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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
Underground Labyrinth and Sniper

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共に生き、共に死ぬ

 それは確実にこっちに飛来してきていた。遥か彼方からでも耳朶を打つ轟音はそれの脅威を物語っているようだ。

 逃げ切れるか考えていると、それを見透かすようにアンリは高笑いを上げ、俺に目を向けてくる。


「無理無理、今から逃げたってもう間に合わないよ。あのゲームをやってたなら超小型弾道ミサイルって言葉ぐらい聞いたことあるだろう?」


 背筋に怖気が走った。

 超小型弾道ミサイル、それは誰もが一度は手にすることを夢見る代物だ。

 ひとたびスイッチを押せば目の前一帯を焦土に変え、モンスターは灰と化し、被弾したプレイヤーは死ぬ。俺の知る限りでは、個人で所有することが出来る兵器で最高クラスの破壊力を誇っている。

 ぶっちゃけた話、課金アイテムだ。


 そんなもんをこの状況で撃ち込まれたのなら先ず諦めるしかないんだろう。ただ、これはゲームではない。諦めて死んだらそこで終わりだ。それに、このまま素直に死んでやるのは癪でしょうがない。

 抱きかかえていたアンリの服の襟と裾を掴みあげる。これはほんの些細な俺からの抵抗だ。


「悪いが、俺とお前とでは根本から考えが違うんだよ」


 俺の走り抜けてきた道を振り返る。俺を抱きしめるアンリの腕を無理矢理振り払い、思いっきり身体を捻り、腕に力を籠める。


「共に生き、共に戦い、共に死ぬ。それが俺の理想だ。だから今お前とは絶対に死ねないんだ」


 そして、狙いを定めるとハンマー投げよろしくアンリを放り投げた。

 ミサイルにも負けず劣らずの勢いで飛んでいくアンリを眺めて満足気に頷き、彼女が着地に失敗し、地面に叩きつけられるのを確認すると拳を固めガッツポーズした。

 とはいってもアンリにとってはかすり傷にも満たないダメージで、直ぐに起き上がりこちらを睨んで声を張り上げる。


「無駄だと言った。この程度の距離では私を逃すことは……」


 残念ながら彼女を遠くにやる事が真の目的ではない。

 俺が通ってきた道、すなわちそこはウッドロックゴーレムの大群が埋まってる地点だ。アンリが突っ込んだのはその中心に当たる場所だ。

 そんなところに一人の少女が降り立ったとなれば否が応でもゴーレム達は起き上がり、アンリに意識を向ける。


「えっ……嘘」


 四方八方ゴーレムに包囲されるその姿は、遠く離れたここからでもアンリの焦りが見えるようで笑みが抑えられなかった。

 雪崩れ込んでくるゴーレム相手に抵抗虚しくアンリの姿は岩の怪物に埋もれて見えなくなる。


「そこでそいつらに守られてな、お姫様」


 まぁ彼女なら死にはしないだろう。少なくともミサイルが降ってくるまでの時間は。


「さぁてと、こっからは賭けでしかないが」


 肉眼で確認出来るぐらいにミサイルが迫ってきている。手立てを打つ時間はない。

 あるのは覚悟を決める時間だけ。爆風で吹き飛ばされても全身を熱で焼かれても、決して死ぬもんかって心に決めるだけだ。


「よし決めた。帰ったら丸一日寝よう」


 サクッ、と軽い音を立てて地面に白銀の弾頭が突き刺さった。

 腰を落とし、腕を顔の前で交差し防御姿勢を取る。

 刹那、紅蓮の閃光が俺を包み込み、次の瞬間、目の前が真っ白になる。痛いとか熱いとかそんなもの、何も感じなかった。人が死ぬ前に思い浮かべる走馬灯というものもなかった。

 これは果たして人間が死ぬ瞬間なのか。

 徐々に感覚が薄れてくる。意識が途切れそうになる。脳が焼けて溶け落ちる。思考が焼き切れ、真っ白な景色が焼け焦げ、無の世界が侵食し始める。視界を黒が覆い尽くし、やがて何も感じることなく眠りにつくその瞬間のように意識が閉ざされる。

 前に何度か味わったことがある気がする。これが死というものなのか。それを認識する間もなく、俺の意識は消失した。








「……ボヘッ! ゲッホ! アアヤベッ!!」


 地獄の門が見えた。どういう理屈かわからんが、何あれ、俺は生きていた。

 焼けた肌に金属やら泥やら食い込んで自分の身体ながら目も当てられない状態だ。空気に触れるだけで激痛が走る。目の前は霞み、喉が酷く乾いていて声がまともに出ない。

 鼓膜も半分吹き飛んだか音すらまともに拾えないが自分の心臓の鼓動だけははっきりと聞こえてくる。

 意識をしっかりと保ち、身の周りを見回す。

 周囲一帯は焦土と化していて数秒前までの青々とした景色が一転して地獄模様となっていた。

 熱いし空気も薄いし、今すぐにでもここを離れてしまいたかった。

 完全にボロ切れとなった服をかき集めて俺は焼け野原の中で、不自然なまでに岩の積み重なっている場所へと足を運ぶ。

 歩くだけでも死にそうだ。あの女を殴ることも今日は難しいか。

 ふらりふらりとおぼつかない足取りで俺はそれの目の前までやってくると最後の力で岩の塊を転がして退かしていく。

 かつてゴーレムだった岩を幾つか退かすと、そこにはアンリがゴーレム達に抱擁されたまま安らかな顔で眠りについていた。

 嬉しいようなむかつくような、そんな気持ちを胸に俺はアンリの折れた鼻を足先でつつくと、彼女は面白いぐらい予想通りの反応で飛び起きる。


「いたいいたい! 鼻はやめろって、折れてるんだから」


 重傷の相手にミサイルを撃ち込んできた女が言うには少々説得力がないと思うが今はそれは置いとくとしよう。

 俺の顔を見るやアンリは表情を凍り付かせた。顔の方もさぞ酷い有り様なのだろう。


「化け物か君は? タフネスなんて言葉じゃ説明がつかないぞ?」


 ただただ頑丈だったって説明しか出来ないわけだが、その前に一つアンリに確認を取ることにした。


「ヴッヴヴ……マダヤル?」


 喉をやすりに掛けたような声で俺はアンリに問いかける。

 そんな問いにアンリは、一つ間を置くように俺に小さな筒を差し出してくる。


「とりあえず水でも飲め。声が酷く聞き取り難い」


 一瞬毒かと疑ったが、そんな回りくどい真似しなくとも今の俺を殺せると考えればそんな心配は不要とすぐにわかった。

 水筒の中の水を一気に飲み干し、大きく息を着く。するとアンリは先の俺の問いに対する答えを口にした。


「完敗だよ。清々しいまでに私の負けだ。思惑は外れ君には殺して貰えず、最後の手段の無理心中も失敗してしまった。これは君への敬意だ。正面から私の計画を捻じ伏せた君へのな。これ以上は君への侮辱に他ならない。それは私自身が許せない」

「知ったことか」


 どっかりとアンリの目の前に座り込み、彼女の鼻先を枯木のような指先で弾く。小さな悲鳴が上がり、アンリは悶絶し顔を抑えて蹲る。

 涙目でこっちを見つめてくるアンリの胸倉を掴みあげ目前まで引き寄せると、今にも噛み付きそうな喧噪で彼女に告げる。


「敬意だ侮辱だ興味のないことをごたごた抜かしやがって。お前はもう自殺する気も俺を殺す気もないってことでいいな?」


 アンリは真っ赤に腫れた鼻をおさえながら無言で何度も頷く。

 一安心ってとこか。気を緩めるだけで意識が飛びそうだ。喉も回復したが喋ってればまたすぐに潰れてしまうだろう。その前に伝えるべきことを伝える必要があった。


「死にたいなら一人で死ね。お前が死んだら悲しいだろうし泣くかもしれねえさ。でもよ、これだけは言っておくぞ」


 息を思いっきり吸い込む。ここで叫んだら確実に喉が潰れるだろうと直感したが、叫ばずにいられなかった。それを伝えるためにここまで来たのだから。


「生きようとしてる奴の、邪魔すんじゃねぇ!!」


 身体のあちこちから悲鳴が上がりだした。終わりにしよう。ここで死ぬのは勘弁だ。


「俺は俺の人生だけで手一杯なんだ。相談には乗るが無理心中なんて御免だ」


 手を離し、ふらりと立ち上がる。

 今すぐここを発ちたがったが、当のアンリは委縮したように膝の上で拳を固めて震えている。


「わかってたさ」


 しゃがれた声で呟くアンリの瞳には大粒の涙を浮かんでいた。


「間違ってることだってことはわかってた。でも止められなかった。この世界に来て初めて心の底から楽しかったから。これこそ私が望んでる事だって身体がわかってたから。最期ぐらい好きにやりたかった。わかってたんだ……こんなの間違ってるって。ごめんなさいバッキー、許してくれとは言わない。ただ、謝らせてくれ」


 何度も謝っては啜り泣く彼女の姿は今にも消え入ってしまいそうで、その弱々しい姿こそが本来のアンリの姿のようにも見えた。


「許すよ。帰ろうぜ」

「…………うん、ありがとう」


 それ以上に俺はやっと彼女が打ち明けてくれた事が何より嬉しかった。

 アンリと腕を絡ませ肩を貸し合うと、互いに立ち上がる。そして、ゆっくりと一歩ずつ歩き始めた。


「出口まで死なないよね」

「俺を誰だと思ってんだよ? 死なないと決めたら死なないんだよ」

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