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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
Underground Labyrinth and Sniper

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終わりを告げる音

 襲い掛かってくるゴーレムを容易くいなして一匹、二匹と両手に捕まえ前面に突き出してゆっくりと走り出す。

 ひどくゆっくりと四肢を振るって暴れるゴーレムを気にも留めず、進行方向のゴーレムを一体、二体と次々巻き込んで一つの大きな塊となりながら直進する。

 ゴーレム同士、体の根が絡まり合うことでばらけることなく一つの集合体となって一直線に進んでいく。

 全身に目一杯力を込め、一つの塊となっているゴーレムを押していく。

 不格好ながらゴーレムの盾の完成だ。あのライフルの弾を受け止めるとまではいかなくとも軌道を逸らすことぐらいにはなるか。

 そう思った矢先、前から凄まじい衝撃が走る。

 アンリが撃ってきたと気付くより早く、ゴーレムの盾を貫いた鉛玉が俺の顔の数センチ横を通過していった。


 やばいと思うより、そのスリルに少しの興奮を抱いて俺は瓦解しかけているゴーレムを押し、更に足を踏み込む。

 砕けた分だけゴーレムの盾は軽くなり、それだけ速度も増していく。

 爆音のような銃声が聞こえるのとほぼ同時にゴーレムの盾が更に消し飛び、貫通してきた弾丸が肩に掠める。

 肩の肉が一部消し飛んだのを感じる。肩から熱が噴き上がるようだった。どうってことはない。気に留めることなく走り続ける。

 列車のように重なっていたゴーレムがたった二発で薄壁一枚まで削られていた。瓦解したゴーレムの亡骸を振り散らし、同時に軽量化したゴーレムの盾を持って駆け出す。

 ここまで軽ければ最高速に近い速度が出せる。足が軽い。余計な血が抜けて脳が冴え渡るようだ。

 銃声が響いた瞬間、反射的に足がステップを踏む。

 ゴーレムとダンスを踊るかのようにターンする。その直後すぐ傍の地面が弾丸によって弾け飛ぶ。


 俺の数え違いでなければ今ので五発。獲りに行くなら今しかない。

 ゴーレムの腹の中央に両手を突き立て、そのまま二つに裂く。悲鳴もなく事切れたゴーレムの残骸を両手に取る。バカでかい岩の塊に指を突き立て、砲丸投げのフォームのように腕を肩に引っ込め、身を屈める。

 アンリがリロードを終えるまでの数秒、ここで勝負に出た。


「くたばれや!」


 人間投石機なんてものがあるならきっとそれは俺のことだろう。限界まで引っ込めてた腕のバネを一気に解放し、アンリへ岩を射出、指を離れた岩が弾丸さながらの速度で飛んでいく。

 ほぼ直線上に飛んでいった岩がアンリの佇む丘に直撃し、砕けた岩の破片が散弾のように飛散する。

 アンリの状態なんて知ったことではない。もう片手に持った岩をすかさず投擲する。

 何の迎撃もなく、岩は同じようにアンリの狙撃地点に直撃し四散する。

 やるなら今しかないと確信するや俺は一度だけ肺一杯に空気を取り込み歯を食い縛る。

 これが今日最後の加速、最後の勝負、命を賭ける時だ。


 地を蹴ったその瞬間、アンリの姿を点で捉え一気に景色がすげかわる。彼女との距離がぐっと縮まっていく。

 脚に力を込める度に剥き出しの身体から血が霧のように噴き出てくる。

 真紅の線が後を引く様ははたから見てばさぞ綺麗な事だったろう。もはや感覚なんてない。あるのはアンリを殴り倒すという短絡的思考のみだ。

 行く手を阻むゴーレムを二、三匹片手で弾き飛ばしながら、助走の道筋を確保し、同時に大まかな到達地点を定め助走を開始する。

 後はなるようになれだ。

 短く踏み切ってから軽く、でも大きくステップを踏んで、次の踏み込みの瞬間に俺は脚のバネを全て解放した。

 そこから先は俺がどんな軌道を描いて跳んだか、よく覚えていない。

 洒落にもならない風圧で身体が吹き飛びそうでそれどころじゃなかった。ただそれが人生最大の三段跳びだったこと、そして上空から捉えたアンリの呆け顔はこれから先決して忘れないだろう。


「アーンーリィィィ!!」


 五百メートルもの跳躍、目測通りアンリの頭上だ。当のアンリは既に弾倉を対巨竜ライフルに装填していたが最早そんなことは些細な問題だ。

 初めてお目にかかる対巨竜ライフルは、アンリのような少女では決して持ち上げる事も出来ないような大筒を無理矢理狙撃銃に作り変えたような歪さをしていた。

 持ち上げられるわけねぇ。ましてや俺を狙撃するなどまず不可能だ。不可能な筈なんだ。


「はぁ……せやッ!」


 アンリらしくない猛々しい叫び声が轟くと共に、彼女の腕の筋肉がこれまで見せたことのない躍動を見せると、超重量のライフルを持ち上げ、その銃口を俺へ向ける。

 出来っこないって俺が考えてるからこそ彼女は実行してしまうのだろう。本気で勘弁して欲しい。

 この近距離、俺は空中、彼女が外す可能性は限りなく零に近い。

 俺に残された選択肢は、正面突破しかないわけだ。

 アンリが俺に銃口を向けると同時に俺は片脚を折り畳んで、もう片脚を天高く振り上げる。

 思い出すだけで傷口が疼く。あの弾丸を生身で迎え撃つならここしかねぇ。


 一瞬、時がスローで流れたような気がした。はっきりと視線が交わり、彼女が憐れむ様微笑みながらに俺を見上げ、ぽつりと呟いた。


「嗚呼、なんてバカな男なんだ君は」


 引き金の引く音、撃鉄が薬莢を叩く音、火薬が炸裂する音、はっきりとした感覚が全てを聴き取り、弾が発射されるタイミングで俺は踵を振り下ろした。

 全てが元の時間で動き出し、爆速で飛来した弾丸と俺の踵がぶつかり合う。

 瞬く間に足の骨が粉々に砕けていった。弾丸は止まらない。足の骨肉を貫通し弾丸が眼前へと飛び込んできた。


 上空で盛大に血の花が散った。赤に塗れた物体が凄まじい速度でアンリの目の前に落ちてくる。

 彼女は勝利を確信していた。それでも落下してきた物体がどういう状態かは彼女の眼が瞬時に把握してしまう。

 だからこそこの距離、心臓の脈動を彼女が見落とすなど先ずあり得ないことで、ましてや五体満足であることなど彼女にとって想定外だった。


 慌てて腰の拳銃を抜き、俺の頭に銃口を向けるが、もう遅い。

 引き金を引くよりも俺が銃身を掴んで銃口を逸らす方が遥かに速い。乾いた発砲音が俺とアンリの間で響く。

 口にくわえた対巨竜ライフルの弾を吐き捨て、血に塗れた口で笑みを作り頭を上げる。


「この距離は銃じゃないだろアンリ?」


 ゴスッと鈍い音が響き、アンリの顔面に頭突きをかます。

 血塗れの額が彼女の額に激突し血の糸を引く。たまらず彼女は銃を手放し千鳥足で後退り、無言で俺を睨み付けてきた。

 やっと楽しくなってきた。そう思い、俺は大袈裟に両腕を広げ見栄を切るように話を切り出した。


「さッ!ここなら邪魔はこないぞアンリ。何でも自由に出来る。死ぬまで殴り合ッてもいいし、白旗上げて俺に殴り倒されるのもいい。何なら本音全部吐き出しちまってもいい。散々楽しませてもらったからな。今度はこっちがお前を楽しませてやろうじゃないか」


 銃を片手に俺はアンリに微笑みかけてみる。

 彼女は無言のままそれを嘲笑うかのように、腰からもう一丁の銃を抜く。思った通りの反応だった。


「楽しむも何もない。私が君を殺して終わり――――」


 彼女が言葉を遮るように銃声が響き渡り、自分でも驚く程の精確さで彼女の持つ拳銃に弾丸を撃ち込み、彼女の手から弾き飛ばす。

 瞠目するアンリを制するように指差し、俺は声を抑えて彼女に告げる。


「そういう言葉は聞き飽きたんだよ。俺を見ろよアンリ。全身の皮が剥げちまってよ。腹に穴が空いて足は半分吹っ飛んで使いものにならないときた。分かるだろ? 本気でキレてんだよ俺は。その出鱈目しか言わねぇ口を今すぐふさがねぇなら、このクソでけぇ拳をてめぇの顔面に叩き込む」


 気圧されたようにアンリは口を紡ぐと、暫し無言の時が訪れる。

 考え事をするように頭を左右に揺らし、そして、不意に不敵な笑みを浮かべると、愉快そうに言葉を返してくる。


「……驕るなよバッキー、この状況でも優位なのは私だ。自分の身を見てみろ。立ってるだけで精一杯の風体だ。押しただけで今にも逝ってしまいそうだぞ」


「なら試してみればいい。だが丸腰のお前にそんな度胸があるようには見えないがな」


 また無言の時が訪れる。ただ、それも長くは続かなかった。

 アンリはジッと俺を見つめると、ふっとどこか冷めた表情を浮かべ


「この間合い、狙撃手の私には少々部が悪い。ただ君のその足で私を追ってこれるとは考えにくい」


 アンリの言葉から、彼女が次に何をするのかすぐに理解した。

 次に思っていた通り、アンリはと踵を返し臆面もなく走り出した。その姿にはっきりとは言い表わせない落胆の感情を抱いていた。


 大馬鹿野郎と胸の中で呟き、懐からワイヤーフックを抜き、アンリ目掛けて射出する。

 ワイヤーが蛇のように唸り、先端のアンカーがアンリの背後から肩を貫く。


 悲痛な叫び声が上がったが、俺は気にも留めることなくワイヤーを掴んで力一杯引っ張り上げる。

 ゴーレムに比べればアンリの体重なんて無いにも等しく、彼女の身体が宙に浮き、ぐんと勢い良く引き寄せる。

 空中でじたばたもがくアンリを手元まで引き寄せると首根っこを掴み上げ有無を言わせず地面に叩き付ける。苦悶の表情を浮かべるアンリに向けて笑いかけ、俺は拳を振り上げ、


「言いたい事が山程ある。だがその前に歯ァ食いしばれや」


 彼女の顔面に力の限り振り下ろした。

 鈍い音が地下迷宮全体に響き渡る。それは彼女の積み上げてきた優位を突き崩すには充分な一撃だった。

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