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ニューライフ

 水平二連ソードオフショットガン『フォース・オブ・アウトロー』

 WSオリジナルの散弾銃だ。触ったこともなかった代物だが、手に取ってみると中々納まりが良い。


「お主の筋力値でも十分に扱えるような代物だ。大切に使っておくれ」


 銃身を切り詰めているだけに射程が短い上、装弾数も二発と少ない。しかし、普通の散弾銃より軽く、木製の銃挺が良く手に馴染む。

 何より無骨なデザインがクールだ。


「気に入った。これ気に入ったぜリオン」

「気に入ってくれたのなら何よりだ。我も嬉しいぞ」


 きっとこれはリオンの造った銃なのだろう。照れくさそうに笑うリオンを見ればすぐに分かった。

 機嫌を良くしたリオンはこほんの仰々しく咳払いわ一つしてから、凛とした声を張った。


「さて、これからお主には第二の人生を歩んでもらう。不安もあるだろう。だが案ずるな。お主には我がついている。我がお主の助けになる。大船に乗ったらつもりでいるとよい」


 旅立ちの記念とばかりに俺はいくつかのアイテムと何日分かの金と、予備の弾薬を受け取り、貰ったポーチにそれらを詰め込んだ。


「なかなか様になったと思わないか?」

「そうだの、後はステータスをどうにかせんといかんな」

「それはお前のミスだろーが」

「はっは、すまないな」


 他人事のようにリオンは笑い、それはそれでと言って話を切り替える。


「さて、お主にこの世界のことを話しておかねばなるまい。何せ今までいた世界とは大きく異なる構造をしておるからな。その方がいいだろう?」

「まぁ、そうだわな」


 銃を担ぐのが当たり前の世界となれば今までの人生とは大きく異なるものになるだろう。

 それもゲームとは違って実際に銃でモンスターを撃ち殺すのだから、今までとはまるで違う生き方になるのだろう。


「さて、では何から話した方がよいかのう?」

「じゃあ質問、何でこの世界に銃が存在してるんだ?」


 先ず気になったのがそれだった。いくらゲームと類似した世界とはいえ、別世界に銃という存在があることに多少なり違和感を感じていた。


「簡単なことだ。どこぞの王族がお主達の世界から銃を持ち込んだのだよ。製法を学び、我々の世界独自に進化した兵器が多く存在しておる。お主に今渡した銃もその一つなのだ」


 細かい理屈はともかく、俺の元居た世界にあったものを持ち込んだということか。

 そういうことなら、こっちの世界に銃があることも頷ける。


「バッキーよ、歴史の話は好きか?」

「いや全然」

「なら聞いていくとよい」


 清々しいスルーっぷりだ。

 俺の回答そっちのけでリオンは話を続ける。


「我々の世界には君達の世界とは違い凶暴なモンスターがいる。我々人間にも武器が必要なのだ。剣や槍では心許ない。そこで目を付けたのがお主達の世界にあった強力な武器、銃なのだ。それがあれば、たとえ魔法が撃てなくとも人はモンスターと戦うことが出来る。明日を生きる事ができる。つまること銃とは我々にとってモンスター達への対抗策であり、希望のようなものなのだ。……さて、熱くなって済まぬが銃の話はもうよいか?」

「うん、熱い説明どうもって感じだ」

「ならば良かった。我も話した甲斐があったぞ」


 そう言ってリオンは満足気に笑みを浮かべる。

 銃についてはそこまで分かればいい。要は敵を倒す武器だ。俺の元居た世界と用途は変わらない。とはいえ俺は実銃なんて撃ったことないのだからそこは小さな問題だ。

それよりも俺が気にしていることはこれからの俺の人生についてだ。

 学生を卒業する前に異世界に来て強制的に冒険者に就職ときた。セオリーも何も分からない上にこの世界の情勢も知らないんだ。

 頼りはリオンだ。


「そしたら、俺はこれからどうしたら良い?」

「そうだのう。先ずはこの世界に馴染む必要があるであろうな。冒険者ギルドに行ってクエストを受けてみるのもよいかもしれん。まずは簡単な採集や小型モンスターの討伐などの簡単なクエストをこなしていくのが良いが、一つ気をつける事がある。それは――――」

「それは?」


 リオンは言葉を区切った。何かに勘付いたようで、恐る恐る窓から顔を覗かせ、外を見た。

 瞬く間にリオンの表情が青褪めた。


「不味いことになった。我はここを出なくてはならない」

「ちょっ、急にどうした」

「外を見るのだ」


 リオンに促され、窓から外を見てみる。

 今までいた部屋は二階でリオンが見ていた方向、つまり真下を見てみた。

 厳ついオールバックにサングラスの大男が二人、リオンの家の前に立って様子を伺っているようだった。


「あれは?」

「借金取り……ではない。我のしつこい追っ掛けだ」

「最後まで言った後に訂正すんなって」


 ぐぬぬと唸りながらもリオンはてきぱきと身支度を始めていた。

 生活に必要そうなものが次々と鞄の中に吸い込まれるように放り込まれていくのを眺めながら、呆れ気味に俺は首を振った。


「お姫様が借金かよ」

「お姫様が借金をしていはいけないなどという決まり事はない! 仕方ないであろう? お主を作り出すためにどれだけ頑張ったと思う?」

「オーライオーライ、この話はいいよ。それでどうするんだ?」

「我は消え、暫く身を潜める。事が落ち着いたらまたこの場に戻る。それまではお主には一人で生きて貰わなくてはならない。済まぬが、暫し耐えておくれ。心配するな。お主には我がついておる」


 そう言って俺とリオンは隣の部屋の窓から屋根伝いで外へと飛び出した。

 そして、あっという間にリオンの姿は見えなくなっていった。


 オールバックの借金取り達に気付かれないよう俺も家から離れると、一度だけ家の方を振り返った。

 やはり王の娘の住むような家ではない。二階建てで造りは良いが何処か古臭く、貧しさが見え隠れしている。

 勘当されたのか、それとも隠し子とか、何にしても訳ありなようだし、次会うのはいつになるだろうか。


 とりあえず俺は改めてステータスを開いた。装備の欄にフォース・オブ・アウトローが追加されたぐらいで特に変化はなかった。

 先ずは体力辺りから振っていくべきか。

 体力はプレイヤーのHP、スタミナとして反映され0になれば力尽き、死んでしまう。出来るだけ高い方が良い。


 筋力は武器の反動抑制や白兵戦での力となる。アサルターやクラッシャーにはこれが欠かせない。また、これが高いと装備の数を増やしても敏捷性の減少を抑えることが出来る。


 耐久はそのまんま防御力だ。高い耐久を持つ奴は小口径の弾丸ぐらいなら弾き返す程固くなるがスパイの暗殺スキルやスナイパーのヘッドショットには無効となってしまう。主にクラッシャーがこれを必要とする。


 敏捷は素早さ、跳躍力に影響する数値だ。近距離型のアサルターや敵に近づく必要のあるスパイや敵から逃げたいメディック等、様々な役職が必要としている能力値だ。これをメインに振るクラスは耐久値を捨てた回避型となる。


 幸運に関しては何とも言えない。数値の伸びもランダムだし、それこそ伸ばすには運が必要な数値だ。だからといって幸運の能力値が伸びに反映されるわけでもなし。だからステータスを振る時に考慮する必要はない。


 魔力は装備に付与された魔力の値だ。WSでは設定上人間は魔法を使えないが、道具によって擬似的魔法を使うことが出来る。

 俺の魔力は0、魔力を持った装備を持っていないからだ。

 主武装を散弾銃とするなら先ずは体力と敏捷からが良いだろう。敵に無傷で接近するには相当な技術がいる。銃をぶっ放す人間が相手なら尚更のこと。

 無傷でやる必要はない。そのための体力だ。如何に素早く近付き、確殺の一撃を加えるかが肝だ。


 少し狭い路地を歩いてると街の大通りへと出た。

 60年代のアメリカを少しファンタジーチックにしたらこんな感じの街になるだろうか。二階建て以上ある建物が通りにずらっと並んでいるが、俺が元居た世界とは少し古臭い造りをしている。

 車は走ってないが馬車は走っていて、多くの人間が通りを歩いていた。

 正直なところ、俺の足取りは重かった。

 あまりに唐突な事でまだ気持ちの整理が出来ていない。本当なら今頃はゲームをログアウトして明日提出のレポートに追われている頃だろう。誰もこんな形で生まれ変わるだなんて思っちゃいない。ましてやゲームの途中とは誰が予想できるか。

 だがいつまで後ろ向きな考えでもいけない。起きてしまった事を受け入れるのも人生の内だ。

 改めてリオンから貰った持ち物を確認してみる。

 散弾銃の予備の弾が十二発、冒険者用の携帯食料が二個、そして金。この世界の通貨『ギリー』が、凡そ五万ギリー程、紙幣と貨幣がバラバラで混じってで小袋に入っていた。

 借金してる身でよくこれだけ渡してくれたもんだ。今度リオンにあったらお礼を言っておかねば。


 空腹を紛らわすため、ビスケット状の携帯食料を齧りながら通りを歩いていると、前方で何やら大きな人だかりが出来上がっており、道を塞いでいた。

 人だかりの前までやって来て背伸びで様子を見ようとするが、背伸びしても何も見えてこない。

 仕方なく人混みを掻き分けて前へ進んでみると、そこには道に倒れ伏す馬と横転した馬車と積んでいた荷がまとめて道端にぶちまけられていた。

 どうやら子供を避けた結果の事故のようですぐ近くで親に抱き締められている子供が大泣きしていた。

 これでは暫くこの道は通らないだろう。仕方なく俺は道を外れ、すぐ近くの路地へと足を向けた。

 遠回りだがそこで待ち惚けするよりかはマシだ。


 三人くらいなら並んで通り抜けられるような路地に入り込むと、冒険者ギルドを目指してまた歩き出す。

 壁に手を這わせ別世界の建造物に触れてみるが、それに関しては俺の元居た世界と大差ない。

 まだわからないことは多いが今のところ俺が居た世界と比べてみて極端な違いはないように思える。それでも銃を当然のように持つ生活なんて元の生活に比べたら物騒度が大幅に上がってはいるが。


 ちょうど、路地の中腹に差し掛かったところで俺は一度足を止めた。

 前方に冒険者らしき男が一人、道を塞ぐようにたむろしていたからだ。腰に拳銃を携帯しており、思わず緊張が走る。

 この先は一本道だ。今更元来た道を戻るのも気が引ける。

 大丈夫、何も起きはしないと自分に言い聞かせ、また歩き出す。

 極普通に、本当に何も無いように、ポケットに手を突っ込んで口笛でも吹きそうな調子で男達を横切って、


「へい、そこの兄ちゃん」


 声を掛けられた。

 いや、まだ声を掛けられただけだ。何も焦る必要はない。


「取り敢えず身ぐるみ全部置いてってくれよ」


 そう、今が焦る時だ。

 平坦な声で一言目に挨拶、二言目にかつあげ、これが異世界のチンピラというものか。


「いやあ、突然そんなこと言われてもなんと言うか俺も生活があるしね……」

「ごちゃごちゃ言ってねえで言う通りにしやがれ」


 そして三言目に銃を抜いてきた。

 こちらも銃は持っていたが、経験の無さから俺は咄嗟に手を挙げてしまった。

 それでもどうにかこの場を切り抜けようと必死に言葉を紡ぎ出す。


「一つ言っておくと今ここで俺を撃つと、通りの人だかりの注目を掻っ攫うことになる。下手するとあんたは牢屋にぶちこまれる。たかが5万ギリーと俺の貧相な装備程度で牢屋は嫌だろ?」

「そのよく回る口、今すぐ塞いでやろうか?」


 回転式拳銃の撃鉄が起こされ、銃口が俺の顔面に向けられる。

 ここまでくるとお手上げだ。


「わかったわかったって! 出すよ、全部出すから銃を降ろせって!」

「よぉし、わかったらさっさと出しな。先ずは金だ。ゆっくりとだぞ。さもないとてめぇの頭に風穴が空くぜ?」


 そう言われると俺はゆっくりと腰のポーチに手を入れ、金の入った小袋を取り出して男に見せる。


「よぉし、地面に置きなゆっくりだぞ。ゆっくり置くんだ」


 どうしたものか、どこの誰にも縁のない俺にはこの金こそが生命線だ。

 それを今まさに銃を突きつけられて寄越せと脅されているが、はいどうぞと渡しては俺の異世界生活は早速行き詰まってしまう。

 男が悠々と銃口をこちらに向けている間、何倍もの思考を巡らせて、俺は打開の一手を打った。


「へい!! そこのお巡りさん! 助けて強盗だよ!!」


 弾かれたように男が俺の視線の先に振り返ったが、そこに誰もいる筈はない。俺は偶像のお巡りさんに助けを求めたわけだから。


「てめえ騙しやがっ――――ぶはっ!!」


 男の振り向きざまに金の入った小袋で男の頬面を力一杯殴りぬいた。


「ふはははっ! クラシックってやつよ!」


 一つ誤算だったのは弾みで袋が破けてしまい、狭い路地一杯に小銭と紙幣がばら撒かれてしまった事だ。

 もはや金の事など気にしてはいられなかった。男が体勢を立て直せば、俺の命も危ういからだ。

 迷いはなく、俺は踵を返し、路地の出口へと駆け出した。

 一瞬だけ振り返ると男は冷静に口元を拭って、此方に殺意の篭った瞳で睨みを効かせていたが、追ってくる素振りはなかった。俺の命より金の方を優先したのだろう。

 そのまま路地を出ると、辺りを見回し、俺は人混みに溶け込むようにその場を離れていった。

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