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賢者の図書館  作者: ゆるり
第1章
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第5話 自慢の侍女

ベルを鳴らして、しばらくすると部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」

ノックに返事をすると、静かにドアが開く。


「おはようございます、お嬢様」

丁寧なあいさつをする侍女。


「おはよう、ミリア」

まだ年若い私付きの侍女・ミリアは15歳だ。

2年程前からの付き合いになる。


3歳の頃、父様がそろそろ侍女を付けようとか言ったので、私が孤児院から連れてきた。

だって父様や母様の勧める使用人から選ぶと、後々面倒なことになりそうだから。


「ちょっと寝坊してしまったわ、ごめんなさい」

賢者の図書館に初訪問していたため、いろいろな説明を聞いていて寝坊していたのだ。


「いいえ、大丈夫です」

私の寝坊でミリアが侍女長に怒られただろうことに謝罪する。

そんな私にミリアは、花がほころぶ様に微笑んだ。


ああ、目の保養。

孤児院の子供達の中で、一番美人で気立ての良い娘を選んで正解だった。

常に一緒にいるなら癒しになる人がいい。

その一心で孤児だからと渋る両親を説得したのだ。


はっきり言って屋敷の使用人はプライドが高い没落貴族や名家出身が多く、ちょっと苦手だ。

主人一家やお客として訪問する権力者とかには下手に出るが、屋敷に出入りしている商人や平民出身の使用人には不遜な態度を取ったりすることがある。

ちなみに料理人や庭師、掃除婦の人たちが平民出身なのだが、彼らは気取ったところが無くて好きだ。


「あれ、ちょっと顔色悪いわね」

ミリアの天使の微笑みにうっかり見落としそうになったが、いつもより若干顔色が白い。


目の下に隈とか無いから寝不足ではないだろう。

病気……は無いか。

主人にうつすことを最も恥とする侍女達は、体調が悪いと治るまで裏方の仕事に回って、主人の前には極力出ないようにする。


「ちゃんと朝食は食べた?」

一日の始まりはきちんとした朝食からだ。

しかしミリアは私の問いに微笑むだけで答えない。


内心で苦笑する。

たぶん朝食を取っていない。

私が寝坊したことで、侍女長から怒られ、罰として朝食抜きにされたのだろう。


この家の侍女長は没落したとはいえ下級貴族出身で、使用人達の中では一番実家の地位が高い。

それを鼻にかけ、使用人達の贔屓が激しいのだ。

私が孤児院からミリアを連れてきて侍女にしたことを、一番面白く思っていない人物である。

なにせ自分の姪を私付きの侍女にしようと目論んでいたのだから。


「あの人にも困ったものね」

目論見外したからってミリアにあたって欲しくない。

「言っても仕方ないか」

自分が直接または両親を通して侍女長に文句を言うと、ミリアがさらに八つ当たりされてしまう。


「父様達はどこ?」

期待をしないで聞いてみる。


「旦那様は領内視察です」

その言葉にちょっと驚いた。

「父様、まだ領内にいたのね」

てっきり仕事場がある王都に帰ったのだと思っていた。

「食材の値上がりについて調査されているのではないでしょうか。たぶん最後に孤児院へ回られると思います」

その見解を聞いて、しみじみ思う。

ミリアは頭がいいのだと。


貴族の子息達が通う寄宿学校でも、日本の中学校レベル。

役職に応じた専門知識を学ぶ学校でも高校レベルだと思われるこの世界。


前世では病弱で勉強くらいしかやることなかったから、たぶん私は頭がいい方だと思っている。

その私が文字すら書けなかったミリアにこの2年、みっちり勉強を教えたのだ。

元々の素質もあるだろうが、父様の書斎の専門書くらいは軽く読めてしまう程に力を付けた。

そのミリアの見解だ。

信用してもいいだろう。


最後の孤児院は……寄付金の減額交渉かな。

うち、そこまで裕福じゃないからね。

あ、これ、裏の森を手に入れる交渉材料に使えるな。


「奥様とヨハン様は今朝、王都に戻られました」

これは予想通りか。


母様は王都でせっせとコネ作り。

大兄様が成人した時に、いろいろ便宜をはかってもらう魂胆だろう。

18歳で成人になるこの世界で、現在16歳の大兄様。

カウントダウンが始まっているからね。


その大兄様・ヨハンも寄宿学校が王都に近いから、母様についてさっさと戻ったのだろう。

勉強命の大兄様にとって、同級生より勉強が遅れることは恐怖らしいから。


「アルム様は昨夜のうちに騎士学校へと戻られました」

現在13歳の女性嫌いな小兄様。

行動が早いな。


そんな感想が顔に出ていたのか、ミリアが苦笑して追加説明してくれた。

「エレナ様が今回の帰省を聞きつけて、昨晩遅くにいらしたんです。その直前に馬車の音が聞こえるとかで慌ただしく出立されましたよ」

小兄様、危機管理半端ない。

思わず関心してしまう。


あ、エレナというのは小兄様が女性嫌いになった原因である隣の領主様の次女である。

小兄様に一目惚れしたとかで、ストーカーのごとく付きまとい……小兄様はすっかりトラウマ。

美形も大変だと心底思った出来事である。


隣の領主様からエレナを小兄様の婚約者にしてくれと圧力が凄まじいが、父様どうするかな。

エレナは確か14歳だから、小兄様の1歳年上。

……14歳でストーカーとか末恐ろしいわ。

これが姉様になったら嫌だな。

その前に婚約が実現しちゃったら、小兄様この家出ていくかも。


まぁ、いいや。

所詮他人事だし。


「みんな居ないのね。なら、調べものしたいから書斎に行くわ」

まだ幼くて学校にも通っていない、家庭教師も付いていないユストが書斎の本なんて読んでいたら、不信に思われる。

だから家族がいるときには書斎に行かない。

書斎で調べものしたいときは、タイミングが大事なのだ。

使用人なら身分で圧力かけるとかしてどうとでも誤魔化せるが、家族じゃそうもいかないからね。


「そうそう、朝食は書斎で食べるから適当に包んで運んでちょうだい」

忘れるところだった。

侍女長の目が届かないところで、ミリアに朝食を食べさせないといけない。

本日2度目の投稿。

言葉のレパートリー少ないので、サブタイトル考えるの大変だ。

1話、2話……とかにすれば良かったと後悔中。

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