第19話 マヨネーズ
湖畔に積み上げられた成果物の山。
これはさすがに持って帰れない。
さて、どうしよう。
……あれ?
「ミリア、いろいろ果物の新品種作ってたよね。足りなくない?」
持ち込んだ種子の数も多いが、ミリアの絶妙なタイミングの計り方もすごくて、10種類以上は新品種を作っていたはず。
しかし、成果物の山には5種類しかない。
「すみません、とても食べれるような物ではなかったんです」
一応持ってきてはいたようで、おずおずと差し出された。
ああ、確かに。
果肉が固いもの、油分がすごいもの、スカスなもの、食べられそうなところがほとんどないもの。
いろいろある。
鼻にツンとくる酸っぱい匂いのものまで。
レモンのような爽やかな感じはない。
しかし、この果物の香り、遠い記憶に覚えがあるような……
「そうか、これって」
その正体に気付き、コケコを探す。
「ココ、卵貰ってもいい?」
「ココ!」
聞いてみると、ココお手製の籠いっぱいに入れられた白い卵が差し出された。
「あとは……」
菜種を作ったが、代用できそうなものが、失敗作の果物の中に……
「あった、あった」
油っぽい果物を手に取る。
「うまくいくといいんだけど」
そうつぶやきながら、リュックからボールと泡だて器を取り出す。
この世界にも、調理器具が一通りそろっていたことにびっくりだ。
「何をするんですか?」
ミリアが私に不信そうな目を向ける。
とても食べられたものではない果物を使おうとしているのだから当たり前か。
「調味料を作ろうと思ってね」
布も取り出して、固くて脆くて油っぽい果物を包む。
それからおもむろに石でガンガン叩くと……砕けてジワリと油が出てきた。
それを素早くビンに入れる。
絞ると結構出てくるので、この作業はそこまでやらなくても済みそうだ。
同じように酸っぱい匂いの果物も、布にくるんで絞ってみると、柔らかくてよく絞れる。
ちょっと舐めてみたが……うん、まんまお酢だ。
常備しているお塩も出す。
卵黄だけを取り出して、お酢もどきと塩を少々。
ひたすら泡だて器で混ぜ、もったりしたら油もどきを少しずつ加えて混ぜていくっと。
こういうときに魔法があればと思ってしまう。
無いものねだりしても仕方ないので、ひたすら混ぜるべし。
しばらく頑張っていくと、ようやくクリーム状になった。
「結構できるものね」
それっぽい材料でも形になった。
クリームを少しすくって舐めてみると、思わず顔がニヤけてしまう。
すごいじゃないか、私。
「マヨネーズできたよ」
これができると、何かにつけて食べてみたい。
ふと目についたレタス。
ちぎって付けて食べてみる。
「ああ、生きてて良かった……」
心からそう思えるくらいに美味しい。
「ミリアも食べてみてよ」
マヨネーズとレタスを差し出す。
しかし躊躇するミリア。
あの失敗作の果物からできた物なのだ。
躊躇うなと言う方が無理だ。
「心配ないから、早く早く」
この感動を分かち合いたい。
「では……」
恐る恐るといった感じで、マヨネーズを付けたレタスを口に運ぶ。
口に入れた瞬間びっくりしたように、マヨネーズを凝視した。
「なんですか、これ」
うんうん、そうでしょう。
この世界でこんなに感動する調味料なんて無いものね。
「美味しいでしょう、こういうのを作りたいのよ」
お酢もどきの果物を手に取る。
「ミルクも放置するとクリームが分離するんだけど、これはバターが作れるんだ。残った方は、この果実を加えるとチーズができると思う」
私の言葉に目を輝かせるミリア。
やっぱり美味しいものは考えを前向きにしてくれる。
「さて、使い道はまだ確定していない失敗作果物もあるけど、全部フィリップのところに持って行っておこうかな」
後々役に立つかもしれない。
とは言え、やはりこの量を運ぶのは無理。
「ミリア、私、今からここで寝るから、よろしく」
持ち帰れないのだから、仕方がない。
ココから藁をもらって下に敷く。
「ええ?お嬢様、それはちょっと……」
慌てたミリア。
「えっと、ココ達が事情を知ってるから、モウシに通訳してもらって聞いて」
魚の鮮度が気になるので、早くフィリップのところに行きたいのだ。
ごめんとミリアに謝ると、そのまま寝る。
マヨネーズは調味料の王様だと思います。
……決してマヨラーではないですよ。




