ブラックリストパーティ
「うちのパーティ『デッドマンズ・サーカス』にようこそ」
直訳して死人の舞踏団ってところか。名付けの親な何を考えてこの名前にしたのか問い質してみたいところだがそれは一先ず置いといて、教会の中を確認する。
教会の中は大きく改装されていて、入口からフロアの先には二階に分けて幾つもの個室が設けられていた。
「他の人はいないのか?」
「あぁ、今はな。リーダーとクラッシャーが別の依頼に出てて、スナイパーがついさっき隣町に買い出しに行ったところだ。明日にでも帰ってくるさ」
「全員でそれだけ?」
「あぁそうだよ。人間は多すぎない方がいい。顔と名前を一々記憶するのも面倒だ。六人から七人が理想的だ」
WSの世界ではゲームのルールでパーティは最大六人までとなっていたからか俺もDr.マルクの言うことには共感出来た。少数の方が作戦も人数や各員の状況も把握しやすいし要らないところに気を配る必要もない。
そもそもブラックリストに入る人間が少ないだけかもしれないが。
「さてさて、バッキーの部屋だが……」
「その前に自分からお話があるので少しバッキーさんを借りていきますね?」
有無を言わさずアシュは俺の腕を引っ張ると一階の自室に連れ込み、部屋の隅から椅子を引っ張り出してくると俺に座るよう促す。
アシュに促されるまま、俺は椅子に腰掛けると彼女と向かい合う。
「まあここまでは上手くいってると見て良いんだよな?」
「まだ入れてもらえただけですよ。ここからが大変なんですから、精々死なないように頑張ってくださいね?」
あまりに上手くいきすぎててやや拍子抜けだ。もっと試練でもあるのかと思ってたが、なんてことはなくパーティに入れてもらうことが出来た。
「さて」とアシュが切り出して、早速アシュは仕事の話を始めた。
「あらためて自己紹介です。アシュリー・マルティネスあらためアシュリー・ロットロスです。お家柄どうしても目立つ姓なので偽名を使わせてもらいました。それでは最初にうちのパーティの主な仕事内容から話しておきましょうか?」
「そうだな、頼むわ」
確かに、アシュの印象としては俺はただの取るに足らない雑魚だが、経験はゲームで嫌という程やってきた。もしこの世界がWSと同じであるならば、クエストのセオリーは良く心得ている。
確かにマンドレイク狩りはやり慣れていない採集クエストだっただけにアシュの足を引っ張る結果になったが、討伐クエストならきっと上手くいく、と思う。
「まぁ見てろって、今にお前の隣に並べるようになってやるさ」
「それなら先ず地道にクエストをこなすことですね」
そう言ってアシュは俺に二枚の紙を手渡してきた。一枚は誰か知らない男のプロフィールで、二枚目はクエストの依頼だ。依頼の方には秘の印が入っていた。
「これは何さ?」
「前任のアサルターのプロフィールと今きてる依頼で一番簡単なものですよ。目を通してみては?」
俺はアシュに言われるままに一枚目の前のアサルターのプロフィールに目を付けた。
名前を過ぎ、レベルに目がいったとき、俺の目の動きは止まってしまった。
レベル6、冒険者きっての凄腕しか辿り着く事の出来ない領域だ。俺のいた世界だと寝る間も惜しんで課金が当たり前の人間が辿り着く領域のことである。
ゲームの俺でもレベルは5。それでも上位のモンスターを相手取っても遅れは取らないものだ。
視線を下げていってステータスにいくと、俺中に先程まであった自信が萎んでいくようだった。
プロフィールにはこうあった。
マイルズ・クロース
lv.6
メインクラス:アサルター
サブクラス:ウェポンズマン
装備:クラフト・ツールガン ジャミング・レンチ ガンスリンガー・クロウ
体力:B+
筋力:B
耐久:A
敏捷:C+
魔力:A+
スキル
武器精製A
ハッキングB
視覚補助B+
機械化D
クラッシャーキラーA
プロフィールだけで大抵の戦闘スタイルとその情景が浮かんでくる辺り、自分との大きな差がありありと見えてくる。化け物だろこいつ。ステータス偽装でもしてないと信じることが出来ないぞ。
問題はこのマイルズ・クロースが既にこの世にいないということだ。どうしたら体力B+、耐久Aの冒険者が死ぬような事態になるのだろうか。
「因みにこの人はどうやって死んだんだ?」
「某パーティの機密情報の奪取の依頼でクロースさんが妨害工作に失敗しまして、依頼は完遂しましたが、捕らえられたクロースさんは拷問に遭い最後まで口を割らず最期は敵のクラッシャーに骨も残されませんでした」
「助けには行かなかったのかよ?」
「私もパーティのメンバーも負傷して直ぐに出向けるものじゃなかったんですよ。それだけ敵も強かったです。バッキーさん、貴方はこれが当たり前のような環境に足を踏み入れたわけです。いつでも逝ける覚悟はしといてください」
そのときはまぁそのときか。精神汚染って意外と便利だ。細かい覚悟がどうとか一切抱え込む必要がない。
アシュには悪いが、俺は死ぬ気はないし逝く覚悟なんてするつもりもない。
続く一枚目を捲り、二枚目を開くと今度は依頼の詳細が載っていた。
ブラックリスト集団のところにしか届かない依頼だ。果たしてどんな依頼が届いてくるのか予想もつかなかった。
『村の草刈り、家畜の世話、子供の世話』
誰がこんなの予想出来るか。
「アシュリーアシュリー、この依頼はなんだい?」
「とても簡単な雑用ですよ。ギルドに掛け合っても引き受けてくれない依頼が偶にうちらの所に転がり込んでくることがあるんですよ。経験値稼ぎにはなるんじゃないんですか?」
「いやでも、これは……」
「じゃあこっちにします?」
そう言って別の紙を手渡してくる。
『要人暗殺』
「草刈り、是非やらせて頂きます!」
「やー、素直でよろしい。これは餞別です。きっと依頼で役に立ちますよ」
投げ渡されたのは首かけ式のペンダントのようなもので、少し大きいモスグリーンの球は見間違えるはずもなく、手榴弾だ。
「アシュリーこれって……」
「やー、手榴弾です」
「俺が行くのって草刈りと家畜の世話と子供の世話で間違いないよな?」
「やー、頑張ってください」
「だから何で手榴弾なんだよ!?」
ちょうど精神汚染が切れたらしい。アシュリーのペースに持ってかれたまま、俺は依頼書を持って彼女の部屋を後にした。
「何だってんだよこれ……?」
アシュリーの意図がわからんまま俺はアシュの部屋の前で首に掛かった手榴弾を眺めた。
草刈り、家畜の世話、子供の世話に手榴弾が何の役に立つというのだ。
雑草に投げ込んで依頼遂行しろってのか?
いや、ないな。とりあえず依頼書の確認をすることにした。何か妙なことが書き込んであるかもしれない。
依頼:コントル村の仕事全般
わけあって村の人間が仕事を出来ない状況にある。ギルドの手は借りられない。貴方達だけが頼りです。
どうも腹に何か抱えていそうな依頼だ。本当のことは言うに言えないのかもしれない。だがどうしてたかが草刈りや家畜の世話に冒険者の人間に依頼するのか。もっと安価に請け負ってくれるところもあっただろうに。
そんなことを考えるいると、不意に横から男の声が上がった。振り向くと、そこにはDr.マルクが気さくに手を上げていた。
「よっ、アシュの用は済んだか?」
「あー、まぁだいたいは」
「色々新人には神経つかってるからなあいつは。最近苦い経験もしたばっかだしな」
「と言うと?」
「自分のミスで仲間を死なせちまったことがあるのさ。誰も咎めなかったがどうも気負いすぎてんのさ。レベル1のお前ならなおのことよ」
「そういえばさっきはだいぶ怒ってたみたいだけど、いったい何があったんですか?」
そう聞くと、マルクはまた機嫌の悪そうに頭を掻きあげ、苛立ちを孕んだ声で話出した。
「あいつは依頼人さ。冒険者でな、クエストの補助を頼むって意気揚々と此処に来てな、成功報酬に百万出すって言ってのけたんだ」
「それが払えなくなった、と?」
「そうだ。俺達は依頼を完遂したが奴は一向に金を持って来なくてよ。それでようやくのこのことやって来て何て言ったと思う?『金が払えなくなった。だがお前達はブラックリストに登録されてる身でギルドのクエストを行った。ギルドには言わないでおくから金は払わない』だ。殺されないだけマシだと俺は思うがな」
その依頼人は余程愚かだったのだろう。ワケありの人間に頼むならばそれ相応の覚悟は必要だろうに、その思慮に欠けたのは救いようのない。
マルクは男の冒険者ライセンスを掌の上に乗せ、やはり不機嫌そうに顔を歪めた。
「何にせよ金は払わせる。それがケジメだ。お前も依頼先でそんなことがあったら容赦しなくていいぜ。相手はお前がブラックリストの人間だと思ってるからな。足元を見てくることもある。それで……」
どうやら、Dr.マルクは俺の持ってる依頼書に目が止まったようで、一旦言葉を区切り、感心した顔で言葉を続けた。
「おぉ、早速依頼かよ。良い心がけじゃねぇか。それでなんの依頼だ?」
そう言って俺の持つ依頼書を見ると、ドクターは微妙な顔をしてそれを見た。
「初仕事が畑仕事に子守りか。まあ最初なんだ。気楽に行ってこいよ」
そう言われると逆に緊張してくる。しかし、手伝い程度の仕事を異世界でやるだけだ。怖がる要素なんて何もないはずなんだ。
「そこでだ。初仕事のお前に良いものをくれてやる。これだ」
Dr.マルクが取り出したのは一本のボトルサイズの瓶だった。中には濃淡な紫色をした液体が入っていて、見るだけで怪しく思える代物だ。
「……何すかこれ?」
「マンドレイクの粉末と幾つかの薬品を調合して作った強壮薬さ。死にかけた時にでも飲むといい。死ぬ程ハイになれるぜ」
「俺が今から行く依頼って草刈りとかで間違いないですよね?」
さっきのアシュから渡された手榴弾もDr.マルクから渡された怪しい薬も依頼に必要なものではないだろう。しかしドクターは俺にそれを握らせて言った。
「何があるかわかんねえのが俺らの仕事さ。持っといて損はねえんだ。落とさねえようにしっかり持っときな」
上手く言いくるめられたようだったがアシュとは違って幾分有用なものではあったため、俺はありがたく受け取り、それをポーチにしまった。
「それで、お前の部屋だが、丁度欠員のアサルターの部屋が空いてるからそこ使わせてやるよ」
「ああ、どうも。これからお世話になりますよ」
「それと敬語はいらねえよ。同じパ-ティでそれは辛気臭い」
「ああそっか。わかりまし……わかったよドクター」
とりあえずは俺の部屋に案内してもらった。鍵はない。建付けの悪い扉、煤けたドアノブ、長い間使われてなかったというのは一目瞭然だ。
あまり期待はしない方がいい。そんな感情を抱きながら扉を開けると、そこは人の住む場所ではありませんでした。
吊り下げられた剥き出しの電球の傍らには輪っかに結ばれた紐が垂れ下がっていて、その真下には丸椅子が置いてある。
荒んだ空気は仕方ない。だいぶ使われてないんだから。でも何かが腐った臭いがするのは何故だろうか。とりあえず換気だ。
後で黒く変色した床も張り替えた方がいいかもしれない。タチの悪い鉄の臭いがする。
ベッドがあるのは助かるが何でシーツの上に誰かの歯があるのだろうか。未だに歯の妖精さんを信じるメルヘンな冒険者でもいたのか。んなわけない。
「死体留置所かよ此処は……」
前のアサルターはいったいどんな人間だったのか想像も付かないぞこれ。役立ちそうなものはないか、一応確認するため、クローゼットを開いてみた。
ペンライトにラベルのない錠剤に綺麗に折り畳まれた男性のマネキン。
……マネキン?
俺はそのマネキンを引き出し、床に置いた。よく出来たマネキンだ。身体は堅いが皮膚や眼球なんかは本物と見間違える程に精巧なものだ。
だが臭いは酷いもんだ。腐臭が酷い。マネキンの原材料は知らないがどう放置したらこうなるものか。これではまるで屍みたいだ。
「…………屍ね」
一度呼吸を整えましょう。落ち着いて、至って冷静に、俺は男のマネキンをクローゼットに締まって、猛ダッシュで部屋を飛び出した。




