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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
Attack of The Masquerade

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一日の始まり

 七人で囲う食卓で各々食事を摂る中、俺はアンリとドクターに目配せした。

 二人だけ他と比べて明らかに纏う雰囲気が違った。事情は分かってるだけに俺の方も同じような感覚に陥ってしまう。

 この場で殺し合いでも始めるのかな? それはそれで見てみたいような気がしたが巻き添え食らうのも御免だ。

 オートミールのようなドロドロの物体を口の中でかき回しながら二人の様子を観察していると、視界の隅でスキュラが期待を込めた眼差しでこちらを覗き込んでいるのが見えてそっちに焦点を合わせる。


「バッキー、それ私が作ったの。美味しい?」


 不味いという程ではないが味が薄過ぎて美味しくもない。腹は膨れるが満足感はないかもしれない。


「まぁまぁ。味付けを練習すればもっと美味くなるぞ」

「ほんと! 嬉しい!」


 喜びに悶えるスキュラから一旦目を離して、再びアンリを見やる。

 澄ました顔をしているがさっきから食事の手が一切動いていない。

 ドクターから何を言われても答えられるよう構えているようだったが、まずアンリに声を掛けたのは何の事情も知らないだろうザグールであった。


「ところでアンリ、傷は大丈夫? バッキー君もだけど地下迷宮で一体何があったの?」


 俺達を気遣ってくれてのことなのだろうが、今の俺達からしたらどう答えればいいか戸惑ってしまった。


 何せお互い殺す気のないまま殺し合いをしてたなんて馬鹿らしいし、実はアンリが俺に殺して欲しいが為に俺を殺そうとするフリをしてたなんて言われたらどういう反応すればいいか当事者の俺すらよく分からない。


「あぁ、それはだな……」


 俺がどうにか言いくるめようと弱々しく声を発すると、アンリが此方に手を伸ばし、それを制した。

 そして、彼女が俺の言葉を引き継いだ。


「私がバッキーをハメたんだ。ゴブリンに銃を持たせて彼を襲わせ、ベヒーモスの親を低階層に誘き寄せ彼にけしかけた。だから彼はボロボロだ」


 ドクターやアシュリーは『あぁやっぱりな』といった顔をしていたが、ザグールはとても驚いていた。


「どうしてそんな……」

「私がバッキーを殺す。そう思わせることでバッキーに殺して貰おうと思った。だが彼は見抜いていた。そして彼と戦い、私は負けた。だがこうして生かされている。彼に救われたからだ。それが全て。私とバッキーがボロキレみたいな理由はね」


 ザグールとスキュラは揃って言葉を失っていた。

 ドクターは表情を引き攣らせていた。怒ってるのは確かだったが、アンリの言葉を理解し難い気持ちの方が近いように見える。


「つまりアレか? てめぇは自殺する為に態々俺の貯金から大枚叩いてライフルだのミサイルだの買い込んだわけか?」


 ドクターが掠れた声でアンリに問いかけた。


「そういうことになる。すまなかったドクター」

「成る程な」


 ドクターが椅子を立った。いよいよ部屋全体に緊迫した空気が流れ出す。

 ゆっくりとアンリに近寄るドクターから殺気に近いものを感じ取り、いざという時の為に飛び出せるよう身構えた。


「心配しなくても大丈夫ですよ。殺しちゃったらお金が返ってきませんからね」隣でアシュが囁いた。


 ドクターが懐に手を入れる。拳銃でも出てくるかと焦ったが、出てきたのは小さなメモだった。

 そして、アンリの隣に座るとそれを彼女の前に差し出した。


「見ろよ。全額俺の貯金から引き出されたと思うだけで目眩がする」


 アンリがメモに目を落とすと顔を引攣らせた。

 俺も身を乗り出してそれを見た。桁の数に目を疑った。

 ゴブリンにばら撒いた銃器のジャンク品やらベヒーモスの子供を拘束していた鎖と設置型地雷で百万ギリーは軽く超えていた。

 だが、それらとまるで比べ物にならないのが対巨竜ライフルと超小型ミサイルだ。その二つが今回の多額の費用の大半を占めていた。


「対巨竜ライフルとはまぁさぞかしどでかい獲物を仕留めてきたんだろうなぁ?」


 ドクターが皮肉っぽく言うのに対し、横から俺が事実そのまま答える。


「あぁ、撃たれたのは俺だ。二発な」

「何でお前死んでないんだよ?」


 笑って流す俺を尻目にドクターはまたメモに目を落とす。

 ドクターは頭を掻き毟った。明らかに桁違いの品が一つ、高いとは知っていたが億に近い額まであるとは流石に予想外だ。


「超小型弾道ミサイル! 地下迷宮でなんてもん撃ってんだてめぇは?」

「特大の花火だったさ」


 アンリが冗談めかして肩を竦めてみせると、ドクターも小馬鹿にするように笑い冗談で返す。


「これだけの出費だ。さぞかし綺麗だったんだろうなぁ?」

「生憎、ゴーレムに食われかけててそれどころじゃなかった」


 つまらなそうにドクターは短く舌を討つ。「そのまま食われとけば良かったのに」とでも言いそうな具合だ。

 不味いと感じ、咄嗟に俺は横やりを入れた。


「俺は爆心地にいたから何も見えなかったぜ」

「だから何でお前は生きてんだよ?」


 すっごく冷めた目で見られた。

 ドクターの方もうんざりしてるようで、さっさとこの意味があるかも定かでない話を終わらせたいように見えた。


「やー、関係ない身として口出ししにくいんですが――――」


 すると、今まで黙って様子を見ていたアシュリーが言い辛そうに手を挙げ言葉を挟んだ。


「――――結局のところアンリさんの処遇をどうするか、ですよね?」

「そうだよさっきからそれの話がしたかったんだよ」


 ドクターが大手を振り、微かに笑みを浮かべた。

 今にも倒れそうな顔にどうにか明るみを持たせ、ドクターはアンリの方に首を巡らせる。


「お前を殺して何もかも忘れて終いにしても構わねえんだ。だが俺の消えた金を誰が埋め合わせる? お前しかいねぇよアンリ。俺はこう見えてとても、とても慈悲深いんだ。だから全額きっちり払えばこの件は水に流してやるよ」


 それがドクターの締めの言葉だった。

 話に区切りをつけると、ドクターは卓上に並んだサラダを皿に盛って、もそもそと咀嚼し始める。

 本当に疲れてるんだなと胸の内で苦笑し、俺もスキュラが作ったと思しきサラダを摘む。

 とにかく色々な野菜をごちゃ混ぜにしたようで、皿の盛り方も綺麗とは言い難い。

 それでも食べてみれば何の問題もない。極ありふれたサラダだ。

 隣で期待と不安の入り混じった眼差しで見つめてくるスキュラに視線を落とし、「ちゃんと出来てるよ」と彼女に聞こえるように小さく囁いた。

 ほっと安心して息をついてスキュラもようやくフォークを取り、サラダを口に運ぶ。


「ほんとだ、ちゃんと出来てる」


 作った自分でも驚きながらスキュラは嬉しそうに微笑んだ。


「味見しなかったのか?」

「バッキーに最初に食べて欲しかったの」


 なんと健気なことか、こんな多幸感はこの世界にきて初めてかもしれない。

 せっかくスキュラが作ってくれた料理だ。重苦しい話は過ぎた。となればこの場を存分に楽しもうではないか。


 他の料理を食べてみようと食卓を眺めたとき、俺は初めていつもと様子がおかしい事に気が付いた。

 料理の消費の早さが明らかにおかしい。

 他の面々とは何度か食事を共にしたことがあった。知ってたことだが、うちのパーティは皆食が細い方だ。ザグールに限っては食事を摂ってるとこを見たこともない。

 俺がサラダを食べ終わる頃には皿に盛られた山のような料理の大半が空になっていた。

 その元凶は丁度俺の正面の席に陣取る女にあった。ペニーだ。

 道理でさっきからずっと話さなかったわけだ。皿に盛られた肉やスープを独り占めして、瞬く間に平らげている。食卓に並ぶ料理が次々になくなっていく様を俺は面白半分に眺めていると、ペニーは俺の視線に気付きこっちを見やった。


「どうしたバッキー? 飯食わないとケガ治んないぞ?」


 今まさに俺が食おうとしていたパンを掻っ攫って三つ纏めて飲み込む姿に最早笑うことしか出来なかった。

 仕方なく俺は手近のスープをちびちび飲んでいると、ペニーはアンリに話の対象を切り替えた。


「ところでアンリ、まーた自殺しようとしたんだな。それも今回は中々豪勢に」

「そうですね」


 適当にアンリが言葉を返すとペニーは少し不機嫌そうに顔をしかめる。


「そんなことはどうでもいいのさ。負けたんだな、そこの新人に?」


 そう言ってペニーは俺を指差す。


「ええ、完敗でしたよ」


 アンリはそれをあっさりと認める。

 実際のところ、アンリが俺を殺そうと思えばいつでも殺せたわけだからその言葉には語弊がある。

 だがそのことを知らないペニーは呆れ気味に首を振った。


「負けないお前が好きだったんだがなぁ。その目は飾りかい?」

「それだけそこの男が強かったって話ですよ。ペニーも実際に立ち会ってみれば分かるはずですよ」


 どこか煽るようにアンリが言うとペニーの目の色が変わった。

 へぇ、と興味深そうに目を細め、俺を睨めつけた。


「アンリに勝ったんだって?」

「まぁ一応な」

「強いんだ」

「時と場合による」

「強いんだな?」


 その問いにはっきりと答えることは出来ない。

 ふと視界の端でアンリがぐっと親指を立てているのを見て「その通りだ」と言われてるような気がした。

 それには多少なりの覚悟が必要だった。同時に言葉に出す事で自分なりに自信をつけるキッカケになるかもしれない。

 だから、俺は一つ頷いた。


「あぁ、強いよ」


 ペニーの目を見て胸を張って答えた。

 その言葉を聞いたペニーはここにきて初めて食事の手を止めた。

 「へぇ」と短く呟き、どこか嬉しそうに口元を緩ませる。


「そうこなくっちゃな。負けん気の強い目が素敵だよバッキー」


 そう言って席を立つと、椅子を引きずって俺の目前までやって来てどっかりと腰を掛ける。

 背もたれを前にして、そこに腕を乗せるとペニーは俺を見つめ、獲物を前にした獣のように唇を舐め上げた。


「私とヤろうよ。どちらかが果てるまでさ」


 ペニーの瞳にギラリとした光が差し、思わず身が竦んだ。

 射抜くような視線にどう向き合っていいか分からず、底知れぬ怖さが身を駆けた。

 同時に良い機会だとも思った。俺とペニーがどういう人間か知り合えるチャンスだ。


「あぁやろうぜ。心ゆくまでやろう」


 少し無理に俺は笑った。

 ペニーも合わせるように満面の笑みを浮かべた。そのまま頭をもたげてドクターを見やり声をあげる。


「マァルク! こいつ治すのにどれだけ掛かる!?」


 机に突っ伏して寝る直前のマルクが指を三本立てるとペニーは満足げに頷いた。


「三日後かぁ〜。ちと長いが、楽しみの為に我慢するのも一興ってことで」


 心底楽しそうにくつくつと笑みを浮かべ、再びペニーはこちらに視線を戻し、身を乗り出して顔を近づけてきた。


「ああ楽しみだ。とっても楽しみにしてるからね? 期待を裏切らないでくれよ?」


 爛々と輝くペニーの瞳が少し怖かった。

「期待しといてよ」と見栄を切るとペニーはニッと歯を剥き、食事に戻っていった。


 残り少ない料理を七人で平らげると、せっせとザグールとスキュラで食器の片付けに入る。

 ドクターはやっと終わったと言わんばかりに自分のベッドに向かう。相当お疲れの様子だ。

 ペニーとアンリは二人揃ってアンリの部屋に帰っていく。どうやらペニーが地下迷宮の思い出話を聞かせるようせびっているようだ。

 消去法で残ったのは俺とアシュリーだった。別に二人組を組めという決まりはなかったが、彼女にはお礼も含めて色々と話しておきたかった。

 誘いの言葉を掛けようとすると、それを制するように先にアシュから声を掛けられた。、


「バッキーさん、良ければ私の部屋に来ないですか?」


 突然の誘いに驚いたが、それこそ俺の考えてた展開だ。


「あぁ行くよ。お前の部屋に行くのは久々だな」


 そう言ってアシュと横並びになって二人、ドクターの部屋を出ていく。

 ドクターの部屋から灯りが消える。俺の新しい一日の始まりだ。

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