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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
The Unchain

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奴隷売買

「おう、帰ったかお前ら。早速で悪いが買い出しに出て行ってくれないか?奴隷を買ってきて欲しいんだ」


 あぁ、頭痛がしてきた。

 ホームに帰るなり出迎えたのはドクターの声をした謎の中年男だった。それがドクターが変装した姿というのはすぐにわかったが、何故変装しているのかは恐らく喫茶店でアシュが言った通りのことなのだろう。

 そして、隣ではウザいぐらいに勝ち誇った顔をしているアシュリーがいた。

 つまること、アシュの予想が当たっているなら俺は奴隷と一緒に売り飛ばされるということになるが、冗談でもそれだけはやめて欲しい。

 奴隷だぞ?人間どころか畜生以下の扱いだ。金で買われ、鞭でしばかれ、犬以下の飯を食わされる。没落した人間や捕まった人型モンスターの末路だ。全部俺の想像だがあながち間違ってないだろう。


「一応聞いておくとドクター、奴隷なんて買ってどうするんだ?」


「一応ってことは分かってんだろ?囮だよ。こうやって奴隷商に化けて奴隷を売りつけて、奴隷にうちの誰かを混ぜて依頼を達成すんだよ」


「誰か……ね」


 完全にアシュの予想通りだ。その誰かは間違いなく俺だろう。拒否するか、したとしてもうまくいいくるめられそうだが。


「その話だがドクター――――」


「それでだ」


 俺が話そうとするとドクターはそうはさせまいとばかりに話を区切った。


「大半は揃えているが些か華やかさに欠けてな。情報だとクライスってのは可愛い女、特に十代前半の女が好みらしいんだ」


「ロリコンか?」


「ロリコンだ。そこでそのくらいの女をお前達に買い集めてきて欲しいんだ。頼めるよな?」


 そこで俺がYES以外を答えられないように聞くのが憎いね。

 勿論答えはYES、依頼の為だ。奴隷を買うぐらい、やってみよう。


「わかったよ。予算は?」


「一人三百万ずつ渡しとく。二、三人買うなら十分足りると思うが不服か?」


「悪いドクター、奴隷を買うのは初めてなんだ。一人当たりの相場を教えてもらえると嬉しいんだが」


 それもそうだ、とドクターは頷き、手を叩いた。


「そうだな。相手にもよるし、奴隷の質にもよる。容姿が良ければ数十万は軽いが、そこら辺の有象無象なら一万としないとこもある。要は売人次第さ」


「今更だがこれって合法か?」


「違法に決まってんだろ。身元は割れないようにしとけよ。いざという時にチクられる。それと忘れるな。これはあくまで依頼の為だ。奴隷なんて飼おうと思うんじゃねぇぞ。決してだ」


 俺が頷くとアシュも一緒に頷いた。

 はなっから奴隷なんて飼う気もないし、出来れば買うこと自体したくない。これは依頼の準備だ。仕方なくやるんだ。

 自分に言い聞かせ、俺はドクターから金を受け取った。

 三百万の厚みというのは初めてのものだ。前に貰った退職金も結局は返したが百万近く入ってた。案外稼ぎはいいのかもしれない。


「まずは着替えだな。奴隷買うんだ。冒険者の格好じゃ出られねえ」


 ドクターの言葉を最後に俺達は仕度に掛かった。

 シャワーを浴びて身体の汚れを洗い流すといつもの冒険者としてのコートではなく、赤シャツ、赤ネクタイの上からビシッと決めた黒スーツを着込み、踵の厚い革靴を履き、髪をポマードで固め、小洒落たハットを被ればあら不思議。ウォール街のギャングさながらだ。


「おう、良いじゃねぇか。中々様になってるぞ」


 鏡を見て少し気取り過ぎかと思ったがドクターがそう言うならば安心だ。

 金を持って心機一転、ギャングの気持ちになって玄関に向かったところで思わず顔が惚けてしまった。


「やー、鼻の下が伸び切ってますよバッキーさん?」

「アシュ!?」


 ありえねぇ、と脳が拒絶反応を起こしそうだった。

 黒のドレスワンピースに身を包んだアシュは別人と見間違える程に美麗であり、いつも以上に爛々と輝く赤い瞳がルビーのようで、目を合わせると吸い込まれそうだ。かといって目を逸らすと、その慎ましい胸元や、しなやかな肢体に目が行ってしまい、はっきり言って目のやり場に困ってしまう。


「そんなに驚いちゃって、スパイならこれぐらい簡単なことですよ。寧ろ驚きたいのは此方の方ですよ。バッキーさん、そこいらのマフィアのボスと言っても疑われないですよ?」

「はは、そうか。ははは、よし行こうか」


 緊張しているのか自分でもわからない。口からは空笑いしか出てこない。

 予想外のアシュの変化についていけてないんだ。アシュのことなんて謎だらけの強いスパイぐらいにしか見てなくて、女性として意識したことがなかったからか。今の俺は余計に緊張していた。


 玄関の脇では遅れて帰ってきたアンリが馬子にも衣装とでも言いたげな顔で俺たちを見て言った。


「初デートか。二人とも似合ってるな。頑張ってこい」


「はい!頑張ってきます」


 アシュが俺に寄り添い自らの腕を俺の腕に絡めてくる。

 心臓が早鐘を打った。落ち着こう。アシュに悟られると不味い。既に悟られてるかもしれないが。


「では、行きましょ、ダーリン」


「あぁ、そうしよう…………ハニー」

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