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賢者の図書館  作者: ゆるり
第1章
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第25話 会社設立宣言

北部に関する領主権限をもらうと、セバスにアーノン領と周辺が書かれた地図を用意してもらうように頼んだ。

私は南部しか載っていない地図しか見たことなかったから。

セバスには地図に北部と南部と裏手の森の境界線を引いてもらうようにも頼んでいる。

地図の用意を任せている間に、書斎に駆け込む。


「ええっと」

前にアルト対策で見つけた建築関係の技術書。


「あった、あった」

取りやすい場所へと配置替えしといて良かった。

賢者の袋を開けて、シリーズ全巻を収める。


その後は、自分の部屋へ行って、コレクションの果物の種子を全部引っ張り出す。

幸い、まだ植えていない綿花のサンプル袋を持っていた。

この袋に10種類くらいの種を入れ、残りは賢者の袋へ入れる。


「ついでにあれも持っていっとくか」

孤児院の子供達に勉強を教えるために作った教材。

これも賢者の袋に入れる。


「あとは……」

思い付いて、すぐさま部屋を飛び出すと厨房へ駆け込む。


「お嬢様、どうされたんですか?」

慌てた料理人たち。


「ちょっとね。野菜の種とか捨ててたらちょうだい」

フィリップのところからサンプルを持ってくるより、ここで調達した方が早い。

正直、おいしい野菜とかはあまりないが、今は質より量だ。


「ええと、種ですか?」

慌ててゴミ箱を探してくれる料理人達。


「あ、パピコンならあります」

かぼちゃに似た、甘みもほくほく感もない残念な野菜だ。


「アオビンもあります」

インゲンみたいなもので、これはインゲンより柔らかくて甘みも強いので美味しい。


「熟れすぎたトトルトも廃棄したんですが、これにも種はあります」

トトルトは酸味の強いトマトだ。

トマトは……甘みを強くするために、わざと厳しい環境で育てたりすると、前世で聞いたことがある。


「トトルトは洗って種を取り出したものをちょうだい。パピコンとアオビンも貰ってくわ」

すぐに料理人が種を集めて持ってきてくれる。


「今度は野菜の種集めですか?」

微笑ましそうに笑いながら渡された種。

この屋敷の人間なら、私の趣味が果物の種集めであることを知っているので、野菜の種を欲したところで、大した疑問にも思われないないようだ。


「そう。今度から美味しい野菜の種があったら取っといてね」

今までは日本の作物ばかりを育てていたが、この世界の作物も育てていきたい。

食べ慣れたふるさとの味というのも、大切だ。


「お嬢様、お持ちしました」

私を探していたらしいセバスが悠然と歩いてくる。


「ありがとう、セバス。あとは……」

何か忘れていることは無いかと考えて、思い付く。


「北部に私を代表にした会社を1つ立ち上げるわ。それで南部で食材を扱った商売を始めるから、申請書の作成お願い」

領地の運営にはお金がかかる。

しかし、北部の人には税金とか納める余裕などなし。

アーノン家の私財は主に南部の人の税金。

これを使って北部を立て直すのは気が引ける。

なので自分で商売を始めてお金を稼ぐしかない。

幸い食材なら作れる。

南部にも今は十分な食材が市場に並ばないので、商売は成り立つはずだ。


「食材で商売ですか?資金でしたら少しですが出せますよ?」

無理だろと言外に語るセバス。


北部の土地には食材が採れる森はない。

セバスは私が裏手の森で食料を調達して売ると思っているようだ。


「大丈夫。自分の力で何とかするから」

子供の強がりにしか見えないだろうが笑って言えば、それ以上セバスは何も言わなかった。


「わかりました。二ヶ月ほど時間を下さい」

商売を始めるのはそんなに難しくない。

領主に許可をもらえればいいのだ。


この場合はアーノン領の領主になる。

私ではダメで、父様の許可が必要だ。

父様は王都に居るので、申請書を作成して王都に送り、返事をもらって返送してもらうのに2週間あればいい。


しかしユストは未成年。

王城から審査員が来ることになる。

保護者や悪い大人に名義を使われ犯罪に巻き込まれている可能性が高いと判断されているからだ。

まぁ、過去にそういう事件があったから出来た決まりなので仕方がない。

要は私が自分の意志で始めたことだと伝えればいいだけのことだ。


領主の発行した許可書に審査員が確認の印を押して、初めて商売を始められる。

王城の審査員が来るのが早くても二ヶ月かかるだろうということだ。


「わかってる。それまでに商品を用意しないとね。そういうことで、しばらく帰らないと思うからよろしく」

北部から屋敷までの往復がもったいないので、向こうに寝泊まりすることを決めた。


「くれぐれも無理はなさらないでください」

気遣うようなセバスの声だが、何かあれば責任を問われるのは自分なのだから気を付けろと心の声が漏れ聞こえる。


その後ろでは料理人達が「お嬢様の初めての家出か」とか微笑ましい目つきで送り出された。

ちょっといたたまれない気持ちで屋敷を出る。

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