第60話 押しかけ貴族
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ミリアがセバスの応援に行ったため、一人自室に取り残される。
「久々だな、この部屋」
使われてもいないのに、ちゃんと掃除が行き届いていて、掃除婦達の勤勉さがうかがえる。
もちろん家具など勝手に配置換えされていることもない。
「確かこの辺に……」
机の引き出しに入れっぱなしの紙を探す。
整理整頓という言葉はよく聞くが、実践されていないため、探し物はなかなか厳しい。
「あ、あった。良かった」
引っ張り出した紙を広げれば、この国の広域地図。
「ふふ、あのおじさん達、本当に不用心」
玄関口でセバスと口論している押しかけ貴族達。
ちょっと窓を開ければ、話の内容が部屋にまで聞こえる。
「ハンス殿は賢者を独り占めしようとしているのか?」
「自分のところが良ければ、後はどうでもいいというお考えなのだろう」
おじさん達の声が荒くなっている。
「本音は自分達が独り占めしたいんだろうな」
他の人達に噂を広げず、こっそりと我が家を訪ねてくるくらいだし。
こういうの、やだやだ。
「ワイバード様、リビオニア様、少し落ち着かれてはいかがですか?」
声を荒げるおじさん達とは対象に落ち着いた声のセバス。
「ワイバードにリビオニアか」
広げた広域地図で、その地名を探す。
貴族の家名がそのまま領地の名称になっている。
探しやすくていい。
「ああ、ここか」
ペンで探した地名に印をつける。
「そこそこ大きな領地だな」
平地が多くて、森が少ない。
これは食料不足にでも陥ってるのかな。
「まあまあ、そんなに熱くならなくとも」
お、別の人の声。
「カリスタイン殿の領地は、森に囲まれ、人口も少ないからそんな風に言ってられるんですよ」
あ、やっぱり食料不足に悩むおじさん達か。
「知ってますよ、おたくの森でも食料が取れにくくなっているのでしょう。貴重な収入源の枯渇に焦って、新たな収入源を探すため躍起になっているらしいじゃないですか」
なるほど、国の食糧庫と言われているらしいカリスタイン。
豊富な食材で領地が潤っていたが、枯渇の危機か。
なんでこの世界の人は、次世代のために残さないかな。
取りつくせば、枯渇するのは当たり前なのに。
で、新たな収入源ね。
確かに賢者はうってつけか。
賢者から得る技術は、扱い方によって大きな利益に成り得る。
「欲に目が眩んだ人は怖いからね」
広域地図のカリスタインにも印をつける。
「貴殿のところだって、似たようなものではないか」
何かがぶつかり合う音。
「カリスタイン様、ヘイゼルス様、おやめください」
思わず身をすくめたくなる程、腹に響くセバスの声。
ああ、ご立腹、最高潮。
とりあえず広域地図にヘイゼルスも印をつけておく。
「諦めが悪くて申し訳ない。しかし、どうしてもユスト様にお会いしたいのです。どうか、お願いします」
苛立たし気なおじさん達の声とは明らかに違う、気の弱そうなおじさんの声。
「クラーク様」
セバスの声も、申し訳なさそうな弱い感じ。
あれ、この人は他の人と違うのかな。
事情が分からないけど、セバスの態度がこの人だけ明らかに違う。
「クラーク……聞いたことある気がするんだけど……」
領内の事すら知らないので、領外のことなど余計知らない。
だが、父様の話に昔出てきたことがあるような……
「同い年の女の子がいる家だ」
そうそう、お隣の領主様の一人娘が私と同じ歳だったはず。
他の近隣領地にいる貴族で、同い年くらいの子がいないため、友達にどうかと父様が昔言ってた。
ただ、元気過ぎて、将来を悲観した両親が、王都にいる祖父母の家に躾のため預けたと。
お友達計画、お流れになった子だ。
「訳アリかな」
うーん、お悩み解決に手を貸したら、お友達計画復活してくれるかな。
幼馴染はやっぱり欲しい。
「よし、そうと決まれば、準備、準備」
まずは、いらないおじさん達にはお帰り願わなくては。
クローゼットから貴族の令嬢が着るような、上等な服を引っ張り出して、街娘服から着替える。
えっと、5歳の子供らしくするには……お手本がいないので、よくわからない。
「……わがままで、甘えん坊ならそれっぽく見えるかな」
父様の贈り物なので、要らなくても捨てられなかった物を押し込んでいた箱から、大きめのぬいぐるみと絵本を持ち出す。
「いい加減、しらを切るのは止してもらおう。娘は賢者なのだろう」
「お嬢様はまだ、幼い子供。大の大人に詰め寄られれば、怯えてしまいます」
詰め寄ったワイバードに、セバスは肯定も否定もせず、会わせられない理由を述べる。
「幼くとも賢者は知識の象徴。我々よりも広い視野を持っているはず。そんな普通の子供みたいな言い訳は通りませんよ」
カリスタインが笑いながらセバスの言い分を切り捨てる。
玄関口まで来たはいいが、突入するタイミングが掴めない。
おじさん達、熱くなった後、うまく冷却出来たのか、落ち着きだしている。
さて、どうしよう。
物陰からタイミングを見はかる様にチラチラ見てたら、セバスの後ろにいたミリアと目があった。
驚いた表情のミリア。
そして私の恰好を見て……盛大なため息がつかれた。
「お嬢様は、普通の子供です。ちょっと迷惑なくらい」
ミリアの声。
「ミリア、ひどい」
ミリアがタイミングを作ってくれたので、ここで乱入。
「わたしの、おひるねちゅうは、そばにいてって、いったのに」
ぬいぐるみを抱きしめて、頬を膨らましてみる。
うん、セバスが気持ち悪い者を見る目で、私を見てるね。
私も気持ち悪いから、いいよ、その目は許す。
「ばつとして、これをよみなさい」
すっと絵本を出す。
ミリアは……ミリアのままだ。
こんな私に、平然といつも通りに接してくる。
「申し訳ありません。お客様がいらしたので、お側を離れてしまいました」
私から絵本を受け取ったミリアが苦笑する。
「おきゃくさま?」
チラリと押しかけ貴族達を見る。
「なあに、おじさんたち」
お昼寝の邪魔されて、不快そうな顔をする。
「お嬢様に会いたいと言われて、困っておりました」
ミリアが淡々と告げる。
「あたしに、ごよう?」
頭を傾げて見上げる。
それにたじろぐおじさん達。
どうだ、どこにでもいる普通の子供だろう。
賢者と話をするつもりで来たのなら、こんな子供とはまともな話なんかできないでしょうとも。
さあ、早く帰ってくれ。
「あ、いや、私は……急用を思い出したので帰らせてもらうよ」
一人がそう言ってそそくさと退散すると、他の人達も同じようなことを言って帰っていく。
クラークを除いて。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
気づかわし気なミリアの声。
うん、その優しさが、今はちょっと痛い。
「自己嫌悪中だから、5分待って」
おじさん達が完全に見えなくなると、ぬいぐるみをギュっと抱きしめ、顔を隠す。
穴があったら入りたいが、ここに穴は掘れないので代用だ。
「だったらやらなければいいでしょうに」
セバスが正論を言ってくる。
「あの人たち、さっさと帰ってもらいたかったし、話を聞いた方がいい人もいたからね」
ぬいぐるみから顔を上げると、呆然としているクラークを見る。
「それより、5歳児って、こんな感じで良かったっけ?」
セバスとミリアに聞いてみると、苦笑された。
「現在、5歳児の人にそう聞かれると困るのですが、5歳よりは幼かったと思います」
セバスがため息交じりに答えてくれる。
「同じ年頃の子が側にいないって不便よね」
基準がわからない。
書き直しました。
何話分も戻って削除するのはさすがにまずいかと思い、出てきてしまったおじさん達を退場させる話になってます。




