ハングリーペア
「あっはっはっはっは! 私もついに男買っちゃったのかと思ってびっくりしたよ」
それからこれまでの経緯を噛み砕いて話して見たところ、金髪の少女は気さくに笑い、ばしばしと俺の背中を叩いてきた。
とりあえずインナーだけでも着てもらったがそれでも目のやり場に困ってしまう。
胸の膨らみもそうだが、六つに割れた腹筋にどうしても目がいってしまう。全体的に線が細く見えるが尋常じゃない鍛え方をしているようだ。
思わず包帯の上から自分の腹をさすっていると、金髪の少女は意地悪っぽく笑い、距離を詰めてくる。
「お前もびっくりしただろ? 朝起きたら裸の女が隣にいるんだからさ。私の裸見たか?」
「……少し」
「少しと言わずにがっつり見てけよ。減るもんでもないし!」
「見なくていいから下着を捲らないで」
「なんならここで一発やっちゃう?」
「やらないから、だから下着脱がないでって!」
慌てて手で目を覆うと金髪の少女は可笑しそうに笑い声をあげる。
毛布から出た今、少女の容姿が改めて確認することが出来た。
ぱっちりと開いた焦茶色の瞳や、つんと立った鼻先などからとても美麗な顔立ちをしている。
だが、それ以上に俺の目を引いたのは、右の頬から首に掛けて切り裂かれたような傷跡だった。刃物で切られたというより、巨大なモンスターの牙や爪で抉られたといった方がしっくりくる。
戦いの傷跡なんだろう。まだ若いだろうに、その容姿は歴戦の冒険者のそれだった。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私はペニー・W・デストレンジ。このパーティのリーダーやらされてるけどため口でペニーって呼んでくれよ」
「バッキーだ。最近入った新人なんだ。よろしくペニー」
「あぁお前がバッキーか。マルクから話は聞いてたよ。成る程、お前が新人の……」
途中でペニーは言葉を切り、値踏みするように頭のてっぺんから下まで見回してくる。
「どうかした?」
「いやマルクになぁ、次の仲間はムッキムキのマッチョにしろって言ってたんだが」
「平均以上はあると思うんだが」
「何を基準にした平均だっての。しかも全然やわやわじゃない」
ぺしぺしと俺の胸筋や腹筋を叩いてペニーはがっかりしたように口をへの字に曲げる。
「まぁ、いっか。こっから鍛えるのも全然出来そうだし。そんなことより教えてくれよ。お前は何やらかしてブラックリストにぶち込まれたんだい?」
気を取り直してと言わんばかりの質問だったが、これもまた俺にとって答えに詰まる質問だった。
「あー……実は俺入ってないんだ。その、ブラックリストに」
みるみるうちにペニーの眉間に皺が寄っていく。世にも珍しい何かを見るような目で見られ、冷汗が湧き出てくる。
「冗談だろ?」
「いやほんとに」
「マジかぁ!?」
「はい」
バシッとペニーは自分の膝を叩くと、俺の両肩をがっしりと掴んでくる。取って食われることも覚悟してたが、そんな予感は外れ、ペニーは朗らかに笑い俺の肩を揺すってきた。
「こんな得体の知れないパーティに入ってくれるなんてとんだ物好きだねぇ! 普通の奴なら近付こうとも思いやしないってのに。いったいどういう風の吹き回しだい?」
やっとまともに話せそうな話題が出てきて少し安心した。
昨日のことのようにその情景が脳裏に思い浮かんできた。アシュと共にマンドレイクを狩りに行き、帰りに初心者狩りに襲われ、アシュに助けられたこと。
口に出せば滑り出るように言葉が出てきた。思い返せばあの時が俺の人生の分かれ道だったのかもしれない。後悔はない。寧ろ感謝してるぐらいだった。
「――――そんなこんなで初心者狩りに狙われたところをアシュに助けて貰ったんだ。そのついでに暫く世話になることになったってわけ」
「はーん、初心者狩りねぇ。それでアシュが助けてってねぇ。ふーん、あいつにしては随分と珍しいじゃない」
あの時は半ば無理に頼んだ形でもあったし、アシュも乗り気ではなかった。
それでも助けてもらったことは事実だし、何度も彼女には救われていた。
「私も長い間留守にしてたしね。あいつも変わっただろうさ」
そう言ってペニーは感慨深そうに一人納得するように頷く。
「アシュとも中々長い付き合いなんだが、最初に比べたら随分丸くなったもんさ。私はそっちのアシュも好きだったんだがねぇ」
とげとげしてるアシュなんて想像もつかないが、それはそれで様になるだろうな、と言葉に出さず頭に思い浮かべる。
「今でも十分尖ってる気がするけどなぁ。昔のアシュってのは相当問題児だったんじゃないか?」
「みんなそうさ。うちのメンバーには一通り顔合わせてるだろ? ご覧の通り、どいつも何かしら問題抱えてるような連中さ」
「そういうペニーは?」
「例外じゃないよ」
にっとペニーは笑うと立ちあがる。座って気付かなかったが、背もすらっと伸びていて一七五ぐらいはあるか俺よりも高かった。
「あいつらの顔が見たくなった。お前さんも一緒に行くだろ?」
「あぁ、勿論さ」
ペニーの手を取って俺はゆっくりと立ち上がる。少し高い位置にあるペニーの肩を貸してもらい、部屋を出る。
「そういえば何で俺の部屋に?」
「あれ? ここ私の部屋じゃなかったっけ?」おどけた顔でペニーは首を傾げた。
「悪いね、昨日帰ってきたもんで自分の部屋もいまいち覚えてないのさ。それに、昨日は酒が格別に美味い日だったからねぇ。つい呑み過ぎちまったのさ」
どうりで酒臭いわけだ。
足取りのおぼつかないペニーに先導され、廊下に出るとドクターの部屋に向かって歩き始める。
「うちの奴らはマルクの部屋に飯食いに集まるからねぇ。あいつの作る飯は食ったことあるかい? 中身はともかく食ってみりゃ割と美味いよな」
確かにゲテモノ料理しか出してこないがその通りだ。中身さえ知らなければ普通に食べられるものを出してくれる。だからこそ皆ドクターの部屋に集まるんだろうなと思った。
「ところでペニー、下着のまま行くのか?」
「何か問題か? うちの人間で私の裸見たことない奴なんていないよ?」
それについては薄々分かっていたが、何か忘れてるような気がしていた。
そこまで大きな問題ではないと分かっていたが、大事な事なような気がしてならない。
思い出そうとしている内にドクターの部屋の前に到着し、俺は腹が空腹を訴えてきたことを皮切りに「まぁ、いいかと」と考える事をやめ、部屋の戸に手を掛けた。
時間を見つけて過去話(主に勢いで書いてる部分)の見直しと改訂をしていきます。
本筋の方も毎週更新出来るようにしたいです。




