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愛と修羅な人生  作者: 成瀬ケン
第三章 炎上 絡みつく鎖
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地獄の業火編





 マリアの警護は順調だった。キリンとのバトル、変質者との仕手戦、放たれた流れ矢、なんかのトラブルを解消し、確実に警護を続けていた。

 

 ただ最近俺の調子がおかしかった。なんか胸の真ん中が痛いんだ。たまにキリキリ、ドキドキって激しく高鳴る。吐息が荒くなり、息をするのも億劫。実際今年の風邪は強力らしい。クラスの奴らも大勢咳してる。多分もらい風邪だ。最初はびびった。俺は風邪なんざひいた事がなかったから。



 だけど大丈夫、あと一ヶ月もすれば春が来る。風邪なんざ吹き飛ぶさ。俺が大好きな桜の季節が来るから。


 桜ってのは綺麗なものだ。命の代名詞、生まれ来る生命の活力、とも言われる事がある。ある日一斉に咲いて、すべての光景を薄紅色に染める。狂おしい程に輝いて、生き急ぐように散っていく。


 まるで修羅の人生そのもの。大地を血で真っ赤に染めて、本能のままに荒野を駆け抜ける俺達修羅の人生に__





 リキ丸の解脱と共に、俺達の軍勢は崩壊した。それととって変わったのがジンの軍勢。俺達の領土は奴のものとなり、覇王の称号も奪われた。


 俺は辛うじて生きていた、ただ生きていた。全てを失い絶望の中にあった。起死回生の逆転を試みようと、ジンの軍勢に奇襲をかけた事もあった。だがそれと引き換えに、仲のいい朋友(ほうゆう)を失った。その他大切な仲間の生死も不明。ジンの総攻撃により、バラバラに引き裂かれた。


 俺は何もかも失い、死を覚悟しての決戦を仕掛ける。別動隊として暗躍してた、総勢数百のジン正規軍への奇襲だ。



 俺はそれらを討ち滅ぼし、戦場に立ち尽くしていた。延々と続く屍の大地。真っ赤に染まる血の荒野。辺りに漂うはむせかえる死臭。どす黒い黒煙を巻き上げ、真っ赤に燃える紅蓮の炎。


 死にきれなかった戦士のうめき声が響く。俺は介錯(かいしゃく)とばかりに剣を突き付ける。そしてうめき声が止んだ。




 何故俺じゃいけないんだ。脳裏に過る虚しい感情。これだけの強さを持ってしても修羅界の統一は出来ないのか。


  しかし答えは見つからない、誰も答えてはくれない。ただ続く沈黙、頭が狂いそうな感覚を覚える。確かにジンの強さは、俺の想像を遥かに越えていた。リキ丸不在の情況とはいえ、俺達の軍勢をいとも簡単に撃破するんだから。リキ丸がその力量に惚れて、生かしておいたのも頷ける。だけどもしそうだとしたら、俺達の事は軽んじていた、ともいえる事。




 すーっと一陣(いちじん)の風が吹き込んだ。びりびりした緊張感が辺りを包み込む。



『ルカ!』俺は吠えた。


 白い衣、長い銀髪、端正な顔付き、ギザったらしい冷たい視線。愛を司る神、ルカーディアだ。何故か奴の姿がこの戦場にあった。その後方に屈強なる四天王を()べていた。


 ルカは少しも動じない。『喜べシュウ。貴様の首、俺様が討ち取りに出向いてやった』躊躇いもせず言い放つのみ。



 神である奴が、修羅界に来ることは容易だ。基本的に人間界以外は、術式を用いて移動する事は可能。だけどその意味は分からなかった。何故このタイミングで、四天王を統べてこの場に現れたのか。


 だけどひとつだけ理解できる事がある。ルカの表情は至って真面目、普段の奴とは思えぬ程の覇気を(まと)っている。つまりそれは、俺との完全決着を望んでいるって意味。


 この闘いを最後に、俺の修羅としての人生は終わるんだ__






 リキ丸教えてくれ、あんたはどうして修羅界から解脱したんだ。この変な世界の王様として君臨する為なのか? それともジンの力量に惚れて、修羅界を奴に与える為か?


 修羅界での別れの(きわ)、あんたは何かを言おうとしてたよな。俺達は無我夢中であんたの姿を求めたから、よく聞き取れなかったけど。『見つけてみよ……』そんな風に聞こえた。見つけてみよって、いったい何だよ__






「……ミャァ」

  耳鳴りがする__


「……ミャァ、ミャァ」

 意味が分からないんだ。そんなおかしな鳴き声じゃ。



「ミャァ、ミャァ、ミャァ!」

「痛ってー!」

 頬に痛みを感じて俺は飛び起きた。どうやらまた、夢を見ていたらしい。興奮で体が熱い。緊張からか呼吸がやけに苦しかった。



 実際悪夢だ。いつもいつも、あの頃の嫌な夢ばかり。リキ丸が消えなければ、俺達は修羅界を統一してただろうし、奴らと離ればなれになる事もなかった。それにルカのクソ野郎に殺される事もなかった。悪夢以外のなにものでもない。興奮もするし苦しくもなる。


 ホントおかしなものだ。最近この手の夢を見る頻度が多くなってる。こんな悪夢、見たところで俺様の修羅場が解決できる訳じゃないのに。



 とはいえひとつだけ、夢じゃない事がある。それは今の痛みだ。不思議に思い自分の頬を触った。やっぱり夢じゃない事を表すように、数本の縦傷から血が滲んでいる。


 傍らではリキが『ミャァ、ミャァ!』と鳴いている。つまり俺の傷はこいつが付けたって事だ。おもむろに奴の首根っこをつまみ上げた。そして目の前に引き上げる。それでもリキは、俺様の声には反応しない。前脚(まえあし)を駆使し、俺の頬を引っ掻く。


「てめー、やんならやんぞ!」

 俺はムカつき吠える。リキは俺の手を振り解き後方に飛び退く。ホント俊敏(しゅんびん)な奴だ。こんな小動物、何を考えてるのかは分かりはしない。そのまん丸な瞳に、赤い何かが映り込み、ゆらゆら揺らめく。まるで全てを飲み込む炎にも思える、違和感を感じて振り返った。



 ここはどこなんだ? さっきの夢の続きでも見てるのか? 辺りに広がるのは驚愕の光景。全てが紅一色の世界。舞い上がる炎、もくもくと立ち籠める黒煙。



「か、火事?」

 慌てて飛び起きた。熱さも息苦しさも夢のせいじゃなかったんだ。アパートを炎が包み込もうとしていたんだ。


「とにかく脱出だ」

 俺は通帳や現金、制服や着替えなど手当たり次第にシーツに投げ入れる。そしてそれを包み背中に背負った。

 俺が何を言わずとも、リキはピョンピョンと俺の体を駆け登る。そして俺の頭上でチョコンとお座りした。何故かこいつはこのポジションを好んで指定席にしてる。今更文句を言うつもりもない、所詮小動物のする事だ。


 こうして脱出口を確保しようと部屋のドアを開く。

 だがそれは逆効果。炎の流れが一気に室内に浸入してくる。一瞬で肌を焦がす熱さ。ただのボヤなんかじゃない。


 俺は間髪逃れ、ドアを閉める。幸い辺りは殆ど焼けていない。炎はなりを潜め、ドアの向こうへと姿を消した。どうやら火元は廊下らしい。炎ってのは、酸素を求めて襲い掛かるもんだ。この室内はまだ酸素が充満してる。つまりドアを開けたら、再び炎が侵食してくる。



 だけどここに留まる訳にも行かない。炎の勢いは益々激しさを帯びる一方。隙間からちろちろと顔を覗かせ、柱を伝い、天井を覆い、辺りを紅の世界へと変えていく。こんなボロアパートなら尚更覿面(なおさらてきめん)だ。



「仕方ねぇな。しっかり掴まってろよ!」

 俺はリキに言って、窓際を睨んだ。そして叫びと共に走り出す。ガラスを突き破り大きくジャンプした。






 アパートの外には沢山の人集りが出来ていた。宙を舞う俺を見つめ、口々に何かを叫ぶ。俺は『退いてくれ!』と叫び、着地点に狙いを定める。


「はぎゃ!」

 だが塀に足を引っ掛けバランスを崩す。そのまま顔面から地面に着地した。リキの方はネコだけあって華麗な着地だ。くるりと一回転して俺の頭に飛び降りる。すかさず駆け寄る近所の住人。誰もが不安そうな表情、俺を心配し、大丈夫かと声をかける。


「だ……いじょう……ぶ、受け身は取った」

 俺が言うと、ほっと安堵のため息を吐いた。実際は大丈夫じゃない。顔面から叩き落ちて、顎が外れそうだ。それでも平静を装い立ち上がる。



 こうして置かれた情況を改めて確認した。アパートは真っ赤な炎で包まれていた。夜空まで焦がすような大きな火柱が立ち上っている。

 その炎で真っ赤に照らされる人々。その会話から察するに、出火してまだ十分ぐらいしか経ってないらしい。木造アパートだから火の巡りが速いようだ。消防車の姿は見えない。ごちゃごちゃ入り組んだ住宅街。オッサンの思惑で路地自体が入り組んでる。それが裏目に出たんだろう。

 とはいえ、消防車の到着はそれほどかからないだろう。遠くから響くサイレンの音。それに反応し近所の犬が遠吠えをしている。その壮絶なる最中、近所の人々による必死のバケツリレーが展開されていた。



「マジかよ。凄まじい勢いだな」

 流石の俺も戸惑い立ち尽くすしかない。もう少し逃げ出すのが遅ければ、あの炎で焼かれるとこだったろう。考えただけでぞっとする。とはいえ、俺にはどうする事も出来ない。地震、雷、火事、オヤジ。大災害の前に人は無力。だけどそんな俺にもやるべき事はある。それは他の住人達の安否を確認する事。


「黒瀬?」

 奥の方から声が響いた。それは南米系大家のアニータだ。大きな瞳を更に大きくし俺を見つめている。やがて安堵したようにホッとため息を吐いた。そしてその傍らには、バカボンこと、はじめちゃん、も立ち構えている。


「ああ、俺様は無事だ。あんたらも無事なようだな」

 俺は言ってゆっくりと歩み寄った。


「流石はシュウなのだ、あそこから飛び降りるなんて。……それにしても奇抜な格好なのだ」

 頭の上のリキを指差す、はじめちゃん。

「ただのファッションっすよ。気にしないで下さいよ」

 俺は答えた。何故か横に居たじいさんも、俺を指差し震えている。はじめちゃんといい、このじいさんといい、そんなに俺様が、ネコを頭に乗せてるのがおかしいか?


「リキ、いい加減降りたらどうだ?」

 だけど俺だって、好きでやってるんじゃない。確かに頭に犬を乗せてる奴がいたら、俺もそいつを指差しゲラゲラ笑う自信もある。その思いを悟られないよう、ゆっくりリキを地面に降ろす。リキは少しも気にする様子はない。リラックスしたように毛づくろいをするだけ。俺様の思いも考えろっての。




「ははは、なんて凄まじいボロアパートだ」

  不意に聞き覚えある声が響いた。咄嗟に振り返る。



「おめーは」

  辺りに棚引く紫煙。一人の男が煙草を口にくわえ、燃え盛る炎を見つめている。三崎翔だった。

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