保安部の男
ホームに戻ると、簡単に傷の手当てをしてもらって、保安部の連中を出迎える準備を手早く済ませた。
考えてみれば保安部の人間と会うのはこれが初めての機会だ。あまり良い噂は聞かないが実際に会ってみないことには何も分からない。
エントランスにはザグールとスキュラを除いたパーティの面々が揃っていた。二人についてはザグールの部屋で待機してもらっている。物騒ごとにはならないと思うが念の為だ。
「やあバッキー、いい戦いだったな」
朝の挨拶とばかりに話しかけてきたのはアンリだった。
「よっアンリ、こちとら危うく殺されるとこだったぜ」
「はは、続けてたら間違いなくそうなってただろうね」
「あぁやっぱりか。アンリの時もあんな感じだった?」
「私の時はもっとあっさりしてたよ。私自身、直接の戦闘は不向きだからね。頑張った方ではあったけどまるで歯が立たなかった」
そうだろうなと頷く。俺自身、人と戦ってる気がしなかった。
「ペニーってさ、人だよな?」
「まごうことなき人間だよあの人は。育ちが少し特殊なだけらしい。まっ、聞いたところで教えてくれないんだけどね」
どうしたらああいう風に育つのかは謎でしかないが、とにかく超強い人間って認識でいいらしい。
当のペニーは心底退屈そうに階段に座り込んで、項垂れていた。
保安部の対応なんて彼女からしたら退屈極まりないのは何となくわかる。そこら辺はドクターが上手く取り仕切ってくれるだろう。
問題は保安部の連中が何の為にやってきているのかだ。
俺は再びアンリに視線を戻した。
「なぁアンリ、今回保安部が来る目的って何だと思う?」
「恐らく依頼だろうよ。私の目で来訪者を確認したがアレはうちの常連だ。定期的に面倒事を持ってきては二束三文で依頼を押し付けてくる男さ。最近ならアシュリーが受け持った初心者狩り討伐があるな」
「成る程ね。なら、今回もそうなんだろうな」
そういうことなら思っていた程酷いことにはならないかもしれない。
それに、いざという時はドクターが何とかしてくれるだろう。何となくだがそんな気がしていた。
間もなくして、予期していた来訪者がやってきた。
扉が開かれて先ずリーダー格の男が一人、続いてその付き人のような男らが二人、続けて玄関をくぐってきた。
この世界にきて初めて保安部と聞いたとき、警察のようなものを思い浮かべていた。格好だけなら正に思い浮かべたそれに近い。
三人揃って薄暗い色の軍服のような制服を着こんでおり、リーダー格の男だけは胸に金色に彩られたバッチを着けていて、残りの二人を率いているのだと何となく分からせてくれる。
リーダー格の第一印象は疲れ切った男って感じだ。
整髪料で固めた黒髪は所々白髪が混じっていて、目尻には皺が寄っていて、腰もすっかり曲がってしまって、歳自体はそんなに重ねていないだろうに相当老け込んでいて、疲れた雰囲気を醸し出している。
対照的に後ろに佇む付き人達は揃って若々しく、体型もリーダー格の男より一回り大きくがっしりとしていて、髪は揃って角刈りと威圧的な雰囲気が出ている。おまけに顔の形まで一緒で区別がつかない。
入ってくるなりリーダー格の男は溜め息交じりに低い声で呟いた。
「相変わらず、埃臭い場所だ。貴様らにはお似合いの居場所ではあるがな」
ああ、何となくであるが、嫌な奴だと察した。
眉間に皺を寄せて顔の前で手を払う仕草が実にいやらしかった。
早速、ペニーが階段から腰を上げた。ただでさえ俺との戦いが中断されて苛立ってるところにこんな客人ときた。彼女の心中は察せるがここは抑えてもらうしかない。
剣呑な雰囲気を纏わせてペニーが男達へと歩み寄っていく。今にも食って掛かりそうだったペニーを制したのは、彼女の隣に付き添っていたドクターだった。
「態々ケチつける為に来たわけじゃないんだろ? どうせ仕事の依頼だろうが、こっちも暇じゃねぇんだ。用件があるならさっさとしようや」
リーダー格の男は肩を竦めた。
「気の早い男だ。ろくでなし共が首を揃えてお出迎えときた。私が来る事を予測していた、或いは見えていたか。真眼の女、まだ死んでなかったとは意外だな」
リーダー格の男がこちらに顔を向けアンリを睨め付ける。
アンリはリーダー格の男に真似るように肩を竦めた。
「そう思われてたとは心外だ。意外と見る目がないのかもしれないね、ソリドさん」
リーダー格の男あらためソリドはくつくつと可笑しそうに笑みを浮かべた。
「ほぉ随分と生意気言うようになったじゃないか。久しく会わない内に何かあったな。まぁよい、本題に入ろうじゃないか」
そう言ってソリド一行は案内されるがままドクターの部屋へと足を運んでいく。
部屋に入る前に俺はアンリを引き留めた。
「すまんアンリ、確認させてほしいんだけどさ」
「あの男のこと?」
「そうあの男、それと後ろのごつい二人についても良ければ」
アンリはドクターの部屋を一瞥して、中の様子を一度伺ってから俺に顔を近づけてきた。
「あの男がさっき話したうちの常連で名前がソリド・ファンドラス。保安部地域警備スワルダ支部の支部長を任されてる男だ」
「それって凄いのか?」
「この国に限っては誇れる事かもしれないね。それで、私と知り合う前は一線級の冒険者で"瞬撃のソリド"の異名を取る程の実力者だったらしいけど、保安部に入ってからはデスクワークに移って昔ほどの腕はないらしい。クラスはメインサブ共にアサルター、得物はS&W回転拳銃、固有スキル『クイックドロウ』を極めたところ、一度に六発発砲する人間離れした早撃ちを習得している。それ故に瞬撃、とはいってもそれも全盛期の話だがね。
後ろの二人に付いては私もよく知らないんだ。名前はウーシンとサーシン、双子の兄弟だ。いつもソリドに付き添っているけどその実力は不明、知ってることは無口で真面目ってことぐらい」
「そこまで分かれば充分さ。ありがとよアンリ、俺達も行こうぜ」
足並みを揃えて、俺達もドクターの部屋に向けて歩き出す。
「あの男の事だ。今回も仕事の依頼なのだろうが、何にしても依頼なら報酬が出る」
「それならお前の頑張り時ってことだな」
「……そういうことだ」




