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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
The Unchain

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奴隷商人

 建物の中は外観程鬱蒼としたものではなく、どこか温かみのある内装をしていた。

 フロントを通り過ぎ、客室のような部屋に入ると、既に三人の男が待機していた。ソファに掛ける男が売人でその後ろに立っているのは護衛か。二人とも厳つい顔つきで恐らく武装もしてるのだろう。

 椅子に掛ける商人らしき男の方は一見だと成金のような印象を持たされた。


 浅黒い肌の所為で嫌でも目立つ色取り取りに輝く装飾品の数々、金の差し歯、金縁のサングラス、うんざりするほどに装飾過多だ。ドレッドヘアも相まってまさに極悪の奴隷商って具合だ。

 男はサングラス越しに俺達を見るなり俯き、嘆息した。


「なんだよなんだよ。久々の客と聞いて張り切ってみればこれかよ?ほんのガキじゃねぇかよ」


 アシュと俺は互いに目配せした。

 嘗められてる。想定していた関門に突き当たったんだ。ならやることは一つ。

 用意してきた行動を示すときだ。


「どうした?掛けろや。取引の前に少し話そうや」


 男に促されるままに俺達はソファに腰掛け男と対面する。

 男は品定めをする気だ。客として相応しいか。パイプを繋いで問題ないか。

 どちらかでも不適と見なされれば俺達の目的の達成はたちまち難しいものになるだろう。


「先ずは自己紹介だ。と言っても、此処を訪ねたなら俺の名前ぐらい知ってるだろ?」


 早速テストときた。もちろん予習はしてきた。

 確か名前が――――


「勿論存じてますわ。ジェイク・スチュワートさん。私はマリー、それでこっちがベイブ、私の兄ですの」


 アシュに先越された。俺だって覚えていたさ。

 それにしてもベイブとはまた偽名にしてもファンキーな名前だこと。


「ベイブとマリー?聞かねえ名だなぁ。それでどういう風の吹き回しだ?」


「特に理由はないわ。奴隷の飼育というものに少し興味があるの。それでこの街一番と名高い貴方を訪ねたのよジェイク」


 そう言って間髪入れずにアシュは小物入れから札束を取り出し、テーブルに乗せる。


「前金よ。これから長い付き合いになりそうですから」


 俺の隣で微笑むアシュを見てジェイクは明らかに苛立った様子を見せていた。

 アシュの一つの行動が彼の機嫌を損なわせたようだ。


「気に入らねぇ」


 風向きが良くない方に変わったな。とりあえずはジェイクの次の言葉を待つと、彼の口からは予想外の言葉が飛び出てきた。


「俺はな、てめぇらみたいな金持ちが嫌いだ」


「それは気の利かない冗談か?」


 思わず口に出していた。だが改めて理解できない。

 ジェイクは見た目からして相当な金持ちだ。同族嫌悪の線を予想したが、俺の予想を払拭するようにジェイクは口を開いた。


「勘違いすんなよ。俺は金持ち自体は好きだ。払いは良いし、何より儲かる。だが金で何でも思い通りになると思ってる奴を見ると、虫唾が走る」


 つまり、アシュがテーブルに置いた金が不味かったわけか。とりあえず金を置いとけばいいという考えは少し甘かったようだ。アシュも内心困惑してるだろう。


「そういった輩と手を組むと問題が起きた時に困るんだ。保安部の連中にとっ捕まったとき、すぐに俺のことを吐くだろうよ。お前らはどうだ?そいつらとは違うと言い切れるか?」


 だがまだチャンスは残っている。ここで俺が彼を言いくるめれば交渉は続く。

 俺はアシュを手で制して、この場を任せるよう促した。アシュ自身、自分のミスは自分でどうにかしたかったようだが、ジェイクの中ではアシュはもう彼の嫌うような人間と認識されてしまっている。言いくるめるなら俺の方が確率は高い。

 だからといって何するかな。俺が金で何でも解決出来ると思ってる人間ではないと証明すればいいのだがあまりピンとこない。

 鉛筆を消すマジックは、駄目だな。死人が出る。

 もっとシンプルに行こう。こんな時の為に胸ポケットに入れてきておいて良かった。


「まぁ待てよジェイクさんよ。マリーは少し人付き合いが少なくてな。そう決断を早まるな」


「ほう、ならあんたはそうではないと?」


「あぁ、本当はこんな商談しなくても俺はいいんだ」


 あぁ良かった。まだ精神汚染が切れてなくて。胸ポケットにグロッグ17拳銃入れといて。

 それを出した途端にジェイクの顔色が青ざめると同時に後ろで控えていた護衛の男達が泡食った顔して同じく銃を抜き俺に向ける。

 心臓の脈動に変化はない。精神汚染の恩恵だ。

 俺は鼻を鳴らした。


「おいおい、落ち着けよ。お前が証明しろって言うからこうしてんだ。俺としては今回は金で解決しても全然構わないんだ。そもそも、お前らが俺に向けてる銃は何だ?」


 俺は銃を机の上に置き、ソファに背を預け脚を組み男達を一瞥する。


「こんな玩具なくとも構わないさ。ただ証明するなら構わないぜ?ここでそこの二人のしたって。それで駄目ならあんたも」


 因みにもし撃たれたりしたらそれは俺の想定外のことだ。その時はアシュに頼む他ないが、俺の見立てだとジェイクはここで折れるはずだ。彼はあくまでも商人だ。商談以外のことでむきになりはしないだろう。

 固唾を飲む護衛の間でジェイクは暫く黙って考え込み、やがて一つの答えを出した。


「お前ら銃を降ろしな。二人は客だ」


 ビンゴだ。

 ひやひやしたが上手くいった。隣でアシュも胸を撫で下ろしていた。俺だって内心ガッツポーズさ。だが、奴隷売買はこっから始まるわけだ。


「測るような真似して悪かったな。商売柄、客は選ぶ必要があるもんでな」


「あぁわかるさ。俺も理解してもらえて嬉しいばかりだよ」


「なら早速商売の話をしよう。どんな奴隷をご所望なんだい?」


「それだが、可憐な少女を頼む」


 一瞬、ジェイクがサングラスの奥で目を丸くしたのがわかった。

 そらそうなるわな。さっき折角偽りながらも威厳を見せたのに早速それにひびが入ったぞ。

 さらにそこにアシュが誤解招きそうなことを言ってくれた。


「私にも同じような娘を紹介して。でも兄さんとは少し好みが違うから個別に選定した方が良いかもしれないわね」


 割り切ろう。ジェイクとの付き合いは今回限りだ。

 呆気に取られているジェイクを叩き起こして少しでも早く買い物を済ましてしまおう。


「驚く気持ちは分かるが無粋な詮索はなしにしよう。頼まれたものを用意してくれ」

「へっへ、そうだな。こちとら金さえ払ってもらえればいいんだ。じゃあ隣の部屋に移って待っといてくれ。うちの自慢の奴隷を用意してくるぜ」


 ジェイクはそう言って俺の肩を叩くと護衛の男達を連れて部屋を出て行った。

 俺は手を叩いてガッツポーズしてアシュに向き直った。


「どうよ!見てた?見てたろ?最高にキマッてたろ?」


「ですが私は……」


 当のアシュは今一つといった風に髪をかき上げていた。

 仕方ないことではある。こういう局面は本来スパイの役割だというのに、彼女は今回の場合は事態を危うくさせてしまった。落ち込むのも無理はない。


「まぁ良かったな。結局は上手くいったんだしさ」


「はぁ、ですが……」


 そういえば初心者狩りの時もこんな感じだったな。彼女のミスを俺がフォローしたときはこんな感じに彼女は塩らしくしていた。

 そういう性格なんだろうな。見た目に反して責任感は強いようだ。

 意外だな。もっと彼女は適当な性格だとばかり思っていたが。

 もっと恩着せて弄ってみるのも良かったがどうしてかな。今はそれよりもアシュに元気出してほしかった。


「良いんだよ。アシュがどうにかしてくれるって確信してたからあんな大胆に見栄切ることが出来たんだしよ。それでも納得いかねぇってならそうだな……今度良い装備でも奢ってくれや。それでチャラにしようや」


 どうだろうか。

 これで機嫌直してくれるなら俺としては有り難いものだが。それほどちょろくはないかな。


「……わかりました。それで手を打ちます。だから今回の件は口外しないということで」


 こういう時のアシュは素直だな。前もなんだかんだで俺にパーティ紹介してくれたし。そのおかげで俺は今こうしてアシュと一緒に仕事していられるのだが。


「おう。じゃあ先ずはこの依頼を済まさねえとな」


「はい、可愛い子を選んでくださいよ?富豪にも売りつけられそうな飛び切りなのですよ?」


「わかってるよ」


 丁度、ジェイクが準備を済ませて戻ってきた。先刻話したとおり、俺とアシュは別々に奴隷を選定する。そのほうが時間もかかんないし効率的だ。


「じゃあまた後でな」


「はい兄さん、また後で会いましょう」


 互いに芝居モードに切り替えて俺達はそれぞれ部屋を出ると、それぞれ別の部屋に向けて足を進めた。

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