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愛と修羅な人生  作者: 成瀬ケン
第三章 炎上 絡みつく鎖
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動き出す宿命編2

「あはは、結構混んでるね」

  その時不意に別の声が響いた。


「そうそうたる面々だね。学園の影の支配者、淀川エリ。元剣道部副部長にして、淀川ファン倶楽部代行会長佐藤ゴン太。それと元ナイトオペラリーダー沖田一弥。それと魔王黒瀬修司」

 それは王城だ。後方にブラックスのメンバーらしき十人程の仲間を従えてる。三崎の姿は見えない。あれだけの死闘の後だ、入院でもしてるのかも知れない。



「なんじゃお主らも相談事か?」

  覚めたように訊ねるエリザベート。しかし王城は眼中にない。


「不味いコーヒーでも飲んで、頭を覚醒させようと来てみたんだけどね」

 ガックリ肩を落とすマスターを余所に大胆に言い放つ。その視線が捉えるのはマリア。



「レイちゃん」

 対するマリアは戸惑いの表情。ぼそっと呟き、視線を向ける。


「悪いけど、ちゃん、付けはよしてよ。あの頃と違うんだぜ」

  春菜の話からすると、マリアとこいつは昔馴染み。だけど三崎の話から察するに、マリアを酷く嫌ってる。いったいどんな関係なんだ。


「何なんだてめーは。また、悪さ企んでんじゃねーべな」

 俺は言った。少しばかり牽制(けんせい)する必要があるって思った。


「おいおい、ボクが何を企んでるって? ボクがマリアをどうこうするわけないだろ」

 それでも王城はおどけた態度。手前で両手をかざし、そ知らぬ素振りを決め込むだけ。



「レイちゃん……レイとはいとこ同士なんです。お父様の弟が、レイのお父様で」

 そのマリアの台詞で合点がいった。確かにこの二人、背格好は同じぐらい。パーカーのフードから覗く口元も、マリアそっくり。とはいってもその身から放つオーラと気配は、全然別物。マリアが天使たとすれば、王城は堕天使。それぐらいの違いを感じる。


「そういう事。いとこ同士なのに、何を企むってのさ?」

 言葉こそ穏やかだが、フードと髪の毛の間から覗く目線は笑っていない。



「だけどあの場所にマリアを誘ったのは、おめーだって言うじゃねーか」

 マリアの手前、断言こそは出来ないが、こいつマリアを嫌ってる。三崎いわく、『王城は直接手を下してない』、だが怪しいもんだ。



「確かにボクだよ。マリアの転校祝い、してあげなかったのを思い出してね」

 一瞬春菜を見やる王城。躊躇いなく言い放つ。

「転校の祝いって、あんな馬鹿げた連中と一緒にか?」

 マジあり得ない台詞だ。三崎やバットマン、爬虫類みたいな奴らをかき集め、それで転校の祝いだなんて、本気で信じる馬鹿がどこにいる。しかもこのコゾー、本当なら寝入ったマリアを穴ぐらに引き込んで、三崎と……



「どうしたのさ、顔が真っ赤だよ」

「うるせー黙れ」

 まぁその件はどうでもいい。どうせ未遂に終わったんだ。変態野郎とは喋らん。



「だけどあれはマリアが悪いんだよ。ボクは『そろそろ帰ろうか』って言ったのに、マリアが寝ちゃってたから。だからそのお友達に、マリアを預けた」

 友達ってのは春菜の事だろう。王城が目配せすると、ゆっくり頷いた。


「ボクもうっかりしてたんだ。マリアがアルコールに弱いの忘れていてね、だけどまさか、ケーキに入っていたブランデーで、酔って寝ちゃうとは思わないし」


 その台詞に今度はマリアが頷いた。顔を赤らめ、申し訳なさそうに俯く。確かにこのスカーレットで注文する際、材料にアルコールが含まれているのか気にしていた。訊けば少量のアルコールも苦手なようだ。王城の台詞には裏付けがある。




「どう、納得した」


「まぁ、取り敢えず納得したる」

 俺は仕方なく言い放つ。マリアの手前、どこまでも追い込む訳にはいかないし、これ以上反論する余地もない。ひとつ気になるのは、王城の台詞にブレがない事。まるでシナリオでも存在するような言い回しだ。



「三崎のやろーは一緒じゃねーんだな。怪我して入院でもしてんのか?軟弱なやろーだな」

 右拳を砕き、体中ボロボロになった三崎の事だ。全治数週間は確定だろう。


 だが俺のその一言で場が凍り付く。王城にとって、その台詞は禁句だったらしい。口元に微笑を浮かべ、そのまま立ち尽くす。



「お前、翔君を馬鹿にするな」

 突然、熊みたいな男が言った。今にも飛び掛かりそうな勢いを感じる。口を真一文字に曲げて、俺を見下ろす。それを察し、一弥が腰を浮かす。


「止めとこうよ、海斗(かいと)君」

 それを制する王城。熊の名前は海斗というらしい。



「翔君の心配してくれるのかい ? 優しいね」

「心配はしてるさ。あんな馬鹿が元気になったら、ヤバいからな」

「確かに翔君、本気を出したら怖いからね」

「俺様からすれば、完全に雑魚だけどな。二度と俺様には逆らわないだろ」

「そうだといいけどね」

「誰かが、変な命令しなきゃな」


 こうして俺達は無言で睨みあう。続く沈黙、一弥と海斗も睨み合ったままだ。その様子を、エリザベート達も神妙な面持ちで見つめる。マリア達三人は戸惑い気味だ。流石にこの空気は堪らない。



 右手爪先を、歯で噛みしめる王城。


「言って置くけど、翔君は命令されて動くタイプじゃないよ。自分で考え、自分の意思で動いてる。崇高なんだ」

 言ってマリアに視線を向ける。



「マリアも気をつけなよ。聖王は危険なガッコーなんだ。そんなトロい性格じゃ、何が起こるか分からない。困った事があったら、ボクに相談にきな」

 そして仲間を従えて、店内を後にした。


「怖かったね」

  王城が消えたのを確認すると、太助が言った。


「ホントね。王城君も怖いけど、弾正君も怖かった」

 それに同調する春菜。


「弾正、それが熊の名か」

弾正海斗(だんじょう かいと)、ブラックス本家の男だ」

 俺の問い掛けに、一弥が答える。

「王城がブラックスリーダー補佐の座にいるのは、三崎と弾正の存在が大きいんだ。三崎がド派手な強さと大胆な商売で王城を押し上げるタイプなら、弾正はその背後を守るタイプ。自分を犠牲にしてまで、王城を守るのが勤めさ。いわば剣と盾、それほどの実力の持ち主って事さ」

 確かに歴史上で成功を収めた者の下には、それを補佐する者が必要不可欠。どんなに個人の実力があろうと、個人じゃ限界はある。同じ思想を抱き、共に突き進み、時には犠牲になるような存在だ。強いて言えば、織田信長に木下藤吉郎が居たように、劉備玄徳に諸葛亮孔明が居たように。


 今思えばリキ丸にとって、俺達はその存在になれてたんだろうか。俺達がそんな存在だったら、奴が修羅界から消えることもなかったかも知れない。少しだけそう感じた。



「しかしあのコゾー、そんな実力があるってのかよ。それだけの奴らを惹き付ける実力が、あんな下品なガキに」

  だからこそ俺は納得いかない。三崎のやろーはかなりの実力を誇っていた。やり方こそ間違ってるが、俺様を本気にさせた実力者だ。一弥の話じゃ、あの弾正って奴もそれなりの実力を秘めてる。


 それほどの奴らがあんなひねくれたガキに忠誠を誓うだろうか? 話し方も幼くて、ムカつくと爪を噛むような下品な奴。マリアのいとことは思えぬほどだ。

早めに終わらせます。

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