂に入れ、俺は扉の前で膝を抱えて待機だ。
「窓があります。ここから逃げられちゃいますよ?」
「裸で街まで走るつもりか?そもそも本気で逃げるなら俺に教えるかっての」
「本当に逃げたい奴隷はそれくらい平気でやります。私は違いますが」
湯船に体を沈め、心地良さそうな吐息を聞くと思わず肩が吊り上がる。いい歳してなにドキッとしているのか。
「ご主人様たちは奴隷を飼うのは初めてですか?」
「ん?他は知らないけど俺は初めてだ」
「そうでしょうね」
熱を帯びた声でスキュラは納得の声を上げる。
「手枷も足枷付けず、自分達と同じご飯をくれて、奴隷を先にお風呂に入れるなんて他にいませんよ?」
「はっは、だろうな」
俺は笑い曇りガラスの先のスキュラを見据えた。
「奴隷ってなんか馴染ないんだよな。お前みたいな女の子だと特にさ。それにどうせ短い付き合いなら友好的にいきたいと思わないか?」
「……本当に私に自由をくれるのですか?」
「俺は口約束でもちゃんと守るぞ?なんなら書類でも作るか?血印まで付けてサインしてやるぞ?」
「いえ、そこまで言われたら私はご主人様を信じますよ」
ひとまずは信用は取り戻せたかな。
シャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。スキュラが頭を洗っている内に一つ決心しなければならなかった。
俺が奴隷として敵地に潜入することだ。それが意味するのは仮にも一度奴隷に堕ちて買われていくことだ。もし依頼に失敗すれば俺はそのまま奴隷人生を送ることになる。
簡単に決められるわけがない。俺の一生を決めるかもしれない選択だ。はっきり言って俺よりもスパイのアシュの方が適任だろう。でもそれだとスキュラの自由を保障できなくなる。
結局俺がやるしかないんだ。快く受け入れよう。それがパーティの為であり、スキュラの為であり、俺のこれからの為だ。
これぐらいの依頼をこなせないなら、俺のこのパーティでの未来は明るくない。そう言い聞かせ、俺は決断した。
「なぁスキュラ。一つお願いがあるんだ」
ざばっと頭を流し終えたスキュラが扉越しに振り返り、小首を傾げた。
子供らしい所作に曇りガラス越しに微笑み、話を切り出す。
「今度俺と一緒に奴隷として売り出されることになるんだ。その時にだけどさ。俺のことは買い主には黙っていて欲しいんだ」
「ご主人様が奴隷に?あの先から気になってたのですが、ご主人様達って冒険者ですよね?」
「あぁ、汚れ仕事ばかりみたいだけどね。今回もその手の仕事なんだ」
「それは、それは誰かの為ですか?」
目を向けると、スキュラはガラス越しでも分かるぐらい真剣な眼差しを俺に向けていた。
俺は思わずたじろいだ。どこにスキュラをそうさせる要素があったのかわからなかったからだ。
「とりあえず話すなら湯船に入りな。冷えると風邪引くぞ」
「あっ、どうも」
湯船に浸かって一息つくと改めて俺の方を向く。
「ごめんなさい。どうしても気になって。私の親がそうでしたから。いつも誰かの為に動いていて私の憧れだったんです」
「親って、お前を売った親のことか?」
「それは母のほうです。父は私の憧れで、もしご主人様が誰かの為に何かを成し遂げようとしてるなら、私も是非協力したいです!」
少しだけ彼女の本音が聞けた気がした。
俺としても嬉しいし、彼女との距離もより狭まったようだ。
「そっか。それなら俺も嬉しいよ。それにドクターがキレなくて済む」
「あの人やっぱり本気でしたよね?」
「間違いなく本気だったなありゃ。平気で銃ぶっ放すからなあんな顔して。あんなのがサブリーダーだと下っ端は振り回されてばっかさ」
「ふふふ、違いなさそうです」
スキュラと出会って初めて声に出して彼女は笑った。無機的な雰囲気だから滅多に笑わないからその笑顔は見てみたかったが、風呂とあれば仕方ない。
生まれて母親意外と混浴なんてしたこともない俺からしたら幾つしたかもわからないスキュラと同じ湯船に入るなんて考えもつかない。
「そういえばスキュラお前歳は幾つだ?」
そういった確認は購入手続きの時は一切してなかった。俺もアシュも疲れ切っていち早く帰りたかったからだ。ジェイクもそれなりに名の通った奴隷商っぽかったから病気持ちの奴隷なんて寄越さないだろうが確認ぐらいはしとくべきだった。
「おーいスキュラ?」
聞こえなかったのかそれとも答えずらい質問だったか返答がない。そういえば女性の年齢は気安く聞くもんじゃないって誰か言ってたな。
「答えにくかったら答えなくていいが、そろそろ上がってもらえるか?どうも今日は冷え込んでて手がかじかんできた」
口に手を当て温めながら返答を待つが、スキュラの返答はない。
「スキュラ?」
様子が可笑しい。
胸を嫌な予感が過った。彼女の脱走だ。
「悪い。入るぞスキュラ」
すぐに彼女のことを疑った自分が馬鹿だったと悔いた。そして、すっかり茹ってしまったスキュラを湯船から救出し、床に寝かせバスタオルを身体に被せる。
久しぶりの風呂でのぼせてしまったのだろう。焦点の合ってない目で俺を見てカクカクと人形のように頭を動かすさまが失礼だが可笑しくて笑みがこぼれた。
「まったく、世話の焼ける子だな」
「……ごめんなさい…………お風呂が嬉しくて」
このままでは風を引きそうだ。もう一枚タオルを取り、しっかりと髪を拭き、身体に着いた水滴も拭きあげると、タオルに包んだスキュラを抱きかかえ、俺の部屋まで運びベッドに寝かせた。
着替えはアシュの御下がりをもらっていたが、思っていたとおりダボダボで肩が零れ落ちてしまう。
「ここで大人しくしとくんだぞ。俺は風呂に行ってくる」
「お世話掛けます……ご主人様」
「いいんだよ。子供はもっと大人頼っていいんだからよ」
そう言う俺も未成年だが気にしない。
スキュラに掛け布団を被せてあげると、彼女に手を振った。
「じゃあなスキュラ。お休み」




