第4話 目覚めて思うこと
ゆっくりと目を開けると、見慣れた天井。
自分の部屋に戻ってきたことを知る。
「もうちょっと可愛らしい管理人だと良かったのに」
目覚めの第一声に、思わず愚痴が出てしまった。
ファンタジーの世界に、キーパーソンのウサギ。
前世の有名な童話に出てくる時計を持ったウサギだって可愛らしかったと思う。
「まぁ、要求したところで、どうにかなるものでもないけど」
無いものねだりは虚しいだけだ。
それよりも考えなければならないことは他にある。
ベッドから上半身を起こして、手に握られた袋を見る。
中を確認すれば、小麦の種子が一握り程入っていた。
「どこで育てようかな」
種まきの時期や育成環境、収穫時期などの記述は本に無かった。
載ってたのは種のまき方、育成方法、収穫方法のみ。
たぶんこの種をまくのに、時期や環境は不要ということなのだろう。
この世界でも農業らしきものは僅かながらに存在する。
わりと寒い地域であるロレーヌ領でのみ栽培可能なバナナ。
どちらかというと暑い地域であるアポルメ領でのみ栽培可能なほうれん草。
日本人の知識としてはバナナは熱帯地域での栽培だし、ほうれん草は冬野菜の定番だ。
この世界での栽培地域とは真逆の環境である。
昔の賢者が種植えした地域が育成環境になったのではないかと推測できる。
この辺りのことは今夜にでもフィリップに聞きに行こう。
問題は小麦の栽培場所である。
「やっぱりあそこかな」
屋敷の裏手に広がる手つかずの森。
アーノン家が管理することになっているが、資金不足のため放置されている。
ご先祖様が一度調査していて、危険生物も危険植物も無いということを理由に。
自然がわりと多いアーノン領は一年中涼しい気候で、森はこの領で平均的な環境といえるだろう。
いつか小麦を領内で広めることを考えれば、特殊な環境よりも森を基盤にしたい。
「さて、父様の説得……どうしよう」
ただ森を欲しいと言っても取り合ってもらえないだろう。
賢者になったことはまだ伏せておきたいし……
王城で役職持っている父様は母様と王都で暮らしている。
忙しい身だし、もう帰ってしまった可能性が高い。
手紙での説得になるのだから、しっかりとネタを集めないと。
「仕方ない、交渉材料探しに行くか」
そうと決まれば早速準備だ。
ベッドから降りると、いつの間にか用意されていた桶に入った水。
そこで顔を洗って、クローゼットから適当な服を引っ張り出して着る。
もちろん、これでも貴族のお嬢様なので、侍女はいる。
しかし、自分のことは自分でやるのが当たり前の日本人感覚には馴染まなかった。
粘り強い交渉の末、自分で身支度を整えてからベルで侍女を呼ぶことを納得させた。
「洗顔よし、着替えよし、髪はとかしたし、あとは……」
小麦の種が入った袋はポケットにしまう。
忘れているものが無いか、もう一度周囲を見回し確認する。
侍女を呼んだ後に支度漏れがあると、せっかく勝ち取った自分での身支度権利が剥奪されてしまうから。
毎朝毎朝、人様にあちこち体中お世話をされるなんて冗談じゃない。
「大丈夫よね」
鏡に自分の姿を映しながらそうつぶやき、自分を納得させてからベルを手に取って軽く鳴らした。
体調不良で自宅療養中。
とは言え暇なので投稿してみる……




