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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
Attack of The Masquerade

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闇市場の少女

 闇市場というものを聞いたとき、淀んだ空気を放つ別世界のようなものを思い浮かべていたが、まさにその通りだった。

 舗装されていない道路の脇をボロボロの露店が所狭しと並んでおり、陳列された商品はこの世の珍品を寄せ集めたかのような有様で、主にモンスターの臓器や皮など冒険者が欲しがるようなもので固められているが、中には買い出しに行けば見ることが出来る普通の食材が破格の値段で売り出されている。


 周囲一帯は薄い灰色の瘴気が漂っていて、吸い込むだけで気が遠くなりそうだった。

 そんな闇市場がホームから徒歩三十分のところにあるのだから驚きだ。


「はぐれないでくださいね。一人になると食い物にされちゃいますから」

「あぁ、絶対にはぐれねぇわ」


 俺とアシュは既に購入した徳用サイズの酒の樽を両腕に抱えて、群衆の間を縫うように歩いていく。道を歩く人の面々もことごとく人相が悪く、時折すれ違う人が俺達を珍しいものを見る目でこちらを見てくる。

 どことなく居心地が悪く、俺は肩を狭めてアシュの後を早足で追った。


 しばらく歩いて、人混みの少なくなったひらけた通りに出ると俺とアシュは近くの壁に寄りかかって膝を折った。


「少し休憩しましょう。バッキーさんの体力が保ちません」

「賛成。てかさ、何でこんなに栄えてんだ此処?」

「闇市場、或いはブラックマーケットって呼称が一般的です。盗品、廃品、違法輸入品などなど、この国のあらゆるワケありの品物が此処に集まりますから栄えるのは当然です。私達の買ったこの酒もそういうものです。飲む分には何も問題ないですがね」


 両脇に置いた酒の容器に目を向ける。火が着くほど強い酒だ。六リットルを四本、二人で抱えて歩くには少し重い量だ。


「まったく何年分だよこの量……?」

「まぁ多く見積もって一週間分くらいですかね」

「はっははは、やっべぇなそれ」


 なんとなくペニーがこの酒をがぶ飲みしてる様子が思い浮かんでくる。凄い飲みっぷりなんだろうなと今から勝手にその凄まじさを予感しながら、俺はまた闇市場の景色に目を戻した。

 最初訪れた時の感想は空気が悪い、怖い連中がごろごろいるぐらいだった。だが一通りその様子を見て回ったら意外と一般人のような身なりの者もいれば、健全そうな冒険者の面々も割と訪れているようだった。

 中には不健康そうな痩せこけて身なりもボロボロの浮浪者が焦点も定まらない瞳でふらふらと彷徨いてるような典型的な者もいるが、商いの場としては条件の良い所なのかもしれない。


「此処ってさ、もしかして合法だったりする?」

「やー、もちろん違法です」

「やっぱそうだよなぁ。でもさ、違法なら何でこんなに堂々と店出してるんだ? 保安部に取り締まられる心配とかないのか?」


 俺の問いに対しアシュはくすくすと小馬鹿にするように笑った


「もうバッキーさんったら本当に何も知らないんですねぇ」


 生まれて二ヶ月目だからな、なんてこと言えないから困りものだ。


「誰でも最初は無知なんだよ。いいから教えてくれよアシュリー先生」


 先生と呼ばれ、アシュは満更でもなさそうに頷いた。


「そうですね、例えばあそこを見てみてください」


 アシュが指差した方向に目を向ける。

 仏頂面の禿頭の厳ついオヤジが小さなテントに仁王立ちで突っ立っている。

 背後に棚を設置し、そのスペースいっぱいに銃器や弾薬、刃物類に携行食、中にはモンスターから採れる魔石まで置かれており、その様は言ってしまえば冒険者専用の雑貨店だ。


「割と普通の店に見えるがアレがどうかしたか?」

「それではバッキーさんに問題です。アレらの商品はどこから仕入れられてきているでしょう?」


 頭を捻って少し考えてみる。

 盗品や廃棄品ならすぐに思いつく。問題なのは違法なのに何故保安部が取り締まらないのかなのだから、少し考えれば薄々答えは出てくる。


「保安部の連中が自分とこの武器を流してる。いや違う。どっかから押収した品を流してるんだ」


 アシュが目を見開いて驚いていた。同時にぱあっと明るい笑顔を作り、俺を讃えた。


「やー、驚きました。正解ですよ、大正解です。要は私達のような犯罪パーティを捕まえたら色々な物が押収されます。武器や装備はもちろんのこと、裏で取引される薬物やモンスターの素材、愛玩用のモンスターまで様々です。それらの品々は表向きには保安部で保管し管理されます。あくまで表向きにはですがね」

「だが現実は違うと」

「その通り、裏ではこうしてこっそりと闇市場の商人に売り捌いてるってわけです。分かりました? 保安部が此処を取り締まらない理由」


 理解こそしたがどうも納得出来なかった。

 保安部といえば俺の元居た世界で言う警察のようなものなのだと思っていた。今まで関わってこなかったこともあり、ずっとそういう認識でしかなかったんだ。

 思い返してみればこの国といえば初心者狩りは流行ってるわ、奴隷は容易に買えるわ、地下に謎の武器商人がいるわ、割と本気で保安部という組織が機能していない所為なのではないかと疑ってしまう。

 俺はアシュに顔を向け、一つ疑問を投げかけてみた。


「もしかしてこの国って治安悪い?」

「やー、何を今更」

「それって保安部が仕事しないからとか?」

「やー……そう言われると否定も出来ないんですよねぇ」


 つまりそういうことだ。なんとも言えない気分だ。


「やー、そもそもこの国スワルダ自体が元から治安悪いですからねぇ。全部が全部保安部の所為にするのも気の毒ってものです」


 そんなものなのか、と無理矢理自分を納得させる。現実を突き付けられた気もするが治安が良いと思ったことはないし、悪い事は身をもって体験している。

 嘆くよりも順応した方が気楽だ。


「まっ、お陰で俺達はこうして安く酒を買えてるってわけだ。治安が悪くても良い事はある」

「そうそう、その意気ですよ」


 半分開き直ったように俺は笑い、立ち上がった。

 そして、目の前に広がる活気に溢れた闇市場を見渡す。

 新品の小銃を見せびらかすように肩に担いで歩く冒険者、怪しい白い粉を買い求める目の死んだ若者、最早立つ事もままならず壁に寄りかかって不気味に笑う老人。

 元居た世界では決して見ることの出来なかった景色に返って新鮮味を感じていた。これも一つの世間の形だ。

 これを利用し利益を得る人間もいれば、逆に全てを失う人間もいる。今の俺は前者だ。あとは後者にならないよう気をつけておかねばならない


 そろそろ行くかと、アシュに言おうとした時だった。

 聞き覚えのある少女の声がふと耳に入り、俺は辺りを見回した。


「はい? これがキロ五千!? ぼったくり。たーかいたかい。これぐらい普通に買ってもキロ三千で買えるとこ知ってますよ。そうですねぇ、これぐらいの質なら……二千五百ぐらいっすね」


 およそこの場に似つかわしくない、はつらつとした声でヒトデのようなモンスターの袋詰めを値切る少女がそこにいた。

 くすんだ茶髪は短く揃えており、薄茶色のカーディガンにデニム生地のようなロングパンツとまるで俺がいた世界の女子のような格好だ。

 無言のまま頑なに首を振り続ける店主に向けて少女はぺらぺらと言葉を捲し立てている。

 隣でアシュが俺と並ぶように立ってその少女を見ていた。


「やー、キロ一万ギリーでも安いマダライボヒトデを二千五百とは中々吹っかけてますねぇあの子」


 やっぱりそうなのか、と俺は苦笑いを浮かべた。

 アシュも同じように苦笑していた。


「これはまた随分と世間知らずな方なようで。珍しいものも見れたことですし帰りましょうか、ってバッキーさん?」


 アシュに呼びかけられたが、それより先に俺は少女の元へと歩み寄っていた。


「キロ五千で良ければ、俺が奢るよ」


 後ろから声を掛けられた少女は慌てて振り返った。

 急な出来事で余程混乱したのか泡食った顔でぶんぶんと手を振って俺に応対した。


「いやいやいやそんな滅相もない。見ず知らずの方に奢って頂くだなんてそんな……っておや?」


 ようやく少女と目が合った。

 よっ、と手を挙げると少女の困惑の表情が瞬く間に笑顔に変わっていった。


「バッキーさん! 生きてたんすね!」

「勝手に殺すな。そっちこそあれから無事に帰れたんだな」


 後ろで状況が飲み込めていないアシュは頭の上に疑問符を浮かべてこちらを見つめていた。

 俺はアシュに向き直ると、少女の肩に手を置いて紹介した。


「紹介するよアシュ。彼女はココ・マクプライド、地下迷宮で死にかけた俺を助けてくれた命の恩人だ」

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