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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
Welcome To The Fxxking Another World

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メディック兼任シェフ

「やー、事情は把握しましたが少し贅沢が過ぎやしませんか?自分の部屋があるというのに何でまた私の部屋に来ますかね」

「死体を放棄した所は部屋と呼ぶには無理があると思うんだが?」


 そんなこんなでまたアシュリーの部屋を訪ねたのだが、アシュリーにはすっかりと呆れられていた。


「だいたい、何で部屋に誰だかもわからない死体があるってんだよ?」

「やー、以前あった依頼に殺人現場の掃除がありましてね。そのときに引き取って適当に処理した結果だと思います」

「何でそんな依頼承っちゃうかなあ」

「それはもう金になりますから」


 彼女らに道徳というものはないのだろうか。普通ならそんな仕事受けねえよ。普通ではないからこんな仕事してるのだろうが。


「大丈夫ですよ。バッキーさんも時期に慣れますよ」

「そのときまで俺が生きてればってか?」

「やー、その通りです」


 上等、さっさと草刈りだか何だか済ませて金を稼ごう。先ずは生きる為の金からだ。その後に部屋の改装をしよう。

 そして、時期が経ったら彼女の鼻をあかしてやろう。今からその時が楽しみだ。


 これからの目標を立てると、ちょうど腹の虫が鳴り出した。そういえばマンドレイク狩りから何も食べていなかった。時間的にも夕食の時間帯だ。


「そろそろ晩飯の時間だろ?ここのパーティって誰が飯作ってるんだ?」

「残念ながらうちのパーティに料理が出来るのが二人しかいないんですよ。そしてその二人も依頼で出てまして、今は個々でどうにかするしかないですね」


 とは言っても俺の手持ちはマンドレイクで得た雀の涙程度の賃金だけだ。それも出来るだけ節約して使いたい。

 俺はアシュを見た。


「やー、奢りませんよ」

「まだ何も言ってねえよ!」

「ははは、そうですよねぇ。まさか女の子にご飯を奢らせる男の人なんて普通はいませんよねぇ」


 確かにそれは情けない。しかし、空腹には耐えられない。


「じゃあ奢れとは言わないから、安くて美味い飯食えるところ教えてくれないか?」

「闇市場なんかは」

「よし、ドクターに当たってくる」


 何故先ず闇市場なんてワードが出てくるのか私は理解に苦しむよアシュリー。


「えー、ですが闇市場の蟹なんかとても美味しいですよ?」

「考えとくよ」


 一瞬、蟹食いたいと思ったなんて言えない。絶対怪しいもの入ってるって。それか密漁とか。密漁ならいいか。市販されてるのと変わらない。いやそうとは限らない。とりあえずはドクターに当たるべし。話はそれからだ。






「飯?いいよ食ってけよ」


 この差である。やはり持つべきものは仲間だ。もちろんアシュも仲間だよ。でも今は飯をくれる人こそ心からの仲間だ。仲間の定義なんて時によって変わる。そんなもんだよ仲間なんて。


「入れよ。ちょうど飯時だったんだ」


 何にせよ、ドクターが快く招いてくれたのは個人的にも嬉しかった。これから長い付き合いになっていく予定の間柄、早いうちから交流は深めておいて損はない。

 ドクターの部屋は俺の部屋とはだいぶ違った。まず目に付いたのが部屋の隅に幾つも設置された巨大なガラス製のシリンダだ。人が丸ごと入りそうなその中に何が入るのかはあまり想像したくはない。そもそも俺の部屋が六畳間ならドクターの部屋は部屋というよりは研究室と呼ぶべきだろう。薄気味悪い色をした薬品や土の塊に内臓が埋め込まれたモンスターの標本など、食事をするには少し雰囲気が悪い。

 こんなところで出る晩御飯とはいったいどんなものなのか。


「ほら、食うぞ」


 平らな碗に盛られたクリームシチューに感動を覚えた。薬品類のツンとした臭いを掻き消して牛乳とバターの芳醇な香りが部屋を満たした。椅子に座り、俺は手を合わせて今日の晩餐にがっついた。

 ゴロゴロとしたジャガイモ、ほんのり甘い人参、サクサクとした何だかわからない野菜らの食感に飽きがこない。

 結論からするとこのクリームシチューはとても美味い。いや、美味いなんて言葉じゃ言い表せない。それほどの感動を俺に与えてくれたのだ。


「はは、気に入ったか?」

「マジ美味いよこれ!ドクターって料理も出来るんだな」


 先程アシュが言っていたことはどうやらデタラメだったようだ。これほどの料理を作れるメディックが近くにいながらどうして彼女は嘘をついたのか、謎だ。


「やっぱ美味えよなぁ?これをアシュの奴に食わせたら酷く怒っちまったんだよ」

「何で?こんなに美味い飯、そうそうないってのに」


 話を交えながら、シチューを口に運んだそのとき、口の中に慣れない食感が飛び込んできて、思わず顔を歪めた。すぐに吐き出すとシチューの表面に茶色いギザギザとした棘の生えた脚のようなものが浮いていた。鳥の脚、にしては小さすぎる。もっと小さな生物のものだ。


「それがな、シチューをリクエストされたことがあるんだが材料がなくてな。代用品で補ってみたんだがこれが良くてな。完璧なシチューができたんだよ」

「ほー、その代用品ってのは?」


 いや〜な予感が胸を過ぎった。茶色くて細かい棘の生えた脚なんて俺のいた世界じゃ数個に絞られる。


「先ず第一に素が無くてな。いろいろ試作したところ、コケコオロギの体液とバジリコックの生き血のブレンドで限りなく近いものが出来たんだよ」


 俺はそっとスプーンを置いた。たったの一言で俺の食欲をかっさらっていくドクターの言葉に戦慄した。しかし、それだけではなかった。


「次にジャガイモがなかったから、代わりにフロストリザードの肝臓の煮物で代用したところ、これがまた97%ジャガイモと同じ食感になってくれたんだ」


 成分は別なんだろうね。


「ついでに人参もなかったから、メルトコックローチの挽肉を固めたものを着色して甘味料を足したら完全な人参になってくれたぜ」


 コックローチってなんだったろうか。英語は割りかし出来るだけ筈なのに俺の本能が知らない方がいいと伝えている。そろそろ精神汚染が発動してくれないと俺には耐えきれなさそうだ。


「それで今日手に入ったマンドレイクを刻んで入れてみたところ、これがまた美味いな。特に顔の部分の食感は病みつきになりそうだぜ」


 はかったようにシチューの中からグロテスクな小顔が浮かび上がってきた。そこが俺の限界だ。


「どうして!!素直にシチューを作んないんだよ!?」

「冒険者たる者、挑戦するもんだぜ」

「挑戦しない勇気も持ってくれよ!」

「でも美味いだろ?」

「知らなければ美味かったありがとうで終わったんだよ」

「済んだことだ。それに食材に使ってるのはどれも害はないものだぜ?粗方な」

「絶対コオロギの体液とかヤバいっての。てかよくアシュにこんなの食べさせたな」

「シチューが食べたいって言ったのはあいつだぜ?」

「残念ながらこれはシチューではない。断じてな!」


 料理であるかも怪しい。アシュは正しかった。彼は料理は作れない。それに見せかけた別のなにかだ。


「そう怒るなって、代わりに良いもの見せてやるからよ」


 話を逸らされたようで腑に落ちなかったが、ドクターの話に乗ることにした。

 二人を挟むようにして設置されたモニターに明かりが灯り、一つの映像が流れ始めた。

 映し出されているのは辛そうに足を引き摺る男が帰路を辿っている姿だった。その男に俺はどこか見覚えがあった。


「あれ?この人って……」

「あぁ、さっき俺が撃った男だ」

「じゃあこれって生中継?」

「そのとおりだ」


 映像は空中から撮影されたもので、何らかの飛行物体がカメラを回しているのだろう。

でも言う程良いものではない。俺の興味を引くような要素はないし、飯の最中に見て楽しくもなし。


「これの何が面白いんだ?」

「ん?気にならないか?これをどうやって撮ってるかとか」

「んー……いや、別に」


 少しドクターの顔に哀愁が漂ってる気がした。ドクターは気を取り直してとばかりにシチューを一口飲み込んでから話を切り出した。


「だったらこれならどうだ?」


 映像が切り替わり、今度は何故か俺の顔が映し出された。鏡で数回しか見たことのない顔だった所為か、一瞬反応が遅れてしまった。下から俺を覗き込むようなカメラワークはどこか生き物染みていて、俺はカメラに映る自分からカメラの方を割り出し、それを見た。

 そしたら、本当に生き物がいた。


「はっは、見つかっちまったなあ」

「蚊みたいな……鳥?」

「鳥みたいな蚊だ」


 そこには頭に小型カメラを乗せた九官鳥サイズの鳥……いや、蚊がいた。姿かたちは鳥だというのに嘴だけは蚊のようにストロー状になっている。鳥として見れば可愛いだろうが、蚊として見るなら、こんなサイズの蚊なんて見るだけで鳥肌が立ちそうだ。


「クロウ・モスキートのフィッチだ。俺の旧い助手だ。こう見えて頭は良いし、頼りになる」


 とは言われても見た目は鳥っぽくて可愛いが蚊なんだよなぁ……どれぐらい頭が良いかなんて見当もつかないが蚊だしなぁ……

 クリクリとした目でこっちを品定めするように眺めてくるフィッチが何を思っているのか、俺にはわからなかった。


「『頼りなさそう』だってよ。第一印象はイマイチだな」


 人生の中で蚊に見下されることがあるとは思いもしなかった。だが、あくまで冷静に、俺は鳥みたいな蚊のフィッチは置いといて、ドクターに顔を向けた。


「それで、ドクターは俺に何を見せたかったんだ?」

「ん?わかんないか?」

「さっぱり」

「……まぁいい説明してやろう」


 おもっくそ呆れられてたな。テーブルの上でフィッチが嘆息でもするかのように首を振っていた。はっ倒すぞこの蚊。


「いいか。まず俺はメディックだ。アサルターやスパイのような斥候や強襲とは無縁な職だ。だが、俺には可愛い可愛い虫のお友達がいる。毒を持っているやつもいるさ。それを自由に使えるとしたらどうなると思う?」

「……スパイみたいなことが出来るかな」

「スパイそのものさ。暗殺から偵察までお手の物さ。それで結局何が言いたいかというとだ。明日、これでお前の援護をしてやってもいいと思う」

「マジっすか!?……ってたかが草むしりだし……そんな大袈裟なのいらないんじゃないかな?」

「念のためだ。今回の依頼はどうも何か隠してる節がある。まぁ、そんなことはいつものことだがな」


 確かに余りに普通過ぎる依頼だ。ギルドに頼めばいいものをこんな無法者の集団に頼るなんて普通ではない。何かあると思うのは寧ろ当たり前なのかもしれない。不測の事態はゲームでもリアルでも付き物だ。ならばドクターの進言は有り難く受け取るべきである。


「そうだなドクター。なら明日頼んでもいいかな?」

「あぁ勿論さ。新人のサポートは先輩の務めさ」

「それでだけど……」

「んだよ」

「ステータスの共有をしていいか?」


 ん?っとドクターが俺に疑問の目を向けてきた。はて、そんなにおかしいことだろうか。ステータスを共有しておけば互いの理解度も深まるし作戦も立てやすくなる。別に困るようなことは――――


「あのな、ステータスってのは言うなれば俺の……俺達冒険者の全てだ。ステータスでそいつがどういうタイプの人間かがわかる。何が出来るか。何が出来ないか。何に強いか。何に弱いか。ステータスさえわかってしまえば対策は容易だ。意味わかるか?」

「まぁ……」


 そうだ。これは現実なのだ。仮想空間のアバターのステータスなどではなく俺本人の能力を反映しているんだ。それを易々と見せられるわけがない。


「だから自分から見せてくる奴は大抵はステータスを偽装したスパイだ。それか単なるマヌケだな。それと最後に一つアドバイスを贈っておく。この先長い人生で役立つだろうよ」


 長いようで短かったこの親睦会も終わりを迎えるようだ。果たして親睦を深められたかどうかは謎だが。


「殺される前に殺せ。そうすることで明日生きられる」


 本当に明日の依頼って草むしりと子供の世話だよね?

 声には出さなかったがやはり不安だ。まだ就職にも就いていなかった身だ。実績はマンドレイク狩りのみ。それでも死にかけた。ましてや非公式の依頼だ。何かあると思って挑むべきだろう。

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