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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
Underground Labyrinth and Sniper

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一幕の終わり

 道中、何度か意識が飛んでいた。アンリから応急処置は施されたが、どうにも血を失い過ぎたようだ。

 俺が意識を飛ばす度にアンリは絶えず俺の名を呼び続けてくれた。

 モンスターに遭遇しないよう、アンリの真眼の力を使って最適な道を割り出し、俺達はひたすら出口を目指し歩き続けた。


 九階層を通り過ぎたとき、ふと俺の恩人の顔がぼんやりと浮かんできた。今頃は地上に帰っている頃だろうか。機会があれば改めてお礼をしたいものだ。

 そもそも、俺があの人に助けられてなかったら冗談抜きで死んでた可能性だってあった。もしかしたらそれもアンリは見越してたのかもしれない。


「お前さ、俺がゴブリンに殺されてたらどうするつもりだったの?」


 ぼやけた視界でアンリを見やると、彼女は別段考える様子もなく答えてくる。


「君なら乗り越えるだろうって踏んでたよ。現に君は生きてるだろ?」


 簡単に言ってくれる。ゴブリンに銃まで持たせてやる気満々だった癖に。

 そもそも俺がアンリを追わずに逃げた場合、彼女はどうしていたのかも謎だ。


「俺がもしお前のところに来なかったらどうするつもりだった? お前俺に逃げろって言ってたろ?」

「君が素直に逃げてたらまた別の機会を見つけることにしたさ。でも君なら来てくれるって確信してたよ。ベヒーモスに襲われて別れる瞬間の君の顔を見て確信した。あっ来るわこいつ、って」

「お前の計画、適当過ぎんだろ」


 そう言うとアンリは否定する気もなく、短く鼻で笑う。


「まぁね。でもやってみれば意外と上手くいった。君を信じてたからこそ出来たことさ」

「よく言うぜ。正直な話、道中三回は死んだと思ったぞ」


 さっきまで戦ってたことなんて忘れたように清々しい気分だった。アンリもどこか吹っ切れていたような顔をしていた。


「それにしても変な話だな。私は君に殺されたかったのに、君は私を殺す気なんてなかった。結局、私は勝算のない勝負をしていたことになるな」

「ミサイルやらライフルやら買い付けてな。あんな物いったいどこから取り寄せたんだ?」

「ジャスパーに無茶言って取り寄せた。どっかの国から横流しになった物を特別に売ってくれたよ。その分値も張ったがな」

「よく買えたもんだぜ。アレ、相当高かっただろ?」


 ゲームの中でもミサイルなんて普通では手の出ない値段で売られていて、俺も実際に使われた光景を見るのは今回が初めてだった。

 そんなものをこの世界で買おうものなら相当な金が必要だった筈だ。

 するとアンリは、凄く言いづらそうに頬をかき上げながらぼそりと呟いた。


「……実はだな、ドクターの貯金をこっそり使った」


 和やかだった雰囲気はその瞬間に崩れ落ち、二人揃ってどっと冷汗が溢れだす。


「それこそ自殺行為だな。まさに自殺行為だ」

「死のうとしてた身だ。怖いものなんて何もなかった。だが、今は物凄く恐ろしい」


 アンリの顔が瞬く間に青褪めていく。

 その顔を見ると、こちらまで気分が悪くなるようだった。


「お前死ぬかもな」

「君はあの男をまるで理解していない。簡単に死ねるならまだいいさ。彼の怒りを買った人間はこの世に生を受けたこと自体を後悔するような責め苦の果てに凄惨な最期を遂げる。きっと私だって例外ではない」


 とは言われても当の俺はドクターのお陰で生きていられてるようなものだからアンリの言葉を受けてもしっくりこないのが現状だ。


「まぁ、取り敢えず謝ってみようや。金の問題だしよ。きっちり返せば丸く収まるかもしれないぜ?」

「どうだかな。あの人を怒らせた事はないだけにどうなるかわかったもんじゃない」

「俺もまだ入って日が浅いからな。ドクターだけじゃなくてアシュのこともよくわからねえしザグールの事に関してはさっぱりだ。うちのリーダーには未だに会ったこともないし、やっぱりドクターみたいな感じの人なのか?」


 するとその顔に少し赤みを取り戻し、アンリは誇らしげにその人について語りだした。


「いや、まるで違う。寧ろ逆だ。あの人に惚れこんだからこそ、私はこのパーティに入ったんだ。あの人と会えたからこそ、私は二年前死なずにこの世界に留まってみようと決めたんだ」


 急に生き生きとしだしたアンリを珍しい物を見る目で見るも、彼女は気付いてないのか饒舌に言葉を紡ぎ出す。


「この世界に絶望し拳銃で頭を撃ち抜いて死のうとしてる私の前にふらりと現れてこう言ったんだ。『自殺?いいよ。見ていてあげるからしなよ自殺』ってさ。だが、こめかみから脳漿が吹き出るイメージをするだけで引き金に掛かった指が動かなくなってしまった。するとあの人は私の拳銃を奪って言ったんだ。『手本を見せてやる』って。そう言って自分のこめかみに銃口を当てて、何の躊躇もなく引き金を引いたんだ。腰が抜けたよ。こめかみに鉛玉を受けても微動だにしないその姿は怖くもあったが、同時に憧れてしまったんだ」


 言わずともアンリがリーダーに陶酔してる事がよく分かった。


「それで、お手本の後は? やったのか?」

「撃ったよ。度胸試しのつもりで一発ガツンとね。緊張と衝撃で気絶したが、目覚めたときにはベッドの上だった。度胸と頑丈さを認めて貰えたんだ。行く宛が無いならうちに来いって言われてさ、この世界で唯一の居場所が出来たようで、それが何より嬉しかったんだ」


 そして、リーダーの話な一つの区切りがつくと、アンリはまた肩を落とした。


「だが結局、仕事が合わずにこのざまさ。変わる機会はあってもそれを受け入れられる器量が私にはなかった。まったくもって、自分に嫌気が差すよ」

「いいじゃねえかよ。無理して変わろうとする必要なんてないさ。俺はまだ変わりたいとか考えたことないぜ? 俺にはさ、精神汚染のスキルがあるから戦うときとかは割と気楽なんだ。でもそうでない時はお前と一緒さ。死にたくはないし出来るだけ戦いたくもない。でもレベルが低いと生きられないから戦ってレベルを上げるしかない。人を撃つのが平気な奴なんてそうはいない。俺の場合はスキルで紛らわしてるだけの話だよ」


 こうして振り返ってみると短い人生でどれだけ生死を彷徨ってきたことか。今生きてる事すら不思議に思えてくる。


「俺も偶に自分が嫌になる。薬がなければ何も出来やしないし、きっと死んでるだろうからさ。でも俺は今の方が楽しい」


 静かにアンリが首を傾けこちらを見つめてくる。彼女からしたらおかしな物言いだろう。それは分かっている。


「なぁアンリ、自分が何なのか考えた事ってあるだろ? 日が短い俺でも考えるんだ。お前にだってある筈さ」


「あぁ、あるさ」とアンリは即座に答えた。

やっぱりと思いながら、俺なりの考えをアンリに向けた。


「俺らはさ、何でもないのさ。日本人でもない。ゲームのアバターでもない。家族もいない。学歴も職歴も、生まれ故郷すらない。でも確かなことが一つある。俺達って存在がここに生きてるってことだけは胸張って言える。何もないからこそ、これからどう生きるか自分で決められるんだ。何になるかも自分で決めることが出来るんだ。それってさ、凄くワクワクしないか?」


 暫く呆けた顔でアンリは考え込む。彼女からの言葉を待つ間、正直不安だった。

 アンリと俺では、この世界に生まれた経緯が大きく異なるからだ。それに、今の彼女はブラックリストの人間で、俺の言葉は彼女にとって一概に呑めるものではなかったからだ。

 そんな不安を紛らわしてくれるようにアンリは苦笑し、俺の肩をポンと叩いた。


「呆れる程前向きな意見だな。もしも、二年前に君に会えていたらもっと違う人生を歩めていたかもしれない。だがそんなたらればに何の意味もない。今の私の姿がこの二年を歩んできた自分そのものだ。この二年間の人生を否定はしない。今の私がいるのはそれまでの軌跡があってのことだから。大事なのはこれからさ。私もようやくスタートラインに立ったってところか。バッキー、君の言葉を信じてみたい。私も、君と一緒にこれからの人生を歩んでいきたい」


 肩の重荷が降りたような気分だった。ほっと一息ついて俺もアンリの肩を叩き返した。


「俺もさ。二人で一緒にな」


 くつくつと二人揃って気味の悪い顔して笑っていると、先刻の戦いがウソのようで、それが可笑しくてお互いバカのように笑いあい、健闘を讃えあった。


「疲れたな」

「ほんと疲れた」

「お互いボロボロだな」

「鼻の骨へし折ってやった」

「たくさん撃ち込んでやったさ」

「終わってみれば楽しかったな」

「………そういうことにしておこう」


 ふらりふらりと、時間をかけて階層を上っていく。話す時間は沢山あった。

「俺だって手から火の玉やレーザー撃ちたいさ」と愚痴るとアンリからは「諦めろ」と冷たく言い切られた。

「君が話せる英語ってファックとシットぐらいだろ?」と小馬鹿にされたら汚い英語で罵りあったが完膚無きまでに叩きのめされた。ショックだ。


 そして、三階層を過ぎた辺りで話の種も切れつつあったところで、俺は意を決してこの世界に来る前の話を切り出した。


「椿葵、それが昔の俺の名前。そんで、渾名がバッキーだったからハンドルネームによく使ってたんだ」

「あぁ、てっきりAVメーカーから取ったのかと思ってたよ」

「間違っても二度とそれを言うな。知ってたらもっとましな名前にしてたっつの」


 そんな当たり障りのない事でアンリは可笑しそうに笑い、次は自分の番と言わんばかりに嘗ての名前を口にする。


「衛藤杏理、それが私の名前だった。アンリはそのままでエッタは衛藤をもじったもの。この名前を口にするのも懐かしいな。もう遠い昔のようだ」


 懐かしむように笑いながら、アンリの目の端から涙が流れ落ちた。


「後悔がないと言えば嘘になる。だが起こってしまったことだ。遅くなったが私は受け入れるよ。君と生きる。リーダーとドクターとアシュリーとザグールと、共に生きて共に死ぬ。それが私の運命だ。こうして君と出会えたこともきっとそうなんだって信じるよ」


 肩に回った腕が少し強張っていた。励ましの言葉を考えてるうちにアンリは袖で目を拭い、そのまま腕の端末を操作し、自身のステータスの画面を開くと俺に見せてくる。


「これは私自身への誓いだ。二度と君を裏切らない。この力、君とパーティの為に使う」


 それが彼女の意志なのだと思った。見せられたステータスを見ると、そのランクの高さに舌を巻いた。


 アンリエッタ・スカーレット

 Lv.5

 種族:人間

 装備品:なし

 メインクラス:スナイパー

 サブクラス:アサルター

 体力:B+

 筋力:B+

 耐久:B+

 敏捷:B+

 幸運:E

 魔力:-

 スキル:気配察知B 冷血B 真眼A 速射C 弓術C


 流石、ゲームのスキルをそのまま引き継いだだけはある。ステータスだけ見れば百戦錬磨の冒険者だ。

 それだけにアンリも複雑な気持ちだったのかもしれない。はたから見ればアンリは一流の冒険者だが、実際のところ銃を握ったことすらない少女だったのだから。


「お前が味方になってくれて、本当に心強いよ」


 そう考えた上で俺はアンリの顔を見て言うとアンリは「うん……ありがと」と、自信のなさそうな声で何度か小さく頷いた。


「俺のも見るか? 生憎お前のと比べて見映えしないが」

「いやいい」


 どっちみち端末がぶっ壊れてたから確認しようがなかった。

 レベルは上がっただろうか。少しは強くなれただろうか。

 すっかり本来の目的を忘れていたがそれはそれで特に問題ではない。

 アンリと仲を結べたというだけで今回地下迷宮を訪れた価値はあっただろう。


「ただ、地下迷宮はもういいな」

「あぁ、もう来ないでいいな」


 それからは、どうやって帰ったのか覚えてない。意識は混濁とし、アンリの声も届かなくなった。

 ただ、一つ確信して言えることがあるとしたら、それは明日も目覚めるであろうこと。

 俺の隣にアンリがいてくれるから、彼女とようやく仲間として分かり合えたような気がした。だからこそ、俺が眠ってしまっても彼女に全てを任せられる。


 毎度ボロボロだ。だからこそ、生きている実感がする。

 これでは『いつ死んでも可笑しくはない状況』からはいつまで経っても抜け出せないような気がする。でもそれでいい。嫌々言いながらそっちの方が楽しい気分になる。

 精神汚染の影響だろうか。それともそういう風に俺自身が変わっているのだろうか。どっちでもよかった。この生活に確かな充足感があるのだから。

 とても安らかな気持ちで俺の意識は完全に落ちていった。

地下迷宮編これにて終了です。

次回からゆったり新章突入していきます

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