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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
The Unchain

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ジャガーノート

 不思議な気分だった。初めてステータスアップメディスン、略してSUMを飲んだ時の全能感も、ドラゴニックαを飲んだ時の高揚感も然程ない。

 怖いほどに落ち着いている。頭と身体が冴えている。まるで今まさに産まれたような真っ白な気持ちだ。

 オーク共を倒した時のように何でも出来そうというわけでもないが、ただ目の前の男を一人捻り潰すぐらいなら軽く出来るだろうか。


 男は首を巡らせ、辺りを見回す。俺の事など眼中にもない。急に現れた少女を警戒しているのか。

 俺も正直驚いている。幻覚ではないだろう。現にこうやって彼女は俺に薬を打って消えていった。彼女がどのような経緯で此処にやってきたかは今はどうだっていい。目の前の男を殺そう。

 そういえば自分の意志で人を殺そうとするのは初めてだ。アンリの時は俺の意志がはっきりしてなかった。竜化薬とかいう訳のわからない薬の所為で。


「アシュなら帰ったよ。あんたと俺の一騎打ちだ」


 男は肩を竦めた。


「なら良いが。スパイは信用出来ない。だが妙だ。お前を助けに来たように見えたがな。どの道、お前には死んでもらう」


 至って冷静な風に男は俺に銃を向ける。

 一度目を泳がせ、二、三度頷き、俺は微笑んだ。


「三秒で決着(ケリ)だ」


「良い辞世の句だ」


 一瞬の内に撃鉄が三度薬莢を叩く。神業的な早撃ちだ。銃口を通って発射された弾丸が吸い込まれるように、俺の眉間に飛来してくる。

 それだけだ。仮面や機械音声でミステリアスな雰囲気を出してても、幾らステータスが上だろうと、仕掛けてくるのは銃の発砲だけ。

 俺を格下と見てのことか。それとも拳銃の腕に余程自信があるのか。どっちでもいい。

 弾丸が発射されると同時に俺は一直線に駆け出した。そう言う俺もそれぐらいしか出来ることはないが。ただ、それだけ出来れば人は殺せる。


 一秒、一発目の弾丸を素手で彼方へと弾き飛ばす。続く二発目をもう片方の手で受け止める。さらに加速する。


 二秒、三発目の弾丸が額に直撃、皮膚で止まる。大したことない。ただの豆鉄砲だ。そのまま一気に加速し、男へ肉薄、減速なんて一切しない。トップスピードを維持して胴タックルをかます。


 三秒、弾丸並の速度で二人揃って建物を一軒、二軒と突き破りながら落下していく。三軒目を突き抜けたところで建物の壁を蹴り更に加速。トドメだ。遠心力で空中で高速回転し、その最中に体勢を入れ替える。男の腰をホールドし、猛然と迫る地面に男の頭を下に落下させた。


 バッキー式パイルドライバー。

 耳をつん裂く破砕音と衝撃波が巻き起こる。岩のタイルをぶち抜き、地面を二層ほど陥没させ、男は文字通り杭となって地面に突き刺さった。対象の制圧を確認。殺した。血が凍ったように身体が冷たい。だが後悔はない。やらなければやられてた。

 ジャスト三秒、一瞬の出来事だ。近隣住民には悪いことした。未だ何が起きたのか頭が付いていってない方々には悪いが俺は早々にこの場を立ち去るすることにした。全部俺の仕業と知れ渡ればどうなるかわかったもんじゃない。

 薬の効果のある内に地を蹴って、現場を離脱、蜘蛛のように壁を這って昇り、屋上を走る。来た道を遡って、路地を出た。街道の方は少し騒めき立っていた。発砲音もあったし、隕石でも降ったかのような衝撃だったし、それも仕方ないか。

 幸い俺を気に掛ける人間はそういなかった。約二名を除いて。


「やー、お見事お見事。生で見るのは初めてでしたが圧巻ですね」


「物的被害が大きすぎる。後で修理費を回しておくが、程々にしとくように」


 正反対の性格をした少女からそれぞれ違った感想をもらうと、二人は俺の両脇に並び、俺をエスコートする。

 地理に詳しくない俺はどうにも出来ないことだし、二人に付いていく。するとアシュが話を始めた。


「さっきの方のステータスを盗み見させていただきました。やはり今回の依頼とは無縁の方です。名前がフランシス・シェスコ、王宮で雇われてる元冒険者ですね。バッキーさん心当たりは?」


 王宮と聞いたときに脳裏にリオンの顔が浮かんだ。しかし、殺されるようなことをした覚えは一切ない。だから、俺は首を横に振った。


「まぁ、そうでしょうね。冒険者レベル1のバッキーさんが狙われる道理がない」


「なら何故狙われる?何事にも理由がある。私が彼にパンケーキを奢るようにな」


 アンリがそう言ったところで、二人は立ち止まり、俺も遅れて足を止める。


「あぁ此処だ。コーヒーでも飲みながら話そうではないか」


 何処に向かっているのかと思えば普通の喫茶店だ。今日で二度目の喫茶店だが別に構いはしない。空腹が酷い。

 早々に店内に入ると、俺は倒れこむように席に着いた。

 薬が切れ出したか。性能は安定してる分、効果時間がやや短いか。副作用もそんなに酷くない。前のように幻覚をみたりしないが、ただ無性に気怠い。立ち上がりたくないし、頭を上げているのも億劫に感じる程だ。


「アンリ、パンケーキ頼んどいて。少し休む」


「それぐらい自分で……無理か。わかったよ」


 俺の調子を見て、察してくれたのか、すぐにウェイターを呼ぶと注文に人数分のパンケーキと飲み物を頼んでくれた。

 テーブルに突っ伏す俺と対面するようして座るアシュとアンリは、話を戻した。


「さて、彼が襲われたことも不思議だが気掛かりなのは何故君がこの場に居合わせたのかだ。アシュ、君はこうなる事を知ってたんじゃないか?」


「おや?お気づきでなかったですか?あの人、昨日から私達のこと見張ってましたよ?いつ襲ってきても大丈夫なように私は最善を尽くしただけのことです。まぁ彼のスキル欄にスキル無効化がありましたからね。スキルに頼る人にはとても効果的です」


 二人の間で火花が散ってる。近寄れば飛び火しそうだ。パンケーキ早くこないだろうか。


「話を戻そう。あの男は何故私達を監視し、バッキーを襲ったのか」


「バッキーさんが一番弱そうですからね。襲うなら彼が良かったのでは?」


 それはきっと違う。あの男は俺の出生を知ってた上で失敗作と蔑み、殺しにきた。それに男は言っていた。どれほどのものか確かめにきた、と。

 狙いは最初から俺だった。そう考えるべきだ。その意図は知ることは出来ないが。後になってわかることかもしれない。はたまたこのまま謎で終わるか。

 アシュ曰く、今回の依頼とは無縁のものらしいから一度忘れてしまうのが得策かもしれない。

 やがて、持って来られたパンケーキとアイスコーヒーの匂いに釣られて重い頭を起こすと、会釈を一つしてフォークとナイフを取り、パンケーキにがっついた。

 バターをたっぷりと塗り、フォークで突き刺し、大口開けて頂く。

 脳が悦に浸るというべきか、幸福感が凄まじい。胃に何も入ってなかった上で、戦闘の疲労もあって、そのパンケーキは正に極上の一品だった。


「マジうめぇや。そういえば、アンリは用件はすんだのか?」


「あぁ、こっちの準備は万全だ」


 言って、脇に置いた鞄に手を置く。ゴルフケースサイズのそれには彼女愛用の狙撃銃が入っているのだろう。見てみたいという気持ちもあったが流石に公衆の面前だ。リオンの時とは違って周りは一般客だらけだし今回は遠慮することにした。

 すると、アシュがパンケーキを食べながら思い出したように話し出した。


「あー、ドクターから伝言を預かってきました。『お前らさっさと帰ってこい。下拵えが出来つつある。お前らにお使いを出す。一度ホームに戻ってきやがれ』だそうです」


 コーヒーを一口、三人揃って飲みながら俺は、眉間に皺を寄せた。


「下拵えって……だいぶ早いな」


 依頼を承ったのが今日の出来事だ。それなのにもう準備が出来つつあるというのか。

 付け加えるようにアシュが言う。


「やー、あの人ならそう不思議ではないです。とても仕事の早い方ですから」


「そうは言ったって、アレの解放なんてどうやるんだ?飼い主をヤれば良いのか?」


「そう簡単じゃありません。さっきも言ってましたが守りが堅いですからね。真っ向からぶつかると報酬に見合わないですし、私達の犯行だとバレると世間の冷たい目が更に冷たくなります。最悪逮捕からの極刑ですね。そうならないように上手く立ち回る必要があります。以前も同じような依頼はありましたが今回とは違って一般の方でしたので比較的楽でしたが」


「ちなみにどうやったんだ?」


「事故に見せかけて殺りました。後は商人を偽って親族騙して奴隷の方々全員買い占めました。もちろんその後解放しましたよ?私達そのような趣味は持ってませんので」


「それって……殺す必要あったか?」


「やー、頑固な方だったもので」


 あまりに楽しそうに言うもんだから、アシュが快楽殺人鬼にでも見えてきそうだ。

 俺もそう変わらないものかもしれない。さっき人殺しておいてこんなに落ち着いてパンケーキ食ってるなんて中々なサイコ野郎だ。俺も殺されかけたし、薬で頭の中は世紀末だったし、きっとこれからも同じようなことが起こるだろう。

 仕方ない。過ぎたことだ。忘れよう。

 可愛い女の子二人と喫茶店でパンケーキ食えるなんて前の俺だったら何年先になるかもわからないことだぞ?今この状況を楽しむべきだ。


「ところで、二人はパンケーキは好きだったりする?」


「んー、別に好きではないですが、奢ってもらえるなら食べようかなってぐらいです」


「君が食べたいと言ったから私は一緒に食べているだけだ」


 二人共、そんなに好きではない様子だ。

 思ったより会話が弾まないな。話す時間よりパンケーキを咀嚼してる時間が長いような気がする。何か口にしてもどうしても無理矢理会話をしようとしている感が出てしまう。

 性格が揃って違うベクトルな上、互いに波長も合ってないし、何か決定的な歯車が噛み合っていない。

 アサルターとスパイとスナイパーだし仕方ないのかもしれないが、仮にも同じパーティだ。親交は深めておきたい。

 とはいってもプライベートのことなんてなんのネタもない。

 結局は仕事の話だ。


「ドクターはどんな作戦を考えてると思うよ?」


「やー、それって帰って確認すればいいことでは?」


「ほんの予想だよ」


 俺がそう言うとアシュは少し真剣味を帯びた表情で考え込み、俺の問いに答えた。


「そうですね、先ず匿名で奴隷を買い集めましょう。そして奴隷商に扮したドクターが奴隷に扮したバッキーさんを奴隷に混じらせて売り付けます。その後は頃合いを見て何らかの方法でバッキーさんにドクターの新薬を打ちます。バッキーさんに暴れさせます。騒ぎに乗じて何者かに変装した私がターゲットを連れ去ります。一人だけだと尻尾を掴まれるので何人か適当に連れ去って、後は煙に巻きましょう。そんなとこですかね」


「オーケイアシュリー、それはツッコミ待ちか?」


 もしそれが実現したとして、それは俺への嫌がらせか?


「やー、ドクターならそうします。あの人は痛くバッキーさんを気に入ってますから。次の依頼もきっとバッキーさんを主軸に置きますよ」


「依頼の中でも新薬の実験?ないな。ドクターは依頼の成功を優先させる」


「やー、残念ながら私の方が彼との付き合いは長いです。ドクターはきっとそうしますよ」


「賭けるか?」


「望むところです」


 二人揃ってパンケーキを一口で食べ終わる。揃ってコーヒーを一気に飲み干し、会計をアンリに押し付け足並み揃えて店を出た。

 会話に乗り遅れ、更に二人について行きそびれたアンリは卓上に置かれた伝票に目を通すと、ゆっくりとした調子で革の財布を出し、席を立った。

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