第3話 図書館の利用方法
フィリップから受け取った鍵は淡く輝き、鈍い錆色から白銀に姿を変えた。
そして逆手の虹色の珠は消える。
「賢者としての登録は完了です。では、この図書館のご利用方法を説明いたします」
この図書館に来れるのは意識が無いときのみ。
要は寝ているときにここへ来て、手にした鍵で扉を開ければ入れるという。
閲覧は基本的に自由。
本の貸し出しは禁止。
本に書かれているものがサンプルとして存在するものもあるが、それはある条件を満たしていれば貸し出し可。
例えば私が気になった農業の本の一つに稲作というのがある。
米作りの方法が記されていて、サンプルには種もみがある。
サンプル貸し出しの条件はポイント50P消費。
ただし、サンプル返却で50P返還。
どういうことかというと、50P払ってサンプルを借りる。
実際にサンプルを植えて育て、サンプルと同量を収穫した米から返却すれば50Pは戻ってくるそうだ。
また、収穫できると、その農作物の栽培は習得となり、ポイント獲得となる。
米の場合は20P。
サンプルはレア度によってポイント消費率が異なり、習得難易度によって、獲得ポイント率も変わる。
ちなみにポイント初期値は100P。
「なるほど」
仕組みは理解できた。
この世界に農業という考え方はほとんどない。
食材ハンターというのがいて、野生に生えている果物や山菜、獣や魚を取ってきて、市場に並べるのが一般的だ。
しかしここの知識やサンプルを使えば、安定して食材を確保できる。
「さっそく何か借りていこうかな」
面白そうなので、実践してみよう。
元日本人としては米をやりたい。
しかし、米を作るには水田が必要。
水……現在水不足中なのを思い出す。
今年は雨が少なくて、十分な水を確保できないでいるのだ。
今の状況で稲作は難しい。
まあ、山とかあるし、僅かだが湧水出ている箇所もある。
地下水は豊富なはずだから、水路を整えれば水田も可能だろう。
ただし、少し時間がかかる。
「小麦かな」
畑でできて、保存ができて、調理法でいろいろなものが作れる。
「フィリップ、小麦の貸し出しポイントはどのくらい」
管理者に尋ねると、さっと一冊の本と小さな袋を取り出してくる。
「栽培方法はこちらの本。種子はこちらの袋。貸し出しには50P必要です」
米と同じだった。
「ありがとう」
フィリップから本を受け取り、パラパラとめくって速読する。
前世では病弱だったため、本が友達というぼっち生活だった。
そこで身に付けた速読スキル。
「うん、決めた。小麦のサンプルを借りていくわ」
品質面を考慮すれば難しい作物なのだろうけど、そこまで追求しないのなら、素人でもなんとか収穫まで漕ぎつけそうだ。
「了解しました。それでは健闘を祈ります」
丁寧にお辞儀をするフィリップ。
その輪郭がだんだんぼやけてきて……現実へと戻る。
本日2度目の更新です。