動き出す宿命編2
「あはは、結構混んでるね」
その時不意に別の声が響いた。
「そうそうたる面々だね。学園の影の支配者、淀川エリ。元剣道部副部長にして、淀川ファン倶楽部代行会長佐藤ゴン太。それと元ナイトオペラリーダー沖田一弥。それと魔王黒瀬修司」
それは王城だ。後方にブラックスのメンバーらしき十人程の仲間を従えてる。三崎の姿は見えない。あれだけの死闘の後だ、入院でもしてるのかも知れない。
「なんじゃお主らも相談事か?」
覚めたように訊ねるエリザベート。しかし王城は眼中にない。
「不味いコーヒーでも飲んで、頭を覚醒させようと来てみたんだけどね」
ガックリ肩を落とすマスターを余所に大胆に言い放つ。その視線が捉えるのはマリア。
「レイちゃん」
対するマリアは戸惑いの表情。ぼそっと呟き、視線を向ける。
「悪いけど、ちゃん、付けはよしてよ。あの頃と違うんだぜ」
春菜の話からすると、マリアとこいつは昔馴染み。だけど三崎の話から察するに、マリアを酷く嫌ってる。いったいどんな関係なんだ。
「何なんだてめーは。また、悪さ企んでんじゃねーべな」
俺は言った。少しばかり牽制する必要があるって思った。
「おいおい、ボクが何を企んでるって? ボクがマリアをどうこうするわけないだろ」
それでも王城はおどけた態度。手前で両手をかざし、そ知らぬ素振りを決め込むだけ。
「レイちゃん……レイとはいとこ同士なんです。お父様の弟が、レイのお父様で」
そのマリアの台詞で合点がいった。確かにこの二人、背格好は同じぐらい。パーカーのフードから覗く口元も、マリアそっくり。とはいってもその身から放つオーラと気配は、全然別物。マリアが天使たとすれば、王城は堕天使。それぐらいの違いを感じる。
「そういう事。いとこ同士なのに、何を企むってのさ?」
言葉こそ穏やかだが、フードと髪の毛の間から覗く目線は笑っていない。
「だけどあの場所にマリアを誘ったのは、おめーだって言うじゃねーか」
マリアの手前、断言こそは出来ないが、こいつマリアを嫌ってる。三崎いわく、『王城は直接手を下してない』、だが怪しいもんだ。
「確かにボクだよ。マリアの転校祝い、してあげなかったのを思い出してね」
一瞬春菜を見やる王城。躊躇いなく言い放つ。
「転校の祝いって、あんな馬鹿げた連中と一緒にか?」
マジあり得ない台詞だ。三崎やバットマン、爬虫類みたいな奴らをかき集め、それで転校の祝いだなんて、本気で信じる馬鹿がどこにいる。しかもこのコゾー、本当なら寝入ったマリアを穴ぐらに引き込んで、三崎と……
「どうしたのさ、顔が真っ赤だよ」
「うるせー黙れ」
まぁその件はどうでもいい。どうせ未遂に終わったんだ。変態野郎とは喋らん。
「だけどあれはマリアが悪いんだよ。ボクは『そろそろ帰ろうか』って言ったのに、マリアが寝ちゃってたから。だからそのお友達に、マリアを預けた」
友達ってのは春菜の事だろう。王城が目配せすると、ゆっくり頷いた。
「ボクもうっかりしてたんだ。マリアがアルコールに弱いの忘れていてね、だけどまさか、ケーキに入っていたブランデーで、酔って寝ちゃうとは思わないし」
その台詞に今度はマリアが頷いた。顔を赤らめ、申し訳なさそうに俯く。確かにこのスカーレットで注文する際、材料にアルコールが含まれているのか気にしていた。訊けば少量のアルコールも苦手なようだ。王城の台詞には裏付けがある。
「どう、納得した」
「まぁ、取り敢えず納得したる」
俺は仕方なく言い放つ。マリアの手前、どこまでも追い込む訳にはいかないし、これ以上反論する余地もない。ひとつ気になるのは、王城の台詞にブレがない事。まるでシナリオでも存在するような言い回しだ。
「三崎のやろーは一緒じゃねーんだな。怪我して入院でもしてんのか?軟弱なやろーだな」
右拳を砕き、体中ボロボロになった三崎の事だ。全治数週間は確定だろう。
だが俺のその一言で場が凍り付く。王城にとって、その台詞は禁句だったらしい。口元に微笑を浮かべ、そのまま立ち尽くす。
「お前、翔君を馬鹿にするな」
突然、熊みたいな男が言った。今にも飛び掛かりそうな勢いを感じる。口を真一文字に曲げて、俺を見下ろす。それを察し、一弥が腰を浮かす。
「止めとこうよ、海斗君」
それを制する王城。熊の名前は海斗というらしい。
「翔君の心配してくれるのかい ? 優しいね」
「心配はしてるさ。あんな馬鹿が元気になったら、ヤバいからな」
「確かに翔君、本気を出したら怖いからね」
「俺様からすれば、完全に雑魚だけどな。二度と俺様には逆らわないだろ」
「そうだといいけどね」
「誰かが、変な命令しなきゃな」
こうして俺達は無言で睨みあう。続く沈黙、一弥と海斗も睨み合ったままだ。その様子を、エリザベート達も神妙な面持ちで見つめる。マリア達三人は戸惑い気味だ。流石にこの空気は堪らない。
右手爪先を、歯で噛みしめる王城。
「言って置くけど、翔君は命令されて動くタイプじゃないよ。自分で考え、自分の意思で動いてる。崇高なんだ」
言ってマリアに視線を向ける。
「マリアも気をつけなよ。聖王は危険なガッコーなんだ。そんなトロい性格じゃ、何が起こるか分からない。困った事があったら、ボクに相談にきな」
そして仲間を従えて、店内を後にした。
「怖かったね」
王城が消えたのを確認すると、太助が言った。
「ホントね。王城君も怖いけど、弾正君も怖かった」
それに同調する春菜。
「弾正、それが熊の名か」
「弾正海斗、ブラックス本家の男だ」
俺の問い掛けに、一弥が答える。
「王城がブラックスリーダー補佐の座にいるのは、三崎と弾正の存在が大きいんだ。三崎がド派手な強さと大胆な商売で王城を押し上げるタイプなら、弾正はその背後を守るタイプ。自分を犠牲にしてまで、王城を守るのが勤めさ。いわば剣と盾、それほどの実力の持ち主って事さ」
確かに歴史上で成功を収めた者の下には、それを補佐する者が必要不可欠。どんなに個人の実力があろうと、個人じゃ限界はある。同じ思想を抱き、共に突き進み、時には犠牲になるような存在だ。強いて言えば、織田信長に木下藤吉郎が居たように、劉備玄徳に諸葛亮孔明が居たように。
今思えばリキ丸にとって、俺達はその存在になれてたんだろうか。俺達がそんな存在だったら、奴が修羅界から消えることもなかったかも知れない。少しだけそう感じた。
「しかしあのコゾー、そんな実力があるってのかよ。それだけの奴らを惹き付ける実力が、あんな下品なガキに」
だからこそ俺は納得いかない。三崎のやろーはかなりの実力を誇っていた。やり方こそ間違ってるが、俺様を本気にさせた実力者だ。一弥の話じゃ、あの弾正って奴もそれなりの実力を秘めてる。
それほどの奴らがあんなひねくれたガキに忠誠を誓うだろうか? 話し方も幼くて、ムカつくと爪を噛むような下品な奴。マリアのいとことは思えぬほどだ。
早めに終わらせます。




