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プロローグ

 西部劇のような街並みの中、一軒の建物の陰で俺は身を潜めていた。

 粗い呼吸を繰り返しながら、手に持った得物の自動小銃、AK-47の弾倉を交換しつつ、周囲を警戒する。軒並みの中央に大の字で寝っ転がる二つの死体は今まさに自分が激闘の末殺めたものだ。

 此処に来るまでにもう一人を倒して来たがその所為でもう予備の弾薬が無くなってしまった。バックアップの拳銃も交戦中に給弾不良で使い物にならない始末で見事なまでに手詰まりだ。


 だが敵は全部で六人、つまり半数は俺が倒してきたのだ。俺にも仲間が五人いる。流石に何人か生きてるだろうし何人か敵を倒したと信じている。

 俺は右腕に装着した端末を操作し、戦況を確認する。端末の液晶から立体的な画面が浮かび上がり、仲間の状態を確認した。そして、絶望にも近い落胆が脳裏を駆け巡った。

 それは端末に表示された五つの『DEAD』の文字。


「あぁマジかよ……」


 そして更に悪い事に残りの敵は三人とも未だ生存ときた。

 俺は慌てて端末を切り、銃を取ったが何もかも遅かった。

 俺のAK-47の横っ腹を数発の弾丸が打ち抜き、瞬く間に俺の愛銃が粗大ゴミへと変貌した。


「ヒャッハー! 最後の一人だぜぇッ。それも丸腰だぜこいつ」

「いいから早く殺ろうよ」


 声の方に顔を向けると、モヒカン頭に棘付き肩パッドに火炎放射器と、完全に世紀末ファッションな男と、迷彩柄の軍服を着て用心深く軽機関銃を此方に向ける少女が陽光を背に立っていた。


 完全に詰んでる。笑えるぐらいに。

 それでも俺は最後の悪足掻きとばかりに胸の前に提げた手榴弾を取り、ピンの抜けたそれを振りかざした。


「お前ら全員×××して――――」 


 俺が言葉を言い終えるより早くに手榴弾を持った俺の手が彼方に吹き飛んだ。それが狙撃手(スナイパー)による狙撃だと気付いたと同時に二発目の銃声が轟き、俺の視界は暗転した。







 『ウォーリアーズ・シックス』――略称、WS。

 今では数多く存在するVRMMOの一つだ。スキルと近代兵器を駆使してだだっ広いMAPを旅してモンスターを狩るも良し。或は拠点の街に籠ってプレイヤー同士で仮想戦闘を繰り広げるのも良しという、少し変わったガンシューティングゲームだ。

 ただ、ゲーム開始時にメインとなる役職のメインクラスとサブの役職のサブクラスの選択を迫られ、その組み合わせによってプレイヤーの能力値も取得できるスキルも異なってくる。


 役職は全部で六つ。

 アサルター

 スナイパー

 クラッシャー

 メディック

 ウェポンズマン

 スパイ


 この中からメインクラスとサブクラスを選ぶわけだが、その能力値はメインとなるクラスに偏ったものとなり、サブクラスは補正的に能力値に加算される。言わば弱点を補ったり、長所を伸ばしたりする為のものだ。


 多様な武器を扱い、攻守共にバランスの取れたアサルター。


 唯一狙撃銃を使うことが出来る遠距離向けのスナイパー。


 機動力を殺し、破壊力と耐久力に特化したクラッシャー。


 唯一仲間を回復させることが出来るメディック。


 暗殺、諜報、変装を得意とするスパイ。


 武器を作製することで仲間をサポートするウェポンズマン。


 それに加え多種多様なスキルから多彩な戦術とスタイリッシュな戦闘を繰り広げられるもので、それがこのゲームの売りでありこのゲームが人気である最たる理由だ。


 俺はメイン、サブ共にアサルターのバリバリのアタッカーだ。


 俺、椿葵(つばきあおい)ことユーザネーム『バッキー』は途方もなく拠点の街を歩いていた。

 隣には友人の鈴木君が並んで歩いていた。


「いや惜しかったねぇ。相手はメディック2人体制だったから長期戦になると不利になることは分かってたんだけど、クラッシャーの守りも堅いし、スナイパーもエイム上手すぎだしどうしようもなかったよね。多分あの感じだとクラッシャーはプロだよ」


 仕方なかったと言いたげな鈴木君に対して、俺は不機嫌気味に口を尖らせた。


「いや勝てたっしょ。こっちはアサルター3人だし、機動力で掻き回せたしさ。俺と鈴木君で最初にメディック1人落としたのを起点に出来たのに、他の奴がクラッシャーにびびっちゃったのがダメだったって。スナイパーも全然ヘッショ当てられないしさ」

「僕等も立ち回り良かったけど、その後バラけさせられて各個キルされちゃったし、そこはダメだったんじゃない?」

「あー、アレは完全にミスったね」

「バッキーもアサルトライフルに拘らなくても良いんじゃない。最近調整入ってDPS下がっちゃったじゃん?」

「ステが中距離特化何だしサブマシンガンとかシャッガンよりライフルの方が良いっしょ? それにあるじゃん? 使い心地みたいなやつがさ」

「まあねー」


 特段肯定するわけでも否定するわけでもなく鈴木君は呑気な声を上げる。

 仲間責めてもしょうがないか、と俺も考えを少し改めた。とはいっても今のままの負け越しがちな戦績から脱するには俺と鈴木君以外の人間も全員パーティで固めるしかないが、そうも上手くいかない。

 鈴木君は大学の友人だ。偶然WSやってると知り合った仲なだけあって他の人間も知り合いがいいがそう都合よくいはしない。


「もっと良い仲間落ちてねえかなあ」

「ははは、そしたら喜んで拾うんだけどね」


 2人で簡単なクエストにでも出るかと、俺達は拠点の集会所に足を運んだ。


 暫くは鈴木君とデュオか、などと思いながら集会所に足を踏み入れると、視界がぐにゃりと歪みだし、景色全体が湾曲しだした。

 気持ち悪い。バグか?いままでこんなことは一度もなかったのに。だが暫くそのままにしているとすぐに収まり、いつもの酒場の風景が戻った。


「なんかバグった?」

「いや? 僕は別に何もなかったよ」


 鈴木君は別になんともなかったらしい。俺だけのようだ。

 いったい何だったんだ?

 頭捻って考えても分からない。ただの不具合ならいいんだけど、何だか変な感覚だった。他人に頭の中見られてるような妙な感じがする。

 気晴らしに何か食べるか。カウンターに腰掛け、いつもより豪華な飯を頼むことにした。

 NPCのおっさんの気さくな言葉を聞き流しながら俺はぼんやりと思った。


 気が合って強い仲間、どっかにいないかな、と。

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