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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
Welcome To The Fxxking Another World

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スナイパー

 うーむ、別れ際のリオンの顔、思い出すだけで顔に皺が寄る。確かに自分のパーティのホームの場所も知らずにあんな偉そうなこと口にしてたなんて思い返すと恥ずかしい話だが、だからといってあんな踏ん反り返って勝ち誇ったような顔されると俺も何処と無く心が痛むぞ。

 しかもホームの場所があの喫茶店から徒歩で数十分のところにあったことが俺の情けなさに拍車をかけている。


「だからってなぁ……別れのときぐらい気持ちよく別れようや」


 それはそれでいいんだが。リオンが言葉遣い以外はまだ子供であるということを確認出来たことだし、ホームも既に視界に入る距離まで来てるし良しとしよう。

 気持ちを切り替えるとして、さて、どんな顔して帰ればいいのか。何故か胸ポケットに入ってた謎の解雇通知だ。正確には退職金と書いてあって金が入ってただけだ。そもそも俺のものかどうかも怪しいし、このパーティに退職金が出るのかと言われればNOだ。俺がただ思い詰め過ぎてるだけかもしれない。気楽に放課後家に帰ったようにすればいい。ドクターならきっと迎え入れてくれる筈だ。

 でも待てよ。ドクターとアシュがいなかったらどうなる?他のパーティの人間に俺のことが伝えられているのか?知る術はない。入らないことにはわからない。血の気の濃ゆい奴等だったら今度こそ殺されるのではないか?


 そんなこんなで考えがまとまらない内にホームの前まで来ていた。いつ見ても薄気味悪い教会だ。カラスが枯れ木の枝に群れて留まり、さっさと入れと言わんばかりに俺の方を見ている。


「黙ってろ野次馬め、今考えてんだよ」


 考えたってわかるものではないが。まさにその通りだ。実行しなければわからないし、他のメンバーだって話の分かる人間かもしれない。そう考えるとこんなところで迷っている自分がマヌケのようだ。堂々とすればいい。何の負い目もない。俺はこのパーティの一員なのだから。

 意を決して、俺は修繕された扉の前に立った。ドクターに会ったら、アシュに会ったら、他のメンバーに会ったら、話すことをそれぞれ頭の中で復唱しながら、俺は扉を押し開け、中に入った。


「おーい、帰ったぞー!」


 屋内に人気はなかった。しんと静まりかえった空気の中、中央のエントランスまで歩いていくと、そこでようやく俺はそいつの気配に気が付くことが出来た。


「動くな」


 冷たく言い放たれた言葉のとおりに俺はその場で立ち止まり声の方に顔を向けた。二階の廊下の柵から俺を見下ろしていたのはアシュでもないドクターでもない、初対面のメンバーだった。身なりからしてこのパーティのリーダーかスナイパーか。クラッシャーということはないだろう。

 漆黒のコートのフードを被っていて全容は見えないが、ちらっと見える真っ赤な髪や第一声からして同年代の少女であることがわかった。それよりも気になることが一つほど。


「貴様をずっと見ていた。何の用だ?」


「見ていた?見ていただって?それって一発芸のネタか?」


 その少女が俺を見ることなど出来るわけがない。何故なら少女の目には幾何学的な模様の入った布が巻かれているのだから。

 俺の姿は元より、この教会の景色すら少女には見えてはいまい。しかし、少女は鼻で笑い冷たいトーンのまま俺に告げた。


「無知とは罪だ。此処を訪ねるなら下調べ程度は付けてくるものだろうに。愚かなり」


「あー……ご高説どうも。とりあえず警戒しなくていい。俺はあんたの仲間だ。意味わかる?俺もこのパーティの一員ってことだ」


「それこそ宴会芸の一種か?そんな話は誰からも聞いていない」


「アシュリーとかDr.マルクから何か聞いてないのか?二日前ぐらいに入ったんだ。あんたは買出しか依頼に出てただろうけど」


「知らんな。何も聞いてはいない。私からすれば貴様は仲間でも依頼人でもない。ただの侵入者というわけだ」


 一気に雲行きが怪しくなるのを感じた。選択肢を選ぶ時だ。

 一つ、巧みな話術で説得する。二つ、多分彼女は俺を殺しにくるので逃げましょう。三つ、上等。返り討ちだ。ぶっ殺してやる。


「侵入者は、排除する」


 オーケイ、二だ。

 彼女が拳銃を抜くのと、俺が走り出したのはほぼ同時だった。目隠ししているとは思えない正確な射撃で放たれた弾丸が俺の脇腹と右脚に掠め、バランスを崩しながらも俺の部屋に飛び込んだ。ドアを突き破り、木片を撒き散らしながら部屋の床に転がり込むとすぐさま彼女の射線を遮るように壁に隠れた。


「いってぇなこの野郎!!俺は仲間だっつってんだろ!!」


「それを証明するものはない。パーティの規約に従い、貴様を殺す」


「俺はついさっき、依頼終えて帰ってきたんだぞ!?コントル村の雑用全部やってきたんだ。そういう依頼来てただろ?」


「どうだったか、貴様を片付けて確かめるとしよう」


 オーライ、話し合いは無理だ。選択肢一を削除。

 選択肢二はどうにか成功した。そうくれば次は選択肢三だ。あの分からず屋をぶっ殺す。殺すのは無理だな。ぶん殴るぐらいにしとこう。だけど絶対格上だしなぁ。目隠しプレイしながら何故俺の事が見えてるのかは置いといて、このままだと正攻法で負ける。せめて、オークの時の薬があればいいのだが。無い物を惜しんでも仕方ない。この状況をどうするか。先程から近寄ってくる気配はない。やはりスナイパーか。ならば射線上に立たなければどうにか……


「いッ……てェ……!!」


 突如として肩を抉るような痛み。激痛の余り床を転がり回った。

 銃声はなかった。射線上にも立ってない。それなのに撃たれた。わけわかんねぇ。

 激痛に悶えながら、撃たれた肩を見ると、その謎はすぐに解けた。

 肩から真っ直ぐ伸びてる木の棒のようなものは、この世界の武器にしては余りに原始的過ぎる。


「弓矢って……アマゾネスかよ。あのアマ」


 それも壁越しに射抜いてきやがった。やはり見えている。あの布はただの目隠しじゃない。遮蔽物に隠れようとあの女には無駄なんだ。ありえねぇ、どういう原理だ。考えても無駄だ。このままでは一方的に殺される。

 何か、何でもいい。打開策を。

 風を切る音、壁を貫き、今度は俺の右の脛に矢が突き立った。

 言葉にならない悲鳴を出して、俺は床に倒れた。

 本気でヤバい。銃撃戦で勝てるものではない。薬、少しでもいい。薬が欲しい。だが手持ちに薬なんてないし、ましてや都合よく薬が転がってるはずなど……


「…………あった」


 思い出した。クローゼットの中だ。ペンライトと良く出来たマネキン、そしてラベルの無い錠剤だ。

 効果なんて知らないし、そもそも戦闘に使えるかも知らない。だが今頼れるのは俺の薬効スキルぐらいだ。

 第三射が飛来した。今度は狙いを外したか首の皮一枚切って壁に突き刺さった。

 次を撃たれる前に、俺は動いた。上手く動かない右脚を無理に動かしクローゼットを開き、マネキンを彼方に放り投げ、小瓶を取った。

 蓋を弾き飛ばし、中の錠剤をありったけ口の中に放り込む。ゴリゴリとした食感を押し殺し、無理矢理胃の中に納める。


 変化はすぐにやってきた。

 視界が明滅して上も下もわからなくなる。立っていられない。ハウスダストの奔流を感じる。空気を切り裂き、飛び来る矢が止まって見えた。素手で弾き飛ばすと同時にきょろりと眼球が敵の所定位置を捕捉。体の全てが個を持って行動している。鼻は女の香りを捉え、口は静かに大量に空気を吸い込み、肌は空気の流れを感じ取り、足は今にも獲物に飛びつこうと震えている。


 頭の中でメーターが表示されている。何を表すかもわからないメーターの針が弧を描いて、一気にMAXを振り切って何かが引きちぎれる音がした。

 言える事は一つ、選択肢三だ。

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